この人に聞きたい

自民党の政権復帰からまもなく半年。「改憲」を叫ぶ声が急速に強まりつつあります。「押し付け憲法だから」ともいうけれど、本当にそうなの? そして、自民党の改憲案の問題点は? 「全日本おばちゃん党」代表代行にして法学者の谷口さんが、鋭く突っ込んでくれました。

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谷口真由美(たにぐち・まゆみ)
法学者。大阪国際大学准教授。(公財)世界人権問題研究センター研究第4部(女性の人権)部長。「全日本おばちゃん党」代表代行。小1から高1までの多感な時期、花園ラグビー場の中で、マッチョな男の中で揉まれて育つ。専門分野は国際人権法、ジェンダー法など。大阪大学では講師として、憲法の授業も担当し「DJマユミの恋愛相談」で人気を博している。著書に『新・資料で考える憲法』(共編著、法律文化社)、『リプロダクティブ・ライツとリプロダクティブ・ヘルス』(信山社)、『レクチャー ジェンダー法』(共著、法律文化社)など。
立憲主義の否定は、民主主義の破壊に等しい

編集部
 さて、憲法の問題についてもお聞きしていきたいと思います。自民党の発表した「改憲草案」をはじめ、ここ半年ほどで「改憲」への動きが急速に強まってきました。特に、96条に定められた憲法改正発議要件の緩和を目指す声が目立ちますが、こうした流れをどう見ていらっしゃいますか。

谷口
 たしかに現行憲法には、今の時代から考えたらちょっとしんどいな、という部分がないわけではありません。たとえば24条には、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し…」という文言があって、そのために同性婚がなかなか認められず、同性愛者の人たちが事実婚に押し込められてしまっているという状況がある。学者さんによっては、男性と男性、女性と女性でも「両性」だ、という解釈をされる方もいますけど、やっぱりちょっと厳しいと思うので、そういう部分を変える必要はあるかもしれないと思います。

 でも同時に、むやみやたらに変えればいいというものでもありません。国民的な議論――というか、日本という国の土地に住む人みんなで議論した上で、「制定から60数年経って、当時はなかった人権の概念とかも生まれてきてるし、ちょっとくたびれた憲法になってるから補強してリニューアルしよう」とか、そういう形で改憲への機運が高まってくるのならまだわかるんですが…。

編集部
 今はむしろ、政治家が――権力側が主導して「改憲」を叫んでいるという感じですね。

谷口
 改憲案の内容も、そうして時代とともに変わってきた人権の概念に合わせる方向、よりリベラルな方向に行くものかというと、どうやら違うらしい。しかも、ちゃんと憲法の理念を理解したうえで「改正しましょう」と言っているのかと思いきや、出るわ出るわいいかげんな話。自分の政権中に改憲を是々非々でやらなくてはいけない、と言い切っている首相自身が、芦部信喜や佐藤幸治の名前を知らなかった(*)とか…。「私は憲法のゼミでもなかったし専門家でもないので」とのことでしたが、悪いけどちょっとでも憲法について勉強したならあり得ない話ですよ。

* 芦部信喜や佐藤幸治の名前を知らなかった…2013年3月29日の衆院予算委員会において、民主党の小西博之議員が安倍首相に対し、芦部信喜、佐藤幸治、高橋和之(いずれも著名な憲法学者)の名前を知っているかと質問、首相は「知らない」と返答した。また<「個人の尊厳」、「包括的人権」、「幸福追求権」を定めた(憲法の)条文は何条か>との質問(正しくは13条)にも回答しなかった。

編集部
 自民党の新憲法起草委員会の事務局長だった礒崎陽輔議員も、ツイッターで「立憲主義なんていう学説は聞いたことがない」とつぶやいて問題になりました。

谷口
 立憲主義というのは、憲法は権力者を縛るもの、権力をコントロールするためのものであって、決して国民を縛るものではないという前提ですよね。自民党の改憲案では、そこが完全にすっとばされてしまっています。

 自民党は「現行憲法は権利ばかりが主張されすぎている」といって、義務規定をたくさん加えてますけど、憲法は「国家権力を縛るもの」なんだから、そこには本来国民の義務規定なんて必要ないんですよ。それから、「家族はこうあるべき」みたいな説教くさいことも必要ない。「家族にもいろんな形態があるわ、ほっといてくれ」という話で、そんなことを憲法に書き込まなくていいんです。いわば自民党草案は「オッサンの押し付け憲法」なんですよね。

 立憲主義を否定するというのは、近代国家の否定であり民主主義への挑戦ですよ。自民党のいう憲法改正に賛成やというのは、民主主義を破壊していいと思っているということ。賛成やという人は、そこまで分かってて言ってるんか? と思います。

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谷口真由美さんに聞いた(その2) 自民党の改憲草案は、
上から目線の「オッサンの押し付け」憲法
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「時代に合わないから」「押し付けだから」変えるべき、といわれると、
    「そうなのかも」とも思ってしまいがち。
    でもその前に、「ほんとにそうなの?」と疑って、考えてみる習慣をつけたい。
    これ以上、「オッサン政治」に好き放題されないために、
    「おばちゃん党」仕込みの「ツッコミ力」、重要です。
    谷口さん、ありがとうございました!

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