三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

ヘリパッド建設やオスプレイ強行配備に反対する沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いた『標的の村』、そして美しい海を埋め立てて巨大な軍港を備えた新基地が造られようとしている辺野古での人々の戦いを描いた『戦場ぬ止み』など、ドキュメンタリー映画を通じて、沖縄の現状を伝えてきた映画監督三上智恵さん。今も現場でカメラを回し続けている三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。不定期連載でお届けします。

第69回

罪を犯しているのは国ではないのか~博治さん法廷へ

 「この裁判は、これ以上基地を負担したくないと声を上げた、沖縄県民全体に対する裁判です」
 「その代表として囚われ、罪に問われているのは博治さんたちですが、その他大勢の氏名不詳者たちという言葉で、私たち反対運動全体を罪に問おうというのが国の今回の姿勢なんです」

 裁判所前の集会で、マイクをとる人たちがこの裁判の重みを次々に訴えた。およそ250人が集まって被告として法廷に入る仲間を激励した。

 5ヶ月余りの勾留を解かれた山城博治平和運動センター議長はじめ、公務執行妨害などの罪に問われた基地反対運動参加者を巡る裁判の3回目の公判が、17日那覇地裁で開かれた。保釈中の博治さんには様々な条件が付けられ、裁判が終わるまでは事実上反対運動に参加できない形になっている。ところが2回目の公判では、国側が証拠として提出したビデオがコピーの手違いなどで審理が進まず無駄に終わった。そしてそのビデオを整理するのに5月まで時間がほしいと言い出す始末だ。博治さんが長期勾留されていた5ヶ月もの間、いったい何をしていたのか。証拠・書類の作成がいい加減で、求められると「準備ができていない」と時間を稼ぎ、結局秋までリーダーを現場から引き離そうということなのか。その間に埋め立てをどんどん進めてしまおうという国の魂胆があるとすればなおさら、裁判所は公正に迅速な訴訟指揮を執るべきだ。不誠実な時間稼ぎを許してはならない。しかし、それだけではない。この裁判は船出からおかしかった。

 3回目の公判では、去年1月に辺野古のゲート前にブロックを積み上げて抵抗したことについて、防衛局員が目撃証言に立つことになっていた。毎日毎日、座り込んではごぼう抜き、座っては引きずられを繰り返していた現場で、同じ運ぶならブロックを運んだらどうだ? と誰からともなくブロック作戦という奇策がでてきた。数日で終わった作戦だったが、目撃者は警察官、アルソック、軍警、防衛局員、そして座り込み参加者もメディアも大勢いるだろう。今回証言に立つ防衛局員が何も特別な存在ではないはずだが、彼の側から「傍聴人から威圧される、危害を加えられる恐れがある」と申し立てがあったとして、裁判所が傍聴席と証言者の間を完全に遮蔽するという決定をした。

 これはおかしな話だ。たくさんの目撃者がいる中で、この防衛局員の証言が特段に恨みを買う性質のものとは思えない。なのに彼が「博治さんにも、傍聴席にも顔を見られたくない、報復が怖い」と大げさに申し立てをすることで、あたかも被告と傍聴席にいる人々が後で危害を加えにやってくるタチの悪い人々だと裁判官に訴えているも同然である。それは印象操作に当たる。加えて、この日那覇地裁は正面玄関を一切封鎖しピケを張って暴徒の侵入を防ぐような形をとった。わざわざ福岡から裁判所職員を呼び寄せて大げさな体制で警備に当たった。こんな那覇地裁は初めて見た。このピケを突破してどんな過激派が押し寄せるというのだろう? 通行人はただならぬ裁判所の警戒ぶりに恐怖を感じるだろう。これも一般市民に対する印象操作である。

 そして結局、証人と被告との間の遮蔽はしなかったものの、傍聴席との間は完全に目隠しされてしまった。裁判は公開が大原則である。公正な抽選で傍聴券を手にした一般市民は、個々の思想信条がどうあれ、公平に裁判が行われているのか見届ける責任がある。性犯罪や暴力団の被害者など、弱者である被害者が守られるべき事例で遮蔽がおこなわれることはある。しかし、傍聴に来た誰かが恨みを持つかもしれないという程度でその都度遮蔽していたら、公開の原則は崩れ、その結果、顔を隠してぺらぺら無責任な証言をするのも容易になるだろう。

