癒しの島・沖縄の深層 記事

 7月に行われた参議院選挙で大勝した安倍政権が、ようやく秋の臨時国会を開幕した。所信表明演説に続いて、衆参での予算委員会も開始された。しかし、衆参両院で自民党と公明党が連立を組んでいる以上、危険な法案が次々と議決される可能性がある。
 集団的自衛権行使の確立や、国防軍創設を明記した憲法改正に向けた手続きは、来年の通常国会以降に回される雲行きだが、いずれにせよ安倍総理の悲願である米国と共に戦争協力する体制づくりは時間の問題となってきた。数の力を背景にした安倍総理に対する野党側の攻勢も空振りばかり。民主党の大惨敗で、野党には明確な対抗軸を打ち出すための政策も連携もなく、タカ派の安倍総理の独裁的手法がまかり通る体制になりつつある。
 日米軍事同盟の強化は、日本の対米追従をより一層進行させる国策である。アベノミクスも米国型の新自由主義経済と格差社会の助長への道であり、安倍政権により日本の進路は大きく変わりつつある。武器輸出三原則の見直しも原発輸出も海外市場への参入を画策するもので、日本がより危険な国へと舵を取る政策である。
 そんな中、安倍総理が今国会での成立を画策しているのが特定秘密保護法である。公務員が特定秘密を外部に漏らした場合、最高で懲役10年の刑罰を与える法律だ。当然のように危惧されるのは、国民の知る権利が侵害され、メディアの報道や取材が大きく規制される可能性である。特に、何を特定秘密とするか、報道機関の取材の正当性をどう担保するかなどは政府や行政の判断で決めることになっており、恣意的運用になる可能性も高い。
 この法案の審議を担当する森まさこ大臣(少子化担当)は、記者の質問を受けて、元毎日新聞の西山太吉記者が沖縄返還交渉時に日米両政府の間で交わされた密約をスクープした一件に類似した取材活動も処罰の対象になるとコメントした。この事件では密約があった事実は米国の公文書公開や、当時、米国と外交交渉を担当した吉野文六条約局長の証言でも明らかだが、裁判上では日本政府は密約の存在を認めていない。西山記者は国家公務員違反の幇助罪で、逮捕されて有罪判決を受けている。密約を証明する文書を外務省の女性事務官から入手したことが罪に問われたのである。記者としては特大級のスクープ記事を書いたことで、逮捕されて、毎日新聞を追われたのである。
 その西山記者は「この法案は取材源を攻撃するものだ」というコメントを出しており、その本質を見抜く必要性を強く訴えている。つまり、政府が、防衛や外交に関する情報を特定秘密に指定すれば、国家の機密は永遠に国民に知らされない可能性がある。正義感から国民に知らされるべきとして、報道機関や市民運動に情報を流す公務員は激減するはずだ。懲役10年が、内部告発しようとした公務員を萎縮させる効果は絶大だろう。そんな状況下で、報道機関が情報入手に動くことに対しても多大な制約が課されることになる。不当な取材方法という認識も、検察や裁判官というお上の判断、さじ加減ひとつになる。まさに、戦前の治安維持法並みの巨大な権力を政府側が握る稀代の悪法になりかねない。
 もうひとつ注意したいのは、この法案は米国側が日本に強く要請したものである点だ。米国版NSC(国家安全保障会議)を日本も追認せよというものだ。国防総省の予算が削減される中、米国は日米軍事同盟を強化するためには、軍事費の提供と両国の間での情報の法的統制が必要だと考えているのである。
 しかし、先日も元CIA職員・スノーデン氏が暴露した情報によって、米国がドイツのメルケル首相を含めた国家指導者35名の携帯電話を盗聴していた事実が発覚した。米国はテロ対策上、必要な活動というスタンスを示しているが、EUの友好国であるドイツの首相がテロに関係があるとは思えない。盗聴期間もメルケル首相の野党時代から続いているとなれば、米国の世界戦略活動のためのCIAの日常的な情報収集の一環と見るべきだろう。自国の国家機密をコントロールし、自分たちは各国のリーダークラスを平然と盗聴する米国の行為は、民主主義のルールに反するものであり、さすがのオバマ大統領も各国から信頼を失うのではないか。
 最近では米国がパキスタンやアフガニスタンに無人機を飛ばし、2004年以降、市民400人以上が死亡した事実を国連が発表した。国連はさらに、無人機攻撃の事実関係や「国際法上それがなぜ許されるのか」を明確にするように求めている。米国が、それについて情報を開示しないことに対しても、「国家の安全保障のためなら正当化できるとの考えは容認しない」と厳しく批判している。まさに特別秘密保護法とも関連する批判である。
 沖縄では相変わらず、MV22オスプレイが昼夜を問わず、爆音を発して訓練飛行を続けている。いずれは、日本の自衛隊もオスプレイを購入する予定だ。今後、沖縄の空は危険なオスプレイがさらに多数飛び交う事態になるのではないか。普天間基地を固定化させないという建前のために、辺野古新基地建設を推進する政治勢力の動きも水面下で活発化している。
 仲井真弘多知事は、辺野古の海への埋め立てを容認するかどうかの判断を年内、もしくは来年早々にも示すことになっている。来年1月には、その知事判断に大きく影響を与える可能性のある名護市市長選が行われる。稲嶺進名護市長は再選に向けて立候補の意向を固め、保守系も自民党の県議・末松文信氏の擁立を決めた。自民党衆議院議員・西銘恒三郎氏や島尻安伊子参議院議員も選挙時の公約を捨てて、辺野古新基地容認派で応援体制を敷いている。
 安倍総理は、何が何でも辺野古新基地建設である。そのために、沖縄関係の閣僚に沖縄詣でを指示している。名護市長選に向けて陰に陽に政治工作の仕掛けが活発化していくのは確実だろう。

 

  

※コメントは承認制です。
オカドメノートNo.131タカ派の安倍総理の独裁的手法がまかり通る体制へ」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    岡留さんからの原稿が届いた後、前名護市長で、前回の市長選でも稲嶺氏と闘った島袋吉和氏が立候補を表明、との報道が流れました(朝日新聞など)。末松氏が、辺野古移設容認を明確にしないことに反発しての決断とも報じられていますが、とはいえ末松氏も、辺野古移設容認を掲げる市議会議員らの要請を受けての立候補。来年1月の告示・投開票に向けて、岡留さんの言うとおり「政治工作が活発化」していくのは間違いなさそうです。

  2. くろとり より:

    アメリカの盗聴に関しては「何をいまさら騒いでいるのか」です。
    どこの国だって同じようなことをしているのです。ばれたアメリカが間抜けなだけです。
    辺野古への米軍基地の移設に関しては反対すれば普天間に固定となることはわかりきっていたことです。
    そもそもこの問題は日本政府、地元、アメリカ政府にて妥協の末、辺野古移設で話がまとまっていたのが鳩山元総理がひっくり返し、収拾がつかなくなった経緯があります。
    以前に上記内容で意見を書かせていただいた際、その後の記事の中で「住民は納得していない」といった内容のことをおっしゃられていましたが、何事にも反対、賛成の意見はあるのですから反対派の意見だけを取り上げ、「住民は納得していない」は通りません。国同士の約束を日本側から破った形となっているのですからアメリカに文句を言われるのも仕方のないことでしょう。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

最新10title : 癒しの島・沖縄の深層

Featuring Top 10/26 of 癒しの島・沖縄の深層

マガ9のコンテンツ

カテゴリー