沖縄・ゆんたくるー便り

今、沖縄の人たちは複雑な事情を乗り越えて「新しい米軍基地はいらない」と一つになり、選挙や集会など民主的な方法で意思表示を続けています。そうした民意をまるで無視し、工事のための海底調査などを力尽くで進めていくこの国。「辺野古・高江」は、ぎりぎりの抵抗が続く最前線の場所になっています。その現場に赴き、カレーや鍋を囲みながら「ゆんたく」(沖縄の言葉で「おしゃべり」の意)をする、沖縄の学生有志団体「ゆんたくるー」。彼らはそこで何を見て、何を考えているのか。沖縄の現状や本土に向けての思いなど、さまざまなことを沖縄より伝えてもらいます。「ゆんたくるー」の学生たちが交代で、ほぼ毎週連載でお届けします。

 はいさい。みなさん初めまして。私は沖縄県宜野湾市出身で、現在は国際基督教大学(ICU)の4年生です。
 マガジン9の方とは、東京でSASPL(Students Against Secret Protection Law: 特定秘密保護法に反対する学生有志の会)を通じて知り合いました。沖縄・辺野古で活動するゆんたくるーのことを多くの人に知って欲しいということで、交代でお便りを届けていきたいと思います。

◯「ゆんたく」という抵抗

 「若者は基地問題には無関心だ」と言うが、果たして本当にそうなのだろうか。
 地元・沖縄でも、基地への関心を表現する学生・若者は少ない。多くの人はどこかで違和感を抱えながらも、なかなか周りと話す機会がないのだろう。学生同士で基地のことを話す機会もめったになく、沖縄戦関連のことを扱う団体はあっても、基地のことを扱う団体は少ない。あったとしても、内輪での限られた勉強会といったところだ。
 「反対、反対」と言ってもなかなか変わらないように思える沖縄の現状、親類が基地関係の仕事に就いていること、対立を避けたいという意識など、基地について話しにくさを感じるのには、様々な原因が考えられる。この凝り固まった状態を解すには「ゆんたく」という抵抗こそが、ぴったりだと思った。

◯知られていない基地

 2014年8月12日。沖縄国際大学での米軍ヘリ墜落事故から10年目を迎える前日に、海外の有識者らが沖縄の学生とクロストークをするという企画が行われた。僕もそこに参加したが、その企画がきっかけで「ゆんたくるー」の活動が生まれていった。企画を通して、表立って基地に関心があり、実際にアクションを起こしている学生同士がつながることができ、そこからの展開は早かった。

 「県知事選前に何かしたい」と僕たちは話し合った。沖縄県知事選は3ヶ月後に迫っていた。幸運にもできたつながりを活かして、何かできないか。LINEという携帯電話の連絡ツールでやりとりをしながら考えた。デモ、シンポジウム、模擬投票などいろいろな案があがったが、あと数ヶ月で候補者の主張や背景を分析するのにはあまりにも時間がなく、責任が持てない。「同世代の人と話したい」。これが多くのメンバーの思いだった。では、辺野古と高江の現場に行き自分の目で見て、自分の耳で話を聞いて考えるというのはどうだろうかという意見が出た。それなら、みんなで話ができ、現場にも行けるということで、バスツアーをやることになった。

 「知事選よりも遊びたい!」というキャッチコピーで、シャボン玉や凧揚げなど遊びの要素も盛り込んだバスツアーを自分たちで企画した。基地や政治のことを扱うとは思えないポップなフライヤーを、TwitterやFacebook、LINEで拡散。新聞やテレビでも取り上げてもらったところ、当日は満員の約50名がバスに乗り込んだ。沖縄出身の学生や社会人、県外出身で県内の大学に通う学生、イタリア、コスタリカ出身の留学生もいた。辺野古を初めて訪れる学生・若者は約5割、高江に関しては約8割もいた。参加者は説明者の話に真剣に耳を傾ける。質疑応答も盛んに行われた。
 今までニュースや新聞で名前を聞いていただけのものがリアルになる。「海がキレイだった」、「森が豊かだった」、「楽しかった」、「こんなことが起きているなんて、知らなかった」。参加者は初めての辺野古と高江に、衝撃を受けていた。同様の企画は、その後急遽決まった衆議院議員選挙前にも実施した。


◯辺野古カレー

 普天間基地移設/辺野古新基地建設が最大の争点となった沖縄県知事選挙や衆議院議員選挙では、どれも「絶対に基地は造らせない」と謳う反対派が勝利した。もう工事は終わり、この問題から解放される。多くの人が待ちわびていた展開は、白昼夢と化した。
 2015年1月15日深夜、辺野古キャンプ・シュワブのゲート前にいた市民らは、警察や機動隊に排除され、基地建設を進めるための重機が搬入されたのだ。そこにはゆんたくるーのメンバーもいた。その日以降、もっと同世代の人に来て欲しいという思いが増し、現場は寒く、お腹が空くという理由から、カレーや鍋をみんなで食べるのはどうかという提案が出た。「食事」という要素を取り入れることで、友だちも誘いやすくなり、初めて辺野古に来たという人が増えた。既存のやり方とは違う抵抗の仕方ができる空間が現場に生まれ、若い人たちが集う場になった。
 最近ではなんと、メンバーの友人だという米兵の人も辺野古の現場に来る。彼らも辺野古の工事はおかしいと思っており、ぜひ沖縄の若い人と話したいと言う。今ここで何が起きているのか、基地に対して、政治に対してどういう思いを持っているのかを共有する場が生まれている。

