松本哉ののびのび大作戦

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 さあ、相変わらず世の中ロクでもない連中ばっかりがのさばってますね〜。最近飛ばしてるイスラム国は派手にメチャクチャやってるし、元をたどると我らのアホ首相=安倍晋三氏が不用意に好戦的なこと言ったのが火に油注いでるし、もっと元をたどると諸悪の根源=アメリカがイラク戦争でムチャクチャやったのが原因でもある。う〜ん、もう何が正義で誰が悪かわかったもんじゃないね。こんなバカな奴らの支配する世界にかかわってると思うだけでウンザリする。
 だが諸君、不安に思うのはまだ早い! 世界にはびこる強い味方=大マヌケな奴らの勢力も着々と拡大している。くだらないやつらの作った世界秩序なんかはほっといて、ちゃんと自分らの大バカな秩序をつくることが大事だ。ってことで、最近はちょっとマレーシアに行ってきてしまった!!

 クアラルンプールで「動態度音楽節〜自作主張」という音楽イベントが行われたんだけど、この主催者の人に「映像流すステージもあるからなんかやったら?」と声をかけられたので、例によって「行く行く!」と返事! で、行くことになった。
 この企画、基本は音楽イベントで、マレーシアのみじゃなく、香港、台湾、シンガポールの独立文化系の人たちと一緒にやるイベント。ミュージシャンもたくさん集まるし、創作系の人たちも自分たちで作った物を売ったりしてたり、展示があったりと、なかなか面白い企画だ。ま、要は中華系ネットワークで行われたインディーズ文化大集合イベント。実はマレーシアって東南アジアの中でも中華系住民の多いところで、人口の4分の1ほどが中華系で占められている。それに、やっぱり言葉の問題ってのは大きく、子どもの頃から香港のスターや映画で育ったりしてきたこともあり、マレーシア国内の文化圏の他に中華圏カルチャーってのもあって、当然インディーズ文化も他の中華圏とのつながりも多いようだ。香港や台湾、マレーシアなど各地で偶然知り合ったミュージシャン同士が実はお互い知り合いだったりもするし、みんなお互いの地域の文化のこともやたら詳しいし、そもそも普通にお互い会話ができる。う〜ん、ちきしょう、うらやましいじゃねえか! うちらなんか小さい島国で、日本語しか話さない日本人が大多数を占め、海外に出ると日本語は役に立たない。文化も気候も食べ物も見てるテレビも世の中のシステムも全然違う人たちが一つの文化圏を作ってるって楽しそう! 何かが生まれそうな気配が漂いまくってる! ずるいずるい! 

これが中華圏大集合イベントのフライヤー

 でも、よく考えたら英語圏の人たちの間ではよくある光景だし、スペイン語文化圏でもある話。なるほど〜、やっぱり中華系ネットワークってのも存在してたのかー。頭ではわかっていながら、実際初めて目の当たりにしたので、なかなか新鮮で面白かった。「同じ言葉=同じ文化=同じ国」みたいな単純な考え方は、日本みたいな島国か、韓国みたいな準島国でしか通用しない。あ、ちなみに、ちょっと面白かったのが、中華系の人々、総じて中国政府の事はあまりよくは言わない。でも、「中国の政府って、あれはちょっといちいち厳しすぎだよ、バカバカしい。でも、今の北京のインディーズ文化は最高だよ! 北京はヤバい。このあいだ行ってきたよ!」などと、みんなよく知ってるし、国家システムと民衆文化を完全に分離して考えてる節がある。う〜ん、国を超えたネットワークを持ってる人たちの発想いいね!
 さて、このイベント、人も何百人と集まってて、すごい盛り上がり! しかも主催者たちがうまいことやって予算を引っ張ってきたのかすごいちゃんとした会場! 完全インディーズ系の訳のわからない奴らばっかりなのに、高級ショッピングモールや富豪向け高層マンションがあるエリアのど真ん中での開催! いやー、混沌としてすごいイベントだった。
 

みんなで家を改造してる。う〜ん、いいね!

