松本哉ののびのび大作戦

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 春一番も訪れて、早くも春がやって来そうな予感。春がやって来ると、いろいろなものが動き出す。そう、商店街もそのひとつだ。街にも人が出てくる季節。
 ただ、最近、海外路線を一休みして国内各地を回ったりしているんだけど、やはり全国各地、商店街っていう存在はどんどん滅んで行く一方。このままいったら世の中から商店街ってものがなくなるんじゃないかっていうぐらい。ちなみに、海外には商店街のようなところはたくさんあるけど、細かい地域で商店会を結成していわば自治のようなことをやってるようなところってあまりない。たいていはもっと大きな地区で商工会のような組合があるぐらい。こんな顔の見える関係の商店会なんて日本のシステムは超レアだ。もったいない!
 さて、そんな中、高円寺はいまだに街中商店街だらけ。かつてシャッター商店街化の波が押し寄せていた北中通り商店街も、最近は新しい店がオープンして賑わって来ている。そして、その北中通り商店街も、春を迎えるにあたり動き出そうとしている。そう! あの北中夜市がまた始まってしまうのだ! ということで、今回はたまには北中通り商店街の動向に触れてみよう。

死闘! そば屋 vs 電気屋

 北中夜市とは、数年前から開催されている商店街企画で、春から秋にかけて月に一度行われる飲食屋台やフリーマーケットのイベント。こんなものが始まるんだから、なんだか街が勢いづいて来る。と、こうなって来るときに重要なのが商店会長の「さいとう電気」と、昔の商店会長「藪そば」の二大巨頭だ。ちなみに、若手の店が増えて来ているとはいえ、まだまだ長老たちの存在感は絶大で、素人の乱などいつの間にか13年目に突入するというのに商店街的にはまだまだ「新しい店」という扱いで最下層のポジションだ。逆に新規オープンの店は「よくうちの商店街で開いてくれました」って扱いなのでなかなか厚遇されるもので、中堅クラスの我々は一番こき使いやすいランキングだ。やはり最下位だ。
 さて、祭りやイベントとなったら、やつらの登場だ。まず、いつでもスタートが早く真っ先に動き出すのが藪そば。かつて16年間も商店会長を務めていただけあって、異常に行動が早い。何かイベントが近づいて来ると「早く立て看板出さないと!」「チラシはどうなってんの!? 早く早く!」と、やたらと急かして来る。歳ももう85歳ほどになるというのに異常に元気で、遅い遅いとイライラして、一人で勝手に巨大なハシゴを持って来て電柱に登って作業しようとする。「藪さん大丈夫ですか!? あぶないよ」と声をかけても「バカヤロウ! 俺は死なねえんだよ!! あぶねえと思ったらお前が先にやれ、バカ!」と人の話も全く聞かないテンションの高さ。
 一方のさいとう電気からしたら、たまったもんじゃない。とっくの昔に会長職を引き継いでるにもかかわらず、あれやんなきゃダメだ、これやってないと藪さんが言い出す。斉藤さんもいつも「また藪さん無茶なことばっかり言って〜」と困っている。かと言って、ほっといたらほっといたで、「大変だ! また藪さんが電柱に登ってる!」みたいなニュースが電気屋に駆け入って来るので、斉藤さんも気が気じゃない。
 藪さん、最近そばの出前件数が減ってヒマもあるせいか、「まったく、どいつもこいつも動きが鈍いね〜。やるとなったらチャチャッとやんなきゃ〜!」と常に憤慨している。特に80歳を超えてからは勢いが増して来て、さらにすごい。フリーマーケットのイベントを昔は5月からやってたんだけど、やはり4月から始めようかという議論をしていると、「ダメだ、2月だ!」といきなり過激路線を打ち出してみんなをビビらせる。さらには、酔っ払った時などは突如「おい、ちょっと聞け。おめえらは考えがいちいち小さいんだよ。俺なら商店街のちょうちんを、でーん、と、2列にしちゃうからな。おめえらもそれぐらいでかいことやれってんだよ!」と、でかいんだか小さいんだかわからないことを言って説教してくる。
 斉藤さんは電気工事の仕事なんかもたくさん舞い込んで来るので、地域に高齢者も多いこともあって常に仕事が大忙し。さすがに商店会長といっても自分の店がなきゃ元も子もないので、当たり前だけど仕事は優先だ。藪さん、それを見て、いつも「あのやろうは動きが鈍いんだよな〜、トロトロトロトロのんきにやりやがってよぉ〜」とやたら口が悪い。斉藤さんが気の毒だ。でも、その当の藪さん、スーパーカブで出前の途中に近所の民家に激突してレンガの塀を粉々にしたりしたこともあった。う〜ん、やはり勢いはすごい! ちなみにその時は、結構怪我しており、大丈夫だろうかとみんな心配。歳も歳だしもう商売引退かもしれないなぁと思っていると、気づいたら完治していて、ゾンビのごとく復活して、普通に商売再開してた。さすがだ!

