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デスク日誌(14)

070725up

原発とメディア

 テレビを見ていて驚きました。この前の日曜日の「サンデープロジェクト」(テレビ朝日系)という番組です。

 私は、正直なところ、この番組を仕切る田原総一朗という人が苦手です。だから、あまりあの人の出る番組は見ないのだけれど、今回は選挙前、野党党首が勢ぞろいする、というのでチャンネルを合わせたのです。

田原総一朗という存在

 田原氏がなんであんなに偉そうなのか、という疑問はさておき、この人には政治思想というものがない。彼が関心を持っているのは、「政局」という、日本政界の動きだけ。自分が仕切る番組での政治家の発言が、時に政局に影響する、ということを最大限に利用して、まるで自分が日本政治を陰で操る政界フィクサーでもあるかのようにふるまうのです。

 だから、田原氏が興味を持ち、話を引き出そうとするのは、結局、自民か民主かという権力に近い「2大政党」の動向でしかありません。この2大政党以外は、彼にとっては関心の外です。むしろ、面倒な小政党など消えてなくなればいい、と思っている気配さえ感じられます。社民党や共産党は、彼の影響力が及ばない、つまり、田原総一朗氏の言うことを聞かない、もしくは、田原総一朗氏の言うことに逆らう政党だからです。

 共産党には必ず「だから、あんたんとこはダメなんだ。そんな古いことばかり言っているから、国民に見離されるんだ」

 社民党にも同様です。とにかく、すぐに相手の言葉を遮って、

「そんな夢みたいなことばっかり言ってるからダメなんだ。単なる理想論じゃメシは食えない。現実を見ろ」と吠え立てます。

「理想を語るな、現実を見ろ」

 日本の右傾化の大きな原因のひとつは、この田原氏の社共叩きにあった、というのが私の見方です。

 「とにかく憲法を守れ、はもう古いんだ。新しい生き方が求められている時代には、新しい憲法が必要だ」というのが、いつの間にか護憲派から改憲派へこっそりと宗旨替えしてしまった田原氏の言い分であり、「夢や理想を語るな、現実を見ろ」というのが正しい現状認識だと思い込んでいるのでしょう。

 理想を謳い、夢を語る政治家を罵倒する田原氏。理想や夢を語らず、権力や金力をめぐって暗闘を続ける「現実的政治屋」たちのほうが、彼にとっては重要なのです。

 暗殺されたキング牧師の、人々の心を揺さぶったあの歴史的なスピーチ<I have a dream. 私には夢がある>など、田原氏にはまったく無縁でしょう。 しかし、この田原氏の論法は、かなり人の心を引きつけます。

 「ああ、もう護憲は古いんだ。古いものを後生大事に守り続けている、社民党や共産党は、もう時代遅れなんだ」

 「夢や理想ばっかり追いかけて、浮世離れした連中なんだ」

 そんな強烈な刷り込みが、少なくとも田原氏の番組によって、繰り返し繰り返し行われたことは事実でしょう。そして、「改革=新しい」「護憲=古い」というまことに単純な二者択一の図式が示され、それがあの、小泉郵政「改革」選挙での圧倒的な自民党勝利に結びついたことは、紛れもない事実でしょう。

 小泉氏の跡を継いだ安倍氏が、改革の旗印を真似し、拉致問題を唯一の根拠とする「闘う政治家」を標榜し、さらに右翼的な(ネオコン傾向)友人たちを大量に内閣に取り込んで、国全体を右へ右へと押し流している現実にも、この田原氏の果たした役割は大きいと思うのです。

原発論議に欠けていたこと

 もちろん、今回の地震における原発問題についても、田原氏の司会ぶりは変わりませんでした。

「脱原発を図り、自然エネルギーへの転換を」と言う社民党の福島みずほ党首の意見を、ほとんどきちんと受け止めることなく、

 「ヨーロッパは、もう脱原発なんて言ってないよ。古いよ。それに太陽光発電なんて言うけど、そのソーラーパネルを作るのに大量の電力を食う。結局、原発に依存するしかないじゃないか」と断定口調です。

 ならば、嘘で固めた活断層上の危険な原発を、いったいどうするのか、このまま日本全国の55基の原発を、運転し続けていいというのか、という、人間の命に関わる根源的な問いには、一切答えません。

 特に、静岡の浜岡原発などは、東海大地震がくれば、ほぼ確実に大被災するといわれて久しいのです。

 むろん、原発銀座といわれる福井県の若狭湾周辺の原発の下を、今回の揺れの震源となった断層と同様の帯が走っていることは、地震研究所が出している「断層地図」にも、はっきりと示されています。それらをもう一度詳しく検証することもなしに、このまま原発運転を続けていいのか、という疑問を、少なくとも田原氏は、この番組の中では示さなかったのです。

 「このままでは、この夏の猛暑に対応できない。深刻な電力不足になるだろう」と、早くも東京電力や政府は口を揃えています。

 おや、いつか同じような言葉を聞いたよなあ、と思った方は正解です。

実は、2003年、電力会社の原発の事故隠しやデータ改ざんなどが続出、大きな世論の批判を浴びて、東京電力の全原発が検査のため運転を停止したまま夏を迎えたことがあったのです。全原発、ですよっ!

