女性が動けば変わる!

 
 グリーン・ウイメンズ・ネットワークとのコラボ企画でお送りする《女性が動けば変わる!》シリーズは、「エネルギー×地域×食と農×女性」をキーワードに、「ジェンダー平等」実現のためのコンテンツをお送りしていきます。具体的には、自然エネルギー、食、農そして子育てなど命の問題に直結する現場などで、女性がリーダーシップをとり、活き活きと取り組んでいる具体的な事例を中心に紹介していく予定です。企画意図についてはこちら。
             *
 今回は、〈自然エネルギー編〉の第二回目として長野県上田市の上田市民エネルギーで活躍する藤川まゆみさんを、ノンフィクションライターの高橋真樹さんのレポートで紹介します。

◆「脱!オジサンコレクション」

 「これじゃあまるで“オジサンコレクション”だなぁ…」。2012年、ぼくは全国で自然エネルギー普及に取り組む100人以上にインタビューをして、『自然エネルギー革命をはじめよう――地域でつくるみんなの電力』(大月書店)という本を出版しました。その校正中、失礼にもそんなことを思ってしまったのです。

 無意識に選んだインタビュー相手はほとんど50代以上の男性ばかり。もちろん故郷の未来を想い、転職までして自然エネルギーを広めようとしている人たちの人生はとても魅力的で、インタビューしたぼくの心は躍りました。でも一冊の本にまとめたとき、内容とは別に、このままじゃちょっと性別や年齢のバランスが悪すぎるなぁと感じてしまったのです。

 というのもぼくはその前年、ハワイ先住民の取材をまとめた『観光コースでないハワイ』(高文研)という本を執筆しました。地域で持続可能な社会づくりのために活躍する100人以上にインタビューをしてつくった本です。特に意識して女性を選んだわけではないのに、登場する半分以上が女性でした。それだけに日本で自然エネルギーの本をつくった時に、よけいに「オジサンばかり」が気になったのかもしれません。

 両者の違いは、社会の中で女性がリーダーシップを発揮することが当たり前になっているかどうかだと思います。もちろん日本にも、リーダーになれる女性はたくさんいます。でも、結婚や出産、子育てを経験すると、社会的な活動と距離を置かざるをえない日本の環境がハードルとなってきました。

 でも人口の半分は女性なのに、オジサンの意見ばかりが優先されるというのはおかしなことです。また、第1回で取り上げたように、エネルギーは日々の生活の中で女性たちが常に関わっていることでもあります。そして年齢についても、自然エネルギー事業は20年以上のプロジェクトになるので、若者が関わらないと持続可能とは言えません。

 すべてひっくるめて、日本はこのままじゃいけないよな、と感じていた矢先、東日本大震災と原発事故をきっかけに誕生した地域のエネルギー事業で、続々と女性たちの活躍がはじまりました。しかも、従来の女性政治家にありがちなオジサン化したちょっと近づき難いタイプではなくて(失礼!)、私たちの身近にいる、そして豊かな個性を持つ人たちが事業を引っ張るようになってきたのです。今回紹介する藤川まゆみさんも、そんな従来のリーダー像を打ち破る、「みんなで応援しなきゃ!」と思わせるような不思議な魅力を持つリーダーの一人です。

◆大きな屋根にみんなで「相乗り」

上田市民エネルギーの藤川まゆみさん(2013年 千葉にて)

 「『上田の特産物は太陽光だ!』って言えるようになりたいですね!」。そう言って微笑むのは、なんとも柔らかい雰囲気をたたえた藤川まゆみさんです。彼女が代表理事を務める「NPO法人上田市民エネルギー」は、長野県東部の上田市で「相乗りくん」というユニークな太陽光発電事業を進めています。「事業をやるなんてまったく自信がなかった」と語る藤川さんですが、「相乗りくん」の話題になると、そんな過去はちっとも感じさせないほど、聞き手をぐいぐいと引き込むように説明してくれました。

