癒しの島・沖縄の深層 記事

 6月23日の沖縄は「慰霊の日」、沖縄の敗戦記念日である。軍民あわせて20万人以上の死者が出た沖縄戦での犠牲者を弔う記念式典が糸満市摩文仁の平和祈念公園で開かれた。公園内には「平和の礎」という戦没者24万人の名前が刻まれた石碑が建てられている。県と県議会主催の記念式典だが、安倍総理、小野寺防衛大臣、岸田外務大臣、山本沖縄北方担当大臣らも本土から大挙して参列。その中には、ルース駐日大使や大阪市の橋下徹市長の姿もあった。参加者は警備の都合上、限定されて5800人。

 仲井真弘多知事は平和宣言の中で、米軍普天間飛行場の県外移設と日米地位協定の抜本的改正を日米両政府に求めた。3年連続である。しかし、後に続いた安倍総理以下の挨拶は、仲井真県知事の平和宣言と共振するような発言はいっさいなかった。戦後68年経っても沖縄はいまだに本土政府と米軍に差別統治されている実情が、慰霊の式典でも明確になった。沖縄県民の心情を熟慮すれば、偽善的な平和式典といわざるを得ない。この日、沖縄県民は米須にある「魂魄の塔」やひめゆりの塔、戦時下で多くの犠牲者を出した壕などにおいてそれぞれの慰霊を行った。平和祈念における公式式典と民間の慰霊、まさに同床異夢とでもいうべき構図だった。

 沖縄の慰霊の日当日、東京では都議会議員選挙が行われた。午後8時から開かれた開票では、自民59、公明23の立候補者全員の当選が判明し、第一党だった民主党は15議席で第四党に転落。躍進したのは共産党とみんなの党で、社民党、生活の党、みどりの風は議席ゼロという結果だった。従軍慰安婦問題で不評を買った橋下共同代表率いる維新の会は3議席から2議席に減少。

 前回の都知事選挙では、石原慎太郎の後継候補として当選した猪瀬直樹が400万票を取った日本の首都・東京だが、より一層保守化・右傾化が加速しているようだ。目立った争点もなく、投票率も約43%で都民の選挙に対する関心も低かった。そうなれば、組織力のある自民、公明、共産党などが票を集めるのは必然だろう。

 7月の参議院選挙の前哨戦といわれた東京都議会選挙において自民、公明だけで、過半数を制した。民主党への風は完全に消えてしまったといえる。7月の参議院選挙でも自民、公明が勝利を収めれば、日本はふたたび自民、公明の野合政治の時代に戻る。民主党の崩壊で脱官僚政治指向は完全に骨抜きにされていくだろう。再び、官僚政治の復権である。憲法改正を党の公約にする自民党は憲法9条改正のための布石として、96条の改正に手を付けるはずだ。アベノミクスに陰りが見えていたため、安倍総理の人気や政権の支持率も低下していたが、都議会選挙の勝利でこの流れにも歯止めがかかるのではないか。

 7月の参議院選挙まであと一か月を切った。安倍政権に致命的な失策がない限り、「他に適当な政党がいない」という理由で大勢は自民、公明政権への流れは変わらないだろう。

 衆議院、参議院の両院において自民党中心の政権が成立すれば、戦後の保守陣営が悲願としてきた憲法改正、国防軍創設、集団的自衛権など具体的なプログラムが進行することになる。むろん、公明党や自民党の一部にも96条改正に慎重な意見もある。憲法9条改正を持論としてきた憲法学者の小林節(慶応大学教授)も自民党の改正草案は「憲法の破壊」だと断じ、「法で道徳を強制し、安易な海外派兵の道も提案している」との批判を展開している。憲法は国家権力の恣意的行使を縛るもので、時の政権が改正のルールを都合よく変更したり、政権が海外派兵を勝手に決めることを許さないのが憲法の根本理念であり、大義のはずである。

 中国が尖閣諸島に向けて公船を派遣し、頻繁に領海侵犯している。民主党・野田政権が尖閣を国で買い上げて実効支配を強めて以来、中国側が猛反発しているためだ。日本の主張は、尖閣は固有の領土であり、領土問題じたいが存在しないというものだ。確かに戦前は日本人がカツオ節工場を運営し、住所も日本国となっている。しかし、中国や台湾にすれば、「日本が近代国家になる前は、自分たちの領有地だった。文献上も記録が残っている」ということになる。第二次世界大戦の勝利で沖縄を統治した米国は1972年の日本政府への返還時に、尖閣の自治権は日本にあるが、領土問題には関知しないと表明している。1972年の日中国交回復以降も、鄧小平と田中角栄の間で、尖閣問題は後世の判断に委ねるとの立場を打ち出した歴史的経緯もある。領土問題がこじれれば、武力による解決へと進展するのが歴史の常だ。

 尖閣問題は、中国側の政治的プロパガンダの側面が強く、中国軍が強行上陸して軍事的に制圧する事態にはなっていない。中国としても、日本だけではなく、米国の意向にも配慮せざるを得ない。現行の憲法では日本が中国に対して軍事力を行使することは出来ない。憲法9条が手枷足枷となり、感情的高ぶりで戦争を仕掛けることを自粛させているのだ。国防軍創設などで、軍事力を整備した日本がナショナリズムの高揚を煽れば、いかなる事態になるか、想像するに難くないはずだ。

 大手メディアの社会的責任は大きいことを強く自覚して欲しい時代状況といわざるを得ない。

 

  

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オカドメノートNo.128「慰霊の日」の沖縄から、
東京の保守・右傾化を憂う
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    橋下共同代表の「慰安婦発言」などが原因となってか、
    支持を大きく落とした日本維新の会と、
    都議選で圧勝を飾った自民党。
    実は橋下氏と安倍首相の歴史認識に大きな違いはないし、
    普天間基地の辺野古移設を推進しているなどの点も一致しているのですが…。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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