松本哉ののびのび大作戦

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 最近、やたらと東アジア圏の連中と仲良くしているのは、この連載を読んでいる人はよくご存知だと思う。台湾だったり韓国だったり香港だったり…。この辺り、近いので気軽に行ける上に、文化的にもルーツが近かったりしていろいろと共通点なんかもあったりして面白い。言葉も一見全然違うようだけど、古代の漢字が語源だったりして似てる単語も山ほどある。酒の飲み方から、デモの起こし方まで似てるところも多くて、なんだか面白い! いや~、なんだか広がってきたね~。
 しかし! ちょっと待て! 重要な場所を忘れてないか!? そう、中国本土! あそこは十数億人もの人間がいるんだから、とんでもなく面白い奴だって絶対いるはずだ! ノリノリの中国の企業からは「あそこのへんのやつらは全然ダメ。ロクに働きもしないで意味わかんないことばっかりやってる。ダメダメ。金にならない!」とバカにされ、一方、国に忠誠を誓う勤勉な共産党員からも「なんだあいつら、勝手なことばっかりやってて。そんな体たらくでわが国が成り立つか!」と怒られ続け、その一方ですごいプロジェクトやくだらない場所作りをやたら熱心にやってるような、よくわからないやつら。そういう感じのやつらが間違いなく我々の仲間のにおいがする! なんせ十数億人だから、数十万人規模のマヌケなやつらはいてもおかしくない! しかも、どうせなら本当にわけのわからない、とんでもないやつらがいいね! インディーズのミュージシャンとか、変わったアーティストとかの話はよく聞くし、たまに海外で遭遇したりもする。そういう人たちももちろんいいんだけど、その辺の人たちは普通に世界基準ですごいので、我々の出る幕ではない。そうじゃない、本当に無名な大バカを探そう! もう、中国語以外チンプンカンプンで、マヌケすぎてとてもじゃないけど海外に出られなような、まだ見ぬ強力な仲間が絶対にいるはずだ! う〜ん、これは興味深い!! よし、探そう探そう!
 ただ、ここでいろいろと問題が浮上して来る。まず中国の微妙な閉鎖性。中国の富豪界は経済も国境も開放して金もうけしまくってるのに、貧乏人には厳しい(ズルい!)。そもそも、国から出るのが大変。それも普通に海外に出る金がないってだけじゃなくて、それ以前の難関が多い。行く国にもよるが、やれ所得証明だの財産の証明だの犯罪歴なしの証明だの、やたら面倒だという。貧乏人にはビザをくれない国も多い。日本もそうで、金持ち中国人にしかビザを発給しない。そういえば、去年の春に香港で各地で場所作りをやってるやつらの東アジアマヌケサミットをやったときも、中国の友達は結局手続きが面倒すぎてくるのを断念した。なるほど〜、まだ見ぬマヌケなやつらはそもそも出られないんだな。
 そしてさらに大問題なのは、ネットも不自由で、TwitterやFacebookも禁止。政府に楯突く民衆が出るのを恐れてるのかもしれないが、さすがに禁止はちょっとかわいそうだ。ま、確かに世界的にも、2年前のエジプトの民衆革命とか、これまた数年前に韓国で起こった米国産牛肉の輸入反対に端を発したキャンドルデモとか、アメリカのOccupy Wall Street、日本も震災後の反原発デモの盛り上がりなど、SNSをうまく使った蜂起が多発している。そんなの見てたら、いろいろ問題を抱える中国政府も解禁はしなそうだ…。
 う〜ん、こりゃなかなかハードルが高い。もちろん他にもこういう規制の多い国はたくさんある。そんな時、世界の声としてはネット規制を解禁したほうがいいんじゃないかって声もあるし、あの謎のサイバー集団アノニマスも、なんとかしてその壁を壊そうとしている。
 だが、我々には真面目に運動する持続力もなければ、実力でネット規制を解除する技術力もない・・・。う~ん、よっしゃ! こうなったら向こうに行ってみよう! そう、中国はなんと言っても十数億人規模。その中で「微博(weibo)」というニセツイッターのようなものがある(さすが中国!)。中国内ではこれがコミュニケーションの主流で、5億人を超えるユーザーを擁する大勢力だ。もちろん、頭のいい人や電脳力の高い人は、海外のサーバー経由やスマートフォンを使ってfacebookに接続したりすることも可能だが、我々が求めている大バカなことをやってる奴らは、そういうしち面倒くさいことをやってるわけがない。やっぱり「微博」に行ってみるしかない! ま、よくよく考えてみたら、Twitterやfacebookはアメリカの価値観の支配下にあり、表現の自由に関しては寛容なわりに著作権だのなんだのと金もうけがかかわるとやたらと厳しい。一方、中国圏の支配下にある微博は、「お上に楯突く」系にはやたら厳しいが、その他は相当自由だったりもする。う~ん、そう考えてくるとなんだか分からなくなってくる。実はfacebook陣営のほうが微博陣営から隔離されているとも、強引には言えなくもない(ちょっと無理か)。ま、いいや。ともかく、その隙間(国境)を飛び越えて向こうに入ってみるのが一番いい。それに、そのスキマを行ったり来たりしてるのもなんだか面白いしね! よし、そうとなったら未知の世界のアカウント作成だ!!!!!!

