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ユーロでもドイツの一人勝ち?

 6月8日、4年に1度開催される欧州サッカー選手権(ユーロ)第14回大会が開幕した。今回の開催国はポーランドとウクライナ。中欧ならびに旧ソ連諸国での開催は初めてである。

 ポーランドとウクライナは歴史的に関係が深い。20世紀前半までハプスブルク家が統治していたオーストリア=ハンガリー帝国北東部の領土であるガリチア地方は、現ポーランド南東部とウクライナ北西部に当たる。この地域はカトリック信者が多く、とくにウクライナは正教徒の多い同国東部と文化を異にする。ポーランドとウクライナの共同開催は、国民国家誕生以前の欧州地図を思い出させるのである。

 開幕戦はワルシャワでのポーランド対ギリシャだった。ユーロ初開催国となったポーランド・サポーターの圧倒的な声援を受けたポーランドが先制。この勢いで行くかと思いきや、ギリシャは堅守で持ちこたえ、1人退場というハンデを負いながら後半に追いついた。その粘りは2004年のポルトガル大会を思い出させた。同大会前の下馬評でノーマークだったギリシャは、開幕戦で開催国かつ優勝候補筆頭だったポルトガルを破り、その後も強豪を次々と撃破。あれよあれよという間に優勝を果たしたのである。ドイツ人、オットー・レーハーゲル監督による、徹底した堅守とカウンター攻撃が見事に当たった大会だった。

 今回のギリシャはポルトガル人、フェルナンド・サントス監督が率いているが、再び旋風を巻き起こす予感がする。チームの戦力や戦術よりも、財政危機に陥り、他のユーロ圏の経済先進国から厳しい財政規律を求められている自国の反発が、今大会のチームにプラスの作用として働くと思うのである。

 ギリシャ同様、財政危機に陥り、ユーロ圏ならびに先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議による金融支援の対象となっているスペインは、堅い守備が伝統のイタリアの前のめりの攻撃に押されて、先制を許したが、すぐに返してドロー発進した。

 財政事情の厳しいもうひとつの国、ポルトガルの初戦相手は、これまでユーロ最多3回の優勝を誇るドイツだった。

 フィジカルにものを言わせた武骨な攻撃とゴール前に壁のごとく立ちはだかる守備――かつて私はドイツのサッカーにそんなイメージを抱いていたが、2006年のドイツワールドカップを機に変わった。左右に大きくパスを回しながら、相手の守備を崩していくダイナミックなサッカーに、新しいドイツのスタイルを見た気がしたのである。

 そのドイツはポルトガルに1対0で勝利したものの、終盤はポルトガルの猛攻に防戦一方だった。必死に身体を張って守り抜くドイツの姿をこれまであまり見たことがなかったが、優勝候補であるドイツにとっては、初戦を手堅くつかんだ順調なスタートといえるだろう。

 この試合を見て、私はパワーと技術のバランスのとれたドイツが優勝するのではないかという思いを強くした。その反面、今大会でドイツが4度目の優勝を果たしたら、経済大国ドイツの欧州における「一人勝ち」の様相がますます濃くなるであろうことに、若干の懸念を感じないわけにはいかなかった。

 ドイツの週刊誌『シュテルン』(6月5日付)は、「ドイツ国民の半数がギリシャのユーロ離脱を望むという世論調査が出た」と報じた。調査会社フォルサが1001人のドイツ人を対象に実施した調査によると、ドイツ人のほぼ半数がギリシャのユーロ離脱を望んでいるほか、3分の1はギリシャ危機がユーロに脅威をもたらす可能性を強く懸念しているという。一方、ギリシャのユーロ残留を望むのは39%だが、全体の約3分の2は「(ドイツの)メルケル首相には引き続き、ギリシャが確約した緊縮財政の実行を求めてほしい」と回答した。

 昨年、メルケル首相は、財政危機にある南欧諸国の早い退職年齢や長い休暇を指して、「ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの国民はドイツ国民より早く退職すべきでない」「ある国民が長い休暇、他の国民が短い休暇しかとれないのでは一つの通貨(ユーロ)は保てない」などと発言し、名指しされた国の政治家や労組指導者、メディアから「ドイツ人の休暇の方が長く、退職年齢もほとんど変わらないではないか」と猛反発された(実際にドイツ人の方が休暇は長いと思う)。

 ここでドイツが優勝すれば、同国の強気の姿勢は増長され、南欧諸国の反発はさらに強まり、ユーロの存在はますます危ういものになるのではないか。

 経済や政治のことを持ち出しつつスポーツを語ることは慎みたいのだが、今大会のユーロは欧州共通通貨「ユーロ」(今回の出場16カ国うち、ユーロを採用しているのは9カ国である)の存在をまったく抜きにしては見られないのである。

(芳地隆之)

 

  

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