世界から見た今のニッポン

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ベーベル・シュラーダー(Baerbel Schrader)1942年ドイツ・ワイマール生まれ。旧東ドイツ芸術アカデミー教授。専門は演劇学。著書に『黄金の1920年代・ワイマールの芸術と文化』『≪西部戦線異常なし≫ドキュメント・レマルク』等多数。現在ベルリン在住。

前回、寄稿してくださったベーベル・シュラーダーさんは、福島第一原子力発電所の事故発生時、日本の政府、学者、メディアが「スリーマイル事故ほどではない」「放射線の放出が身体に影響を及ぼすほどではない」などと述べていた段階から、ドイツならびにヨーロッパにおける報道を丹念にフォローした結果、「チェルノブイリ並みの事故で極めて危険。可能であれば首都圏の人々も避難した方がいい」と警告していました。それから約1カ月が過ぎ、日本政府はこの事故を国際評価尺度最悪のレベル7であることを認定。原子力発電の専門家ではない、一演劇学者である彼女の方が事態の行方をより正確に見通していたといえます。このことを私たちは真剣に受け止めなければならないと思います。

 私は原子力の専門家ではないので、複雑なメカニズムに関する問題について語る資格はありません。あくまでドイツで日々報じられているニュースから得た個人的な印象をお話したいと思います。

 「フクシマ」はいまも変わらず、ドイツのメディアにおける主要な報道対象のひとつです。「日本政府がようやく事故の国際評価尺度を最悪のレベル7に引き上げることを認めた」という報道に、私はそっと胸をなで下ろしました。それによって事実に基づく評価に従った措置が可能となるからです。

 (レベル7を)承認するのにこれだけの時間がかかったことは致し方ないと思います。希望的観測はなかなか捨てられませんし、東京電力も事態を早く収束したかったのでしょう。でも、これまでの経過を見れば、この惨事が計り知れないほどの規模であり、避難指示区域を福島原発半径20km以内に限定して済むような事態でないことは明らかでした。今後、長い間、人間が住めなくなるかもしれない地域から退避しなければならない多くの方々に対して、国際社会がいかに支援していくか。3週間前に議論されるべきテーマだったと思います。

 日本が緊急事態にあるなか国民を落ち着かせるためのパフォーマンスなのでしょうが、官房長官がイベントで福島産トマトを食べてみせたのは、私には馬鹿馬鹿しい行為に映りました。そうしたパフォーマンスは、現実を前に自分たちには何も打つ手立てがないことを示す以外の何ものでもないと思ったからです。

 チェルノブイリ原発事故の時、世界はまだ冷戦の時代であり、西側諸国は事故を「社会主義の後進性」とみなしていました。ソ連の杜撰な管理によるものだというものです。しかし、フクシマにより、原発の危険性は世界共通の問題となりました。先進国の高度な技術をもってしても身を守ることができないという事実を前に、私たちは意識を変えなければければなりません。

 このような状況で信じるべきは、どこかの政党ではなく、人々の生き残ろうとする意志と、国際的な連帯の輪ではないでしょうか。ドイツでは「フクシマ」以降、エネルギー政策の転換は止められないものとなりました。去る4月27日にはベルリン、ハンブルク、ケルン、ミュンヘンにおいて25万人が通りに出て、原子力エネルギーからの撤退を要求するデモを行いました。同日行われた2つの州議会選挙では、原発稼働に肯定的な与党のCDU(キリスト教民主同盟)が敗北。反原発を掲げる緑の党が勝利し、CDUの牙城であったバーデン・ヴュルテンベルク州でドイツ社会民主党と連立政権を組み、戦後ドイツ史で初めて緑の党の州首相が選出されることになりそうです。

 CDU、CSU(キリスト教社会同盟)、FDP(自由民主党)による連立政権は、いかに短期間でエネルギー政策の転換を行うかという課題を突き付けられています。脱原子力がドイツのコンセンサスになったことは間違いありません。ドイツには他のヨーロッパ諸国にはない、1970年代から続く反原発の伝統があります。将来、どのような思想信条の政党が政権を担うのであれ、脱原子力コンセンサスが変わることはないと思います。

 

  

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第54回フクシマによって原発は
世界共通の問題となった
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    福島での事故を経て、変化の兆しを見せ始めたドイツのエネルギー政策。
    日本でもようやく、菅首相が19日、
    今後の原子力政策を「一度白紙から再検討」すると述べたものの、
    それがすなわち「脱原発」につながるとは限りません。
    日本がここから、どうしていくのか。
    世界からも、注目が集まっています。

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