渡部建具店の日々

東京での暮らしを後にして、故郷である滋賀県米原市にUターンした渡部秀夫さんと優さんのご夫婦。自分たちの足もとを見つめながら、地域での新しい交友関係を作り、場づくりに挑戦しています。そんな暮らしの日々から考えたことを綴ったり、またそこで知り合った人たちや面白い試みについても紹介していくコラムです。不定期掲載でお送りします。

第3回

「FEC自給圏ネットワークと清一さん」

 寒さも続いていますがちらほらと梅も開花し始め、じわじわと春の訪れを感じる柏原です。
 今回ご紹介させていただくのは、滋賀県の北西に位置する高島市で活動されている「FEC自給圏ネットワーク」さんです。
 同市にて小水力発電の実現に向けて動かれている「市民エネルギーたかしま」の母体団体となります。
 FEC自給圏ネットワークを2012年に立ち上げたのは、高島市で食とエネルギーをできるだけ自給しながら暮らす、福井陽児さんと富久子さんご夫妻。

 FECとは、
 「Foods(食糧)」
 「Energy(自然・再生可能エネルギー)」
 「Care(介護・ケア)」の頭文字にあたり、
 「自然にある再生可能エネルギーを活用して、農業や酪農、水産の再生によって食糧を自給し、同時にケア(介護、医療、教育など)についても域内でまかなう。そして、「FEC自給圏」の形成によって新しいコミュニティの創造を目指す。」(ホームページから引用)ということを目的とされています。
 これまで、ケンジ・ステファン・スズキ氏、田中優氏の講演会、映画『シェーナウの想い』の上映会、地域における自然エネルギー探索のためのワークショップ、ロケットストーブコンロ手作り教室等々を実施され、現在では38名の会員、215名のメーリングリスト登録者がおられます。
 活動開始当初は「変わり者扱いされても構わないから、自分達だけでも、できることをしよう」と、講演会をきっかけにFEC自給圏ネットワークのメーリングリストを立ち上げ、最初の一歩を踏み出されました。
 FEC自給圏のネットワークは緩やかですが、活動を通じてどんどんと仲間は増え、勇気をもって足を出すことの大切さを実感されたとのことです。
 

薪人の祭 in マキノピックランド 2013

 ご夫妻は高島市に引っ越される以前は、滋賀県の県庁所在地である大津市に住まわれていました。当時から環境問題に関心があり、学びを進めていくにしたがって地球温暖化の深刻さや環境問題は、エネルギー問題であることを知ったそうです。都会に住みながらもできる範囲内でエネルギーと食の自給に取り組まれていたのですが、子や孫、これからの世代へとこの地球環境を繋げていく者の責任として、もっとしっかり自分たちができることを足下からやりたいとの思いで、現在の田舎暮らしを始められました。
 田舎の魅力はなんですか? と尋ねると次のように返ってきました。
 「薪、太陽光などのエネルギー、水、そして食料である米も野菜も自給が可能。そして、いろんな活動を通して、人と人の繋がりも増えた。自立した生き方を目指し、自立した循環型の地域を作るために、やりたいことや、できることがいっぱいある。無限の可能性がある。毎日の暮らしそのものが生きること」

暮らし、地域ですすめるエネルギー自給のためのみらい市
in高島産業フェア2012

 僕たちが福井ご夫妻と出会ったのは一昨年に京都府の舞鶴でおこなわれた「エネルギー自給のための未来市」です。まだFEC自給圏ネットワークの活動が始まったばかりの頃でした。食い入るようにロケットストーブコンロの制作を見た後お2人に話しかけ、滋賀県人だと知り驚いた記憶があります。
 ちょうどこそのイベントの数ヶ月前に、デンマークへ「福祉・民主主義・再生可能エネルギー」の三つのテーマをもって出かけ帰ってきたところだったこともあり、滋賀にもこんな人いるんだ! と嬉しくなりました。これは面白い。もっとゆっくり話したい。と思い、ご自宅を目指し琵琶湖の東から西へ自転車で向かいました。途中琵琶湖で泳ぎつつ(ちなみに滋賀の人は琵琶湖で泳ぐことを海水浴と言います)。美味しいご馳走と温かい人柄で歓迎してくださったことをしっかり憶えています。

