松本哉ののびのび大作戦

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 もう頭にきた! コンチキショー!! もうこんな世の中は我慢ならない!!!!!!
 …と、憤ってるのは、うちのリサイクルショップ「素人の乱5号店」の、とあるお客さん。近所に住んでると思われるオッサンなんだけど、少し前、こたつの脚を持って店にやって来て「この脚に合うこたつの台と天板はないかなー」という。どうやらこたつの台の部分が割れちゃって、天板も傷んでるから別のを探してるという。さすがにリサイクルショップとはいえ、こたつのバラ売りなんかしてないから、「いや〜、それはないですねー」と答えると、「ええっ、ないの!?」と驚くオッサン。でも、最近はこたつを使う人もだんだん減って来ており、うちでもこたつはだいぶ安く売っているので、「でも、2000円のこたつがありますよ。こっちに買い換えたらいいんじゃないですか?」と、提案すると、オッサン不満そうに「う〜ん、じゃ、このこたつの脚はどうする? もったいないじゃん!」という。「いや〜、捨てちゃうしかないんじゃないですかねー」というと、まだ不服そうに、商品のこたつの脚を外して、自分が持って来た脚を付けようと試みている。すると、「なんだこりゃ、この、くそっ、あれ、付かねえなあ」と苦戦してる。うーん、やばい、このオッサン無理やりバラ売りで買うつもりか!? ただ、型が合わなくて付かないので「あ、それ、メーカーが違うから、付かないんですよ」と、教えると、「なんだそれ、そんなもんなの!? おかしいじゃん、こたつなんてどれも同じ形だろ? わざわざこんな部分の形変えたって意味ねえじゃん! なんなんだよ、いったい」と、全く納得せず「金の問題じゃねえんだよなぁ…」などと、ブツブツ言ってる。結局、オッサン渋々その2000円のこたつを買って行ったんだけど、「あ、その脚どうします? 捨てときましょうか?」と聞くと「ダメだよ、まだどれかに合うかもしれないだろ? 持って帰るよ。いつか使う!」と、大事そうに持って帰った。やばい、このオッサン、本物のリサイクリストだ! しかも、よく考えたらやたら正論だ!

 ひたすら必要以上のモノを作りまくって捨て続ける無駄の塊のような世の中に対抗する意味合いも込めてリサイクルショップをやってるんだけど、巷にはあまりに不用品があふれ返っているので、どうしてもたまに麻痺して来て、仕事が忙しい時なんかは「こりゃ、処分しないと採算合わない!」と、使えるものも捨てちゃうこともある。しかし、このヒマ人のオッサンは違う。もったいないものはもったいない。参りました。
 それに、このオッサンの言ってること、ことごとく正しくて、本当だったらいろんな部品が共通だったら修理も楽だしいろいろ便利に違いない。例えば、リサイクルショップの定番中の定番、洗濯機なんかもそうだ。ドラム式の乾燥機付きとかは別として、標準的な洗濯機なんか、多分ここ30年以上は技術的な進化は大してしてないはず。にもかかわらず、なんだかんだと毎年新しいモデルが発売されていて、微妙にボタンの形が変わったり、わずかにデザインが変わったり、なんだか知らないけど新しい感じになって毎年毎年、新登場し続けている。なんだなんだ! 意味あんのかそれ!? 普通の洗濯機なんて、多少の好き嫌いはあるかもしれないけど、すごいこだわりを持ってる人っていないでしょ。例えば、「う〜ん、これは70年代のヴィンテージだね。この当時の東芝のボタンは最高だね。これは買いだ!」とか、家に20台ぐらい持ってるコレクターとか、カタログやメーカーの発表を常にチェックして新製品が出たら予約したり徹夜で並んだりして毎年買い替えるマニアとかもいないはず。じゃあなんで進化してないのに新製品がどんどん出るんだ!! おかしいじゃねえか! で、さらに、実はだいたいの電化製品には「部品保有期間」ってのが決まっていて、例えば洗濯機は最低6年。ということで、どのメーカーも6〜7年は修理可能だけど、それ以上経ったら部品がなくなってくるので修理不能になるという。おいおい、おかしいじゃねえか。テレビとかパソコンみたいな、辛うじて進化し続けてる精密機器ならまだしも、70年代から進化してない洗濯機が、ドサクサに紛れてなんで部品が変わってんだチキショー。しかも、普通に大事に使えば冷蔵庫も洗濯機も15年や20年ぐらいは使えるはず。誰も気づかない間に、用もないのに勝手に新モデルが出続けて、気づいたら部品がなくなっていて、ほんの簡単な部品の故障でも「いや〜、もうパーツがないから、買い替えるしかないですね」ってことになる。なんなんだ! ま、目新しいものをどんどん出さないと他社との販売競争に負けちゃうっていう企業の事情があるんだろうけど、そんなものこっちは知ったこっちゃない。消費者の側からしたら、純粋にもったいなすぎる!
 ちなみに、「壊れたから買い替える」と言って持ち込まれる「壊れた」洗濯機のほとんどはごくわずかな故障。排水時に水を止める弁だったり、フタが閉まってることを確認するための安全装置のプラスチックの小さなパーツだったり、買えばせいぜい数百円で済みそうなものばかり。でも、生産してなかったらどうしようもない。う〜ん、もったいない!
 で、そう考えたら、洗濯機以外にも無意味なモデルチェンジしまくってるものばっかりだ。進化のほぼ終わったものは、全パーツ共通の基本モデルを作って売ったらいいのに。世界一ダサいデザインでもいいから、モデルチェンジなしで、永久に修理できるようにしておいてくれたら助かるんだけどね〜

