三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。不定期連載でお届けします。

第30回

「備えあれば憂いアリ」
軍備が引き寄せる戦場
本土にも危機!

 政府は突如として辺野古の基地建設強行の手を休め、沖縄県と話し合う期間を設けた。しかし、お互いに打開策も腹案も用意せずに臨んだ5回の協議内容は不毛だった。その休止期間も今日で終わる。現場は一日も休まず警戒を解かなかったが、今夜は深夜の大集合もかかっている。また緊張の日々に入っていく。ため息。沖縄県が継続中のサンゴの調査が終わり次第、政府は数日後には海上作業を再開するという。
 翁長知事はあらゆる手段を使って阻止するという姿勢を変えてはいないが、今朝の新聞には「県民投票」「知事選」で民意を示すことも視野に、とあった。私はその見出しに目を疑った。今さら、また投票・・・? まったく、ため息しかでない。

 政府は「普天間基地の危険性の除去」「海兵隊の抑止力」とこの20年、耳にタコができるほど同じことを繰り返す。この10年はそれに加えて「中国の脅威」「尖閣問題」だ。私に言わせれば、辺野古に新しい基地を造っても中国の脅威を叫ぶ人は減らないだろうし、尖閣と辺野古はなんの関係もない。危険性除去も、北部の住民の危険性が増すどころか沖縄が半永久的に不沈空母になるリスクは計り知れないし、ローテーション部隊である海兵隊自体が抑止力ではないのは、もはや常識だろう。これらはすべて、念願の軍港を建設し、日米両軍の出撃基地を確保する為の口実に使われてきた欺瞞に満ちたフレーズだ。
 それなのに、辺野古の問題について「沖縄の人には悪いけど、仕方ないんじゃない?」と言う人は大抵、相変わらず上の4つを理由に挙げる。しかし、もはやこれら表向きの理由について議論したり、「安保が大事だというなら本土に持っていけばいいんじゃない?」というディベート的な手法で国民の覚醒を期待したり、そういう行為が最近はひどく空しく感じられて仕方がない。それは、いま宮古島が背負わされようとしている運命とその背景にある日米の防衛構想を見れば、これまでのような堂々巡りの基地論に拘泥していてはもう間に合わないほど、救いようのない渦の中に国全体がのみ込まれようとしていることがわかるからだ。

 前回のコラム「標的の島 驚愕の宮古島要塞化計画」には2000件を超す「いいね!」を頂いた。大変なことが進んでいると、全国の皆さんに関心を持って頂けたのは有り難かった。今回はより具体的に、宮古島で行われた緊急学習会の内容から事態の深刻さをお伝えしたいと思う。
 急を要する問題なので、アメリカ軍の太平洋域の最新軍事戦略に最も詳しい元・宜野湾市長の伊波洋一さんを講師にすぐに勉強会を開催するべきだと関係者に進言したところ、それが先月末に早速実現した。この問題については、私一人でわあわあ言うより、伊波さんの冷静な分析を今こそ聴くべきだと思った。私は2年前に伊波さんからエア・シーバトル構想の話を聞いて震え上がり、あれこれ調べながら一人でパニクっていた時間が長かった。幾らか杞憂もあるのだろうし、私も心を落ち着けて伊波さんの話を聞く良い機会だと宮古に飛んだ。しかしその結果、私が考えていた以上に話は残酷な方向に進んでいた。8分半にまとめた映像で、是非とも伊波さんの解説を聞いて欲しい。

 伊波さんは言う。
 「かつて沖縄の基地は米軍が出撃していく場所だったが、今は違う。この島々が戦場になる前提の訓練をするようになっている」「日本列島を補給基地・後方基地にして戦い、沖縄壊滅後は日本本土が戦闘地域になる。その想定の演習が日米で既に行われている」

 前回も書いたが、アメリカは軍事的に台頭してくる中国との全面戦争は避けて、「中間戦略」として日本列島から南西諸島・台湾まで連なる第1防衛ラインの中で「制限戦争」を展開し、中国を封じ込めようと考えている。これがエア・シーバトル構想だ。
 まだまだ国民の中には、集団的自衛権の問題は中東地域などに行かされた自衛隊員の危険が増すことと理解し、辺野古の問題は一部の国民が基地負担に喘いでいるだけ、と捉えている人も多いだろう。そうタカをくくってきた人には「日本本土が戦場になる想定」だと言ってもピンと来ないかも知れない。でも残念ながら事実だ。沖縄への攻撃は1、2週間でカタがつくと見られているので、そのあとはすぐに本土が攻撃対象になり、上陸が想定されている。

 「え? アメリカ軍がいても2週間も持ちこたえられないの?」といぶかしく思うかもしれない。持ちこたえるどころではなく、軍事衝突が勃発したら、米軍はまず後方へ退く。逃げるのだ。南西諸島に駐留はするが、闘うのは米軍ではなくて自衛隊だと2006年の米軍再編の中に合意がある。アメリカ軍はその後、体制を整えてから、グアム・ハワイや本国から出直すという順番なのだ。いま、中国の持つミサイルのレベルが高くなり沖縄までは射程圏内に入ってしまうので、危ないから逃げるということだ。

