伊藤真のけんぽう手習い塾

国連決議があれば、
自衛隊による武力行使は許されるのか?

 先週は、法律家をめざす塾生と共に、中国に行っていました。瀋陽、撫順、南京、上海と廻わるスタディツアーです。日本軍による民間人への集団虐殺事件である平頂山事件や南京事件の生存者の方のお話を伺うなど非常に意義深い旅でした。変わりゆく中国を目の当たりにするとともに、法治国家となっていくための課題を山のように抱えている姿もかいま見ることができ、その点でも興味深いものでした。
 さて、帰国早々、民主党の小沢代表が、私も連載している月刊誌「世界」11月号において、「今こそ国際安全保障の原則確立を」という論文を発表したことが話題になっていました。
 そこで、小沢さんは「個々の国家が行使する自衛権と、国際社会全体で平和、治安を守るための国連の活動とは、全く異質のものであり、次元が異なるのです。国連の平和活動は国家の主権である自衛権を越えたものです。したがって、国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に牴触しない、というのが私の憲法解釈です。」と述べています。「国連の決議でオーソライズされた国連の平和活動に日本が参加することは、ISAF(国際治安支援部隊)であれ何であれ、何ら憲法に抵触しない」とも言っています。
 要するに、アメリカの自衛権発動としてのアフガニスタン戦争にはどのようなものであれ、支援できないが、国連の枠組みでの行動であれば、武力行使であろうと何だろうと憲法違反にはならず許されるという主張です。
 「憲法の理念と9条の考え方は変える必要がない、むしろ忠実に実現すべきだ」と言っていますから、直接的な改憲の主張でありません。また、「どんなに困難があっても、どんなに時間がかかろうとも、貧困を克服し、生活を安定させることこそが、テロとの戦いの最も有効な方法であると、私は確信しています。銃剣をもって人を治めることはできません。」とも言っています。
 ですが、国連決議さえあれば、自衛隊による海外での武力行使を許すというこの主張は憲法論として重要な論点を提起してくれています。今回はこの問題を考えてみましょう。

憲法と国連憲章

 まず、国連憲章が一定の軍事的制裁行動を認めていて、その国連に日本が加盟しているから、9条に牴触しようとも日本は国連軍に参加するなどの軍事行動を取ることができるという考え方があります。小沢さんの主張はこうしたものではありませんが、まずこの点を確認しておきましょう。
 国連憲章はひとつの条約です。したがって、条約の内容と憲法の内容が矛盾するときに、どちらが優先するかという問題となりますが、この点は憲法が優先すると解するのが通説です。
 条約は内閣が締結し、国会の承認を必要としますが(憲法73条3号)、憲法改正手続よりも簡単な手続で締結できますから、もし条約を優先してしまうと、憲法に反する条約を締結することで、実質的な改憲が可能となってしまいます。これは96条で硬性憲法を採用した憲法の許すところではありません。
 したがって、自衛隊を国連軍などに参加させて国際的な軍事行動をとらせることは憲法に違反するけれども、日本が国連憲章を承認し、国連に加盟しているのだから許されるという理屈は通りません。

国連軍への参加と、憲法9条との関係は?

 とすると、国連による軍事行動に参加することは憲法に違反しないと考えざるをえないことになります。どのような理屈なのでしょうか。以下のように考えるものと思われます。
 “憲法9条は戦争を放棄し、交戦権を否認しています。ここで放棄された戦争は、「個々の国家間に、個々の国家の利益のために、個々の国家の意志に基づいて行われ」るものをさす。ところが、「国際連合による強制措置は、たとえ兵力を使用し、事実上の現象としては戦争と同じような形をとるときでも、法律上の本質としては、これとまったく異なるものである。」
 「それは個々の国家の間で行われるものでなく、侵略的な国家に対して、国際連合を代表する諸国によって行われるものである。個々の国家の利益のためでなく、世界の平和と安全のために行われる。個々の国家の意志に基づいてではなく、国際連合の決定に基づき、その名において行われる。」
 日本が「強制措置に参加するとしても、それはいわゆる戦争に参加するのではなく、いわゆる交戦権を行使するのではない。それとは本質を異にする強制措置に参加するものである。その意味で、いわゆる戦争を放棄し、いわゆる交戦権を否認した憲法に反することにはならない。」(以上、「自衛権」横田喜三郎著 有斐閣 昭和26年初版より引用)”
 要するに、日本は憲法によって、国家間の戦争をすることは禁止されているけれども、国連の軍事行動に参加することは憲法で禁止されている戦争ではないから、自衛隊の武力行使という参加も可能だというものです。
 この主張の前提には、戦争や戦争の脅威は、世界のすべての国が協力して、その防止に当たらなくてはならない。日本としても国連に加盟した以上は、平和と安全の維持のために国連がとる措置に対して可能な限りに協力をしなければならないという考えがあります。
 そして、小国で兵力を派遣できない時代の日本ならいざ知らず、これだけ大国になったのだから、それなりの軍事的な貢献も可能なのであり、それをしなければ国際社会での責任を果たしたことにはならないという考えに基づいていると思われます。
 さて、この問題はどう考えたらよいでしょうか。次回はこの小沢さんの主張について、憲法9条の観点からどう考えたらよいかを検討してみましょう。

 

  

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伊藤真

伊藤真(いとう まこと): 伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)など多数。近著に『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)がある。

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