この人に聞きたい

人ではなく「仕組み」で権力を統制するのが立憲主義

編集部 では、特にその自民党の「日本国憲法改正草案」について、どこが問題なのかをもう少し具体的にお聞かせいただけますか。憲法が拠って立つ考え方についての理解がない、ということでしたが…。

青井 どの条文が問題だ、というよりもまず、ものの考え方そのものの問題だと思います。全体として、やたらに国民に義務を課そうとしているのを見ても、憲法とは何ぞや、立憲主義とは何ぞやということがまったく理解されていない。近代立憲主義憲法ではないんですよね。
 一度、自民党の憲法起草委員会の事務局長である礒崎陽輔議員が、「立憲主義なんていう考え方は聞いたことがない」とツイートして問題になりましたが、本当に、明治憲法がつくられた頃のほうがむしろまだ立憲主義への理解があったはずだと思うくらいです。

編集部 立憲主義の考え方では、憲法というのは国民が国家権力の横暴を防ぐために、国民の側から権力に「突きつける」ものですよね。そうではなく、権力の側が国民に「守らせるもの」として位置づけられているということでしょうか。

青井 というよりは、その前の段階の話で。そもそも、近代立憲主義が何を目的にしているかというと、やはり何よりも人々の自由、人が生きたいように生きることができる自由を守ることなんですね。
 国家権力というのは、やろうと思えば何でもできるし、基本的には常に国民の自由を制約しようとするもの。だから、人権を侵害させないように縛らなくちゃいけない。それも、たまたま今の王様はいい王様だから大丈夫、ではなくて、あらかじめ存在している仕組みによって権力を統制することで国民の自由を守ろう、というのが近代立憲主義の考え方なんです。

編集部 誰が王様になっても大丈夫なように、ということですね。

青井 そうです。そうした、いわゆるフールプルーフ(操作を誤っても安全が確保されるような設計)な仕組みをつくろうということ、そして、そのためには権力をどう分配すればいいかといったおおもとのところを定めているのが憲法。つまり、私たちの自由を守るための仕組みの基盤をつくっているのが憲法であるという考え方が立憲主義だといえるんですね。
 こうした、立憲主義のコアな部分を前提にした上で、その先の憲法の内容についての議論をしようというならわかります。ところが、今回の改憲案は、決してそこを前提にしていないことが、そこここに表れているんですよね。むしろ、私たちの自由よりも先に「国家」というものが先天的に存在しているという認識のもと、その国家と個人との関係を、個人と個人の契約関係的なものとして捉えているんじゃないか、という気がします。だからこそ、権利があるなら義務もある、的な発想になって、国民にいろいろな義務を課そうという内容が出てきているのではないでしょうか。

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