癒しの島・沖縄の深層 記事

 年末の沖縄県庁の御用納めに照準を合わせた仲井真弘多知事の辺野古新基地建設のための埋め立て申請容認に対しては、沖縄県民の7割近い人々が怒りで愕然としたはずだ。仲井真知事は前回の県知事選に出馬した時も、普天間基地は県外移設を公約していたからだ。事あるごとに、記者団に問われても、「辺野古は時間がかかるので、不可能に近い。県外移設の方が早い」と答えてきた。それが微妙に変わってきたと思われたのは昨年後半からだ。辺野古埋め立てに関しては「承認する、承認しない、その中間もある」と踏み込んだ発言をしたからだ。それまでは、中間もあるなどと発言したことはなかった。むろん、水面下では、辺野古新基地建設を何が何でも強行したい安倍政権が総力を上げて、仲井真知事に対して猛烈な懐柔工作を展開していたことの影響もあってブレ始めたのだろう。
 結局、仲井真知事は辺野古埋め立てを承認する一週間前から出張で上京。官邸での会談後の記者団の質問に対しても車椅子姿で応じていた。仲井真知事はその前から足と腰が痛いと側近には訴えていたようだが、その翌日には精密検査が必要という事で、順天堂大学附属順天堂医院に入院してしまった。入院後も、官邸にはマメに出向き、政府首脳との会談だけは続けていた。この頃、地元・沖縄のメディア界においては、演出臭さプンプンの仲井真知事の動きを見て、辺野古の埋め立て容認の意向を固めたのではないかとの憶測が飛び交った。年明けの1月19日には辺野古のある名護市長選が控えていたが、仲井真知事は早々と年内決断の意向を打ち出していたからだ。名護市長選の結果を踏まえて決断すれば、地元の直近の民意が反映されるという選択肢を最初から排除していたのである。これも不可解な事実だ。
 地元メディアの間でも流れていた憶測通り、仲井真知事は安倍総理の沖縄の基地負担軽減策への回答に対して、「驚くべき立派な内容」、「いい正月を迎えられる」とコメントし、「140万人県民を代表して感謝したい」とまで述べた。県民の多くが仲井真知事のコメントに強い違和感を憶えたことは言うまでもない。予想以上の振興予算を獲得して仲井真知事は有頂天になったのだろうが、安倍総理が普天間基地の5年以内の運用停止やオスプレイ24機のうち12機を県外で訓練するなどという単なる口約束を履行する可能性は限りなくゼロといっていい。
 案の定、沖縄県議会は仲井真知事への辞職勧告を賛成多数で決議し、県庁のお膝元である那覇市の議会も辺野古埋め立てに対する反対を決議した。多くの県民も埋め立て承認以降の仲井真知事の発言や、記者からの質問にブチ切れるなどのイラついた態度に不信感を募らせていた。
 そんな中、名護市長を決める選挙戦が開始された。「辺野古の海にも陸にも基地はつくらせない」を公約している稲嶺進・現名護市長の対抗馬は、辺野古基地建設推進派の末松文信前県議である。当初は、前名護市長の島袋吉和氏も立候補の意向を強く表明していたが、額賀、中谷という元防衛大臣クラスが名護入りし、末松候補一本化のために島袋氏の立候補を断念させた。その背景には金銭的な手打ちがあったとの憶測も飛び交っているが、真相は不明だ。一時は名護市長選は三つ巴が避けられない状況といわれていただけに、島袋氏の立候補断念は政治的根回しが功を奏した結果という事だろう。
 立候補を表明した末松候補の初日の演説会には仲井真知事も駆けつけ、辺野古移設なくして名護市の経済振興はないとか、沖縄に初の鉄道が出来るなどとぶち上げた。その演説を聞けば「正体見たり!」と感じた県民は多かったはずだ。何しろ、辺野古の埋め立てを承認して以降も、仲井真知事は普天間基地の県外移設は捨てていないので、公約違反ではないと開き直ってきた。しかし、この末松候補に対する応援演説をきけば、仲井真知事の本音が振興策や予算の獲得にあったことがミエミエである。沖縄総領事も務めたケビン・メア氏が「沖縄はゆすり、たかりの島」という侮蔑的発言を繰り返して顰蹙を買ったが、仲井真知事の言動を見れば、まさにそういわれても反論できないのではないか。移住者に過ぎない筆者にとっても悲しい沖縄の現実を見せつけられた思いである。仲井真知事だけではない。自民党沖縄県連も、沖縄選出の国会議員5名も県外移設から辺野古容認に「転向」した。菅義偉官房長官や石破茂幹事長が、除名をちらつかせて力ずくで屈服させた結果だとしても、有権者に対する完全な裏切り行為であることは誰の目にも明らかだ。
 19日に即日開票される名護市長選の結果はどうなるのか。当初は、辺野古新基地反対の稲嶺進氏が僅差で勝利すると思われていたが、ここにきて辺野古推進派の末松陣営が巻き返しているといわれている。17年間も放置されてきた辺野古移設が政府の方針通りに実行されれば、名護市は確実に経済効果が生まれるだろう。推進派は、ここぞ千載一遇のチャンスとばかり勢いづいているのかもしれない。安倍政権も資金、人材ともに名護市に全力投球注ぎ込むだろう。しかし、目先のお金に幻惑されることによって、名護市民や沖縄県民は今後200年にわたり基地公害や事件・事故の恐怖を強いられることになる。米軍の辺野古新基地が建設されれば、末代まで負の遺産も引き継がなくてはならない。新基地推進派はそれでもよしと本気で判断しているのだろうか。筆者には理解不能である。しかし、仲井真知事が公有水面の埋め立てを承認しても、辺野古新基地建設には10年かかる。基地建設のための資材の運搬、搬入などは、名護市長の許可がないと立ち入れない。この理不尽な基地建設に最後まで「NO!」を突きつけるためにも名護市長には反対派の稲嶺進氏の再選が不可欠なのだ。