◯コンクリートブロックに集う魚たち

 「基地問題に関して若者は無関心だ」という言葉は、沖縄では何重ものプレッシャーがかかっている。長く続く反対運動、多く積み重なった議論、生まれた時から存在する基地・・・。それに抵抗するということがどれだけのエネルギーを要することか。逃げることができたらどれだけ楽だろうか。学生として大学で学ぶことも大事だし、バイトもある。でも、大学の課題をこなすこと、ご飯を食べること、何なら友達との「ゆんたく」だって、辺野古の現場でできる。そうやって様々なプレッシャーに立ち向かいながらも、「ゆんたくるー」には、少しでもこの現状に違和感を持った学生・若者が集っている。サンゴを踏み潰すコンクリートブロックに集う、魚たちのように。

ゆんたくるーでは活動のためのドネーションを募っています。ご支援よろしくお願いします。

銀行名:ゆうちょ銀行

●ゆうちょから
 記号:17070 番号:1196681

●他銀行から
 店名:七〇八 預金種目:普通 口座番号:0119668
 名義:ゆんたくるー(ユンタクルー)

 

  

※コメントは承認制です。
第1回「ゆんたく」から始まった、沖縄・若者の抵抗(元山 仁士郎)」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    「沖縄の状況をいま伝えないと」「学生たちはこの社会についてどう思っているのだろう?」そんな風に編集部でも話していたところに、「ゆんたくるー」との出会いがありました。彼らのバスツアーのチラシには「なんで選挙にいかなきゃならないの?」「基地問題ってなにがモンダイなの?」「同じ世代の人達と知事選や政治について話し合ってみたい!」と素直な気持ちが書かれています。これは、大人だって同じかもしれません。「とりあえず自分の目で現場を見てみたい!」と行動した先で、どんなことが見えてきたのか――?これから、沖縄県外や県内の学生メンバーが、どんな原稿を寄せてくれるのか、とても楽しみです。

  2. 比嘉 憲人 より:

    神奈川に住むウチナーンチュです。琉大理学部物理学科1998卒。私が学んだ基地問題を戦争から簡単に表したいと思います。

    鉄の暴風→土地は地形を変える→県民は石川や屋嘉に収容。
    その県民不在のままに→ 銃剣とブルドーザー。(無論法的根拠なし)

    1972.5.15 沖縄本土復帰
    暫定使用法(時限立法5年)→解決進まず
    1977
    地籍明確化法(時限立法)→解決進まず
    1982
    米軍土地特別措置法→解決進まず
    改正
    地権者の承諾で合法化を目指すも地権者は拒否、そして、住民の代表が代わりに承諾させることを要件にした。
    そして、
    沖縄代理署名訴訟→大田昌秀敗訴

    翁長県知事は、
    我々が与えた土地ではない
    ⇔「(法的根拠なく奪った)普天間を返すから別の土地をよこせ」とは何事だ。
    辺野古、高江を身体を張って阻止する理由はこのような経緯にあると思います。

  3. 平山 秀朋 より:

    県知事選前のバスツアーについては沖縄タイムスや琉球新報のウェブサイトで読んだことがあります。それを企画した方のリポートということで、興味深く読ませていただきました。遠く北海道に住んでいて、本当にできることは何もないのですが、応援しております。寄付もできればと思ってます。

  4. Seki Akane より:

    ゆんたくるー拝読しました。これからの活動経過報告記事とても楽しみにしております。少額ですが、寄付しまーす。実りある時間を過ごしてください。

  5. 岩村利一 より:

    「ゆんたくるー」の学生有志の皆さん、そして、その活動に共感する多くの若い世代の皆さん、「ゆんたくるー」の結成、とても良いですね。同世代の若い皆さんが、ゆんたくを通して、いろいろな話や意見を聞き、賛同し、また、自分とは異なる考え方を知り、お互いに語り合うことで、今までとは違った自分を発見し、そのことに驚き、そして若い感性が磨かれていくことと思います。沖縄の長い抵抗の歴史が、いまだに絶えることなく続いている現実はつらいことですが、それを支えてきたのは、常に若い新しい力が続いてきたからだと思います。遠くを見つめることは、今を大切にすること。関心を持ち、知り、自分の目で確かめ、仲間と語り合い、ゆんたくの輪を広げていきましょう!

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ゆんたくるー

ゆんたくるー: 2014年の沖縄県知事選挙を機に結成した沖縄の学生有志団体。沖縄県知事選挙前、衆議院選挙前にバスツアーを開催し、同世代の選挙や政治への関心を後押しする。衆議院選挙後は、15年1月15日深夜の辺野古での重機搬入以降、現場でカレーや鍋を囲み、ゆんたく(沖縄の言葉で「おしゃべり」の意)をして同世代を対象とした居場所づくりを行っている。→Facebook →twitter

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