 まだ罪が確定していないのに、山城博治被告は顔も名前もさらされて、しかも今回は5ヶ月という長きにわたって自由を奪われ、有罪になる前に事実上の制裁を受けている。勤め人なら仕事も奪われただろう。彼の家族がこの5ヶ月に味わった苦しみは計り知れない。そうやってようやくたどり着いた裁判で、博治さんたちは顔をさらして被告席に立つ。博治さんたちを恨む人もたくさんいる。ネット上には悪質な書き込みが満載である。

 逮捕勾留されただけで罪人のように扱う人もいる世間に、実名と肖像をさらされて、片や裁判に臨んでいるのに、「この人がやりました」と証言する人間は姿を隠せるというのはあまりに不公平だ。基地を提供する仕事を担う公務員として、堂々と証言したらいいのではないか。「彼が指示していました。こういうことをされると困るんです」というなら、それは彼の仕事なのだからその通り法廷で裁判官に訴えればいいだけの話ではないのか。普段は、国のやることに抵抗するなとゲートの奥からで偉そうに警告をし、ビデオを撮りまくっている彼らは弱者なのか。なぜ裁判所に守ってくださいと訴え、震える子羊のように自ら演出するのか。「こいつがやりました」と言われた側は、すでに多くのものを奪われている。しかし言う側は何も失いたくないという。その国側の姑息な姿勢に加担した裁判所の決定に対して、法廷は騒然となった。

 被告の弁護団は開廷後すぐに裁判官の忌避を申し立てた。遮蔽は公開の原則に反し、公正公平な判断が期待できないためだ。しかし直ちに却下され、今度は即時抗告をした。それでも議事は進められる。まもなくついたてが登場した。検察側のいいなりの裁判運営に傍聴席からも抗議の声が上がった。

 「こんなの裁判じゃない!」「私たちを犯罪者扱いするのか!」、傍聴席にいた文子おばあは閉廷した後も最後まで抗議を続けたという。そのあとの傍聴者の怒りは動画を見てほしい。なぜ、こんな不当な長期勾留にも、抗議の声を上げる沖縄県民全体を罪びと扱いされる屈辱にも、耐えなければならないのか。この島に生まれたのだから仕方がないと思えというのか。

 (山城博治さん)
 「少し、熱くなってしまったなと反省しています。ただですね、皆さん。この裁判は私やIさんが代理人になっていますけれども、全県民が対象になっていますね。辺野古・高江新基地に反対する県民のリーダーだということで私たちを獄につなぐということは、可能なら全県民を獄につなぎたいという国家の意思の表れでしょう。私たちを5ヶ月も6ヶ月も、一人の仲間はまだ拘置所の中にいるというのに、自分はこそこそと隠れて『こいつがやった』という話をする。政府として国家として、国防のために安全のために基地は造らなきゃならないというなら堂々と出てきてそれを言えばいいじゃないですか! 県民の皆さんにお願いしたいと。この基地がなければ日本は守れない。日本の将来はないんだ。まげて県民の皆さんにお願いする。という話なら堂々とやればいいです。県民は今、血の出るような、県知事を先頭に屈辱と、そして忍従を強いられている中で、基地を造ろうという。強引に権力の力を借りて、機動隊の力を借りて推し進める側がこそこそと隠れて『こいつが犯罪者だ』と。こういう言われ方はないんじゃないですか? おかしい!」

 「国が150万県民を抑えてでも基地を造るというなら、その仕事を防衛局が担うというなら、堂々と言えばいいじゃないですか。私たちはどんなに捕らわれても、手錠でつながれても、腰縄されても堂々と自らの主張をしてまいりました。私たちをさらしものにして、まるで動物園の犬みたいにさらし者にして、罪を問う、告発するというなら、なぜ告発する側が堂々としていられないんだ。本当に激しい怒りで今日は身が震えそうでした」

 「根本にあるのは、基地を造ろうとする政府と、基地ができたら戦争に巻き込まれる。そういう無謀な戦争、防波堤となるような戦争はもう二度とごめんだという県民の思いがまず、あるんじゃないですか。そのことを堂々と論じてそのうえで具体的な罪に触れるべきではないんですか」