 

  

※コメントは承認制です。
オカドメノートNo.133辺野古基地移設問題に揺れる、名護市長選挙」 に7件のコメント

  1. magazine9 より:

    すでに期日前投票も始まっている名護市長選。初日となった13日には2131人と、前回初日の約1.5倍にもあたる人たちが投票所に足を運んだそうです。自民党の石破茂幹事長は「基地の場所を決めるのは国」だと発言しましたが、その基地があることによって、さまざまな被害や抑圧を受けるのは地元の人たち。名護の、沖縄の、そして日本の未来につながる結果を願います。

  2. くろとり より:

    いつまで実現性の無い県外移設にこだわっているのですか。現時点で県外移設が夢物語であることはこれまでの状況が示しているではないですか。県外移設にこだわる限り普天間が永遠に残り、基地負担は軽減されないのです。
    現在、中国の軍拡、覇権主義によりアジア地域がきわめてきな臭くなっています。
    これ以上、この問題で日米がもめることは日本の安全保障にとって極めてマイナスです。
    元々、決定していたことをひっくり返したのは日本側なのですから一旦、元に戻すのが当然でしょう。
    日本に憲法9条がある限り、安全保障を日米安保に頼らざるを得ません。
    辺野古への移設を前提とし、地元の負担を軽減するための方法を探っていくべきなのです。

  3. gohan1961 より:

    辺野古移設がないと、普天間基地が固定化されるということで、辺野古移設を認めさせようというやからに腹が立ちます。県内移設だと負担が変わらないということがわからないのですか。米国としても老朽化した普天間基地を閉じて、最新鋭の装備をした基地を作りたいだけなのです。普天間に住む人の負担軽減しても辺野古にその負担がいくだけで、沖縄だけ負担をするという考え方に怒りを覚えます。県外移設が夢物語にしているのは、こちらで基地を受け入れますという地方が無いからです。あなたの住む土地の人々が基地建設を誘致すればすむことです。基地日米安保が重要ならば、その負担も受け入れるのが当たり前ではないですか。

  4. くろとり より:

    辺野古への移設で負担が変わらない? 寝言は寝てから言いましょう。
    結果的に市街地のど真ん中に立地することになった普天間とアメリカ軍の基地の中で若干埋立する程度の辺野古で負担が変わらないなどと素人にもわかる嘘を言わないでください。
    アメリカは普天間固定で問題ないのです。日本から移設を持ちかけ、地元、アメリカとも合意していた辺野古移設をドタキャンしたのはよりにもよって移設を持ちかけた日本側ですよ。
    基地移設反対派はすぐに「移設に反対するなら自分のところに誘致すればいいじゃないか」と極論に走りますが、運用側の都合もあるのです。そもそも辺野古移設はその辺のことも考慮し、県外、国外移設も含めて検討した結果であることを忘れないでください。

  5. 道民 より:

    北海道民です。道内のどっかの僻地に米軍基地が来てくれれるなら、
    道民は諸手を挙げて大喜びですよ。

    確実に生活費としてドル撒いてくれるとか最高じゃないですか。
    潰した核兵器の保管所とかにされないなら誘致したいくらいですよ。
    地政学的な面で無理ってのはわかりきってますがねぇ。

  6. gohan1961 より:

    人口密度の高い普天間から密度の低い辺野古へ移動すれば、被害が少なくなると思うんですか。米軍は毒ガスや、枯れ葉剤などの化学兵器の持ち込みや実験などで基地の土壌を汚染しているんですよ。環境破壊も基地被害の深刻な問題です。辺野古へ移設すれば今度は海の汚染が懸念されます。運用側の都合で、沖縄以外に基地がつくれないですって?運用側が都合よければ、東京や大阪の市街地でも建設を承知しますか?だいたい、運用側の都合って何ですか?基地がある土地は誰のものですか。日本の領土で沖縄県民の土地ですよ。日本国民の沖縄県民が嫌だ、というものをどうして運用側の都合を優先するんですか。アメリカさんには守ってもらっているから仕方ないと言うのですか。守ってもらうって沖縄県民の生命、財産は犠牲にしてですか?普天間基地の縮小は沖縄県民の望んだことですが、その代わりに辺野古に新基地建設なんて地元は了解していません。かってに政府が決めるからドタキャンせねばならなくなるんです。それでアメリカさんに申し訳ないから、何が何でも辺野古へ基地建設を強行するんです。地元の意向を無視する政府って、これでも民主主義の国なんですか。

  7. くろとり より:

    以前のコメントは承認されず消されてしまったので短めに。
    一言でいうと相手のいる交渉事なのにあれもイヤ、これもイヤというガキの戯言は通じないという事です。
    また、民主主義であっても全体の利益の為に一部が犠牲になることはあるという事です。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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