 上田市は、長野県の中でも日照時間が長いという気象条件に加えて、広く日当たりの良い屋根が使われずに空いていました。「相乗りくん」はそんな条件の良い民家の屋根に、みんなで1軒分以上のエネルギーを生み出す太陽光パネルを「相乗り」させ、地域に自然エネルギーを増やしていこうというプロジェクトです。屋根を貸す家の所有者「屋根オーナー」と、一口10万円からの設置費用を負担して自分のパネルをそこに相乗りさせる「パネルオーナー」とで成り立っています。

 「屋根オーナー」は、初期費用を安くおさえて自宅にパネルを設置することができます。また「パネルオーナー」になる人たちは、自宅の屋根は条件が合わずに設置できなくても、太陽光発電に参加することができるうえに、10年間で設置費用額よりも1割程度多い売電収入を得ることができるという魅力的なプロジェクトになっています。

 2011年からはじまった「相乗りくん」は、お金が集まった分だけ設置するという方式で、ゆっくりとですが着実に広まっていきました。2014年4月現在のパネルオーナーの総数は81人で、15軒の家庭やアパートの屋根で合計108.3キロワットの発電を行っています。これは一般家庭でおよそ25世帯分にあたり、発電開始から1年が経過した住宅では、年間のキロワットあたりの発電量が全国平均を5割近く上回るケースも増えています。

 効果が出ているのは発電量だけではありません。「屋根オーナー」の中には、「単に自分の家に自宅分のパネルをつけるだけよりも、パネルオーナーの人や、藤川さんらNPOのスタッフの人たちなどとの、新しい人とのつながりが増えて面白い」と楽しむ人もいます。また、パネルオーナーからは、「自分にもできることがあると実感した」という声があがっています。なお、参加者のおよそ半分は長野県内の人で、自然エネルギーを使って、地域でお金を回す仕組みとしても機能しはじめています。

 もちろん、誰もやったことのないビジネスを軌道に載せるのは楽ではありません。ビジネスなどやったことのなかった藤川さんは当初、「何でこんなにたくさんハードルがあるのかな」と思い悩んだと言います。また、収益も多くないのでこれまで専従スタッフは藤川さん一人しかいませんでした。けれど、地域の特性を活かして、誰もが参加できるようなシステムをつくったことで、徐々に他の地域からも注目を集めるようになってきました。

 藤川さんたちが大切にしているのは、「等身大で活動する」ことです。専従スタッフを一度に大勢雇ったり、大きな設備をつくってしまうと、クリアしなければならない課題はより多くなり、挫折する可能性が高まります。「相乗りくん」を立ち上げたメンバーは、「まず1軒でいいから、集まった分のお金で設置しよう」というところから始めました。身の丈にあったプロジェクトであったことが、うまく進んだ要因になっているのです。

※太陽光発電の発電量によって収益は変動するため、金額が保障されているわけではありません

◆「何もできない私でいいの?」

藤川さん(右)と、鎌仲ひとみ監督(2013年 世田谷にて)

 「たった3年で人生は変わる」という携帯電話会社のCMがありますが、今「相乗りくん」を広げるために全国を飛び回る藤川さんはまさに、3年前には自然エネルギーを仕事にすることなど、想像もできなかったと語ります。

 東日本大震災が起きたその日、藤川さんは大手寿司チェーン店でアルバイトをしていました。当時小学生の子どもを持つシングルマザーとして、これからどうやって生きていくか、定まっていない状態だったと言います。

 エネルギーの問題については震災が起きる前から関心が高く、青森県六ヶ所村の原子力施設をテーマにした『六ヶ所村ラプソディー』(鎌仲ひとみ監督)という映画の上映会を主催するなど、地域にネットワークを広げていました。そして震災後には、地域通貨の活動などを通じてつながった市民活動の仲間たちとの間で、エネルギー事業を立ち上げようという話が持ち上がるようになります。

