伊藤真のけんぽう手習い塾

国連決議と憲法の関係

 民主党小沢代表は、「世界」11月号で、「国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に牴触しない」との持論を展開しています。これは憲法解釈として許されるものなのでしょうか。
 この考えの根拠は、要するに、日本国憲法は、国家間の戦争(いわば私戦)を禁止しているけれども、国際警察活動ともいうべき国連の軍事行動(いわば公戦)に日本が参加することは禁じていないというものです。
 そして、この主張の前提には、日本としても国連に加盟した以上は、世界の平和と安全の維持のために国連がとる措置に対して可能な限り協力しなければならない。大国になった日本は、それなりの軍事的な貢献も可能なのだから、それをしなければ国際社会での責任を果たしたことにはならないという考えがあると思われます。
 確かに、日本も国際社会の一員である以上、世界の平和と安全のためにできる限りの貢献をするべきです。しかし、それはあくまでも憲法の許容する範囲のものに限られます。憲法は、国連決議でオーソライズされた平和活動であれば、ISAFであれ何であれ、許しているのでしょうか。いいえ、たとえ国連の枠組みに基づくものであっても、日本が海外で武力行使(軍事行動)をすることを一切許していないのです。

正義のための戦争も許さない
徹底した戦争放棄

 日本は過去の苦い経験から、9条で自衛のための戦争も含めて一切の戦争を放棄しました。それは「自衛のため」、「人道のため」という名目で戦争を肯定してしまったら、そうした名の下で結局はあらゆる戦争が正当化されてしまい、再び過ちを繰り返してしまう危険があると判断したからです。
 つまり、正義のための戦争も許さないという徹底した戦争放棄にその特徴があるのです。
 戦争は国民に耐え難い損害をもたらすとともに、国民を他国の罪もない民衆を殺戮する加害者にもしてしまいます。つまり、国民を被害者にも加害者にもしてしまうのです。だから、憲法は国民の視点にたって、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意して」(前文1項)、この憲法を確定したわけです。
 小沢氏の考えの根底には、「国連による強制措置は、たとえ兵力を使用し、事実上の現象としては戦争と同じような形をとるときでも、法律上の本質としては、いわゆる戦争とまったく異なるものだ」という前提があるようです。
 確かに法理論的には、いわゆる国家の利益のための戦争(いわゆる私戦)と国連の警察活動(いわゆる公戦)とは法的意味合いが違うと説明ができたとしても、武力行使を受ける民衆の側からみると、そのような区別はまったく意味を持ちません。
 警察権の発動と軍事力の発動は武力行使を受ける側にとっては、どちらも理不尽な殺戮である点で何も変わらないのです。このように民衆の視点に立って、たとえ国連の行う活動といえども、国家としてこれに加担するべきでない。あらゆる戦争、武力行使、武力による威嚇、海外派兵を禁止することが憲法の趣旨なのです。

国連と国家主権の関係

 そもそも私戦と公戦の区別がつくのでしょうか。小沢氏の見解は正義が国連にあることを前提としていますが、現時点の国連の安全保障理事会で決定された利益がほんとうに国際社会の共同利益かどうか疑わしいものです。大国の国益に基づくエゴなどそこには存在しないとは誰も考えていないでしょう。
 仮に、純粋に国際社会の共同利益のために国連決議がなされ、その決定の下で国連の治安維持活動が行われたとしたなら、そこに派遣した自衛隊の活動は日本という国家の行為とは見なされないのでしょうか。
 国連は、法的には独立国家どうしの寄り合い所帯のようなもので、独立した主権国家のごときものではありません。つまり、法的な主体として認められた会社のような「法人」ではなく、法的な主体とは認められない民法上の「組合」のような存在なのです。
 連邦国家の州政府にとっての連邦政府や、ヨーロッパ諸国にとってのEUのように、国連が、加盟国の主権の一部を譲り受けて、独立の法主体たる組織体として国際警察権を発動するというのならまだしも、国連の実態はそのようなものではありませんし、日本国憲法は国連に、日本の独立国家としての主権の一部を譲り渡していません。
 つまり、日本が主権の一部を、世界中央政府である国連に譲ってしまい、日本から派遣された自衛隊の活動が、日本の国権の発動といえなくなるのであれば格別、そのような状況ではありませんから、自衛隊の海外での活動は、たとえ国連の旗の下で行われるものであっても、依然として日本国の活動の一部となるのです。
 よって、自衛隊が海外で武力行使することは、憲法が、日本の国家としての海外での武力行使を禁じている以上、たとえ国連の旗の下であっても許されません。
 このように、国連の旗の下であっても、日本は一切の軍事行動に参加しないというのは、少し身勝手のように思われるかもしれません。しかし、どのような名目の戦争にも一切参加しないと宣言した国が存在すること自体が、世界の平和と安定のために貢献するのです。しかも、中立の立場の国だからこそできる国際貢献も多々あるはずです。
 自民党のように米国に盲従し集団的自衛権行使による貢献をめざすのではなく、民主党のように国連を理想化し、海外での武力行使を認めてしまうのでもなく、非軍事・非暴力による国際貢献という第三の道もあるはずです。
 次回は、日本のあるべき国際貢献について整理してみましょう。

 

  

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伊藤真

伊藤真(いとう まこと): 伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)など多数。近著に『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)がある。

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