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デスク日誌(31)

071121up

世にも不思議な年金制度

 東京でも、木枯らし1号が吹きました。うう、寒い。温暖化だとか異常気象などとは言われていても、季節はきちんと今年も巡ります。冬が、そこまで来たようです。
 でもね、ちょっと寒いぐらいが、散歩にはちょうどいい。歩いていると、ゆっくりと体が温まってきます。

 最近、ウィークデーの昼下がりに街に出てみると、散歩している中高年の人たちが、とても多いような気がしませんか。ま、私もかなり以前に中高年の仲間入りをしていますから、他人のことは言えませんけれど。
 これは、明らかに“2007年現象”が始まったことを意味しています。戦後のベビーブーマーたち、すなわち「団塊の世代」と呼ばれる人たちのリタイアが始まったのです。
 定年を迎えた世代が、改めて自分の家の周りを見直し、近所の散歩に出かけている。そんな感じがします。

圧倒的な多数世代のリタイアが始まった

 あの戦争が終わり、戦地から引き揚げてきた兵隊さんたちが故郷に帰り、その翌年から一気に子どもの出生率が高まった。それが、1946(昭和21)年後半からのベビーブームです。
 ピークに達したのは1947年。この年の合計特殊出生率は、なんと4.5に達しました。 合計特殊出生率とは、次のようなものです。
 女性が出産可能な年齢を15歳から49歳までと規定し、その年齢の女性のそれぞれの出生率を算出し、人口構成の偏りなどを考慮して、一人の女性が一生に産む子どもの数の平均を求めたもの。つまり、調査対象の男女比が1対1であり、すべての女性が出産可能な年齢まで生きると仮定した場合、この合計特殊出生率が2であれば人口は横這い、2以上なら人口は増えると、いうことになります。
 しかし、すべての女性が出産可能年齢まで生きられるわけではないし、その他の要因も考慮すれば、2.08以上でなければ人口は増えないとされています。
 それが、昨年ではこの率が1.25です。私たちの国の人口は、みるみるうちに減っていきます。2050年には、人口が1億人を切るのは確実だといいます。
 そういう状況にあって、この団塊の世代の量は圧倒的です。その数は、1947年~49年生まれだけで、約800万人です。つまり、たった3年間に生まれた人数が、日本の全人口の約7%を占めている計算です。
 世代論では、団塊世代を1945年~53年というふうに規定する学者もいますから、そう考えれば、もっと巨大な塊ということになります。その人々が、2007年、つまり今年から、60歳定年という節目を迎え始めたわけです。

 今年はその最初の年です。これから続々とこの巨大な塊が、会社人生からリタイアし、別の行き方を始めるのです。 ウィークデーの街に、中高年の人たちの姿が目立つようになったのは、こういう背景があるわけです。

 問題は、この圧倒的な塊の人々を、出生率1.25という少子化世代が支えていかなければならないということです。それを象徴する「年金」が、いまや破綻しつつあります。

パフォーマンスでは解決できない

 舛添要一厚生労働大臣は、「2008年3月までには、必ず、消えた年金の調査を終わらせ、全国民に安心していただけるような体制を作ります」と大見得を切りました。 “ウソ”であることが、あっという間にバレテしまいました。この人、人気取りのパフォーマンスはすごくお上手ですが、なんとも中身がありません。5千万件の「消えた年金」について、手帳の名寄せ照合が終了したのは、現在、たった2%程度。すべての作業を終えることができるのは、いまのペースでいけば、少なくとも10年~15年はかかるだろうと言われています。
 では、あのエラそうな口ぶりは、いったい何だったのか。
 舛添大臣、根本的なところにメスを入れるということは一切しない。ただただ、人気取りのその場しのぎの発言が、やけに目立つだけです。

 薬害肝炎患者の方たちとの会見場に現れたときの、舛添大臣の薄ら笑い、テレビで見ていて、思わず「笑うところじゃないだろっ!」と怒鳴りつけたくなったのは、私だけではないと思います。
 薬害HIV感染者の方々に、深々と頭を下げて謝罪した菅直人元厚生大臣と比べても、舛添大臣の酷さは際立っていたと言わざるを得ません。彼は、あの場では患者に謝りもしなければ、解決の約束もしませんでした。
 そのくせ舛添大臣、国民に受けそうなパフォーマンスは、次々に繰り出します。 例えば「市町村の社会保険窓口で横領などを行った小役人は、全部牢屋に入ってもらう」と大声を張り上げ、告発をしない市町村へは、「そんなこともできないようなら、社会保険庁に告発させる」と、脅しをかける始末。
 たしかに、窓口で保険料をごまかして横領するなど、公務員の風上にもおけない。そんな連中に罰を与えることに、別に反対する理由はない。
 しかし、順序が違いませんか。

