三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

ヘリパッド建設やオスプレイ強行配備に反対する沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いた『標的の村』、そして美しい海を埋め立てて巨大な軍港を備えた新基地が造られようとしている辺野古での人々の戦いを描いた『戦場ぬ止み』など、ドキュメンタリー映画を通じて、沖縄の現状を伝えてきた映画監督三上智恵さん。今も現場でカメラを回し続けている三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。不定期連載でお届けします。

第68回

山城博治さん
5カ月ぶりに保釈

 高江の山の中で連日抗議行動が続いていた去年10月17日、突如リーダーの山城博治さんが逮捕された。

 一本2000円もしない鉄条網を切った器物損壊での逮捕。いつものように3日で出てくるのかと思ったが今回は全く違っていた。そのあと、10カ月も前に小さなブロックを積み上げて抵抗した件など、微罪をいくつか重ねて取り調べが続き、留置場から出られなくなった。そして、なんと5カ月間も、家族の接見すら許さないという非人道的な長期勾留が始まった。「反対運動をやればこうなるぞ」というみせしめと、精神的に窮地に追い込むあからさまな手法。裁判を受けないままに5カ月も自由を奪われるのだから、代用監獄制度と言われても仕方がない。国内だけでなく海外からも日本の後進的なシステムに抗議の声が上がった。

 遅すぎた裁判。ヒロジさんの一回目の公判は3月頃に開かれると聞いた去年、まさかそれまでずっと勾留してるつもりなのか? と耳を疑ったが、果たしてその通りになった。この間に高江のヘリパッドは完成し、オスプレイは落ち、辺野古の工事は再開した。抗議行動の主要メンバーを幽閉し、その間になりふりかまわず、できるだけ工事を進めてしまおうという政府の魂胆が見え見えである。

 自分が命懸けで体を張って守って来た事柄が、どんどん悪い方に進んでいくのを塀の中で知る日々は、きっともがき苦しむようなつらさだっただろう。我々外の世界にいる者も、まったく会えないどころか、手紙さえ届けてもらえなかった。会えないので、留置場や拘置所の建物の下でほぼ毎日のように仲間が歌を歌い、励ましつつ過ごすしかなかった。おととし、悪性リンパ腫で5カ月間入院していた時よりひどい。ヒロジさんはもっと遠くの、誰の手も届かない世界に置かれてしまった。そんなことがまかり通る世の中でいいのか? 黙秘を貫いたら出られなくなる、と脅かされていたようだが、黙秘する権利は堂々と主張するべきであり、それで不利益をこうむることがあってはならない。

 裁判の傍聴券は限られているが、一目ヒロジさんに会いたいと、朝から大勢の県民が列を作った。そして裁判が始まると、いつもヒロジさんと現場で歌っていた歌を、法廷まで届けと言わんばかりに裁判所の周りで大声で歌い、応援しながら待った。傍聴した法廷の様子を語る北上田さんは、いつも冷静で、ヒロジさんのブレーン的な役割を担ってきた頭脳派の人物。でも、5カ月ぶりに再会したヒロジさんの様子を語るときだけは、珍しく涙ぐんでいた。確かにそうだろう。この弾圧は基地にあらがう沖縄県民、みんなの頭上に下された鉄槌なのだ。それを体一つで受け止めて沖縄県民を代表して闘っている姿に落涙せず、何に涙を流すのか。

 ところがこの裁判の翌日、突如接見禁止が解かれて、ヒロジさんは400通余りの手紙を受け取ったという。感激にむせび泣いていると、夕方になってから保釈があるかもしれないと聞き、あわてて逮捕された時の山を歩く長靴をはいた。土のついた長靴とジャージといういでたちで、ついにヒロジさんは待ちわびていた県民の前に現われた。送られてきた本や手紙がぎっしり詰まった段ボールを抱えて、痩せて一回り小さくなったようなヒロジさんが満面の笑みを浮かべて拘置所の出口から歩いてきた。そして真っ先に、妻の多喜子さんを抱きしめた。この瞬間をみんながどれだけ待っていたことか。

 今回の私のコラムだが、とにかく本当にヒロジさん帰ってきたんだね、と実感してもらいたいので、文章よりも映像を見てほしい。ヒロジさん不在の間に、あらゆるヘイトスピーチがさらに横行して、山城博治は、過激派でプロ市民で沖縄県民が迷惑しているという真逆の記事がバンバン出ていた。嘘も1000回言えば本当になるという恐ろしい時代を私たちは生きている。しかし、事実はちゃんとその目で見てほしい。この会見の様子、裁判中の外の様子を見てほしい。これだけ大衆に慕われるヒロジさんの人間像を見てほしいのだ。ネット上でちまちまと凶悪な「山城博治」像をねつ造している人間も、反対運動を憎み、これでもかと権力を振るってくる政府側の組織の人も、あなたたちが逮捕されたらこれだけの人が声を上げてくれますか? ヒロジさんを揶揄してきたような人間の誰一人として、仮に被告席に立たされる日が来ても、これほどの人々が応援に殺到することなどない。

