下北半島プロジェクト

引き続き、A子ちゃんのピースボート乗船レポートです。寄港地の一つ、経済発展著しい中国の上海に降り立ったA子ちゃん。そこで出会った光景に、考えたことは…。

 「みなさま、本船はまもなく上海港に着岸します」
 10月24日(木)夕方、船内で少し早めの夕食をとっていた時、アナウンスがかかりました。ワクワクしながら船室に戻り、カーテンを開けると、ライトアップされた超高層ビル群。丸い展望台のある「東方明珠電視塔」(上海テレビタワー)や、地上101階建ての「上海環球金融中心」(森ビル)がまばゆいばかりに光っていました。私たちを乗せたオーシャンドリーム号は、揚子江をゆっくりのぼり、入港を待っているところでした。

船室の窓から見えた上海の夜景

 しばらくして下船手続きを済ませ、初めての中国に降り立ちました。同い年のルームメイトと、船上で仲良くなった大学生の女の子と一緒にバスに乗り、いざ上海の中心街へ。すでに外は暗くなっていましたが、メインストリートには高級ブランドショップや豪華なホテルが軒を連ね、東京を派手にしたような雰囲気でした。一本、道を入ったところにコンビニがあり、お菓子でも買おうと入ってみると、日本製の商品がたくさん並べられていて、「ここに住んでも食べ物は大丈夫そうだなあ」などと思いました。
 ところがコンビニを出ると、さっきまではいなかった小さな男の子と、母親らしき女性が道に座っていました。初めて出会った「物乞い」の光景でした。汚れた服を来た親子は、上目遣いでお金を求めます。どうしたらいいものかと迷いつつも、私たちはその場を立ち去りました。あとで聞いた話では、物乞いをする人にも、本当に貧しい人と、そうではない人がいるそうです。コンビニの前の親子がどうなのかはわかりませんが、表通りの華やかさとのギャップに、少しの間、無言になりました。
 
 その時、思い出していたのが10月22日(火)に船内で行われた「世界がもし100人の村だったらワークショップ」でした。池田香代子さんが翻訳した同名の絵本を題材に、100人の参加者が「100人村」を疑似体験するユニークなイベントです。
 一人ひとりに紙が配られ、そこには年齢層、出身国、挨拶の言葉などが書かれています。「経済的な豊かさ」ごとに5つのグループに分かれ、それぞれの経済力に応じたクッキーを配られました。もっとも豊かなグループは十数人しかおらず、そこに何十枚ものクッキーが配られていました。私が入った貧しいグループは何十人もいるのに、ほんの数枚のクッキーです。それを仲間と分け合って食べるところまで体験するのですが、途中で見かねた裕福なグループが「分けてあげる」と数枚のクッキーをくれました。
 イベントの進行役のスタッフが裕福なグループに「クッキーをたくさん配られてどういう気持ちでしたか?」と尋ねると、1人が「貧しいグループに分けてあげたにもかかわらず、向こうは冷たい視線だった」と不満をもらしました。
 もしも私が上海で見かけた親子にお金を渡していたら、彼らは同じように思ったかもしれません。裕福な状態にいる人が、そうでない人を支援するとしても、自分が安全圏にいられることが大前提。なんだかかっこ悪いのですが、せめてそれを自覚していたいものだと思いました。
 下北半島プロジェクトに落とし込んで考えてみると、私たちの活動は、いつも東京からの発信です。本当は実家に帰って、青森県民として何かしたほうがよいような気はしながら、東京に住み続けています。経済的格差問題にしろ、原発問題にしろ、支援している人たちが、安全圏から一歩外に出られるかどうかが、重要な気がしました。
 
 とはいえ、立ち止まっていては元も子もありません。100人村ワークショップの最後、池田香代子さんはこう言いました。
 「5つに分けた経済的階層の間には、とても高い壁があります。最も豊かなグループは、世界中の富の80%以上を握っているだけでなく、情報も豊富に持っています。そのグループの壁にだけ、乗り越えるための『足がかり』がついています」
 もしも自分の目の前に“足がかり”があったとしたら、ちゃんと生かしたい。きっとその足がかりはかすかなものだから、しっかり目を見開いて探さなければならない。船の中のイベントと、寄港地で見たものがオーバーラップする体験でした。(A子)

(もう少し続く)

 

  

※コメントは承認制です。
第34回「日韓クルーズ PEACE&GREEN BOAT2013」に行ってきました!(その3) 〜上海で「100人村」のことを考えました〜」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    A子ちゃんにとっては、初めての海外体験。それだけに、改めて考えさせられることもいろいろあったよう。見るもの聞くものを、故郷・青森に重ね合わせての旅レポート、まだもう少し続きます。

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