 このとき、何が起こったのか。

 何も起こらなかったのだ。

 日本の電力の3分の1が、すでに原子力発電でまかなわれている、と政府も電力会社も、そして訳知り顔の田原総一朗氏も言います。だから、原発を停めることなど、もう不可能なのだと。

 ここにも、そうとう都合のいいレトリックがあります。

 実は、日本の水力火力などの発電所の数十%が、なぜか稼動可能なのに休止状態にあるのです。 つまり、原発を動かすために、原発以外の発電所を停止させているのが現状です。だから極端に言えば、もし原発がなくても、すぐに電力不足になることはありません。他の発電所を再稼動させれば、とりあえずはしのげます。

 原発は、一度動かすと、簡単には停めることができません。真夜中の電力使用が最小の時間帯でも、昼と同じように動かし続けなければなりません。で、どういうことをしているのか。

 夜間の余った電力を使って、山の上に水を汲み上げ、昼間にその水を落として「水力発電」をする、というなんともスゴイことをやったりしています。

 電気を使って電気を起こす。

 考えてみれば、こんな間抜けな話もない。だって、使った分以上の電気を起こすことは不可能だからです。100円分の電気を使って、50円分の電気を起こす。笑い話ではありません。大真面目に電力会社がやっていることです。

 これも、どうしても原発を動かしたいための窮余の一策です。そうまでして原発を動かそうとするのはなぜか。莫大な建設費その他のカネが動いているからにほかなりません。

私が驚いた理由

 さて、なぜ私が「サンデープロジェクト」を見ていて驚いたのか、という話に戻ります(前置きが長くてスミマセン)。

 番組の中で、社民党の福島みずほさんがこう言いました。

 「東京電力は、午後1時には放射能漏れの事実に気づいていたにもかかわらず、それをようやく記者会見で認めたのは午後10時過ぎでした」と。

 ところが、番組の途中で司会者がこんなコメントを挟んだのです。

 「東京電力は、午後10時以前に、きちんと放射能漏れの事実を公表しています」

 この番組のスポンサーに東京電力が参加しているのですから、東電側からクレーム(?)が入ってのコメントだったのでしょう。

 しかし、これを聞いていて、私はひどい違和感を覚えました。

 記者会見を「午後10時以前に開いた」というのであれば、それが何時だったのかを言わなければおかしい。

 午後1時から午後10時まででは、あまりに時間の幅がありすぎます。午後2時でも、午後9時半でも、「午後10時以前」には違いない。こんなコメントを流すのであれば、それこそきちんと何時に公表したのかを付け加えなければならないはずです。

 福島さんは出番が終わって、もう退出した後でした。彼女がいないことをいいことに、ほとんど無意味なコメントで事故を起こした企業の言い訳を一方的に放送する。

 私が驚いたのは、その姿勢でした。

 誰が誰の味方なのか、私にはそれが見えた気がしたのです。

 しかも、この東電側の言い分には重要なカラクリがあるようです。

 先週のこのコラムでも指摘したように、東電側がメディア各社にファクスで「放射能による人体への影響はない」との情報を流したのは、午後8時過ぎです。その情報が「放射能漏れはない」ではなく「放射能による影響はない」だったことも指摘しました。

 調べてみたのですが、それ以前に東電側が「放射能漏れはない」との情報を公表した事実はつかめませんでした。やはり、「放射能漏れがあった」と記者会見で公表したのは、福島さんの言うように「午後10時過ぎ」だったようなのです。(私も、完全な事実は把握していません)。

 東電側はどうも、「放射能漏れによる影響はない」と言ったことを「放射能漏れはない」に、むりやりすり替えようとしているとしか思えません。

 そしてそんな事実問題のすり替えに、やすやすと手を貸すメディアの姿勢も、厳しく問われなければなりません。

 そうではないですか、田原さん。

なぜ炉心部の映像を公開しないのか

 原発問題で、最後にもうひとつ、重要なことを書いておきます。

 政府は、IAEA(国際原子力機関)による柏崎刈羽原子力発電所査察を、ようやく受け入れると発表しました。

 これまで、東京電力の勝俣社長は「原子炉本体には、何の損傷もなかった。今回のことをいい経験にして生かしていきたい」という、とんでもないコメントを出し、原子炉本体は大丈夫だからIAEAの査察は必要ない、との立場を取り続けてきたのです。

 あれほど事故やトラブルを63件も抱えながら、「原子炉本体に損傷はない」などと、何の検証もせずに、どうして言えるのか。私は、ほんとうに不思議に思っていました。多分、住民のみならず、ほとんどの人たちが抱えた疑問だったでしょう。

 さすがに、政府もその疑問や批判に抗しきれなくなったと見えます。選挙直前ということもあり、なんとか批判を最小限に抑えようという悪あがき、それが突然のIAEA査察受け入れ決定です。

 それにしても、なぜ原子炉本体の様子を、東電は公表しないのか。すべての人がもっとも不安に感じているのは、あの原子炉がどうなっているのか、ほんとうに損傷はなかったのか、ということに尽きるのです。

 当初、IAEAの査察を、東電側がかたくなに拒んでいる、という情報を得て、私が即座に感じたのは「原子炉本体にも、何か重大なトラブルが起きているのではないか。だから、査察を拒否しているのではないか」という疑問でした。もし何も問題がなかったのならば、早急に原子炉本体の映像を公開すればいいいのではないか。

 北朝鮮のIAEA査察問題で、大声で北朝鮮批判を繰り返していたのは、安倍首相以下の安倍内閣の閣僚たちや日本版ネオコンと呼ばれる方たちだったではありませんか。

 自国の原発が大変なことになっているのです。率先して、原発関連の情報を洗いざらい公表するのが、北朝鮮へのもっとも大きな圧力になるのではないでしょうか。

 「日本はここまでやったのだ。だから、あなたの国も」

とにかく、隠さないでほしいのです。

(小和田志郎)

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