この人に聞きたい

基地、原発、戦争――国策の押しつけが、
大きな犠牲を生み出す

編集部
 さて、先ほど、年末年始に県庁で、辺野古の環境影響評価書の運び込み阻止のための座り込みをした話をされていましたが、今度は同じ辺野古の埋め立て申請書を、沖縄防衛局が県に提出すると言われていますね(※)。

※辺野古の埋め立て申請書…このインタビューの後、沖縄防衛局は3月22日に沖縄県庁に申請書を提出。山城さんらが警戒態勢を取る中、所轄部署ではなく他の部署に申請書を持ち込むという「奇襲」だった。県はこれを受け付けたが、4月12日に「申請の一部に不明瞭な記載や記述不足がある」として、防衛局に13項目33件の補正を要求した。

山城
 3月中には、と言われています。また24時間体制での警戒行動を取ることになるかもしれませんね。

編集部
 それでも提出がされてしまった場合、現時点では普天間の県内移設には反対を表明している仲井真県知事はどうされると思いますか?

山城
 先日、知事公室長のところへ「埋め立て申請書を受け取らないでくれ」という要請に行きました。「(辺野古移設反対という)県政の姿勢は変わりませんよね」と確認したら「変わりません」と明確な返答をもらいました。ただ同時に「行政手続きとして、法律にのっとって申請されたものを受け取らないわけにはいかないし、受け取ったものはちゃんと審査しなくてはならない」とも。私たちは、「行政としての県政の前に、県民を代表する政治家である県知事としての立場もあるはずではないのか。県民の総意として辺野古移設は事実上不可能だと知事は言っているのだから、申請書の受け取りそのものを拒否するのが筋だ」という話をしたのですが…。

 さらに言えば、国が知事を相手取って裁判を起こして、裁判所に埋め立て許可の執行命令を出させるんじゃないかという懸念もありますし、一番心配なのは、貧乏な沖縄県に政府がばんばん財政投資をして「貸し」をつくって、自動的に沖縄が頭を垂れてくるのを待つんじゃないかということです。

編集部
 反対するなら金は出さないぞ、と。

山城
 まさに「アメとムチ」の使い分けです。

 ただ、沖縄の現実はそう簡単ではありません。4月28日には、安倍政権が「主権回復の日」の記念式典を開催すると言っていますが、ご存じのとおり沖縄ではこの日は、「本土」が沖縄をアメリカに売り渡した「屈辱の日」とされていて、激しい批判の声が巻き起こっている。沖縄の選挙区から選出されている4人の衆議院議員も、この式典に対しては異議申し立てをしています。ここで言わなければ県民からは見捨てられて、次の選挙での当選はもうあり得ませんから。仲井真知事も、式典がもし開催されれば参加を求められるでしょうが(※)、そんなところに出席したら「知事の資格なし」と、場合によってはリコール運動だって起きてしまいかねない。苦しい立場だと思いますよ。

※4月10日、沖縄県は4月28日に開催される「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」に仲井真県知事が出席せず、高良副知事が代理で出席すると発表した。

編集部
 学者、高橋哲哉さんが『犠牲のシステム 福島・沖縄』(集英社新書)という本を出版されましたが、やはり原発と基地とは、非常に似た構造がありますよね。福島第一原発の立地自治体で、町全体が避難区域になってしまった福島県双葉町の井戸川町長が、野田首相(当時)に向けて「私たちを国民と思っていますか。私たちは憲法で守られていますか」という言葉をぶつけましたが、それは沖縄にも共通する、非常に大きな問いかけだと思います。

山城
 犠牲のシステムとか恒常的差別とか、言葉はいろいろありますが、「国策の押しつけ」というのはそもそもそういうものなのだと思います。基地も原発もそうだし、その最悪のケースが戦争。「戦争」という国策が押し付けられて、それによって大きな犠牲がもたらされた。沖縄では、「沖縄戦」という国策が押し付けられた結果、20万人以上が死んでいって、なおかつその戦争が終わった後も、国はその責任を取るどころか、沖縄を「本土」から切り離して米軍の支配下に差し出し、自らは「主権を回復した」と言って喜んでいるわけです。

 今、福島で起きていることもそう。原発事故が起こって、震災や津波の被災者もあわせて今なお30万人近くが避難生活を送っている。そういう状況下でもなお原発が再稼働して、現政権に至ってはさらに新しい原発をつくるんだとまで言い出している。この、人々の生活と政治の意識との、とてつもない乖離。本来ならその溝を「埋めよう」とするのが政治なんじゃないのかと思うのですが、今の政府は溝を埋めるどころか「なかったことにしよう」と居直っているように見えます。

 今の沖縄についても、これだけ反対の声があがってもオスプレイを押しつけ、辺野古や高江に米軍基地を建設し、あろうことか4月28日をみんなで祝おうとまで言い出す。政権の延命のためなら、沖縄県内でどれだけ反発が起ころうが構わず、対米追随を強める…。沖縄のことなんて、まったく眼中にないとしか思えません。県内では最近、これまでにない形で「沖縄は独立すべきだ」という声が強く出てくるようになりました。政府はそのことを認識しているでしょうか。抑えがたい憤りが噴出しているのです。沖縄をナメてかかったら許しません。

(構成/仲藤里美 写真/塚田壽子)

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山城博治さんに聞いた 国策の「アメとムチ」に翻弄されてきた沖縄」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    3月末にお話を伺った直後、記事中にも出てくる「辺野古の埋め立て申請書」は、
    またしても「だまし討ち」のような形で提出されました。
    高江では今も座り込みが続き、オスプレイは我が物顔に空を飛び回る。
    7月には、オスプレイの普天間への追加配備に加え、嘉手納への配備も計画されています。
    人々の声を顧みることなく、繰り返される「国策の押しつけ」。
    安倍首相が、自民党が「取り戻す」と叫ぶ「日本」に、
    沖縄は(そして福島も)含まれているのか。
    それは、私たち一人ひとりに突きつけられている問いでもあります。

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