 使い捨てと化してるのは家電だけではなく、家具も同じ。昔の家具って基本的に100年ぐらいは使えるような作りになってるんだけど、最近出回ってるのはやたら使い捨てみたいな家具が増えてきた。特にイケアなんかはやばい。先日も、家具の買取にお客さんの家に行ったら、バラバラになって部屋に散乱している棚の残骸の前で呆然としている若い夫婦がいた。「あれ、どうしたんですか?」というと、「いやー、動かしとこうかと思って持って運ぼうとしたら、突然バラバラに壊れたんですよー。」という。こういう場合はたいていイケア家具。イケアの家具って、基本的にその場で組み立てて、そこで使うっていうところまでしか想定して作られてないから、変な移動の仕方をしたり、大きい棚を斜めに倒して持ち上げようとしたら、想定外の重力がかかりバラバラになっちゃうことも多々ある。ちょっと細かい話をすると、棚類の場合は背板をちゃんと作ってない。背面の作りは家具が丈夫になるために一番大事なところ。でも、イケア家具は見た目重視だから、表面など見えるところは厚めの板で作ってるんだけど、見えない背中の部分は軽んじてるので、厚手のボール紙にテープ貼ってるだけのような作りだったりする。少し前、海外でイケアのタンスを子供がいたずらしてて手前に倒れてきて下敷きになったっていうニュースがあったけど、それすごいわかる。そんな造りだったら変な圧力が少しでもかかったら粉々になっちゃうよ。ましてや、家具の搬出の時に階段を降ろせない時に、家具にロープをかけてベランダなどから釣り下ろすこともあるんだけど、そんなのイケアの家具でやったら空中で轟音と悲鳴とともに突如粉々になることは間違いない! じゃあ、丁寧にもう一度バラして運搬すればいいかというと、そうもいかない。材質が粗悪なものを使っているので、一度分解するとまた組み立てても組み付けが緩くなっちゃうものが多い。動かしてもダメ、解体も不可。ま、要するに動かさずにそこで使って、そのまま捨てろってこと。あ、もちろんイケアに限らず、ノーブランドのゴミと区別がつかないような家具なんて結構出回っている。
 そういえば、あるお客さんは、粗悪な作りが嫌だから、接着剤を入れまくったり、独自に補強材打ち付けまくったりして超頑丈にしたところ、家の中で組み立てたもんだから、今度は逆にいざ引越しの時に部屋から全く出なくなって、「やっぱり壊すしかないんですね」と、しょんぼりしてる人もいた。うーん、かわいそう! ま、これはただのマヌケな人の例。

