川口創弁護士の憲法はこう使え!

 8月21日、志賀原発2号機運転差し止め判決を書いた井戸謙一裁判官の講演があり、その中で井戸さんと対談をさせていただきました。
 この判決で原発差し止めの根拠とされた「権利」は、憲法13条で保障され、民法でも定められている「人格権」です。この判決は、人格権侵害を理由に、原発の差し止めを認めたのです。
 原発を止めていくために、私たちは憲法13条や民法の人格権侵害を訴えていくことが求められています。憲法を堂々と使い闘うことが大事ではないでしょうか。

 原発に関しては、裁判を起こしたり、すでに起こっている裁判に原告として参加したり、また、原告とならなくとも裁判を支援したり、様々な関わり方が出来ると思います。
 中部地域や近畿では、大津地裁で起こされている敦賀原発の差し止め仮処分申請や、年内に起こされるであろう本訴に原告として参加されることも考えられます。
 また、名古屋をはじめ中電管内であれば、浜岡原発訴訟に参加していくことも考えられます(原告を絞られてはいるようですが)。また、名古屋で起こす、ということも検討されるところでしょうが、名古屋は弁護士に原発訴訟の蓄積がないので、残念ながら現時点ではまだ議論が進んでいません。将来的にはまだ検討中というところです。

 8月18日に、彦根に対談の事前打ち合わせに伺った際、井戸裁判官はこう仰っていました。
 「仮払い仮処分申請なども、国や東電の枠組みを待って従うのではなく、どんどん起こしたら良いと思います。そのほかできる限りの裁判や運動も、これだけの事態が起こっているのですから、どんどん起こしたら良いのではないでしょうか」と話されていました。
 躊躇することなく、主張していくことが必要ですし、弁護士も頭の切り替えと覚悟が必要かもしれません。

 せっかくですので、井戸さんらが書かれた金沢地裁原発差し止めの判決のポイントを僕なりに簡単にまとめてみました。あくまで、僕の理解の範囲だということで、ご容赦ください。

1.原告の権利
 差し止め請求を認める原告側の権利侵害としては、環境権は理由とならないが、人格権侵害が根拠となる。

2 立証責任
 人格権侵害の具体的危険があること、つまり、許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険が相当程度あることを原告がまず立証する。
 この立証が成功した後、逆に被告北陸電力側が、具体的危険がないことを反証する。  (※これは、一見浜岡原発訴訟などの判決よりも原告に負担を課しているようであるが、最終的な立証責任を国側に転換した点で、この判決の結論を導く重要な柱となっている)。

3 地震が起こるなどの事態がない場合に、原発の多重防護が機能せずに過酷事故が起こる具体的危険性を原告は立証できていない(※これで判決文の3分の2は終わる)。

4 しかし、地震の検討に入り、被告側の耐震設計は、i 直下地震の想定が小規模に過ぎる、ii 考慮すべき邑知潟断層帯による地震を考慮していない、iii 原発敷地での地震動を想定する手法に妥当性がない等の問題点があるとした。そして、被告の想定を超えた地震動によって被告が構築した原発の「多重防護」が有効に機能せず、過酷事故が起こり、原告らが上記被ばくをする具体的可能性があることを原告は相当程度立証した。
 これに対し、被告北陸電力は、当時の指針に適合して建設した、ということばかりに終始し、具体的危険がないことの立証ができていない、とし、原告に軍配をあげます。

5 受忍限度の件
 そして、受忍限度を超えて違法であるかについては、本件原子炉の運転が差し止められても少なくとも短期的には被告の電力供給にとって特段の支障になるとは認め難く、他方で、被告の想定を超える地震に起因する事故によって許容限度を超える放射性物質が放出された場合、周辺住民の生命、身体、健康に与える悪影響は極めて深刻であるとし、人格権侵害の具体的危険は受忍限度を超えていると判断しました。

6 原告適格
 いったん過酷事故が生じた場合には、その影響は広範囲に及ぶと認定。チェルノブイリ事故の際でも8000キロ遠方にも放射性物質が飛散しており、また、食物の流通などで汚染が拡大する危険性がある、とし、熊本県に住む原告についても、許容限度である年間1ミリシーベルトをはるかに超える被ばくの恐れがあるとし、全ての原告らにおいて、上記具体的危険が認められるとして原告適格を広く認めました。

 原発の危険が現実のものとなった今読めば説得力がありますが、まだ事故が起こる前に、よくこれだけ踏み込んだ判決を書かれたものだと本当に感心します。
 東電福島原発の事故が現実に起こり、この判決が指摘していた点が全て現実のものとなったことに、驚きと共に、この判決を謙虚に受け止める必要があると痛感します。
 北陸の原発について、遠く熊本の原告が裁判をすることを認めていることも、今後裁判を起こしていく上で、また、原告となっていく上で、大事な点となってくると思います。

 

  

※コメントは承認制です。
【第7回】原発差し止めと人格権(憲法13条)」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    判決を書いた井戸裁判官の見識もさることながら、
    それが可能になったのは、
    まずは「訴える」という行動に出た人たちがいたからこそ。
    デモや裁判や、いろんな形で、
    憲法を使って堂々と闘うこと。
    それが少しずつでも、世の中を変える力になるはずです。

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川口創

川口創(かわぐち はじめ): 1972年埼玉県生まれ。2000年司法試験合格。実務修習地の名古屋で、2002年より弁護士としてスタート。 2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。同弁護団事務局長として4年間、多くの原告、支援者、学者、弁護士らとともに奮闘。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。刑事弁護にも取り組み、無罪判決も3件獲得している。2006年1月「季刊刑事弁護」誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的参加。
公式HP、ツイッターでも日々発信中。@kahajime
著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)

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