女性と政治と社会のリアルな関係

 はじめまして。このたびひょんなきっかけでコラムをはじめることになりました金繁典子と申します。

 昨年夏に、短い期間でしたが(1ヶ月半)スウェーデンに滞在する機会を得て、NGOや市民の方にインタビューをしてきました。スウェーデンと言えば、高いレベルでのジェンダー平等と福祉を達成させた国として有名です。市民の視点でスウェーデンで見て聞いてきたことを、ここでみなさまとシェアさせていただこうと思っています。そして、日本社会が市民ひとりひとりにとって暮らしやすい社会となるように、人と人がつながって声を出していくことに少しでもお役に立てればと願っています。

 どうぞよろしくお願いいたします!

男女の違いが政治・社会のあり方にも違いをもたらす?

 テレビなどのメディアを見ていると、討論番組の論壇やニュースにでてくる行政の委員会、企業の取締役会などがほとんど、もしくは全員男性であるのをよく目にする。

 日本の政治の意思決定の場にも女性が極端に少ない。国会議員(衆議院)では7.9%、世界190カ国(地域)中162位(列国議会同盟の調査・2012年(*))。地方議員では11.1%(全国フェミニスト議員連盟の調査・2011年)。これでは女性の声が政治に十分に届いているとはいえない。

*リンク先の表では124位となっているが、この表は同順位の国があっても次の順位を飛ばさないよう作成されているため、実際には上から数えると162番目ということになる。

 そして3・11以降、原発に関する報道機関などの世論調査の結果をみて、ずっと気になることがあった。脱原発を求める人の全体的な割合は変動するのに、ひとつだけ変わらない点がある。それは、常に女性のほうが男性よりも脱原発を望んでいるということ。その差は大きいときには20ポイントにも上る。

こんなにも違う!? 男女の行動傾向の違い

 たとえば女性議員が議会で半数になれば、なにか変わるのだろうか、男性と女性という性の違いが政治に違いをもたらすのだろうか、などと疑問を口にしていたら、ある米国人から、「すでに1999年に出された世界銀行のレポート(*)に、国会で女性の議員が増えるほど、政治の崩壊の危険は少なくなる、と書いてあるよ」と指摘されてびっくり。

 調べてみると、男女の社会的行動傾向の差異が次のように紹介されてある。

 「男性は女性よりも個人的に行動する(利己的である)が、女性はまわりの人を助ける行動に出る傾向にある」「女性は社会的な問題に基づいて投票する」「女性はより誠実である」「女性は倫理的行動を重んじる」などなど。それゆえ、「より多くの女性が政治に参加すれば、より誠実な政府へと導くことができ、政治の崩壊の危険が少なくなる」とまで帰結している。

The World Bank. Dollar, D., Fisman, R. & Gatti, R. “Are Women Really the ‘Fairer’ Sex? Corruption and Women in Government”(Policy Research Report on Gender and Development Working Paper Series, No. 4/October 1999)による。以下はそのAbstract(要旨)である。

Numerous behavioral studies have found women to be more trust-worthy and public-spirited than men. These results suggest that women should be particularly effective in promoting honest government.
Consistent with this hypothesis, we find that the greater the representation of women in parliament, the lower the level of corruption. We find this association in a large crosssection of countries; the result is robust to a wide range of specifications.

 日本ではこのような男女の行動傾向は、日常の会話のなかで笑い話のように話題になることはあっても、科学的な事実として教わることはなかった。

 私自身も20代の頃、肉体的な性差以外の違いについては、個人差はあっても性別による違いはないと思い込んでいた。むしろ「平等」を主張するあまり、性差を否定しようとしていた。

 しかし年を重ねるにつれ女性と男性の思考や行動の違いを多く目にしてきて、年配の方たちが言っていた男女の違いに素直にうなずくようになっていった。

ところでスウェーデンでは?