 そうだ。国家の暴力こそ問われるべきだ。抵抗しなかったら、また沖縄が真っ先に戦場にされるのだ。沖縄の犠牲を当然のこととする政府。民主主義を曲げて沖縄には適用せず、民意を押しつぶし、非暴力の抵抗に1000人の機動隊を差し向けた政府。その暴力は問われず、有刺鉄線を切った罪で逮捕される。警察や海保が首を絞めたりひき逃げしようとしたりしてもお咎めなしで、防衛局員を揺さぶったくらいで、威力業務妨害で再逮捕。今行われていることは異常であり、国家権力の暴走を司法もメディアも止められていない。

 本人がやっていないと一貫して言っているにもかかわらず、6ヶ月を超えて現在も勾留されている人がいることにほぼすべての国民が無関心だ。これではテロ等準備罪の成立を止められるわけがない。テロやスパイの嫌疑をかけられて、自分は違うと立証するのは非常に難しい。目をつけられたら罪人に仕立て上げられる。そういう社会なら声を上げる人は極端に減るだろう。もし博治さんのような人がテロリストの親玉に仕立て上げられたら、次は演説に拍手していた人々まで引っ張られる。そんな監視社会が訪れる。沖縄の平和運動のリーダーたちの逮捕・勾留は共謀罪の先取りで、国はどこまで国民が騒ぐかを注視しているのだと早くから指摘されてきたが、その実験の結果、今の国民の無関心は国に自信を与えてしまっただろう。

 沖縄への弾圧に興味がない大勢の国民をバックに、いよいよ明日20日にも辺野古の埋め立て作業に着手すると伝えられている。カリスマ的なリーダーである博治さんを現場から奪われたまま、辺野古はまもなく大きな山場を迎えようとしている。

♬ いかなる弾圧が 度重なるとも
  われらの友情は 永遠に変わらず
  海や森  空も澄めば
  わが心は  やんばるの地に

三上智恵監督・継続した取材を行うために製作協力金カンパのお願い

 皆さまのご支援により『標的の島 風かたか』を製作することが出来ました。三上智恵監督をはじめ製作者一同、心より御礼申し上げます。
 『標的の島 風かたか』の完成につき、エンドロール及びHPへの掲載での製作協力金カンパの募集は終了させていただきます。ただ、今後も沖縄・先島諸島の継続した取材を行うために、製作協力金については、引き続きご協力をお願いします。取材費確保のため、皆様のお力を貸してください。
 次回作については、すでに撮影を継続しつつ準備に入っています。引き続きみなさまからの応援を得ながら制作にあたり、今回と同様に次回作のエンドロールへの掲載などを行うようにしていきたいと考えております。しかし完成時期の目処につきましても詳細はまだ決まっておりませんので、お名前掲載の確約は今の時点では出来ないことをあらかじめご了承下さい。

■振込先
郵便振替口座:00190-4-673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎銀行からの振込の場合は、
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番 :019
預金種目:当座
店名:〇一九 店(ゼロイチキユウ店)
口座番号:0673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎詳しくは、こちらをご確認下さい。

 

  

※コメントは承認制です。
第69回罪を犯しているのは国ではないのか~博治さん法廷へ」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    三権分立であるはずの司法もまた、権力とぐるになっているのだとしたら、私たちは何を武器に戦っていけばいいのか。こんなことが許されるはずはありません。今、日本が抱える様々な問題が凝縮されているかのような沖縄で、日々何が行われているのか。一人でも多くの人に知ってもらいたい真実です。

  2. なると より:

    山城博治氏が選挙に勝ったわけではない。自称オール沖縄は選挙に勝っただろうが、オール沖縄に投票しなかった人は大勢いるし、そもそもオール沖縄への投票がすなわち山城博治氏の行動に対する支持だと解釈できるわけでもない。

    氏や氏の周辺の人物の行為を「民意だ」という根拠はどこにあるのだろうか。

  3. アミーゴ より:

    僕はおきなわがすきです。
    甘みも好きです。
    でも、ニライカナイに呼ばれる資格ないので、まだ沖縄の地を踏み入りられません(/ _ ; )

    でも、おかしいと思います。わかります。

    戦後70年経っても何故、沖縄がこんな状況なのか!

    日本なんて当てにならないのだから、今こそ琉球王国復活して、日本から独立した方が良いと思います。僕は大和ですが、沖縄にもともと大和はいらんかったと思います。サンゴ礁、基地のない自然…
    十分世界的に魅力のあるオアシスだと思います。
    いつか、ニライカナイがゆるすなら、いつか、行かせてください。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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