 さあ、やってまいりました、微博の世界! 外人には超不親切なので漢字(中国語)オンリー。まずはアカウント作成に手間取るかもしれないけど、これはちょっとネットで調べると日本語で解説してるサイトもたくさんあるので、海外旅行の手続きだとでも思って乗り越えてみてくれ!
 で、いざその様子を見てみると、これがまたすごい。完全に外国語だけで、ものすごいアウェー感! なんかつぶやこうにも、人をフォローしようにも、プロフィール写真を変えようにも、いちいち右往左往。すると地元の謎の漢字を使う奴らは自在になんかやってる。くそ~、ずるいずるい! 本当に海外に来たみたいな感覚になれていい! で、面白いから元祖Twitter(いや、ニセ微博か?)で、「微博に行くしかない!」と、呼びかけたから、たまに日本から入ってきた人を発見。そうしたら、さして親しい人じゃなくても「うわ~! こんなところまでよく来ましたね~!!!」と仲良くなる。まさに海外旅行中と同じ、あの感覚。
 で、ちょっと慣れてくると、いろいろなところに行ってみる。面白かったのがニュース。いま、旧正月だからそんな話題や、例の大気汚染で「おい、お前の町はどうだ!? こっちはスゲー事になってる!」みたいな、てんやわんやになってたり。で、たまに思い出したかのように尖閣諸島のニュースが飛び込んでくる。これがまた日本と真逆で、「また日本が領海に入ってきて挑発!」とか、「自衛隊が離島を奪還する上陸訓練を行った」みたいな感じ。で、中国国内では「あの島は自分らのもの」って教わってるから、みんな怒る。穏健な人は「なんで、日本はすぐ好戦的なことするのかね~」っていう程度だけど、口の悪い奴らになってくるとヒドイ言いよう。「日本人は全員死ね!」とか「日本を攻め滅ぼせ!」とか「カス」「チビ」「ウンコ」など、ケチョンケチョン! こっちは「ぐぬぬ~」「ムキー」「チキショー、そこまで言うか~」と見ていると、政府への忠誠心がメチャクチャ薄い自分でさえ、だんだん頭にくる。だが、ここはぐっとこらえて「まあまあ、所詮政府同士のケンカで、迷惑をこうむるのは庶民だからね~」的なことを言ってみると「意味わかんねー」「悪魔!」と、ボロクソ!!! コンチキショー、せっかく大人なコメントしたのに! 日本では面倒なのでネット上のコミュニケーションにはほぼ触れる機会はないけど、せっかく海外旅行中(のつもり)だから、珍しく見てみたのに~! 損した! まったく、どうせ自国の報道だけ見て、日本のことなんかほとんど知らないのにチビとかハゲとか言いやがって~!
 ところが、みんなそんな感じかというと、全くそんなことない! 実際、みんな遊びのことだったり、ファッションのことだったり、音楽のことだったり、ってことで盛り上がりまくってる。そう考えたら、国が違うだけで全く同じ。お互い知らないのにウンコとかサルとかデベソとか言ってる。たしかに、やたら軍事ネタに食いついてる人って、まああんまり面白い奴じゃない。日本でも、たまにラーメン屋なんかでニュース見ながら、急に北朝鮮とか中国とかの悪口を怒涛のように論じ始めるオッサンとかいるけど、あんな感じかな。あるいは飲み会での上司の面倒くさい政治話(自分はチマチマ奴隷のように働いてるのにこういうときだけ強気)。まあ、どっちにしろあまり友達にはなりたくない種類の人だ。
 う~ん、やっぱりそう考えると、やはりどっちの国でも庶民は政府とマスコミに踊らされてるのかもしれないな~。得するのは悪い政治家と財界人だけだね、そんなの。バカバカしい!

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天安門事件など、不穏なことは禁物。
もし検索するとこう出る。『敏感なキーワードが含まれております』
うーん、正直でいいね!

