伊藤真のけんぽう手習い塾

テロ特措法によって、
アメリカの戦争に参戦している日本

 9.11から7年たっても、アフガニスタン、イラクで米国の戦争が続いています。そして、それに日本も加担し続けています。イラク戦争への加担については、4月17日の名古屋高裁の判決が詳しく事実を指摘していますが、アフガニスタンで米国が行っている戦争(OEF)にも日本はテロ特措法によって参戦しています。

 米軍ないしそれを支援する集団的自衛権に基づいて参戦しているNATO軍への給油活動は明らかに、テロリストを殺害するための戦争への支援であり、9条1項に反する活動です。これまで日本が米軍を支援していることを知らなかったアフガニスタン人の多くは、日本に敵意を持っていませんでした。伊勢崎賢治さんが指摘する「美しい誤解」によって、NGOの若者が守られていたわけです。伊勢崎さんは、給油延長によって、いよいよ日本人もテロの標的になると昨年の段階で指摘されていました。

 ペシャワール会の中村哲代表も昨年8月31日の毎日新聞で、「米英軍の軍事行動は拡大の一途をたどり、誤爆によって連日無辜の民が生命を落としている。・・・日本はテロ特措法によって反テロ戦争という名の戦争支援をも強力に行っているのである。・・・特措法延長で米国同盟軍と見なされれば反日感情に火がつき、アフガンで活動をする私たちの安全が脅かされるのは必至である。」と現場の危機感を訴えていました。

 残念ながら、伊勢崎氏や中村代表の予想が的中してしまいました。先月27日に死亡が確認された伊藤和也さんの犠牲は、こうした警告にもかかわらず、米国の戦争に加担しつづけた日本政府の無責任外交政策によるものです。そしてそれを許してしまった私たち一人一人の責任にほかなりません。

“国益”の裏にあるいかがわしさ

 給油活動が日本の国益だという政治家が多くいますが、この国益という言葉がどんなにいかがわしいものかよくわかります。具体的に誰のどのような利益を想定しているのか、国益の中身をしっかりと吟味しないとだまされてしまいます。

 アフガニスタンでは、最近の米軍などの軍事作戦によって生じた市民の犠牲者の中で、子どもの占める割合が高くなっているそうです。ますますその正当性が失われ、こうした不正義への反発が強くなっていくでしょう。軍事力によって紛争解決を図ろうとすることがどんなに無意味かわかっているはずなのにやめられない。それが戦争の実態です。

 それは米国が本気で地域の紛争解決のために戦っているのではないからです。イラクでも戦争を続ける大義名分はなくなっていますが、米国は戦争を続けています。米軍が戦えば戦うほど、それに反発してテロリストは増え続けます。そしてテロとの戦いという不毛の戦争が続くわけです。

 米国の国益のためにイラクやアフガニスタンを支配したい。軍需産業を維持するために戦争を続けたいというのが本音なのでしょう。そもそも地域の安定や紛争解決を望んでいないのですから、戦争が終わるわけがありません。

 残念ながらテロリストによる自衛のための戦いも、結果的には米軍に攻撃の口実を与えているだけで、けっしてイラクやアフガニスタンの市民の利益になっていないことがわかります。やはり、軍事力、暴力による防衛は犠牲が大きいわりに、効果が少ないといわざるを得ないようです。

“非暴力防衛”が実効性を持つためには

 こうした場面でも、軍事力によらない非暴力抵抗運動の方が、米国に空爆や掃討作戦の口実を与えずにすむだけ被害が少ないはずです。そして、米国の本来の目的を無意味にするような非暴力防衛を展開することは可能なはずです。

 どのような戦争であっても、そこにはなんらかの目的があるのですから、その目的達成を阻害し、戦争継続や占領支配の意欲を失わせるような非暴力の手段を事前に用意しておけばよいのです。

 天然資源を奪われないようにするための非暴力防衛は、相当の知恵を絞らないといけないかもしれません。しかし、軍事力などの暴力的手段によって防衛しようとして、市民の犠牲を多く出すよりも、よほど、ましだと考えるべきでしょう。防衛の目的は、国家の現体制や抽象的な国益を守ることではなく、そこで生活する市民の具体的な生命と財産を守ることだと解すべきだからです。

 こうした市民による非暴力防衛が実効性を持つためには、ある程度の価値観の共有が必要となります。たとえば、そもそも国家よりも市民一人一人の方が大切だという価値観を共有できなければ成り立ちません。国家が領土を占領されたとしても、一人一人が生きていくことができれば、忍耐強く時期を待って体制を立て直すことができます。

 また、物理的な侵略に軍事的な抵抗をせず、白旗を揚げることは、本当の意味の敗北ではないという認識を共有することも必要でしょう。怒りの気持ちや応報感情よりも、被害を最小限にすることが重要であると冷静に判断できる知性も必要です。

 こうした市民の共通認識を作り上げていくためには、非暴力防衛の意義を教育によって市民に浸透させていくことが不可欠となります。平和教育では単に9条の意義を教えるだけでなく、非暴力防衛という有効な代替手段があることをしっかりと伝えていかなければなりません

 

  

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伊藤真

伊藤真(いとう まこと): 伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)など多数。近著に『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)がある。

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