 驚くのは、初期攻撃には同盟国だけで耐えてもらうと戦略論文の中に書かれていること。日本・韓国・フィリピンの同盟国が同時に開戦すれば中国を封じ込めることができると予測している。アメリカが手を出して米中の全面戦争に発展してしまったら、アメリカ本国にミサイルが飛んできてしまう。それだけは何重にも避けたいのだ。伊波さんは言う。
 「本来の目的は、米中の全面戦争にエスカレートしないために、日本国土の中に標的の島々を作り出して、そして日本の国土で“制限戦争”をする。中国も、アメリカも、自分の国土は攻撃されることなく、私たちのこの島だけで戦争をする。そういう想定で事態が動いていることを頭に入れておかなくてはならない」

 耳を疑う事ばかりだ。「南西諸島の防衛を強化すれば中国が攻めてこない」と信じさせておいて、「ミサイルを配備し標的の島を作って、他のところが被害に遭わないようにそのエリア内の制限戦争に持ち込む」というのが本音だということだ。それではまるで、補給もせず勝ち目のない32軍を沖縄に貼り付け、一日でも長く沖縄の戦闘に米軍をひきつけ、長引かせることで人の命を本土の防波堤にした沖縄戦と全く発想は変わらないではないか。

 しかも、今回は沖縄を犠牲にして本土が助かるという話ではない。日本を犠牲にしてアメリカが中国より優位に立とうという話だ。沖縄の次は本土をバトルゾーンにする想定で演習まで行っているのだ。
 オスプレイが本土各地を飛ぶ度にその地域は大騒ぎになり、防衛省は沖縄の負担軽減などと地元に吹聴するが、それは負担軽減とは無関係だ。日本本土を舞台に中国を押さえ込む戦闘をするのだから、米軍は地形も把握し、寒冷地も飛べる訓練をしておかなくてはならない。それだけのことなのだ。

 「米軍がいるために、また自分たちの生活の場が戦場になったらどうしよう?」
 この考えは沖縄にいれば身近に感じる恐怖だが、本土の人にはリアリティがないのかも知れない。でも残念ながら日本全国どこにいても、アメリカ軍の戦略のもと、有事にはどこが戦場にされても仕方ない状況になっている。本土全体が沖縄化しているのだ。「米軍行動関連措置法」(2004年6月)によって、緊急時米軍は我々の土地・家屋を使用できることになっている。2003年6月に改正された自衛隊法の〈防衛出動〉によれば、自衛隊の任務上必要な土地、物資は収用されるし、学校や病院、港湾などの施設も押さえられる。生産や輸送、医師や土木建築従事者も協力が義務づけられている。有事法制以降の十数年で、国民保護法、武力攻撃事態対処法、特定秘密保護法・・・。あたかも「国家総動員法」がパーツごとに細切れに復活しているかのように、気付けばいつでも戦争ができ、その時は国民の持つモノ、技、土地、命も総動員される法の整備は進んでしまっている。今審議中の安保法制はその総仕上げと言ってもいい。沖縄だけではない、本土も戦場にする覚悟で日米同盟の軍事戦略はとっくに進んできてしまったのだ。

 沖縄の状況を対岸の火事と本土の人たちが見ている間にも、沖縄では国防計画の変化はずっと他人事ではなかった。上記一つひとつの法案の成立も沖縄ではニュースだったが、本土では関心が薄かった。
 沖縄にいるから解ることがある。だから沖縄から警鐘を鳴らしてきた。だが、もう手遅れなのかも知れない。私は焦るばかりだ。でも、一方の伊波さんは、怖い話ばかりだった講演の最後に言った。「今ならまだ間に合う。止めましょう」と。
 だからこそ、皆さんには島の要塞化計画の内実を知ってもらい、早く全体像に気付いて欲しい。目を覚まして、日本国民が崖っぷちにいることを今こそ正視して欲しい。

 

  

※コメントは承認制です。
第30回 「備えあれば憂いアリ」軍備が引き寄せる戦場 本土にも危機!」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    前回、宮古島要塞化計画の詳細を知り、安保関連法案だけ、辺野古新基地だけ、という問題じゃないんだと目を開かされた思いでしたが、今回のコラムを読んでさらに愕然としました。「上記一つひとつの法案の成立も沖縄ではニュースだったが、本土では関心が薄かった」とあり、ひとつには本土メディアの責任もあると思いますが、自分自身の無関心さも悔やまれます。アメリカのプレッシャーのもと、市民の反対を無視してまで強行採決されようとしている安保関連法案が最終的に目指しているものは何なのか。「知らなかった」となる前に、こうした情報を広く伝えて、沖縄と全国各地がいっしょになって行動していかなくてはと思います。「今ならまだ間に合う」という伊波さんの言葉が救いです。

  2. たとえ安保がなくとも、アメリカが必要だと思えば日本は戦場になる。それがアメリカと言う国だ。ならばせめて日本が攻撃されたときに助けてもらえるよう、安保と基地で縛っておくべきなのでは?

  3. かねこ より:

    国民が死ぬリスクは、戦争だけではないと思います。

    TPP参加によっておこる医療制度の荒廃や、
    安保法による自衛官のリスク、
    国際巨大企業の為の労働法制の後退で「生きづらい社会」=自殺増。

    必ずしも至近にあるとは言えない
    (中国側にとっても経済的デメリットが大きい、)
    戦争による死を回避せんが為に

    アメリカに差し出す犠牲はあまりにも大きい。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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