 普段はこの「のびのび大作戦」で紹介してるように、世界を大混乱にするしかないとか、政治ふざけんなコンチクショーとか、世界のマヌケな奴らと謎のネットワークを作るしかないとか、大きなことを言ってるけど、そんな大それたことだけ言ったりやったりしてるだけでは、実はそんなに力にはならない。このボッタクリと無駄の塊のような経済システムを作り上げて貧乏人から金を巻き上げてるような奴らにひと泡吹かせるためにも、日常生活のちょっとした地味な変化が意外とボディブローのように効いていくものだ。これを日常的にやっとくのが大事。今回の話でいうと、とりあえず仕組まれた使い捨て社会に迂闊に乗らないようにしよう。「安物買いの銭失い」とは昔から言う。うかつに安物を買って金を失うのはまだ「失敗した〜」ってだけで仕方ないけど、実はその失った銭は別に消えてしまうわけじゃなく、そのボッタクリ経済を作ってる奴らの懐に入って行き、そしてその金でまたまた無駄な社会が継続していくのだ。う〜ん、これはどうも癪に触る!
 ということで、我々にできることは、とりあえず一瞬で壊れそうなものは極力避けること。とりあえず家具だったら最低30年は使えると思われるものを入手するようにしたい。もちろん30年も50年も自分で使ってもいいけど、趣味も変わるし、生活スタイルが変わるかもしれないし、5年以内にお迎えが来そうな人もいるはず。そんな時のために、我々リサイクルショップがあるので、そっちに回すことだ。うまくすれば買ってもらえるし、無料で引き取ってもらうだけでも、少しでも無駄はなくなるはず。最初に話した無意味にモデルチェンジしまくる家電に関しては、一切モデルチェンジしない基本モデルが登場するまではなすすべがないが、我々リサイクルショップが少しは抵抗ができる。例えば最初のオッサンのこたつじゃないけど、脚が壊れたこたつと天板が壊れたこたつを合わせれば立派な一台のものになったりもする。部品の製造が終了していても、パーツ取りなどでまだしぶとくゴミにするのを防ぐ手はある。この全てを捨てまくる無駄の権化のような状態によって成り立っている経済なんてクソ食らえだし、そんなのに支えられた発展や成長はニセモノなので、ここはひとつ、うまいことリサイクルショップを活用して行って欲しい。もっというと、リサイクルショップなんて使わないのがいいぐらい。知り合いで欲しい人がいたら、あげたり交換したりできれば無駄がなくていい。もしくは、近所にリサイクルショップもないし、そんな都合よく知り合いも見つからないなんて時は、自分の街にリサイクルショップを作るしかない。ちなみに最近出した本『世界マヌケ反乱の手引書〜ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)の中にリサイクルショップの作り方を異常に詳しく書いているので、誰でも開業ができるはずだ。図書館あたりで注文して読んでみてもらえればと思う(←これも重要。図書館だったら共有財産になるので他の人もタダで読めるようになるので、誰も買わなくて済むようになる)。
 ともかく、憤慨しているこたつのオッサンの仇を討つために、今こそ立ち上がるしかない! みんなが粗悪な使い捨て品を避けるようになれば、メーカーもビビり始め、長く使える物を作り始めるに違いないし、どんどん買い物をさせてどんどん捨てさせることによって儲けまくってる悪い奴らも滅んでいくに違いない!!! やいやい、かかってこい! もったいないぞコノヤロー!

 

  

※コメントは承認制です。
第98回高円寺こたつの脚事件発生! 中古品の一斉蜂起がついに始まる!!!」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    もうまったくそのとおり!! と、鼻息荒くなりながら読んでしまいました、今回のコラム(松本さんの本は、買って周りに薦めまくる! というのもアリだと思いますが)。どこも壊れてないのに、消耗品の仕様が変わってしまったために使えなかったり、ほんの小さな部品がどっか行っちゃったために捨てるしかなくなってしまったり、必要なものを買ったのに、なぜか余分なものがついてきたり…そんな場面にイラッとしたこと、あなたもありませんか? 「どんどん買って、どんどん捨てる」文化は、もういいかげんに終わりにしたい。日常生活の地味〜な変化、ほんと重要です!

  2. sakusaku より:

    もうまったく、そのとおりです!
    私の考えでは、その「ボッタクっている人」もその内、この経済が廻らなくなって、にっちもさっちもいかなくなる時がくると思っています。それは、人がいなくなるからです。新製品を出すためには、それを考え出す人、作る人、売る人、修理する人が必要です。今のメーカーの数とこれからの人口を考えると、今の使い捨てシステムも崩壊していくと思います。訳が分からなく、拡大路線をはかっている会社は、その内、破たんすると思います。
    私は松本さんの「リサイクルショップが部品を集める」に大賛成です。そこに新たな循環経済を作ってしまって、新製品をつくる悪人を淘汰させてしまいましょう。

  3. 樋口 隆史 より:

    今のパソコンやスマホ業界も同じですね。最新(?)のWindows10ですが、余計な機能を付けるわ勝手に勝手に人のパソコンの中のデータをどっかに送信するわ不安定になるわデータぶっ壊すわ、でパソコン商売断末魔の様相を呈しております。なんでしょうね・・・・・・なんでも売上高重視、会計経理企業経営株取引で出てくる怪しげな指標だの指数だのがますます増殖して、混乱の極み。儲かっていても儲かってないと判断されてしまう理不尽。だから給料しっかり払わない、もっと従業員は過酷な労働環境に耐えろ。お金、金融はしょせんただの社会の「道具」。でも、みんなそれらに振り回されて、道具の奴隷になっちゃっている。解っているズルイヤツはそれをうまく利用して今日もあぶく銭を稼いでせせら笑う。文明って、一体何なんでしょうね??

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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