 ま、それはさておき、こっちはそんな人たちと交流したいわけじゃない。もっと、我々と価値観が似てるような面白いことやってる奴らだ。とりあえず、微博は多少使えるようになったものの、まだまだ現地の人と接触は少ない。一応、台湾で出した『貧乏人の逆襲』の紹介記事とか、香港で行われたイベントのレポートとかは中国語になっているので、その辺からたどっていってもまだまだいまいち。何を隠そう、中国本土では、素人の乱など知名度ゼロ。うーん、これはやはり一切のコネがないので、正面戦で突破するしかない! ってことで! メチャクチャくだらないネタ写真とか、完全にマヌケさ全開のうちの店の紹介などを連続で上げてみる。・・・反応なし。チキショー!!! よし、次。そうだ、いま向こうは正月だった。で、「あけましておめでとうございます」みたいなことをつぶやいてみても無反応。クソ! 次の作戦! 最近友達になった柄谷行人が向こうでは哲学で超有名で、素人の乱にも触れている文章があったから、それを引用だ! やいやい、権威にすがるぞコノヤロー! ・・・これもダメ。完全スルー。やられた!! じゃあ、こっちも奥の手だ。日本のシリアスな伝統芸能として、酔っ払いサラリーマンの様子や宴会芸、土下座のやり方などを出してみる。それもダメ。うーん、やはり全部日本語だからダメなのかな~(原因それじゃねえか!)。
 今のところの反応は、尖閣問題で「死ね」とか「カス」とか言われただけ。ヤバい。これじゃ、郷に帰れねえ! 少しはギャフンと言わせねば! 孤軍奮闘で弱り果てたころ、アカウント作成にてこずっていた、大バカな援軍が続々と日本から到着! おおー、よく来たね! 普段やっているラジオのリスナーのハガキ職人勢もやってきたので、なかなか心強い。ある関西人の大バカなどは、中国の真ん中で「日本で一番でかい建築物をみよ」と通天閣を紹介したり、知る人ぞ知る「スーパー玉出」で攻勢をかけたりと、激しく展開! ま、いずれにせよこの超アウェーな心細い感じのところでいよいよ試すのがメチャクチャ面白い。さあ、もはや中国本土のマヌケ衆との接触も近くなってきた予感!!!
 ちなみに言葉だけど、我々には漢字という強い味方がある。中国語を分かる人は中国語を駆使するに越したことないけど、日本語しか分からなくても何とかなる。高校時代に漢文の授業を寝ながら聞き流したのを必死に思い出し、中国語風に日本の漢字を並べてみれば意外と通じたりする。たまに意味が全く違うときもあるが、そこは変に媚びずに和製漢文ゴリ押しで貫き通すしかない。そのうち向こうも分かってくれるはずだ。そういえば、だいぶ前、中国でタクシーにボッタクられそうになったとき、でかい紙に「激怒」と書いたら分かってくれたこともあった。そう、漢字は無敵なのだ。さらに予断だけど、聞くところによると西洋にはエスペラントという謎の言葉があるという。そう、白人の言葉をマゼコゼにしてウヤムヤにしてギュッとして、なんとなくみんなに通じるようにしたアレだ(説明違ったらスイマセン)! ところが、どうにもこうにもそのエスペラントにはアジアの言語などは入ってない。残念なことに仲間はずれだ。だが! どこまで通じるのか分からないけど、この漢字ゴリ押しトークを続けていけば、自然とアジア版エスペラントともいえるような「共通漢字会話」みたいなのができるんじゃないだろうか。おお、これ面白そう! これ、うまくいったら旧漢字国であるベトナムや韓国も参戦してくればなかなか夢は広がってくる! お互い話はできなくても、漢字を見せて意思を疎通! う~ん、これは西洋人も腰を抜かすに違いない!!! 誰か、えらい学者の人~! これ、やりましょうよ!
 ま、そんなことで、いま微博が面白いことになっている!! これで、隠れた東アジア都市=ロシアのウラジオストクなんかにも交流を広げていけば、いよいよ大変なことになってきてしまう! そういえば数年前、何度かヨーロッパに行って思ったのは、やたらと近所の国の面白いやつらが来てたり、知ってたり、行き来が多かった。ま、EUを組んでるってのが大きいとは思うけど、いろんな新しいものが入って来たりして面白かった! うーん、うらやましい。こっちはこっちでいろいろ、とんでもない奴らと交流しまくって、そんな感じの勝手なことをやりまくるしかないね~!!!

 ってことで、みなさん、微博で無料海外旅行&援軍よろしく~!!!!!!!!

【スケジュール】
2月21日(木)
素人之亂台灣店「子頡雜貨店」
(素人の乱台湾店)オープン!!!

 

  

※コメントは承認制です。
第72回 微博大混乱必至
我我必要探索中国的大変人!
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    国同士の関係がますます緊張している(と伝えられる)中でまたまた松本さんが新しい「作戦」をスタート! 果たして「中国本土のマヌケ衆」との出会いは実現するのか? 待て次号…の前に、あなたもさっそく「援軍」してみては?
    ご意見・ご感想をお寄せください。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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