この人に聞きたい

審議のプロセスが、
間接民主制を補完する

編集部 今お聞きしたような過程を経て原発国民投票法が成立したとしても、これは「諮問型」ですから、政府をその結果に従わせる法的拘束力があるわけではありません。しかし、例えば市民グループ〈みんなで決めよう「原発」国民投票〉の事務局長、今井一さんなどは、「拘束力はなくても、例えば7割が脱原発を支持するような結果になれば、その結果を完全に無視できるはずがないし、もしそんな政権であれば、次の選挙で落とせばいい」として、だから諮問型でも実施する意味は大きい、と指摘されています。

南部 それはそのとおりです。ただもう一つ、そうして実際に投票実施の段階に行く前に、原発国民投票法案が国会に提出されて審議される、そのプロセスにも大きな意味があると思うんですね。

編集部 というと?

南部 この法案は、先ほど言ったように内閣ではなく議員立法が想定されますから、共同提出者となる各党の政策責任者、それから内閣総理大臣はもちろん経済産業大臣や原発事故担当大臣など、関係閣僚が答弁席に並んで議論をすることになります。先日も、税と社会保障の一体改革法案についての国会審議が中継されていましたけど、あんな感じですね。

 例えば衆議院で100時間、参議院で60時間とかやれば、相当幅広い議論ができる。投票案件と選択肢に関する各党の解釈はもちろん、7月以降の原発再稼働の決定プロセスと妥当性について、原発交付金について、雇用について、全部政策上の論点になりますから。政府に対する質疑と、各党に対する質疑が同時に可能なのです。その様子を毎日テレビで中継して、地方で公聴会もやって、参考人質疑もやるわけです。

 その議論の中では、内閣の方針だけではなく、各党がどういうエネルギー政策を実行しようとしているのか、また国民投票の結果にはどのように従うのか、といったことも明らかにしていけます。例えば「原発推進」が多数という結果が出たとしても、うちの党是は脱原発だから従いませんという政党があってもいいわけです。そういうことを一つ一つ確認して、選挙では示されない各党の政策の方向性を明確にしていく。もちろん議事録も残りますから、各党に新たなマニフェストが生まれるような形になっていくんですね。そうしたプロセス自体が、間接民主制を補完し、強固にすることにもなるわけです。

 その上で、国民投票の結果が出て、最初に行われる国政選挙が重要です。約束を破った政党、対応に納得のいかない政党、政治家があれば、「選挙で落とす」という次のステップに持っていく。最後は間接民主制の通常プロセスに戻す。それが大事なんです。

編集部 国民投票という「直接民主制」の手続きを決定していく過程が、結果的に間接民主制を補完することになる、と。今年6月に、市民グループの直接請求によって、いわゆる原発都民投票条例案が都議会に提出されましたが、そのときもそんな感じだったのでしょうか?

南部 「東京電力管内の原子力発電所の稼動の是非を問う東京都民投票条例」制定の直接請求は5月10日、323,076名の署名を以て行われました。地方自治法上、請求代表者には議会で意見を述べる機会が与えられており、それが6月14日に行われたものの、わずか1週間足らず、20日の本会議で否決されてしまいました。
 原発国民投票法案の国会審議は2~3か月というスパンで考えていますが、都民投票条例案の審議は、実質数日でした。これは、条例制定直接請求に関する、地方自治法上の規定の不十分さにも原因があります。条例案に対する都議会各会派の表決方針ばかりが注目され、条例案の中身などは、最後まで議論が深まりませんでした。
 条例案に対する個々の議員の賛否は、来年夏に行われる東京都議会議員選挙にとって、一つの判断材料となりえます。条例案の審議は一瞬にして終わり、都民投票は実現していないので、違う意味での「補完」なのですが、それだけで終わらせていい話ではありません。

編集部 なるほど。また、脱原発を支持する人たちの間には、「原発国民投票をやって、仮に推進派が勝ったらどうするのか」という不安の声もありますが…。

南部 南部

 正反対の立場の方が、正反対の「不安」をおっしゃいます。自由な言論空間のなかで、打ち消し合っているだけ。いま多くの方が、そのことに気づき始めています。国民投票をやらないとしたら、日本国憲法のもとでは24時間、365日、議会制民主主義における過半数で物事が決められていくわけですよね。日本の内閣は、議院内閣制のもとでそれに乗っかっているにすぎません。議会の過半数で決めるのか、国民の過半数で決めるのか、どちらの過半数により高次の正当性があるのか? という話にもなります。そして、過半数が得られないまま、決められない政治、決めかねる政治が続くということも避けられません。
 市民案の根っこにある発想ですが、国会で法案審議を行う前段階、この法案が憲法に適合するかどうかという議論と、もう一つ、原発そのものを憲法は許すのかという問題について、確認合意を行う必要があると考えています。立憲主義を重視する立場からすれば、原発を憲法上のブラックリストに載せるか載せないか、いまが瀬戸際だからです。
 結論から申し上げると、原発は違憲状態にある。このまま放っておくと本当に憲法違反の存在になるということです。この確認合意を超党派で行うことにより、原発の是非についての選択肢は限られてきます。つまり、「完全な赤信号か、点滅の赤信号か」という、限定された選択です。推進派の人たちには、いまなお青信号に見え、なお安全運転を宣言するのかもしれませんが、憲法解釈を踏まえて「点滅の赤信号」へと思考転換を行ってもらわないといけない。このイメージを、国会が国民に上手に伝えられるかどうかがカギです。
 そして、間接民主制だけ、通常の選挙を経るだけで、いつか原発をゼロにできるかというと、これは相当に難しいと思いますね。原発立地自治体である静岡県の御前崎市長選挙や鹿児島県の知事選挙などもそうですが、事前調査で原発に対する意見を聞くと反対派が多いのに、同じ有権者が投票しているにもかかわらず、実際の選挙ではまったく反対の結果が出ているでしょう。国政選挙でも同じです。原発に対する立憲的な拘束は、選挙という手段では不十分です。
 あまりいい例えではありませんが、民主党・社民党・国民新党に政権が交代したとき、死刑制度に対する立憲的拘束(事実上の廃止)が実現したと考えた方も多かったのではないでしょうか。しかし、その後の対応をみれば、そうではなかったということですよね。
 選挙でもダメだ、国民投票でもダメだというのは、ただのニヒリズムであり、主権者としてとるべき態度ではありません。ニヒリズムでは、公共政策は成り立ちえません。

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