 権力者が持っていない財産を、沖縄の人々はまだまだ持っている。どんなに過激な沖縄ヘイト集団であっても屈服させることができない尊厳が、こちら側にあるのだ。私はそれを伝える側でよかった。悪口やデマでアクセス数を稼いだり、視聴率を稼いだりする仕事でなくてよかった。正々堂々と沖縄県民が抵抗する姿、自由と平和を求めて立ち上がっていく姿にカメラを回しているだけで、日本中、いえ海外からもその映像を見せてほしいと言ってもらえる。沖縄県民はこうして歴史に残る弾圧に耐え抜いたリーダーの保釈の瞬間を迎えた。是非動画をみてほしい。

三上智恵監督・継続した取材を行うために製作協力金カンパのお願い

 皆さまのご支援により『標的の島 風かたか』を製作することが出来ました。三上智恵監督をはじめ製作者一同、心より御礼申し上げます。
 『標的の島 風かたか』の完成につき、エンドロール及びHPへの掲載での製作協力金カンパの募集は終了させていただきます。ただ、今後も沖縄・先島諸島の継続した取材を行うために、製作協力金については、引き続きご協力をお願いします。取材費確保のため、皆様のお力を貸してください。
 次回作については、すでに撮影を継続しつつ準備に入っています。引き続きみなさまからの応援を得ながら制作にあたり、今回と同様に次回作のエンドロールへの掲載などを行うようにしていきたいと考えております。しかし完成時期の目処につきましても詳細はまだ決まっておりませんので、お名前掲載の確約は今の時点では出来ないことをあらかじめご了承下さい。

■振込先
郵便振替口座:00190-4-673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎銀行からの振込の場合は、
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番 :019
預金種目:当座
店名:〇一九 店(ゼロイチキユウ店)
口座番号:0673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎詳しくは、こちらをご確認下さい。

 

  

※コメントは承認制です。
第68回山城博治さん 5カ月ぶりに保釈」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    この長期勾留には、日本の刑法学者からも「正当な理由がない」と釈放を求める声明が出され、また国際人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナルが深刻な人権侵害にあたるとして緊急行動を呼びかけるなど、国内外から抗議の声があがっていました。今週の「風塵だより」では、「あなただって無関係ではないかもしれない」として、山城さんの長期勾留に触れていますが、共謀罪が出来たらどうなるのか……嫌な不安は増すばかりです。映像の中で「全国にニュースが届かなければ、闇へとほうむられた」とヒロジさんが話していましたが、大手メディアでなくても、いまはさまざまな手段があります。私たちそれぞれが自分の声を上げ、広げる努力をしていかなくてはと思います。

  2. ろばの子 より:

    博治さんが不当逮捕されたと聞いて以来、ご病気のこともあり、ずっと気がかりでした。それにしても、なんと美しい笑顔をなさっていることか! お顔を見ればそれだけで、正義がどちらにあるかすぐに分かります。みんな、他人の判断の受け売りをせずに、自分で見て考えればいいのに、ね。
    三上監督が報じて下さるからこそ知れることが、いつもたくさんあります。博治さんが記者会見で言われていたように、報道する人たちの力がなければ闇から闇でしたし、それを狙ってこその「共謀罪」ですよね? 
    やっと博治さんが保釈されたかと思ったら今度は、監督がやはり報じて下さった宮古島の石嶺香織さんが心ない言葉で攻撃されていると知って、胸が痛みます。内地にいてできることは何だろう、と考えています。

  3. yuasa chieko より:

    待ちに待っていた山城ヒロジさんが無事釈放されて本当によかったです。引き締まった姿で気力体力を温存につとめられた様子が伝わりました。五か月の間どんなにか歯がゆく悔しい思いだったでしょう。でも山城さんは不屈の人です。
    支えるたくさんの不屈の人たちに支えられてまた不死鳥のごとく活躍される日を待っています。奥様に言われても食べられなかった納豆やヨーグルトを食べて頑張ってこられたご様子、どうぞこれからも一層体力の回復に専念してください。

  4. 浅田木綿子 より:

    4月1日の1000日集会に辺野古に現れた博治さんを迎えたときの人々の感動は忘れられません。博治さんは拘留中、壁の向こうから応援する人たちの声が聴こえ、励まされたと言っていました。自分のため、愛する人のため、大切なふるさとを子々孫々残すため、私達ができること、正しいと思うことをやり続けるしかないと思います。本土からもその気持ちを沖縄へどんどん届けたいです。三上監督の活動にも背中を押されています。感謝。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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