マガ9スポーツコラム

成熟したファンが待つキックオフ
─W杯南ア代表メンバー確定─

 先日、6月に開幕するサッカーワールドカップ・南アフリカ大会に出場する日本代表のメンバーが発表された。

 岡田武史監督にとっては隔世の感だろう。彼が日本代表を初めてワールドカップに導いた12年前の最終選考では、三浦知良をメンバーから外したことに対して、普段はサッカーに関心のなさそうな評論家まで意見を開陳するほど、議論が沸騰した。当時に比べれば、実に淡々とした発表だったといえる(川口能活の選出は小さな、うれしいサプライズだった)。

 一方、マスメディアにとっては、騒ぐネタが少なく、物足りなかったのではないだろうか。現在の代表には、中田英寿氏のような存在感のあるキャラクターはいない。しかも、今年2月に開かれた東アジアサッカー選手権の目を覆いたくなるようなプレー以降、日本代表チームは低迷を続けている。いまでは岡田監督が掲げる「目標はベスト4」について、誰もまともに言及しなくなった。

 岡田ジャパンは強いというコラムを以前に書いた私も、3位に終わった東アジア選手権は悪夢を見るようであった。でも、ここ最近の日本代表はさらなるステップアップのためにもがいていたのではないかと思っている。選手は岡田監督のいう「コンパクトなパス回し」を体得した。しかし、その上乗せとしての「自由な発想と想像力豊かなプレー」が果たせていない。そのように見えるのである。
 東アジア選手権の最終戦で韓国に1―3で負け、岡田監督の解任を求める声が上がったことに対して、右サイドバックを務めた内田篤人は次のようなコメントを残している。

 「なんで監督があんなふうに言われるのかが分からない。悪いのはオレたち。できてないのは選手なんだから」

 日本代表がこれからどれだけレベルアップできるかはわからない。ただ、選手の置かれている環境は悪くない気がする。マスメディアに必要以上に騒ぎ立てるネタはなく、サッカーファンも冷めているので、選手たちは余計な雑音や過剰な期待から、ある程度自由に最終調整へと入っていけるのではないかと思うのである。

 日本のサッカーファンは成熟した。

 日本代表の試合に空席が目立つと嘆く声がある一方、Jリーグ(J1)の観客動員数は減少しておらず、1試合の平均入場者数は2009年まで3年連続で1万9000人台をキープしている。

 たとえば、今シーズン久しぶりにJ1復帰を果たしたベガルタ仙台の活躍に地元サポーターは元気一杯だ。矢野貴章を代表に輩出したアルビレックス新潟は低迷しているが、観客の足はスタジアムから遠のいていない。

 日本代表の試合は盛り上がらないとマスメディアが深刻な様子で伝えるのは、テレビの視聴率が取れなかったり、新聞や雑誌のサッカー特集が読まれなくなったりしているからだろう。日本代表が躍進しようが、しまいが、おらがチームを応援するサポーターの姿勢は変わっていない。

 日本のサッカー界は、ナショナルチームの人気がJリーグのそれを牽引していくようなスポーツ途上国型を卒業したのだと思う。

 2002年の日韓ワールドカップ、2006年のドイツワールドカップに出場したドイツ代表の下馬評は必ずしも高くなかった。もともとマスメディアがはしゃいだりしないお国柄だが、ドイツ代表は一試合ごとに戦前の評価を翻し、それに従って国内も盛り上がり、決勝(日韓W杯)、準決勝(ドイツW杯)へと勝ち上がっていったのである。

 いまの日本代表を当時のドイツ代表に重ねるわけにはいかないが、日本の弱さが露呈してしまったことで、皮肉にも岡田監督の言う「世界を(そして日本人も)驚かす」条件は整った。サポーターは冷めた目で、南アでのキックオフの笛を待っている。

 初戦のカメルーン戦まであと1カ月――。

(芳地隆之)

 

  

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