この人に聞きたい

原発の是非を国民自身が直接決めようという、「原発」国民投票の実施を求める声が高まっています。「原発国民投票法市民案」の作成にも携わった南部さんは、投票そのものだけでなく、その法案制定のプロセス自体が、間接民主制を補完することになる、と指摘します。

nanbu004

なんぶ・よしのり慶應義塾大学大学院法学研究科講師。1971年岐阜県生まれ。1995年京都大学卒業、国会議員政策担当秘書資格試験合格。2005年から国民投票法案(民主党案)の起草に携わり、2007年衆参両院の公聴会で公述人を務めた。近時は、原発稼働をめぐる各地の住民投票条例の起草、国会・自治体議会におけるオンブズマン制度の創設に取り組む。著書に、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社、2007年)がある。ツイッター(@nambu2116)、フェイスブック
諮問型「原発国民投票」は可能か

編集部 前回お話を伺った、国民投票法の「三つの宿題」の一つに、憲法改正問題に関する予備的な国民投票制度の検討ということが挙げられていました。重要な国政問題に関する一般的国民投票の類型の一つで、憲法改正以外に案件を拡げる制度といえるでしょう。実際には、この部分についてもまったく議論は進んでいないわけですが、ここで気になるのが、昨年から市民グループなどが呼びかけている「原発の是非に関する国民投票」についてです。

 憲法改正に関する国民投票のように法的拘束力のある国民投票は、国会を「唯一の立法機関」と定めた憲法41条に違反しますから、憲法を改正しなくてはできませんが、今主に話題になっているのは、法的拘束力はない「諮問型」の国民投票についてです。これを実施するためには、国民投票法とは別に、原発国民投票のための法律を別につくる必要があるのだと思いますが…。

南部 そのとおりです。ただその前に、諮問型の国民投票であっても、日本国憲法がそれを許してくれるかどうか、という合意を形成する必要がありますね。
 結果拘束型の投票はおっしゃったように確実に憲法違反ですが、諮問型についても憲法違反だという意見がないわけではないので、それについて憲法審査会で合意を得る必要があります。民主党案もかつて、国政問題に関する一般的な国民投票の結果は、国家機関を法的に拘束しないとの条文をわざわざ置いたくらいですから。

編集部 なるほど。そこで問題ない、という合意が取れたら…。

南部 今度は、法案そのものの内容について、憲法審査会が審査することになります。国会法の定めで、国民投票に関する法律は、憲法改正に関するもの以外もすべて、憲法審査会で審査する権限があると読み込めるようになっています。
 市民グループ〈『みんなで決めよう「原発」国民投票』〉のメンバーの一人として私がたたき台を作成した「原発国民投票法市民案」の中にも書きましたが、法案をつくるのは内閣ではなく立法府、国会です。過去から現在に至る原子力行政の監視・評価を伴う内容ですから、内閣にそれをつくらせるわけにはいかない。終始、まな板の上のコイに徹してもらいます。投票の選択肢も手続きも、すべて立法府が、党派を超えて決めていくということになります。すべての党、会派が一致してこの法案を提出するのが望ましいというのが、市民案の立場です。

編集部 内閣ではなく、議員立法の法律になるということですね。そして、その内容について再び審査会で合意されたら、今度は衆議院の本会議、そして参議院の憲法審査会、本会議で議論されて、それを通過すればようやく実施に漕ぎ着けられる。

南部 そうなります。まず審査会で、自民党から共産党までが一致してくれないと進まないので、ハードルが高いのは事実ですが。

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