琵琶湖の畔 2012年

 僕たちがおこなっている「間」と称した場づくりは今年に入り3回実施しました。いずれも以下のリンク先で当日のまとめをお読みいただけます。どんな想いでやっているか知っていただけたら嬉しいです。

「ZOURI WORK SHOP」柏原の区長さんに藁草履の作り方を習いました。

「上映会の間 Occupy Love」セヴァン・スズキさんの来日に合わせた全国一斉上映キャンペーンに乗っかりました。

「上映会の間 Canta! Timor ――カンタ! ティモールー」監督の広田奈津子さんと音楽家の小向定さんにもお越しいただきました。

次回は4/19(土)に「間#8 座談会――松本英揮さんを囲んでー」を開きます。

間#8 座談会 リーフレット

 そう言えば、「コラムを読んで会いたくなって来ました」と、1時間以上もかけて来場してくださった方との出会いもありました。その方はマガ9のファンで滋賀県在住。同じ滋賀県人がコラムを書いていると知り興味をもってくださったとのことです。嬉しかったなあ。メディアが流す大きな声に暗澹たる気分となることは多いのですが、自分たちの歩幅でおこなっている活動を通して出会う人から得られるものは希望です。記号化された情報より、目の前に居る人の声に重きを置きたいと思います。

習作の図。今年1年分の藁草履を作ります。

 4月から田んぼ作りが始まります。
 去年と同じく伊吹山スローヴィレッジさんに一画をお借りして、今年は一家が一年分食べられるだけの量を育てます。もちろん無農薬無施肥の自然栽培です。
 また、近いうちに柏原のホームページを完成させたいとも思っています。これを作りたいと言った時に紹介された方のお宅へ先日伺いました。その人は、30年ここ柏原で写真を撮られています。現在90歳になる清一さん。清一さんから矢継ぎ早に「ぼくには写真を撮ることくらいしかできまへん。暮らしているここ柏原の景色や人を撮り続けている。あと5年は生きたい。そやから友達になって欲しい」と言われました。ありがたい限りで、これもまたぼく達ができること、させてもらえることの一つだと思います。この場所でやること、やれることは沢山ある。
 ホームページには是非とも友達になった清一さんの写真を使わせてもらいたいです。

ZOURI WORK SHOP リーフレット

 

  

※コメントは承認制です。
第3回 「FEC自給圏ネットワークと清一さん」」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    なんと、マガ9読者からのアクションが! こうして人と人とのつながりのきっかけになれること、とても嬉しく思います(実はスタッフもちゃんと柏原にお伺いしたことがないので、今年はぜひ! と思っていたり…)。
    読んでのご感想、また「うちの地元でこんなこと始めました!」な情報も、ぜひコメント欄で。

  2. sonoda より:

    職場の昼休み、弁当を食べながら読むのが日課のマガジン9。
    そのコラムを同じ滋賀の方がっ!と嬉しくなって、琵琶湖を南から北へ、渡部建具店さんのところに駆けつけました。
    参加したのはオキュパイラブの上映会。集まった人と、感想や思いを共有しながら、「あぁ!一人じゃない!」と心が満たされました。世の中、ツナガルツールはたくさんありますが、生身の人と人が膝を突き合わせて話せる場の大切さを改めて感じられる時間でした。
    渡部さんのお人柄もすごく素敵です。ぜひまた参加したいです。
    マガジン9は私にとって、大切な学校。掲載のデモに参加したり、ここで知ったジャン・ユンカーマン監督の映画を、自主上映してみたり、今までには無かった『私の1歩』を作ってくれています。
    こんな素敵なwebマガジンをつくってくださっているスタッフのみなさんに、本当に感謝しています。

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渡部建具店

渡部建具店: 2013年6月から活動開始。琵琶湖の近くで暮らす秀夫と優の夫婦で、秀夫の先代までの屋号を用いて「間」と称した場づくりを主におこなっている。現在までに「上映会の間」「対談の間」など、その時々で自分たちが向き合いたいモノゴトを取り上げ、ヒトが集い対話することに重きを置き、目の届く範囲を大切にしながら自分たちの歩幅で活動している。他にデザインや車椅子利用者の旅のお供なども。建具はつくれません。 ホームページ

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