 また、震災後に開催された飯田哲也さん(環境エネルギー政策所所長)の講演で聞いた「エネルギーシフトには事業化(ビジネス)が必要だ」という言葉も、藤川さんの心に響きました。「気持ちとしてはやりたい、でも、何のスキルも経験もない自分に、ビジネスなどできるのだろうか?」という不安が常にありました。

 「だって私、パソコンも苦手なんですよ? 当時はハローワークで職業訓練を受けていましたが、“ワード”の試験にも簿記3級も落ちちゃったんです。就職指導の先生には、この先の仕事をもっと具体的に考えないと生活できなくなりますよって、心配されていたんです」

 しかし、「相乗りくん」の立ち上げ準備が進むうちに、仲間の間では代表を藤川さんがやるという暗黙の了解ができあがっていきました。

 「『これ誰がやるんですか?』と聞いたら、『藤川さんしかいないでしょう!』って当たり前のように言われました(笑)。私以外は誰も引き受けられる状況じゃなかったのは確かですが、本当に自信がなくて、生活費を稼ぐこともままならない自分ができるわけがないと、何度かお断りしたんです」

 この事業は、参加者と10年間以上の契約をするものなので、いったん始めたらやめられないというプレッシャーもあったと言います。しかし、周りの人たちの声が、そんな藤川さんに決断をさせました。 

 背中を押してくれた一人は、ずっと心配をしてくれていた就職指導の先生です。藤川さんは「相乗りくん」事業について話し、やりたいけれども自信がないと打ち明けました。

 「すると先生は、藤川さんならできますって言ってくれたんです。すごい覚悟は必要だけど、その仕事は、パソコンや簿記ができなくても、藤川さんの持っているものを出せばできる仕事じゃないかって。そのときは驚いたし、すごく嬉しかったです」

 「藤川さんがやるのなら、ぼくはお金を出して参加するからね」といち早く言ってくれた人は 地域通貨グループのメンバーでした。「やるしかない!」と代表になる覚悟を決めたのは、2011年の夏頃です。

 「私は、本当に周りの人に恵まれているんです。そうした人たちの支えがあって、地域にこのネットワークがあれば、自分でもできるかもしれないという気持ちになれたし、『相乗りくん』を広げることができたのだと思います」

◆一人息子がパートナー

「ご当地エネルギー」について語る筆者(左)と藤川さん。中央は、「藤野電力」の小田嶋電哲さん(2013年中津川THE SOLAR BUDOKANにて)

 女性がエネルギーに関わることについて質問すると、藤川さんはとくに男女を意識しているわけではないがと言いつつ、こう答えました。

 「前面に立っている私が女性だということで、『私にも何かできるかもしれない』と反応してくれる女性の方が多いという効果はあると思います。今のところ、屋根オーナーのほとんどは男性なのですが、パネルオーナーは女性の方が多くいらっしゃいます。それも関係しているかもしれませんね」

 一方で仕事と子育ての両立については、「よく聞かれますけど、まったく両立していません」と苦笑い。

 「仕事に重点がありすぎて、逆に子どもに支えてもらってきた感じです。小さい頃から対等につきあえるタイプの子で、親子というより一緒に進むパートナーみたいな感覚かもしれません。今までも良いタイミングで、力づけてもらってきましたから」

 一人息子はこの春で中学二年生。今は自分のことで忙しく、特に自然エネルギーに関心があるということでもなさそうです。でも、母親が人前で講演したり、新聞やテレビに出たりすることを小学生の頃から見てきて、「ちょっと面白がっているのでは」と言います。

 「中学一年のときに国語で原発をテーマにした感想文を書いていましたね。少なくとも私が自分に嘘をつかず、本音で仕事をしていることはちゃんと分かってくれているような気がしています」

◆「相乗りくん」を広げたい!