商店街爆破事件が発生

 こんな強力な長老が現役で活躍してたら、斉藤さんも気が抜けない。時々思いついたように商店街の若い衆を集めて号令を出す。
 ある時、北中夜市のために商店街の照明の配線や提灯を一斉に直すことになり、電気工事のデの字もわからないどころかコンセントの挿し方もままならない雑貨屋「未完成」の店主のふーちゃんや、常に酔っ払っていて自分が何やってるかほとんど覚えてない、屋台のたこ焼き屋の通称“タコじゅん”さんなど、そうそうたるメンバーを集めて指令を出して、突貫工事を敢行。そのため、みんなアベコベな工事を行い、照明が完成して電源を入れた瞬間に、「ボーン!」と閃光とともに爆発音が起こり、まんまとショートしてやり直し!! 斉藤さんも「誰だ! こんな接続の仕方したのは!」と大パニック! しかし時すでに遅し。みんな忙しいので「だめだ! とりあえず応急処置だ!」と、その場しのぎの工事でやり過ごす。
 こんなことを繰り返すため、商店街の照明施設がだんだん大変なことになってくる。ただ、そこはさすがに電気のプロ、斉藤さんが最終的に全部直してくれたので安全面は大丈夫(だったら最初から斉藤さんがやればいいじゃねえかというツッコミはなし)。ただ、応急処置が多いためか、ここはセンサー式の自動スイッチ、ここは手動、こちらはその都度電線を解いて張るなどなど、複雑怪奇なことになっている。
 おかげで、どこかでトラブルが起こるたびに、いろんな店の店主が出て集まって来て「違う違う! そっちじゃない」「バカ! 誰だ、これやったの」「ダメだって、そっちは爆発する!」などとちょっとしたことですぐ大騒動になる。通りがかりの町の人からしたら何か大事件が起こってるようにしか見えないんだけど、実は全然大したことじゃない。一瞬で簡単なことに気付き「なんだ、これだけだったのかよ!」「なんで気づかない」「ちゃんと目印つけとけよ!」などとまた大混乱! で、藪さんが出て来て「まったく、最近の若いやつらは〜。俺がやってやるよ」(ちなみにここでいう「若い奴ら」とは70歳未満のこと)と文句をつけ始め、斉藤さんが「いいから、藪さんは引っ込んでろって。面倒くさいから!」と牽制する。この繰り返し。

北中夜市の終了後、いつもの無謀な熱弁を振るう藪さん(右)と、困った顔をして聞く斉藤会長(右から3人目)

 一応言っておくけど、藪さんと斉藤さん、いつも文句言い合っているものの別に仲が悪いわけではない。なんだかんだといつも一緒に飲んだりしてやたら仲はいい。
 細かいいざこざは絶えないものの、結局なんだかんだ言って、ニコニコしてウロウロしている(機嫌にもよるけど)。ともかく、なんだかマヌケ感が漂うけど、うまく回っている。そう、よくよく考えたら実はそこにはなんの問題もないのだ。
 おそらく、この話を聞いて、イライラする人も多いと思う。もっと計画的に、とか、もっとうまく人を動かして、とか、もっとうまく回るシステムを、とか…。そう、そんなことは誰でも知ってる。でも、世の中なんでも効率がよく、うまく回ればいいってもんじゃない。無駄なことがいっぱいあっても、無駄には無駄の価値がある。というか、無駄はなきゃいけない。もし、全て効率のいいシステムが出来上がっていて、みんなが何も考えなくてもいいんだったら、何かで乱れた時が逆に大変で、実は自分たちの自治能力がだいぶ後退してるってことに気付くはずだ。
 それに引き換え、北中夜市の準備なんて、常に殺す殺せの大混乱(大げさかな?)。完璧に効率のいい社会の方が手っ取り早いのかもしれないけど、実は、藪さんと斉藤さんが常に無謀な戦術を繰り広げて物事が進まなかったり、雑貨屋のお姉さんが商店街を爆破して大パニックになったりしてる方が、そんな無駄なことに時間を費やし、自治を実践し続けられるという豊かさがあるに違いない。
 無駄なものをなくすってことは、自治を削っているっていうことを忘れてはいけない。

 ということで、無駄の塊、北中通り商店街の恒例イベント「北中夜市」に来てみるしかない! 無駄の恐ろしさを思い知るしかない!!!!(こんなこと言ってたらまた商店街の長老たちに「またおまえ、余計なこと言って。俺たちはちゃんとしてるんだよ!」と怒られるので、内緒でお願いします)
 さあ、君も無駄な世界へ来てみないか!?

【スケジュール】

高円寺北中通り恒例イベント

「北中夜市」

日程:3月から12月まで、毎月第3日曜日(12月のみ第4日曜日)
時間:午後4時から8時
主催:高円寺北中通り商店街
※詳細は北中通りホームページを参照!
※フリマ、飲食屋台の出店申し込みは1ヶ月前よりリサイクルショップ素人の乱5号店(03-3330-2939)まで!

ボランティアスタッフも募集!
毎月当日のお手伝い & 時々ミーティング有り

 

  

※コメントは承認制です。
第99回さいとう電気 vs 藪そば〜北中夜市2017始まる!」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    何かといえば「効率化」「無駄を省く」のがいいことのように言われがちの現代ですが、松本さんいわく「無駄だらけ」の北中通商店街の光景に、どれだけの豊かさが詰まっていることか。「藪さん」と「斉藤さん」のやりとりを見てるだけで、効率なんて知ったことか! と言いたくなってきます(でも、くれぐれも怪我はしないでくださいね〜)。
    ということで、「無駄」の恐ろしさと豊かさを味わいに、今年も始まる北中夜市、ぜひ覗きに行ってみましょう! どんなことやってるの? という方は、以前の松本さんのコラムもご参考に!

  2. 樋口 隆史 より:

    「無駄」というのは誰かの視点から勝手に作り出されるものです。お釈迦様はこの世に無駄な物は何一つ無いとおっしゃいました。この「無駄」も「冗長性」と言い換えるとあら不思議。価値のあるものに見えてきます。とはいえ、お釈迦様の知恵に遠く及ばない愚かな人々が見る「原子力」の野望はさすがに本物の「無駄」と思わざるを・・・・・・得ません。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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