2012年憲法どうなる?どうする?

平和国家としての国是でもあった武器輸出三原則が、国会での議論さえないままに昨年末に緩和されました。憲法審査会も動き出していますが、どのような議論がされているのかあまり聞こえてきません。国民の関心が震災や原発問題に集中している間に、国のあり方そのものがなし崩し的に変えられようとしているのでは、という危機感があります。このコーナーは、憲法改正や安全保障に関する5つの質問について、様々な分野の専門家にお聞きしています。

伊勢崎賢治(いせざき・けんじ) 1960年生まれ。 1957年東京生まれ。東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『国際貢献のウソ』(ちくまプリマー新書) 『紛争屋の外交論—ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)など。

Answer

三原則緩和は、憲法9条が形骸化してきたことによる当然の流れ。それにだけ反対することに何の意味があるのか? というのが僕の忸怩たる思いです。

 かつて、武装解除にかかわっていた立場からすれば、もちろん武器なんてないほうがいいに決まっています。しかし、武器を回収し壊しても壊しても、それよりずっと上回るスピードで、新しい武器が生産される。特に、自動小銃などの小型武器は、内戦などの状況で非合法武装組織に使われ、全体として大量破壊兵器以上の人を殺していると言われている。僕は、過去、国連平和維持活動として武装解除のミッションを指揮したことがありますが、そういうミッションを創設し指令を下す国連安保理の常任理事国自体が武器産出国なのですから、これほど大いなる国際政治の矛盾はないでしょう。

 しかもどの武器産出国も、輸出したあとのことに責任は持てない。現地の武装組織に流れている武器の製造元はわかっていても、「国家間協力で武器を売買しただけ」「輸出先から、どう流れたかは相手国の責任」だという。たしかに、いくらなんでも先進国の政府がゲリラ部隊と直接取引はしませんから、責任を問うことは非常に難しい。

 武器輸出三原則の緩和に際して、今回、日本政府が、具体的にどういう状況をシミュレーションしているのか、報道からは詳細は分かりませんが、「相手国との厳格な管理を前提」というのは、小型武器に関しては、単なる絵に描いた餅です。ですから、常任理事国でもできない管理を、相手国を知る諜報能力が赤子レベルのような日本政府ができるわけがありません。現在、自衛隊に納入している日本企業産の小型武器が輸出解禁となったら、やはり回り回って非合法組織に流れる可能性は否定できないでしょう。

 しかし一方で、新しいクライアントのニーズに応えて武器の改良は行われるだろうし、それは自衛隊の海外派遣(その多くは過酷な環境下)の際の装備の改善という相乗効果を生むでしょう。そう考えると、嫌な話かもしれないけど、今回の緩和で、マーケットが広がることによって武器の単価が下がり、結果的に日本の防衛費を削減することに貢献するかもしれない。本当にそうなるかどうか保証はありませんが、説得力はある。武器産業はITから車両から多岐にわたるし、海外に輸出するとなれば投資も増大するかも。その意味で日本経済の活力剤になるのかもしれません。他の産業もそれに引っ張られて元気になるだろうし。こうなると、今回の緩和に反対したい9条護憲派、そしてマガ9にも頻繁に登場する不定期雇用問題の論客たちは、相当に巧妙な理論武装をしないと…。

 それでも、これまで武器輸出はダメだとされていたのは、やっぱり憲法9条があったからでしょう。でもいまや、9条はその歯止めにさえならなくなった。当たり前といえば当たり前ですよね。ソマリアに「海賊退治」のために自衛隊が派遣され(9条は日本人には“もったいない”)、ジブチに自衛隊の拠点ができ、すでに武器を持っている日本人が大勢、それも「国益」を掲げて海外へ行っているわけです。武器の輸出だけを止めても、9条護憲にとって何の意味があるのか?

 ソマリアへの自衛隊派遣は、僕は戦後最大の違憲行為だったと見なしているし、日本にとっての大きな分岐点だったと捉えています。それまでの派遣は、国連PKOとしてでも米の戦争協力としてでも、建前は「世界益」だった。しかしソマリアは、はっきり邦人、日本の財産の保護、つまり「国益」を前に出して自衛隊が外に出て行った戦後初めての派遣です。ところがその反対運動は、その他の派遣時に比べ、最小。「国益」のためならしょうがないと、日本人はあっさりと承認した。更に、そのソマリア派遣の一貫として隣国ジブチに自衛隊の拠点をつくる際に、両国間で結んだ地位協定は、隊員の現地の犯罪の処遇において日米地位協定よりも派遣国に有利、受け入れ国に不利、というおまけ付きです。
 もはや日本人にとって9条は、誰かが勝手にやる戦争に巻き込まれたくないという、結局は自己防衛だけのものであり、海外の日本の国益が危ないと世論操作がなされれば、ホイホイと武力を出す、それだけのものであるということです。そう考えればこの「輸出三原則緩和」も当然の流れ。これにだけ反対することに何の意味があるのか? というのが僕の忸怩たる思いです。

 ただ、これだけ形骸化が進んでいる憲法9条でも、今後もし改正されることがあれば、それ自体が世界的なニュースになるでしょうね。実は9条のことは世界ではほとんど知られていないのですが、それがなくなるということで逆に認知度をネガティブに高めるというふうになると思います。特に、アジアの周辺諸国には悪い印象しか与えない。北朝鮮は間違いなく、中国も「日本が右傾化した」として、軍備増強の一方的な口実に使うでしょう。
 僕が今懸念しているのは、原発事故や放射能への恐怖が極度に広がっている日本人が、「原発が直ぐには止まらない」という現実を認識したとき、その恐怖が「原発が狙われる」恐怖に化けることです。そして、その恐怖を誰かが政治利用することです。

 「女川原発を武装集団が占拠、電源を切断、メルトダウン寸前のところで特殊部隊突入、全員を射殺。現場には金正日バッチが落ちていた」なんてシナリオを思い描いて下さい。これは、今、非常に現実味を帯びたものであり、なおかつ、「でっち上げ」も可能です。でも、起こってしまったら、日本社会がどういう反応をするか。9条は、もう、もたないでしょう。僕は「脱原発」を支持するけれど、今のような、恐怖感に支えられた「脱原発」運動は、必ずいつか権力側に揚げ足を取られると思います。

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