2012年憲法どうなる?どうする?

井口秀作(いぐち・しゅうさく) 1964年生まれ。一橋大学大学院博士課程満期退学。現在、大東文化大学大学院法務研究科教授。専攻は憲法学。フランスの国民投票制度を研究。著書に『いまなぜ憲法改正国民投票法なのか』(蒼天社出版)など。主な論文として、「国民投票法案」に浮上した新たな問題点『世界』/「国民投票法案」の批判的検討『法律時報』/憲法改正国民投票法案をめぐって『法学セミナー』など。

Answer

本来災害救助や除染のような作業を誰がやるのかについて、何も規定がないままに自衛隊に任せているのは、隊員たちにとっては気の毒です。

 今回の東日本大震災のような大きな災害が起こり、自衛隊が救助活動などで活躍すると、「ほら、やっぱり自衛隊は必要だ」という声が大きくなります。私は、こうした災害に対応する人たちが日本に必要である、そのこと自体は否定しないし、自衛隊員が救助活動をしていることは、憲法的にも何ら問題はないと思います。ただ、そこで考えなくてはならないのは、そもそも自衛隊はそんなことのためにつくられたものなのか? ということではないでしょうか。

 自衛隊法第3条によれば、自衛隊の本分は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛すること」です。あと、近年は3条2項に定められた海外での活動が本来的任務に入ってきていますが、今自衛隊員が従事している災害救助や除染というのは明らかに本来的任務ではありません。3条1項の最後に「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする」とあるので、多分この部分を適用しているのだと思われますが。

 ということは、逆に言えば、本来災害救助や除染のような作業を本来的な任務として誰がやるのかについて、何も規定がない。ないままに自衛隊に任せているわけです。しかし、自衛隊の予算の大半はそうした災害救助ではなく、ミサイルなどにつぎ込まれているわけだし、装備も災害用ではないから非常に使いにくいという話も聞きました。

 軍隊が災害救助のような仕事を行うというのは諸外国では普通のことでしょう。憲法9条のある日本だからこそ、本来は軍事的な側面を抜きにした、「災害救助隊」のような制度をつくることが可能だったはずなのですが、それをやらないままに来てしまった。政府にとっては「ほら、自衛隊は必要でしょ」というアピールになって助かるだろうけれど、自衛隊員にとってもかわいそうな状況だと思いますね。

 難しい問題ですが、災害救助隊的なものを別組織として即座に作るというのは、現実的でないように思います。まずは、自衛隊が災害救助隊的なものであることを法律上も明記し、予算配分等も考慮するようにしたうえで、長期的には、自衛隊の軍事的な部分を削減しながら、災害救助隊的なものへと自衛隊を改組していくという筋道を展望すべきだと思います。大震災の経験は、国民が自衛隊に期待するものが戦車やミサイルではないということを示したということではないでしょうか。

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