三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第15回

大浦湾・驚異の最新水中映像! 本当にこの海を埋めて「安全」を貪り食う道を選びますか?

 私が世界で一番好きな海。それが大浦湾だ。それが今、海保や防衛局の船に占領され、航行もままならない海になってしまった。そんな中、先週意地で海の中を撮影してきた。今回はその動画をご覧頂く。今日本中の人々が意識・無意識を問わず「埋めても仕方ないんじゃない?」と思っている海がどんなに美しく貴重な存在なのか、まずは見て欲しい。

 最近はすぐ足が攣るのであまり潜らなくなったが、これでもダイビング歴30年である。残念なことに、奄美と沖縄の、あの延々と続く極彩色の海中を知っているのは、私のような古参ダイバーの部類だけなりつつある。特に沖縄本島の沿岸部ではすでに9割のサンゴが死滅したとされる。確かに沖縄の海はこの20年で激変した。その無残な変化を私はこの目で見てきた。

 小学生の時、沖縄本島の北部にあるオクマビーチ(国頭村)ではテーブルサンゴが膝の深さまでびっしりあって、足に当たって泳げなかった。南部でもコマカ島(知念村、現南城市)に渡れば水中めがねだけで竜宮城のようなダイナミックな海が堪能できた。本部の砂浜にもエダサンゴがびっしりで、潮が引いたら帰れないほどだった。それが、今では苦労して移植したサンゴさえ育たない海になってしまった。どこも白い砂とナマコしかいない海になっている。地球温暖化や海洋汚染で、海底の砂漠化は恐ろしい勢いで進んでいる。人はなんと罪深いのだろう。だがそれは沖縄だけではない。

 国際機関IPCC(気候変動に関する政府間バネル:Intergovernmental Panel on Climate Change))によれば、2050年を待たずに地球上のサンゴは成長不可能になると予想されている。サンゴ礁の海は、地球全体から見て海のたったの2%の面積しかないにもかかわらず、魚種の65%がそこを住処としている。であれば、サンゴ礁が消滅すれば海は人類を食わせていくことはできなくなるだろう。熱帯・亜熱帯の海は生物多様性に富み、命が濃い。逆に北極・南極の寒い海や深い海では、数はいても種が少ないため、絶滅種がでると影響が甚大だ。命湧く暖かい海の環境を世界中の学者が心配しているのは、そのためなのだ。

 生物多様性が豊かで、周囲に命を供給する役割を担う場所を「ホットスポット」という。地球全体にとってサンゴ礁の海は「ホットスポット」であり、沖縄本島沿岸でいえば「ホットスポット」はまさに大浦湾なのである。なにも基地の埋立てに反対するために言っている訳ではない。沖縄本島はサンゴ礁が隆起してできた島なので全体に遠浅の浜ばかりなのだが、地層が裂けてV字谷が形成され深さのある湾は、地形的に塩屋湾と大浦湾しかない。

 山のから養分を運んでくる清流があり、河口にマングローブの汽水域を持ち、泥場の貝類が豊富で、浅瀬のサンゴから深場のサンゴまで見事なグラデーションが見られる大浦湾。そんな恵まれた地形だからこそ大浦湾はホットスポットであり、この15年で3度あった白化現象の後も、他の海が再生できない中でこの湾のサンゴたちは驚異的な回復力を見せた。それは、15年間リーフチェックという手法で定点観測をしてきたグループのデータからも明らかなのだ。ところが、唯一の50メートルまでの深さがある湾であるがゆえに、戦前からずっと軍港として目を付けられていた。オスプレイを乗せるボノム・リシャール号を接岸できるのはここしかないのだ。
 しかし考えても見て欲しい。米軍にとって好都合なのと、人類を生かす海そのものが迎えている危機と、どちらが優先なのか。「ホットスポット」を埋めて他を残しても意味がない。つまり人間に例えれば、手足を刺されて生き延びることはできても、心臓を刺されたら死んでしまう。大浦湾を埋めるということは、沖縄本島沿岸の自然にとどめを刺すことと同じなのだ。そんな大切な場所をわざわざ選んで土砂で埋めるというのは暴挙でなくて何であろうか。

 1997年から私は大浦湾の水中の素晴らしさを放送に乗せてきた。切っ掛けは、大浦湾の一番奥まった静かな入り江の集落、瀬嵩に住む西平伸さんの写真展だった。年間40万人というダイバーが訪れる沖縄であるが、当時大浦湾にはダイビングスポットひとつなかった。
 西平さんは、福祉施設で主に夜勤をしながら昼間コツコツと潜って写真を撮り、目の前の海がどんなにすごいのか世に出していった。生物専門の学者や学生がひっきりなしに訪れるようになり、数え切れないほどの新種・希少種を発見して新聞を賑わした。彼の案内で、大浦湾のまれに見る豊かさを多くの人が知るようになった。

 しかし今年、伸さんの海はついに赤いウキに囲まれてしまった。毎日潜っていた大浦湾なのに、もうファンダイビングさえ規制される。生まれジマでの静かな生活も、最愛の海も、両方を奪われるのは耐えられない。伸さんはこんな日を迎えないために、20年地道に頑張ってきたはずだった。

