この人に聞きたい

9条の問題を、
自分たちの生活とつなげる言葉を探そう

編集部
 さて、湯浅さんはそうして貧困問題の分野でずっと活動を続けてこられたわけですが、最近は「9条の会」など、9条・平和関連のイベントでもしばしば講演などをされていますね。

湯浅
 そうですね。ただ、私自身は、もちろん憲法9条はあったほうがいいとは思っているけれど、それについてしっかりとした定見を持っているわけではありません。ですから、9条のことだけを語る資格はないと思っています。私が9条を語るとすれば、25条との絡み。それが私の問題意識ですね。

編集部
 9条と25条を、もっと結びつけて語っていこうということですか?

湯浅
 今までの日本では、25条の問題はクリアされていた。——と思われていたんですよね。だから、9条と25条を結びつけて訴えることがあったとしても、それは「9条が壊れると、皆さんの今の平和で安定した暮らしが壊れてしまいますよ」という言い方でした。だけど、実際には9条はまだあるけれど、「平和で安定した暮らし」はもう壊れちゃっているわけです。
 先日北海道へ行ったんですけど、そこで聞いたら、自衛隊の女性二等陸士——これは中卒資格でも入れるコースなんですが——の求人倍率が、今4倍なんだそうです。つまり、募集人員の4倍の人が応募している。考えてみれば今、地方公務員なら10倍20倍は当たり前なわけですから、当たり前のことなんですよね。
 そうなっていけば、軍隊に対する抵抗感も薄れていくし、徴兵制を敷く必要はないということにもなる。そういうふうに、25条の問題から9条の問題につながる流れは、これまであまり意識的には語られてこなかったんじゃないかと思うんです。

編集部
 では、そうした活動の中で感じられることについてお聞きしたいのですが、湯浅さんの目に現在の「護憲」「平和」運動はどういうふうに映っていますか?
 というのは、「9条を守ろう」という運動はここ数年、かなり広がってきたとは言われます。しかし一方で、武器輸出三原則の緩和が言われていたり、自衛隊の海外派遣を可能にする法律が次々にできたりという動きもあるわけで…。それを止められないでいるのはなぜなのか、という指摘もあります。

湯浅
 うーん。でも、相対的にはよくやっているといえるのでは、と思うんですよ。市民運動的なものがここまで全体として没落している時代に、たとえば「9条の会」は全国に7000以上もできていますよね。そして、安倍政権のときには一度「もう改憲か」というところまで状況が進んだのに、結局いまだに改憲はされていない。世論調査をしても、9条改憲には反対が過半数を占めるという状況なわけですよね。平和都市宣言をしている自治体が全国に数百もあったり、その「地力」はやっぱりすごいと思います。
 もちろん、今言われたように改憲や軍事化の方向に向けて進んでしまってるところはあるけれど、護憲の運動があったからこの程度で済んでるとも言えるんじゃないかと思うんです。たとえば学校教育の問題とか、少し前までの労働運動とか、「やられっぱなし」の分野があることを考えれば、ずいぶん頑張っているほうだといえるんじゃないでしょうか。
 とはいえ、それが過去の運動の遺産に乗っかっているところがあるのも事実だと思います。かかわっている人の年齢層も高いですよね。それも、高度経済成長のころからずっと運動を続けてきている人、そして小さいころの戦争体験がベースになっている人の「強さ」に乗っかっているところはあると思う。それをどうやって再生産していくのかというのは大きな課題だと思います。

編集部
 たしかに、年齢層の高さというのは、しばしば指摘されるところですね。

湯浅
 ある世代以上の人には、それこそ戦火の中を逃げ回った、みたいな生活実感があるんですよね。だけど、今の20代30代にそれが生活実感として位置づけられるかといったらやっぱり無理だし。かつて言われた「子どもを戦場に送るな」だって、ある世代以上の、それも子どものいる人たちじゃないと響かない。そういう視点が欠けていると、なかなか次の世代が集まってくるのは難しいですよね。
 今、「憲法」ってとても「遠いもの」になっちゃってますから。だから25条の問題だって、「生きさせろ」と言ってみたり反貧困と言ってみたりしているわけで。そんなふうに、9条の問題と自分たちの日常生活をつなげるような、そういう言葉をもうちょっと探したほうがいいんじゃないかという気がしています。

その2へつづきます

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湯浅誠さんに聞いた
(その1)
繰り返し言い続けることで、
「世論」に訴え、「世論」を作ることができた
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    繰り返し働きかけて、世論を変えることで政治を変える。
    それは、どんな分野の「運動」においても必要な視点といえそうです。
    次回、9条や平和を守るための「運動」について、
    湯浅さんが思うこと、感じていることをさらにお聞きしていきます。

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