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デスク日誌(29)

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連立騒動と、隠されたメモ

 今週の「デスク日誌」では、実は食品や建築材などの「偽装問題」について書くつもりでいました。それなりの資料も集めていましたし、何よりもこれは、私自身に関わる問題でした。放ってはおけないのです。

 しかし、突然降って湧いたような「大連立騒動」と、それに伴う「辞表提出騒ぎ」。そして「辞意撤回」。

 何がなんだかわけが分かりませんが、仕方ない。今回はこの政界大騒動に触れてみます。ということで、「偽装問題」は、来週に回したいと思います。

全日本崩壊ショー

 さてさて、今回の小沢辞任?騒ぎのあまりのバカバカしさ、これは亀田問題の上を行きますね。それにしても、ワイドショーはおいしいだろうなあ。次から次へとネタが噴き出してくる。

 朝青龍モンゴル逃亡、新弟子虐待死事件の大相撲問題。

 続いては、反則まみれの世界タイトルマッチ亀田ショー。

 お次は、えっと驚くパーフェクト投手交代劇の日本シリーズ。

 守屋前事務次官の強烈おねだり癒着と防衛省のデタラメぶり。

 やっぱり解明できない消えた年金問題。

 C型肝炎薬害、またも繰り返された製薬会社と厚労省の罪。

 浜岡原発訴訟の判決、役立たなかった中越沖地震の教訓。

 赤福、比内地鶏、吉兆…、どこまで続くか泥沼の食品偽装。

 さらには、ニチアスの防火建材偽装事件。

 などなどなどなど………。

 これほどわけの分からない事態や事件が、短期間に頻発しているというのに、そのどれをとってみても、解決したものはひとつもありません。ワイドショーにはおいしいだろうけれど、この国を覆う崩壊現象には救いがない。面白がって浮かれている時期は、もうすでに過ぎてしまいました。

 そしてそれと同じ崩壊の兆しが、政界でも起きています。

 昔から「政界は一寸先は闇」(故・椎名悦三郎)などと言うけれど、今回の騒動は闇どころではない。まさに、泥海の底を這いずり回るような気味悪さを感じます。

秘密の“茶封筒”

 いったい何が起きているのか。いろいろな人に、情報を求めてみました。なんだか、とても妙な話も聞こえてきました。

 福田首相と小沢代表のどちらが党首会談を呼びかけたのかは、はっきりしません。しかし、前々からの大連立論者であった渡邊恒雄読売新聞主筆と森元首相が会談の仕掛けをしたのだ、というのはどうやら事実のようです。

 そして、福田・小沢両氏が、かなり突っ込んだ話をしたことも分かっています。

 こんな話があります。

 11月2日、第2回目の会談の最初に短時間だけ立ち会った伊吹文明自民党幹事長が、なにやらおかしな“茶封筒”を手にしていました。

 「その封筒の中身は?」と問われた伊吹幹事長は、

 「とてもマスコミのみなさんに見せられるようなものじゃないよ」と、薄笑いを浮かべて答えたといいます。

 では、その「マスコミには見せられない中身」とは、いったい何だったのか?

 11月2日、午後3時から行われた第2回会談は、1時間10分ほどで、なぜか中断されました。それが再開されたのは6時半ごろ。では、その休憩時間に何が起きたのか。あの茶封筒の謎が、どうやらここに隠されていたようです。

 読売新聞(11月5日)によれば、福田首相はこの2回目の会談で、大連立のかなり詳しい中身にまで踏み込んだということです。つまり、こういうことです。

 連立政権が成立した場合には、6つの閣僚ポストを民主党に明け渡す。それは厚生労働相、国土交通相、農林水産相などの主要閣僚だったといいます。

 そしてなんと、小沢氏の副首相格の無任所相への就任も用意されていたのだというのです。

 しかし、10月30日の第1回目の党首会談の直前には、そのような動きはありませんでした。むしろ、伊吹幹事長は「連立だけはムリですよ」と、福田首相に釘を刺していたとされています。

 ところが2回目の会談では、一気に大連立へ話が向かいました。なぜなのでしょうか。1回目と2回目の間の3日間に、いったいどんな情勢の変化があったのでしょうか。

 実は、第1回目の会談で、福田首相が小沢代表の連立指向に気づき、改めて戦略を練り直して2回目の会談に臨んだ、というのが今回の大騒動の真相らしいのです。

 つまり、どうすれば小沢代表を取り込めるかを考え、その具体的な中身をメモしたものが、例の茶封筒の中に入っていたのではないか、ということです。

連立反対から推進へ、の謎

 当初、自民党内も大勢は大連立には反対でした。伊吹幹事長はその党内の雰囲気をもとに、福田首相に大連立反対という釘を刺したのです。しかし、小沢代表の持論である「国連第一主義=国連決議に基づいた自衛隊派兵」を飲めば大連立成立の可能性は大きい、という福田首相の感触を得て、自民党幹部は大連立へ舵を切った、ということのようです。

