この人に聞きたい

作りやすくて親しみやすく、もちろんおいしい。そんなレシピが人気の料理研究家・枝元なほみさん。テレビや雑誌で活躍するほか、生産者支援や被災地支援、脱原発などの活動にも積極的に取り組んでいます。お話ししているとこちらまで元気になってくる、そのパワーの源泉はどこにあるのか? 農業支援団体「チームむかご」の活動について、「食」への思いについて、たっぷりお話を伺いました。

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枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家。明治大学卒業後、劇場の研究生になり役者をしながらレストランで働く。劇団解散後、料理研究家に。料理本の執筆の他、料理番組への出演多数。また農業支援団体チームむかごを立ち上げ、現在は社団法人「チームむかご」の代表理事。東日本大震災の後は被災地支援の活動(にこまるプロジェクト)も同法人で行っている。ツイッター(@eda_neko
社会のことを考えるのを、日常の一部に

編集部
 前回、「食べること」は「生きること」とつながっている、というお話がありましたが、一昨年の東日本大震災に伴う福島第一原発事故では、その大切な「食」も大きく脅かされることになりました。3・11からの2年あまりを振り返って今、何を思いますか。

枝元
 ずっと考えているのは、私たちは以前とはまったく違う「3・11後」を生きてるんだと思わないとダメなんだろうな、ということですね。原発のことだけじゃなく、農業のこと、TPPのこと…あらゆることが今、分岐点に来ていると思う。これまでの、経済効率を優先させる暮らしというものが、人間的なサイズを超えてしまって、逆に人を苦しめるようになってきているし、環境面から見てももう限界。このままじゃもうやっていけない、ということを意識しないとダメなんだと思う。

編集部
 本当に、3・11の前と後とでは、いろんなことが大きく変わりました。政府に対して「怒らない」と言われていた日本で、あちこちで大規模な脱原発デモなどが行われるようになったこともその一つです。枝元さんも、毎週金曜日の官邸前行動などに参加されていたそうですね。

枝元
 でも一時期、仕事や親の介護で疲れ切ってどうしても行けなくて、そのことがすごく後ろめたかったことがありました。行きたい、行かなきゃ、と思いながら、ソファに横になったまんまどうしても動けなくなっちゃって。

 だけど、いろいろ考えるうちに、自分にできるやり方でいいんだな、と思うようになって。例えば私なら、今日はデモには行けないけど、かわりに大間原発の建設に反対しているあさこはうすに郵便を送ろう(注)とか。参加できなくてごめん、って自分を追いつめるんじゃなくって、行ってくれてる人に対して「みんなありがとう」と感謝しながら、自分にできる違うチャネルを考える。それでいいのかな。と。だって、1人で全部は絶対できないじゃないですか。

(注)あさこはうすに郵便を…「あさこはうす」は、青森県大間町で建設が進む大間原発(電源開発㈱所有)建設予定地の中にあるログハウス。原発に反対し、土地を電源開発に売却するのを拒否し続けていた故・熊谷あさこさんによって建てられた。現在は、その娘の小笠原厚子さんらが管理しているが、電源開発はあさこはうすに通じる道を封鎖しようとしており、それに対抗するためにはその道が「一定の交通量がある公道である」ことを示す必要があるため、あさこはうす宛の郵便を送ろう(郵便を送れば、郵便局の車が通る)という呼びかけがなされている。

編集部
 本当にそうですね。

枝元
 あと、花粉症のシーズンなら、友達に「昨日日比谷公園のデモ行ってたんだけど、花粉がひどかったよね~」って話したり、デモに行くことが「さも当然」みたいに話す、なんてこともやってる(笑)。よく、原発のこととか政治のことを口に出しにくい雰囲気がある、とかいうけど、あえてそういう空気は読まないで。私は「のらりくらり作戦」と呼んでるんですけど、おかしいなと思うことに真正面からぶつかるだけじゃなくて、そうやってのらりくらりとやっていく、くらいの感じじゃないと、長丁場にはやっていけないかな、と思うんです。

編集部
 短期決戦! ではなくて、政治のこと、社会のことを考えて、口に出すことを、「日常の一部」にしていくという…。

枝元
 この間、埼玉県の小川町に行きました。町ぐるみで有機農業を推進しているところで、オーガニックの農家さんを訪ねさせてもらいました。そしたら、本当に美しいほどに「循環」しているなあ、と。牛や鶏の糞は集めて、生活排水を混ぜて発酵させて、それで出たメタンガスを調理に使う。下に溜まった発酵物は液肥として畑に使う。使用済みの食用油は漉して、トラクターの燃料にする…。何もかもが循環していて、かっこいいなと思って、元気と希望をもらって帰ってきたんです。

 でも、帰ってきてからようく考えてみると、そういう「循環」を作るためには、まず自分の生活から考え直さないといけないんですよ。生活排水を液肥にするんだから、シャンプーやコンディショナーは生分解できるものじゃないと駄目だなとか、台所洗剤は一応分解性の高い石けん洗剤だから大丈夫かな…とか。何を食べるか、何を使うか、自分がどういう暮らし方を選ぶか。そういう、ほんとに「日常」から考えていかないとダメなんだな、とすごく思いました。

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枝元なほみさんに聞いた(その2) 「希望のシステム」を作りだそう」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    ツイッターなどを拝見していても、
    本当にパワフルに全国を飛び回っていらっしゃる枝元さん。
    「まずは自分が動きはじめること」という言葉が、説得力を持って響きます。
    ともすれば心折れてしまいそうなことばかりですが、
    そんな中でも希望は忘れずにいたい。
    そう思わせていただいたインタビューでした。
    枝元さん、ありがとうございました!

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