 さて、その中華系全員集合イベントが行われているのと同時刻、偶然にもマレー系の連中は全く別の場所でハードコアパンク全員集合でえらいことになっていた。マレー人の友達もいたこともあり、こっちにも行こうと誘われてたんだけど、残念ながらタイミングを逃していけなかった。せっかくなので別の日にその界隈をいろいろ案内してもらったんだが、こっちはこっちでまたすごい楽しそうな文化圏を作っている。まず最重要なのが、Rumah Apiというところ。ここはDIYパンクのやつらが作った老舗ライブハウスで、前から噂には聞いていたけど、今回初めて行くことができた! 入口には「ナチ反対」とか「NO RACISM」とかアナーキーマークなんかがデカデカと描いてあるので、一発で仲間の場所だとわかる。う〜ん、アートのやつらはすぐひねくれたことやろうとするし、学術系のやつらは無意味に難しい事言い出したりするけど、パンクの連中はとりあえず思ってることをそのまま言ったりやったりしてて、わかりやすくていい。で、入ってみると中がまた超広い! 1階は50〜100人程度収容できるライブスペースが2つ。そして、2階はなんだかよくわからないけど寝たりくつろいだりできる、ヨーロッパのスクワットのような謎の共同スペースが2部屋と、この界隈のTシャツやCD、書籍などが売ってるインフォショップが一つ。この店もこの辺の人たちで共同運営していて、Tシャツ担当の人や書籍担当の人など分野ごとに人がいて、その人たちが交代で店番してる感じ。いやー、これはいい場所だ。で、こんなに広いと気になる家賃だけど、1階2階全部合わせても家賃が日本円で3万円にも満たないとのこと! これはすごい!! うらやましすぎる!!

でました! 謎のアート集団=Findars。奇怪で快適な場所!

 しかもこの広さ、下手したら床面積にして100坪近くありそう。となると、なんと坪単価300円!! ちなみにうちの店のある高円寺の北中通り商店街界隈で店舗を借りると坪1〜20000円が相場。おい! 家賃100分の1以下!!!! 引っ越すしかない!!!!!!!! いや〜、東京でバカ高い家賃払って苦労して場所作りとかしてるのがアホらしくなってくるねー。
 さて、そして、界隈の人たちもこのRumah Apiの近所に住んでいたりして、最近引っ越したというインフォショップメンバーのひとりの家に連れて行ってもらった。ここは4人で共同で借りたとのことで、みんなで階段作ったりペンキ塗ったりしていろいろと準備していた。ここは住居兼作業場でシルクスクリーンや縫製の作業をしたりしてた。ここもみんなで住むから安く済むという。楽しそう楽しそう!!
 

パンクの人々が集結してるところ

 ともかくマレー系にしても中華系にしても、それぞれ独自の面白い場所や生活を作ってていいね〜。
 そういえばマレーシアは、主にマレー系、中華系、インド系の住民が混在していて完全に多民族国家。おかげでいろんな文化や食べ物があるし、みんな普通に4〜5ヵ国語話せるし、面白いことはたくさんある。ただ一方で、民族間の問題も多々ある。まず中華系は商売が上手なので金持ちが多いからマレーシア経済では中華系がかなり重要なポジションを占めている。しかし、政府としては「うちはマレー人のイスラム国家だ!」っていう意識が強いので、これまた少し厄介。大学受験でのマレー人優遇などもあったり、政府による中華系への牽制も半端じゃない。逆にマレー系に対しても生まれた瞬間に強制的にイスラム教徒にさせ、他宗教への改宗は禁止するなど、締め付けも強い。一方、インド系の人たちもマレーシア国内ではマイノリティでいい目にあってないけど「俺たちのバックグラウンドは大インドだ」って意識も強いので独自の世界を作ってる。こんな感じなので、民族間の揉め事もたまに起こるという。
 なるほどね〜、圧倒的多数の主要民族がいて少数民族や先住民もいるって国はよくあるけど、人数、金、バックグラウンドなど総合的に見て拮抗した勢力でバランスとってる多民族国家って状況を初めて垣間見た気がする。う〜ん、これはこれで大変そうだ。さらに、マヌケな奴らの地下文化シーンもやっぱりメインで使っている言葉の問題もあるのか微妙に住み分けがある。でも、それぞれ似たようなことをやってることもあり、ゆるく繋がってる感じ。その辺がすごい新鮮だし勉強にもなる。
 
 そうか、そうなってくると、これはやっぱり我々のようなマレー語も中国語もカタコトのよそ者が乗り込んで遊びに行くことは非常に重要だね。文化はよそ者がどんどん来てかき乱すことによってどんどん成長する。我々マヌケ文化シーンにとってはマレー系も中華系もインド系もヘッタクレもないので、これはどんどん遊びに行くしかないね〜。それに、マレーシア行きはエアアジアもマレーシア航空も今なら激安で行けるので、これはチャンス! 今すぐ無目的にマレーシアに行ってみるしかない!!

インフォショップ。いいところだった!!

 

  

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第86回マレーシア、多文化マヌケ文化圏に駆けつけるしかない!」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    中華系、マレー系の全員大集合イベント――日本の感覚からすると、「どんな感じなのだろう?」とうらやましい気も。国同士の関係や言葉の問題などもありますが、音楽や映像や面白いことを楽しむ気持ちは世界共通。ゆるくつながりながら、上手にバランスをとっていく技も学びたいところです。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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