癒しの島・沖縄の深層 記事

 7月の参議院選挙で大勝した自民党政権だが、いまだに国会は閉会したままだ。高い議員歳費から政党交付金まで供出している国民にすれば、税金ドロボーといいたくなる長期休暇ではないのか。しかし、日本の政治を実質的に動かしているのは霞ヶ関を中心とした官僚組織である。政治家が長期の夏休みをとろうと外遊しようと、あるいはオリンピック東京誘致活動に熱中しようと、行政組織は停滞することなく業務を進めていく。むろん、政策の大枠を決め、立法権を持つのは政治家であることは間違いないが、いなければいなくても日本の政治は官僚が仕切っているから機能が停止することはないのだ。いついかなる事態においても、官僚組織は前例を踏襲し、省庁の既得権益をそこなうことのないように知恵を絞って国家運営を手掛けていく。それが行政システムというものだ。
 国会が閉会していても、消費税増税の方式を勝手に決め、TPP交渉も官僚主導で着実に進行している。かつて廃案になったスパイ防止法に代わる秘密保護法、集団的自衛権行使の容認や敵基地攻撃論も有識者という名の御用学者集団の手で着実に進行している。尖閣諸島に中国公船が領海侵犯しても海上自衛隊や海上保安庁まかせ。オスプレイが日米合意を無視して夜間訓練飛行を4日連続で続けても防衛省まかせ。辺野古の海で希少動物のジュゴンが餌を食べた痕跡を沖縄防衛局が確認していたにも関わらず、素知らぬ顔をしていた事実も発覚した。日米両政府が強引に進めようとしている辺野古新基地建設の障害になるものには目をつぶるのが、官僚組織の常套手段である。
 
 オバマ大統領は、次期駐日大使にキャロライン・ケネディ氏を指名した。1963年に暗殺されたケネディ元大統領の長女で弁護士だ。ルース駐日大使同様に、外交的にはシロウトだが、ともにオバマ大統領を支持した功績が認められての起用である。お友達内閣と揶揄された安倍総理とオバマ大統領は、メンタリティは同じということなのか。キャロライン・ケネディ氏は人事承認をめぐる米議会上院外交委員会の公聴会で「日本は不可欠のパートナー。日本との同盟は平和と安定の礎石だ」「日本こそ私の奉仕先」と証言した。さらに、「日米二国間の安全保障を強化するために、米軍中枢と緊密に連携していく」と語った一方で、沖縄基地問題に関しては「非常に重く受け止めている」とし、集団的自衛権行使に関しては「注視していく」とも述べた。このままいけば、10月にもキャロライン・ケネディ氏の駐日大使就任が発令されるだろうが、日米関係や日米地位協定改定、沖縄の米軍基地問題の進展に関しては何の期待ももてないだろう。これもまた外交を司る官僚組織の定石である。
 問題は日本では人気のある故・ケネディ大統領の長女というネームバリューで、メディアが礼賛報道を開始していることだ。駐日大使になれば、福島は当然としても、広島、長崎、沖縄も訪問するだろう。だが、おきまりの「見学」では意味がない。かといって、それ以上の政治的決断が行使できる立場にあるとは思えないし、対日工作のためのお飾りで終わるのではないか。どうせなら、オリバー・ストーン監督を起用すれば、シリア攻撃をめぐってメンツを潰されたオバマ大統領の起死回生策になったかもしれないが、そんな度胸はあるまい。米国大統領とはいえ、有権者の支持を失う事は恐怖なのだろう。あれだけ明言していたシリア攻撃を断念したのも、米国の世論は圧倒的反対という厳然たる事実を突きつけられたからである。
 
 安倍総理は今月23日、国連総会で演説するためにニューヨークに出発した。米国にも安倍総理の右傾化やタカ派体質を危惧する見方があり、それを打ち消すために積極的平和主義を打ち出すと同時に、女性が最前線で働く時代という認識を打ち出す方針だという。集団的自衛権行使や秘密保護法に関しても連立を組む公明党が慎重な姿勢を崩していないことから、年内決着を諦めて来春以降へと先延ばしを決めた。タカ派の安倍総理としては、憲法改正も含めて何としてもやりたい政治課題だが、そう甘くないことを徐々に認識できるようになったのかもしれない。

 国連に同行した昭恵夫人が脱原発の支持派であることは知られているが、憲法改正による戦時体制の準備よりも再生エネルギーの本格的な展開に向けて大きく舵を切る方が、日本の国益のためである。国会開会の前に昭恵夫人とじっくり話したらどうか。女性の時代というのなら、まずは足元から見直すべきである。国民よりも企業しか見ていない企業の復興特別税を一年前倒しで廃止するなどというミエミエの新自由主義路線も、国会開会前に一度頭を冷やしてじっくり考えたらどうなのか。官僚に丸投げのTPPしかりである。持病の潰瘍性大腸炎を再発する前に、善は急げ! である。

 

  

※コメントは承認制です。
オカドメノートNo.130安倍総理は、国会開会前に一度頭を冷やしてじっくり考えたらどうなのか」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    出発前、「国連総会の演説を通じて日本の存在感をしっかりとアピールしたい」と語ったという安倍首相。アピールするのはどんな「存在感」なのか…と気になります。

  2. くろとり より:

    どうみても安倍総理は冷静ですよ。少なくともあなたよりは。
    日本をめぐる安全保障の環境はきわめて悪くなっています。
    それに対処するためにしっかりと外交を行っているではないですか。
    まさか、「外遊」というのが海外で遊んでくることと思っているのではないでしょうね。
    これまでの首相よりよく外交をやっているではないですか。
    筆者が安倍総理が嫌いなのは文章を読めばよくわかりますが一国の総理として安倍首相は十分合格点を与えられますよ。

  3. えいみい より:

    嘘をつく人を私は信頼できません。
    福島第一原発がコントロールされているならば、白ずくめのガスマスク付の格好で福一を視察しないでほしいです。

  4. gohan1961 より:

    阿倍総理が国際的に嘘をついた、というよりも国際的に公約したと受け止めたい完全にコントロールされている福島原発事故も、あのあと汚染水漏れが発覚しているんじゃ、好意的に受け止めるのが虚しいだけです。阿倍総理も嘘付き呼ばわりされて、日本の政治の国際的な信用が失墜するのを国辱的と思うなら、
    真剣に原発事故を収束することを取り組んでください。

  5. 花田花美 より:

    積極的平和ってなんだろう。
    平和のために武力も辞さないということ?
    平和のために戦争すること?
    それなら、「積極的平和」と言わずに、「軍事力緩和」といえばいいのに。
    そういうと国民に反対されるのがわかっているから「積極的平和」という言葉で逃げてるんでしょ?
    嘘とはいえないけど、国民を惑わせているよね。
    自民党はこういうテクニックが本当にうまい。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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