 政権維持のためには、それまでの自らの政策を捨てて小沢代表に全面屈服してもかまわない。「テロ対策特措法」の期限切れ、自衛隊給油部隊のインド洋からの撤退を、指をくわえて見ているしかなかった自民党の、苦し紛れの政策転換でした。

 衆参ねじれ状態で、にっちもさっちも行かなくなった国会を、なんとか自民党の手に取り戻すためには、多少の批判は承知の上で、大連立の可能性を探るしか、手はなかったのです。

 それほどまでに、福田首相も自民党も追い込まれていた、ということです。

 連立を実現するためには、その具体的な中身が必要です。何を手土産として、民主党に、いや、小沢代表個人(!)に差し出すのか。茶封筒の中には、まさにその具体的なメモが入っていた…、というのです。

 10月30日の第1回会談から11月2日の第2回目までの3日間に、福田首相と一部の自民党幹部が作り上げた、小沢代表と民主党への手土産。それが、小沢代表の副首相就任、主要6閣僚の民主党への明け渡し。そう考えれば、今回の大騒動のからくりも、少しは分かりやすいかもしれません。

 

結局、国民不在だった大騒動

 メモを示された小沢代表は、その中身にほぼ満足した。で、会談の中断中にいろいろと情勢を考え、これを受けようと決断して、6時半からの会談再開に臨んだ。

 で、こんなことが起こった?

 <小沢代表>

 民主党の役員たちは、オレ自身が選任した連中だ。今のオレの力の前には、文句など言えるはずもない。さっさと役員会に諮って、決着に持ち込もう。さあ連立だ! 連立で権力を握れば、思い通りの政策を自実現できるんだからな。

 ところが、自分の言うことは聞くはずだと思い込んでいた役員会は、小沢代表のあまりの独走ぶりに、待ったをかけてしまった。小沢代表にしてみれば、予想外の展開。

 <民主党一般議員>

 だいたい、連立後の総選挙をどう闘えばいいのか。2大政党制で政権奪取するのだと言い続けてきた民主党の言い分が、すべて嘘ということになりかねない。これじゃあ、選挙で国民の支持は得られない。我々は落選の憂き目をみてしまうぅ。小沢代表はそれでいいかもしれないが、我々のことを、ちっとも考えてくれていないじゃないかぁ。反対だーっ!

 <小沢代表>

 顔を潰されちゃ、やってらんねえ。オレが福田に請け負ったことが、子分どもに反対されてしまった。ふざけんじゃない! それならオレはもう知らない。あとはお前らで勝手に処理しろ。もう、やーめたっ!

 まあ、こんなところではなかったでしょうか。

 そんなハンパな三流芝居であるはずがない。小沢代表には、もっと奥深い考えがあったはずだ、と思いたい方もいるでしょう。でもねえ、意外にこんなバカバカしいところが真実じゃないかと、私は思ってしまうのですよ。

 新聞記事などで小沢代表の記者会見での発言を詳しく読んでみると、辞意表明に至る政治的(政局的)な理屈付けは、確かにあります。しかし、国民に対する今回の事態についての説明がまったくなされていないことに気づき、慄然とするのです。

 政治は専門家のやること、素人の国民にきちんと説明する必要なんかないのだ、黙ってオレについて来い、と言わんばかりの思い上がった政治家の考え方です。

   

政治の喜劇、国民の悲惨

 自民党サイドでは、小沢氏が20名前後の民主党参議院議員を引き連れて新党を結成し、それで「中連立」に持ち込んで、参院のねじれ状態を解消する、という希望的観測がささやかれているといいます。

 しかし、そんな都合のいいことが起きるとは、私にはとても思えません。私なら、イヤです。

 自分の思い通りにならなければ、「やーめたっ!」ですよ。そんな危ない人と、私なら絶対に一緒になんか仕事をしません。

 それでも自民党は、小沢氏と組もうとするのでしょうか。

 「政権維持のためなら、悪魔とでも手を組む」と言ったのは、かつての自民党幹事長・野中広務氏でした。誰が誰と手を組むのか。いったい誰が悪魔なのか。

 そして、「歴史は繰り返す。1度目は悲劇、2度目は喜劇として」と喝破したのは、かのマルクスです。

 けれども我が悲しき日本では、安倍首相の「涙目会見」、今回の小沢代表の「膨れっ面会見」。そして2日後には、「恥をさらすようだが、もう一度がんばりたい」と辞意撤回。どちらも、ご本人には喜劇、国民には悲惨っ!

(小和田 志郎)

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