 地域のイベントやフリーマーケットなどで熱心にブースを出してきた上田市民エネルギー。その地道な活動により、「相乗りくん」は上田市のみならず、長野県各地や全国で知られるようになってきました。そしていま、「相乗りくん」の事業は新しい段階に入ろうとしています。

 現在、上田市民エネルギーが最も力を入れているのは「相乗りくん」の手法を広く公開し、長野県内の他の地域の人たちが市民で発電事業をはじめられるようサポートすることです。そのため自然エネルギー推進に熱心な長野県からの委託事業という形で、「一般社団法人 自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)」も藤川さんが立ち上げました。上田市民エネルギーの専従スタッフは今まで藤川さんひとりでしたが、NECOの事業のために4月から新しいメンバー4人が加わりました。

 「私が誰かを雇うようになるなんて、思いもしなかったですね。しかも本当に素晴らしい人たちが集まってくれました。私は相乗りくんを始めて以降、奇跡的にうまくいくことが度々あるので、自分には『エネルギーの神様』がついてくれているんじゃないかって、半分本気で思っています!」。そう言って、藤川さんは目を細めます。

 彼女は、「地域で自然エネルギーへの参加やアクションをうながすためには、その地域の人が呼びかけることが、一番の力になる」と確信しています。

 「私たちがここまでやってこられたのは、居住地の上田で、地域の人が協力してくれたお陰です。地域で市民が自然エネルギーを増やしていくには、地域のネットワークが有効です。でも、みんなが知識や技術を持っている訳じゃないから、そこをNECOがお手伝いしますよ、ということになります。自然エネルギーを増やしたいと思う方は、ぜひ参加して欲しいと思っています」 

 5月から新事業をはじめるために、さまざまな書類申請に悪戦苦闘する毎日は、猛スピードで過ぎていきます。そこには、3年前「自分にはできない」と不安に苛まれた面影はありませんでした。

「相乗りくん」を導入したアパート

NPO法人上田市民エネルギー
相乗りくんの屋根オーナーとパネルオーナーは随時募集しています。詳しく知りたい方は、上田市民エネルギーのホームページからお問い合わせください。

高橋真樹 ノンフィクションライター
全国をめぐって地域や市民による自然エネルギーの取り組みを伝える。著書に『自然エネルギー革命をはじめよう−地域でつくるみんなの電力』(大月書店)など。ブログ「高橋真樹のご当地電力リポート!」で各地の地域エネルギー事業の紹介を続けている。

 国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、
「女性たちのネットワークをつなげ広げることが、
原発など環境問題の解決への大きなパワーとなる」とし、
「グリーン・ウイメンズ・ネットワーク」をスタートさせました。
グリーン・ウイメンズ・ネットワーク

 

  

※コメントは承認制です。
〈自然エネルギー編〉「何も知らなかった私」が広げた、太陽光発電
〜長野県上田市民エネルギー 藤川まゆみさん〜(高橋真樹 ノンフィクションライター)
」 に2件のコメント

  1. 宇野信子 より:

    茨城でもこんなことができたらいいね、と話していたところです。とても参考になります。

  2. 藤川まゆみ より:

    宇野様

    茨城でもぜひ。
    各地域で相乗りくんの手法を活かしていただくべく、そのサポートをする一般社団法人NECOを立ち上げました。
    5月31日6月1日に第一回公開講座を上田で開きます。
    もしよろしければ相乗りくんHPよりご連絡ください。

    上田市民エネルギー
    藤川まゆみ

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

グリーン・ウィメンズ・ネットワーク

グリーン・ウィメンズ・ネットワークとは
国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの女性スタッフの呼びかけで2013年9月よりスタートしたプロジェクト。各地に点々とちらばっている同じ想いの女性たちがつながって、線となり束になって大きな声を政府、企業に届け、環境問題を解決に導くことを目指しています。
green women's network

最新10title : 女性が動けば変わる!

Featuring Top 10/11 of 女性が動けば変わる!

マガ9のコンテンツ

カテゴリー