 穏やかで無口な伸さんは、防衛局員の船と海上で衝突するような場面は苦手だ。しかし、7月以降も仲間と大浦湾にぽつぽつと潜っている。伸さんがいつものように船を出すと、海保や防衛局、警備会社の船が交互によってきて「立ち入り禁止」と追い返される。伸さんはあまり抵抗せず場所をずらす。でも、やはり潜る。この海を諦められるはずがないのだ。

 今日の映像は、先月末から今月にかけて撮影した、大浦湾の最新水中映像である。埋立てに向けたボーリング調査が始まった物々しい海上で、ひるまずにこれまで通りダイビングをするのは簡単ではない。過去の大浦湾の水中映像を並べて紹介することもできるが、私はずっと一緒にこの海を撮影してきた沖縄水中映像の第一人者、長田勇カメラマンと相談し、やはり潜れる限りは今の様子を撮影し直すことにした。この春放送局をやめる前に「大浦湾の撮影もこれで最後になるかも知れない」と撮り直しはしている。局のライブラリーにはちゃんと残っている。それでも、今年の夏から80隻の船に囲まれた騒々しい海面の下で命を謳歌する生き物たちの「今」を撮影し、みんなに見てもらう努力をするべきでは。今回の映画の予算では彼の水中機材や腕に見合う予算が確保できるのか保証はない。が、長田カメラマンは快諾してくれた。私は常に彼の映像に助けられてきた。今回も、本当に感謝の言葉もない。しかし彼自身の思いも、この映像からひしひしと伝わってくる。

 映像にあるように、沖縄の海らしい色とりどりのエダサンゴやテーブルサンゴがひしめく楽園のような光景は、主にミドリイシ系のサンゴが形成している。この種は温暖化で白化しやすく激減してしまったのだが、大浦湾では活発に再生が進んでいる。それが春に産卵して、死滅した海域を復活させていくのだから、この群落を絶対につぶしてはならない。

 ハマサンゴ系は比較的温暖化に強いと言われているが、大浦湾は別名「ハマサンゴ博物館」といわれるほど見事な多種の群落が見られる。松かさのような形状、板状に重なり合う姿はオブジェのよう。特に日の光をうけてゴールドに輝くクリスマスツリーのようなパラオハマサンゴは私のお気に入りだ。

 圧巻なのは、ここにしか見つかっていない貴重なアオサンゴの大群落である。これは忘れもしない、2007年に「人魚の棲む海」という番組の撮影中に見つかって、新聞の一面を飾るビッグニュースになった北限のアオサンゴだ。真上に向かって棒状に発達するアオサンゴは、折れている箇所を見ればわかるように骨格の中心がきれいな青紫色をしている。ダイナミックな斜面を形成し、山脈のように連なる迫力はアオサンゴならでは。岩に張り付いているのではなく、サンゴ自身の骨格が台地を、地球を形成していくという何億年の営みを思わせる存在感が神々しいまでである。

 この映像を見ただけで、地球の裏側に住む学者でも、いや、専門知識などないアルプスの牧童でも、誰でも「この海を潰してはいけない」と言うはずだし、主張する権利は同じだけある。この海の価値を知る者にしかこの海は守れない。直感で動ける人にしか状況を変える力はない。「仕事だから」と思考を停止しながら埋立てに協力する人達や、「日米が決めたことに逆らえない」と諦めて眺めている人達は、たとえこの海に触れる近さにいたとしても、守る力を奪われてしまっているのだ。
 だから、この映像を見て「すごい!」と思ってくれた、大浦湾を見たこともない人達にお願いしたい。「この海を埋めるのは地球の損失であり狂気の沙汰である」と、表明して下さい。間に合わなくなる前に。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第15回 大浦湾・驚異の最新水中映像! 本当にこの海を埋めて「安全」を貪り食う道を選びますか?」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    大浦湾の海の中の映像をご覧になって、みなさんはどうお感じになりましたか? この海を大量の土砂で埋め立てるって…。 大変な思いをして撮影をしてくださったカメラマン、編集してくださった三上さんらに敬意を表しつつ、一人でも多くの人にこの映像を見ていただきたいと思います。拡散希望します!

  2. 日高 房子 より:

    新基地反対

  3. Yuka Yamashita より:

    三上智恵〈辺野古・高江〉撮影日記を日隅一雄・情報流通促進賞に推薦したいhttp://hizumikikin.net/award/

    埋め立てが、私が、海水療法のテラスマイルサナトリウム建設を望んでいる 水床水中公園だったら、全力でやめさせる。この驚異の大自然は、みんなのもの 軍事マフィアに汚染されてたまるものかhttps://www.youtube.com/watch?v=Htt_qKU6zxM                                                                                                              米軍帰れ!コールが起きないことが不思議で仕方がない。
    いらない金食い虫、環境汚染の荷物を引き受けたのは、天皇の地位と官僚利権の温床を許してきた
    日本病の思考停止の結果なのに。
    美しい日本は、美しい日本人のもの

  4. Keiko Kawana より:

     戦場ぬ止みは標的の村の続編です。両方御覧になると、より一層深く考えさせられます。
    絶対に基地反対!!

  5. 服部雪子 より:

    振り込みしました。

    映画たのしみにしています!

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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