時々お散歩日記

 原発問題に関しては、毎日新聞の山田孝男記者のコラム「風知草」がとてもいい。このところ、あまり原発に触れなくなっていたが、8月26日の同コラムが面白かった。
 少し引用させてもらおう。

 脱原発、行って納得、見て確信―。今月中旬、脱原発のドイツと原発推進のフィンランドを視察した小泉純一郎元首相(71)の感想はそれに尽きる。

 小泉氏、かなり前から「脱原発」に傾いていたが、ドイツ訪問でその確信がさらに強まったらしい。
 この訪問には、三菱重工業、東芝、日立製作所の原発担当幹部とゼネコン幹部の計5人が同行していたという。いまなおその言動に大きな影響力を持つ小泉氏を、なんとか原発推進陣営に引きずり戻そうという魂胆だったのはミエミエだ。
 ところがその目論見は、まったくの裏目に出たようだ。小泉氏は次のように言ったという。

 「いま、オレが現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな。ますますその自信が深まったよ」

 小泉氏は、ドイツの自然エネルギーの地産地消の現状を見て回った後、フィンランドの「核廃棄物最終処分場・オンカロ」の視察も行った。
 原発は「トイレなきマンション」と呼ばれるが、そのトイレはまだ世界中のどこにもない。「オンカロ」は、世界で唯一の着工済み最終処分場で、2020年から稼働、その後「10万年間」、核廃棄物を地中に保管しておく施設(トイレ)だという。
 単位をよく確かめてほしい。「10年間」ではなく「10万年間」なのだよ、ん? 10万年? 
 「今夜、会える?」
 「そんな先のことは分からない」
 映画『カサブランカ』での、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの有名なセリフじゃないけれど、今夜のことさえよく分からない人間どもが、10万年先のことだって?
 冗談ではなく、そのころにまだこの地球上に人類が存在しているとでも思っているのか。凄まじいほどの楽観主義者たち…。
 小泉氏だって呆れる。同コラムを、もう少し引用する。

 帰国した小泉に感想を聞く機会があった。
―どう見ました?
「10万年だよ。300年後に考える(見直す)っていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場がない。原発ゼロしかないよ」
―今すぐゼロは暴論という声が優勢ですが。
 「逆だよ、逆。今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しいんだよ。野党はみんな原発ゼロに賛成だ。総理が決断すりゃできる。あとは知恵者が知恵を出す」
 「戦はシンガリ(退却軍の最後尾で敵の追撃を防ぐ部隊)がいちばん難しいんだよ。撤退が」
 「昭和の戦争だって、満州(中国東北部)から撤退すればいいのに、できなかった。『原発を失ったら経済成長ができない』と経済界は言うけど、そんなことはないね。昔も『満州は日本の生命線』と言ったけど、満州を失ったって日本は発展したじゃないか」(略)

 そう、総理が決断すれば、すぐにでも「原発ゼロ」は可能なのだ。
 まことに単純明快、笑ってしまうほどストレートな「原発ゼロ論」なのである。
 様々な人たちが、いろいろと理屈を言い立てる。ことに「原子力ムラ」に巣食う学者と称する人たちが、ほとぼりが冷めたとでも思ったのか、最近また、テレビに顔を出すようになってきた。
 テレビもテレビだ。一時はあれほど批判しておきながら、状況は何も変わっていないのに(いや、汚染水問題などを見れば、状況はむしろ悪化の一途だ)、平気で彼らを画面に引っ張り出す。裏でまたも金が動き始めた、と勘ぐられても仕方ない。
 だが、それらの学者(と称する連中)が、この小泉氏の「原発ゼロ論」に、きちんと論駁できるだろうか。そんな人物は絶対にいない、と僕は断言する。
 「10万年間の安全を保証する」などという学者がもしいたら、そいつはウソツキかインチキ預言者でしかない。

 僕は、小泉純一郎という人をほとんど評価しない。
 彼が切り拓いた有事法制や自衛隊海外派遣、郵政民営化、新自由主義的経済政策、雇用問題…、どれをとっても僕は納得できない。
 それに、小泉氏がもたらした最悪の影響は、「テレビの劣化」だったと思っている。いわゆる「ワンフレーズ・ポリテックス」だ。彼がライオンヘアを振り乱しながら発する、無内容だが聞こえのいい短い絶叫に、テレビは何の検証もなく飛びついた。
 曰く、「反対する連中は抵抗勢力」「自衛隊の行く場所は非戦闘地域」「女の涙は最強の武器」「人生いろいろ、会社もいろいろ」「反対するなら、自民党は私がぶっ壊す」…。
 その短いフレーズを、テレビは毎日のように(いや、番組ごとに)流し続けた。ちょうどテレビの間尺に合うきりのよさ、まことに使い勝手のいい絶叫だったのだ。
 それは、観る者への「刷り込み」として機能した。ことあるごとに「反対するものは抵抗勢力!」をテレビ画面から垂れ流されれば、視聴者はいつの間にか「抵抗する連中は悪いヤツ」と思い込む。結果は小泉旋風の大勝利選挙。内容のない大風だった。その結果、いったい何がよくなったか? 国民の暮らしはラクになったか?
 テレビは、自らがお先棒を担いだ「小泉ブーム」を、少しは反省しただろうか? 一時は、「小泉現象を検証する」というような論もちらほらと見かけはしたが、何のことはない、「アベノミクス」で、テレビは同じことを繰り返しているではないか。
 現象を追うのはいい。けれど、現象の裏に潜む危うさを抉り出せないならば、それをジャーナリズムと呼ぶことはできない。

 小泉現象を、僕は激しく批判してきた。この「マガジン9」の前身の「マガジン9条」を立ち上げたのも、小泉ブームのキナ臭さを感じていた僕を含めた数名の先輩や友人たちだった。
 だが、そんな小泉純一郎氏がいまやまともに見えるほど、安倍政権は危うい。
 ことに、原発政策に関しては、小泉氏の「原発ゼロ論」が、安倍のデタラメさを炙り出している。原発再稼働に前のめりになり、「世界最高水準の原発輸出」などと、ほとんど正気の沙汰とは思えぬ政策を「アベノミクス」の柱のひとつと位置づけている。
 アホらしやの鐘が鳴るわ!