 女性議員が国会で45%を占め、出生率が高く高福祉の社会として知られるスウェーデンでは、どのようにして女性議員を増やせたのか、その根底にはなにがあるのだろう? この性による行動の差異の認識が影響しているのだろうか? 実際に市民や政策にかかわる人たちの声を聞いてみたいと思い、2012年夏、スウェーデンに向かった。

 さっそく各政党の女性団体やジェンダー関連のNGOをインターネットで調べ、インタビューを申し込んだ。行政のジェンダー担当官でもなく学者でもない私がインタビューを申し込んで応じてくれるだろうか、という不安を抱きつつ。しかし驚いたことに、ほぼすべての団体、個人から快諾をいただいた。

 最初にインタビューに応じてくれたのは、現政権党・穏健党の女性組織(*)モデラート クビンノナ(moderatkvinnorna)の副代表イェレナ・ドレンジャニン(Jelena Drenjanin)さんだった。

*スウェーデンの政党の多くは女性組織を有し、女性の社会的地位の具体的な改善を党派を超えて連携して行う。

男女の行動の違いは当然のこと、
その認識の共有をもとに人に優しい市民社会を形成

 イェレナさんは、高校を卒業後、日本の商社のスウェーデン支社に勤務し、出産のため職場をいったん離れた後、職場復帰をしようとしたがかなわなかった。そこでかねてより行きたかった大学へ(他のヨーロッパの国々と同様、スウェーデンでも学費は無料)。政治学を学んで卒業を目の前にしていたとき、新聞で穏健党の広告を見て応募。採用が決まり、同党の女性組織で活動をしてきた。

 イェレナさんは男女の思考・行動の違いについて「すべての人がそうというわけではないけれど」と前置きしたうえで、男性の傾向として女性よりも①競争を好む ②リスクをとりたがる ③縦社会を作る(女性は横の広がりを作る) ④短期的な利益を求める(女性は、現状が将来の世代にとっても好ましいかどうかという長期的な視点から利益を考える)などの違いがあると話してくれた。

 これは男女のどちらが優れているということではなく、男女の思考や行動は、基本的にどうしても異なる。だからこそ、意思決定の場での男女の構成比、いわゆるジェンダーバランスが重要という。

 もっとも、重要なバランスとして考慮されるのは、ジェンダーだけではない。「世代(Young/Old)、地域(Area)」のバランスも政治的意思決定に際して必要なルールとされているという。たしかに、たとえば「環境問題は世代間戦争」といわれるように、現在まだ残っている自然からの恵みを、貪るようにお金に換えて消費してしまうことは、若い世代には大きな損失だ。

 これら3つのバランスがとられることによって、一人ひとりにとって暮らしやすい平等な社会をもたらす。

 では、スウェーデンではどのようにしてジェンダーバランスを確保できるようになったのだろうか? 次回は女性たちがそのために進めてきた行動について紹介する。

北欧最大のセクシャルマイノリティーの祭典、ストックホルム・プライド。市の中心部を約5万人がパレード、数十万人の市民が街頭から声援を送る。

パレード隊は、セクシュアリティー、ジェンダー関係のNGOだけでなく、高校生、大学自治会、教師、交通局、大臣、各政党、警察グループも参加。2004年に性別に中立な婚姻制度の法律が国会での圧倒的な多数により可決されたあとも、プライドは毎年、大きく行われている。

イェレナさん(スウェーデン穏健党の女性組織副代表)。スウェーデンでは意思決定において①性別 ②年齢 ③地域のバランスがとれていることが必要とされる。これらのバランスが必要であるという共通認識が浸透している。

 

  

※コメントは承認制です。
【第1回】そもそも男性と女性の行動傾向は違う。だから…」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    ジェンダーの問題を考える時、とかく男女の違いを言うことは、平等な社会の実現の妨げになるのでは? と考えがちでした。
    しかし、男女の行動や思考傾向に違いがあるのは当たり前。だから、国会や政策決定の場の構成員が、どちらかの性に偏っていたら、やはりどちらかの性の特徴を色濃く出すものになってしまうのではないでしょうか。そして、それはバランスの良い社会とは言えないでしょう。そんなことを考え始めると、今目の前にあるいろいろな問題について、合点のいくことが多くあります。

    さて、歪んでしまった日本の社会や政治の「バランスを正しくする」ためには、どうすればいいのか? スウェーデンにはそのヒントがたくさんありそうです。

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金繁典子(かなしげ・のりこ): 1963年愛媛県生まれ。生態系豊かな自然のもとで、昔ながらの無農薬農業を営む地域に生まれ育っていたが、農薬や合成洗剤が使用されはじめて川や森の生態系が急速に失われていくのを目の当たりに。同時に農業と家事・子育てに大変な農家の「嫁」たちから、女性が自立する大切さを伝授される。男女平等にもっとも近く、高福祉社会のひとつであるスウェーデンで、それを達成した市民の意識を知るため2012年夏に滞在。NGOや市民にインタビュー。国際NGO職員。

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