誰が国民の金を騙し取ったか

 グリーンピアとかいう、巨大保養施設などを造り続け、数千億円の膨大な赤字を垂れ流したのは、いったい誰か。国民の保険料を膨大に無駄遣いした責任は、誰がいつ取ったのか。
 舛添大臣、ここを放置したままで、窓口の数十万円の横領に対して吠え立てるから、どうも釈然としないのです。
 数十万円の横領も悪いに決まっているけれど、数千億円の無駄遣いですよ、数千億円! これがまさか、窓口の“小役人”の裁量で行われたとは、さすがの舛添大臣も言わないでしょう。“小役人”のハンコに、そんな権力は与えられていません。巨大な力のハンコを持っているのは、あの乱脈防衛省の酷さからも分かるように、高級官僚たちです。
 ならばなぜ、そちらの天文学的金額の赤字の責任は追及しないのか。国民の納めた保険料を湯水のごとく浪費して、自らの天下り先を確保したのは、まさに社会保険庁や厚労省の高級官僚たちではありませんか。
 その連中の責任をなぜ問わないのか、なぜ“告発”しないのか。そちらのほうが先決だし、大事なはずです。

保険料がどこかに消えてしまう「制度」

 高級官僚たちのデタラメさは別にしても、この年金制度には不思議なデタラメさがつきまといます。
 私がどうしても納得できないのは「25年条項」です。
 年金を25年以上納め続けなければ受給資格がない。つまり、24年間年金を納め続けたとしても、たった1年足りなければ、年金はもらえません。24年間の苦労は水の泡…。
 むろん、納めている途中で死亡すれば、これまた受給資格は消滅します。となれば、どういうことになるか?
 それまで納めた年金は、「受取人なし」。つまり、宙に浮いたお金は、そのまんま社会保険庁や厚労省のどこかに、まるで煙のように消えることになりかねません。

 社会保険庁がグリーンピアなるわけの分からない保養施設を造りまくったり、厚労省が厚生年金会館とかなんとかいう巨大施設をボカボカ建てて天下り先を確保したり、やりたい放題の乱脈ぶりだったことの理由が、これでお分かりでしょう。
 どこにも行き場のないお金が、社会保険庁や厚労省のどこかにふわふわと、しかも膨大に漂っているのですから使わにゃソンソン。高級官僚たちが、まるで自分のお金のように使いまくったというわけです。
 その金額は数千億円。いや、ほんとうは幾らになるのか、使ったご本人たちにも分からない。国民から預かったお金、なんて自覚がないのだから、使えるうちに使っちまえ。

 それにしても、こんなデタラメな制度があるでしょうか。
 最初から、宙に浮くお金が膨大に出てしまうことが分かっている制度。それがどれくらい出るのか、誰にも分からない制度。だから、官僚たちが勝手に無駄遣いしても、誰にも気づかれない制度。
 これが、政府と自民公明の連立与党が胸を張ってぶち上げた「百年安心」年金制度改革だったのです。それが3年前でした。百年どころか、たった2年も経たないうちに、もはやボロボロの惨状じゃないですか。
 当時の責任者は、公明党の坂口力厚生労働大臣だったはずです。福祉充実を謳う、あの公明党です。
 その責任を、どう取るのでしょうか、公明党は。

年金崩壊の種蒔きをした人は…

 年金保険料の未納率は、歳を追うごとに高まっています。
 将来もらえるかどうか分からない年金なんて、納めるのがバカらしい、と若い世代が納めるのを拒否し始めたということも、その一因です。
 しかし、年収200万円以下の給与所得者が、全勤労者4500万人の中で、すでに1000千万人を超えているという政府統計があるのです。
 保険料なんか払いたくても払えない。そんな余裕がどこにあるんだ、というワーキングプア層の増大こそが、この未納率の増大の最大の要因です。そして、その低所得者層をここまで激増させてきたのが、小泉改革と、それを引き継いだ安倍政権でした。政府自らが、自分たちで年金崩壊の種蒔きをしたのです。

 危険なプルサーマルがブーメランのように手もとに戻って来る電力会社の不気味なCMみたいに、政府の放った年金崩壊の矢がやがて戻って来て、自民公明に突き刺さりますよ。

 このままでは、年金の基金が足りなくなる、と大騒ぎをしています。しかし、一方では前述したように、官僚たちが好き放題で使いまくった宙に浮いたお金が、膨大に存在するのも事実なのです。
 これらのことからも分かるように、日本の年金制度はすでに崩壊しているのです。

舛添さん、本当のことを公表しなさい

 また、この制度は、私たち日本国民のみならず、在日無年金障害者(約5千人)や在日無年金高齢者(約3万人)などという悲惨な例をも生み出しています。このことも、大きな問題だと言わなければなりません。
 この国に暮らすすべての人たちが、不安のない老後を送れることを目指したはずの「年金制度」が、根底から崩れかけています。税金を払い、きちんと保険料を払いさえすれば、誰でもが等しく年金を受給できる。そんな当たり前のことが、なぜうまくできないのでしょうか。

舛添さん、本当のことを調べて公表しなさい。

 どれだけのお金が無駄遣いされたのか。
 いったい、いくらのお金が宙に浮いたままなのか。
 無年金の人は、どれくらい存在するのか。
 その責任はどこにあるのか。
 誰が責任を負うべきか。
 天下りした官僚たちの数はどれほどか。
 その人たちが貰った給料や退職金はいくらか。
 真に告発されるべきは、いったい誰なのか。
 そして、こんな無責任な制度を作ったのは、誰か!

 それらをすべて明らかにした上で、「全額税方式」なども含めた、抜本的な改革を考えるべきです。
 もはや、小手先だけのパフォーマンスや言い逃れでは、どうしようもないところまで来ているのですよ。

(鈴木耕)

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