 繰り返すが、この小泉氏の「原発ゼロ論」を論破できる人物はいるか? もしいるなら、原子力ムラの村役場にぬくぬくと隠れていないで、きちんと「原発トイレ」の完全無欠な設計図と方法論を携えて、国民の前に出て来なさい。
 その上で、どんな反論も撥ね返すだけの論理を発表するがいい。できないのなら、もうテレビなんかに出て来ないでくれ。せめて学者としての、それが最低の矜持というものだろう。

 もんじゅはダメ、六ヶ所村核燃料再処理工場は20回近い運転延期を繰り返しながら、いまだ操業の見通しが立たない。いわゆる核燃料サイクルの破綻は、誰の目にも明らかだ。つまり、いまだにトイレはない!
 漏れ続ける高濃度放射能汚染水は、手のつけようもない有様だ。
 責任者であるはずの茂木経産相は「まるでモグラ叩き」と他人事のよう。この大臣、どうしようもない。やっと、「国が前面に出て予備費を投じる」と言明したが、何をいまさら。東電は、「汚染水対策本部を作って対応を強化する」と、これも何をいまさら。

 海外からの反応が厳しくなってきている。英のフィナンシャルタイムズや米のニューヨークタイムズなどの有力紙も、汚染水問題を「レベル3の衝撃」として大きく報道している。
 安倍の歴史認識問題と重なって、東電福島原発事故処理の大失態は日本のイメージの強烈な失墜をもたらし始めた。
 「あれが世界に冠たる先進国か?」と、アジア各国の日本へのまなざしも冷え始めた。そんな中での「東京オリンピック招致」に、大騒ぎする猪瀬都知事と安倍首相。
 そして問題は、五輪招致について「東京は有利かどうか」のみに終始するテレビ報道だ。五輪招致への疑問を呈する報道は皆無ではないか。少なくとも、僕の眼にはそう映る。
 たとえ五輪報道とはいえ、すべてのテレビが(新聞には少ないながら疑問報道もある)一斉に「オリンピックを東京へ」と声をそろえるのは、明らかにおかしい。戦前並みの翼賛報道である。
 だが、悲観材料ばかりではない。戦前とは明らかに違う状況が確実に生まれつつある。市民メディアの誕生だ。
 我々は小さなメディアで反撃する。この「マガジン9」もそうだし、小さな市民ネット「デモクラTV」も反撃ツールだ。「IWJ」や「アワープラネットTV」なども、同じ意志を持っていると僕は思う。
 金曜日国会前デモは終わらないし、同じようなデモや集会は、今も全国各地で続いている。むしろ、その数が増えている。だから、負けない。

 話は、少し変わる。
 8月26日、映画『標的の村』(詳しくは「マガ9」インタビューを参照)に登場する沖縄・高江の「ヘリパッドいらない住民の会」共同代表の安次嶺現達さんと伊佐真次さんの記者会見が、東京・日比谷の日本記者クラブで行われた。僕も出席した。
 おふたりの話は訥々と、しかし悲しみと怒りに満ちたものだった。ことに、SLAPP訴訟という理不尽な裁判に直面しなければならなかった辛さや苦悩…。あの映画に描かれた闘争の陰の、平凡な人間の営みの強さ。それらが重い言葉の端から漏れてくる会見だった。
 僕は来週、沖縄へ行く予定だ。見たもの、訊いたこと、歩いたところ、お会いした人…、次回のこのコラムに、この会見の模様も含めて沖縄について書いてみたいと思っている。
 (でも、半分は遅い夏休みです…)

 そんなわけで、来週はこのコラムはお休みします。数少ない読者の皆さん、すみません。

 

  

※コメントは承認制です。
149 小泉純一郎氏の「原発ゼロ論」」 に4件のコメント

  1. 山下太郎 より:

    ええええええ、来週お休みなの、、毎週たのしみにしてたのに残念、、

  2. ガクナシ、カネナシ… より:

    分かってないですなぁ…「一流の詐欺師程まともに見える」んだよ。で、「一流の詐欺師」ほど質の悪いものはない訳。知識に頼りすぎてはアカンですよ。つまり、結果的に安倍ちゃんのがコントロールしやすいだけマシなわけ。

  3. edd より:

    小泉政権の自衛隊の海外派遣などは自分も全く支持しませんが、
    しかしワンフレーズポリティックスはそれなりに評価してますよ。
     
    今だって「安倍政権は原発ゼロの抵抗勢力!」とやればわかりやすいし、そこらの主婦層も拍手喝采ですよ。
    小泉はそういう事を非常に良くわかっている。
     
    安倍政権が小泉政権より遥かに酷いというのは全くその通り。
    はっきり言って最悪です。

  4. osakabemiutko より:

    元総理、忘れられつつある人の口ではなんとでも言えますね。現役の息子にいわせるならともかく、隠居の身で、パフォーマンスをやってもね。今のひどい流れはそもそも、この人が仕掛け人。自分の身の防衛かしら、だとしたら少しはまともかも。まあ、さんざん悪事を働いた、香田さん殺しの男の言うことなどマトモにきけません。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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