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デスク日誌(34)

071212up

国際貢献と国益と

 

愛の場所での銃撃戦

 アメリカで、銃乱射事件が相次いでいます。先日は、ショッピングセンターでの銃撃。8人が死亡して、数人が重態だと報じられました。
 それからあまり日も経たないというのに、またしても衝撃的な事件です。
こんどは、キリスト教会付属の施設への宿泊を断られた白人男性が、銃を乱射して逃走。それから12時間後に、100キロほど離れた場所の教会で、同一人物と見られる男が、またもや銃撃。2ヵ所で3人が死亡、10人あまりが重軽傷を負ったということです。犯人らしき男は、教会の警備員に射殺されたそうです。
 なんだか、妙な気がします。

 えっ? キリスト教会の警備員が、犯人を射殺? それはつまり、「究極の愛の場所」であるはずの教会の警備員が、銃で武装していたってこと?

 決してブラックジョークではないのです。祈りの場の教会を、銃で武装した警備員が守っている。 こんな矛盾を、もうアメリカ人は不思議とも思わなくなっている。なるほど、「平和を銃で守る」と叫ぶブッシュを大統領にいただくアメリカではあります。  

 

繰り返される悲劇

 そういえば、あのジョン・レノンが銃で撃たれて死亡したのも、1980年、同じ12月の8日でした。
 ほんとうに、何年経っても、同じ悲劇が繰り返される国です。そして、どんなに悲劇が繰り返されても、銃規制を行うことのできない国です。
 なにしろ、約3億人の人口なのに、銃の保有数は約2億5千万丁とも3億丁とも言われているのです。10人に9丁の割合で銃が出回っている、とも指摘されています。
 考えてみれば、そうとうに恐ろしい国です。

 私が初めてアメリカに行ったのは、1974年のことでした。そのとき、ある地方空港で帽子をあみだに被った警官が、ヒマだったためか、腰の拳銃を抜いてクルクル回して遊んでいたのを見て、驚いた記憶があります。
 なんだか、スゴイところに来ちゃったなあ、と感じたことが強く印象に残っています。

 「目には目を」という復讐の法則を、どの国よりも強く信奉しているのが、このアメリカという国のような気がします。イスラム原理主義者をまるで悪の権化のように非難するブッシュ大統領に、ほんとうに彼らを非難する資格はあるのでしょうか。
 まず、「自分の頭のハエを追い払って」から言うべきなのではないか、などと思ったりします。
 そして私たちの国も、そのアメリカがアフガンやイラクで行っている軍事行動が、ほんとうに正しいかどうかを、もう一度、確かめるべき時期に来ていると思います。

 

泥沼のアフガン、イラク

 町村信孝官房長官や石破茂防衛大臣らが、数日前、街頭に出て「国際貢献のために、ひいては日本の国益のために、インド洋での給油活動を早急に再開しなければならない」と訴えました。
 官房長官や防衛大臣が揃って、あるひとつの政策のために街頭演説を行うなど、選挙期間を除けば極めて稀なことです。それほど、この“給油活動”、つまりアメリカ軍艦への燃料補給再開に懸命なわけです。
 どうにもよく分かりません。

 アフガニスタンの情勢は、ほとんど10年前ごろに戻っているといわれています。
 首都カブール周辺を、かろうじてカルザイ大統領の率いる政府が抑えているだけで、あとはまたもやタリバンの勢力下に陥っているといいますし、そのカルザイ政府には汚職などの腐敗が蔓延、すでに国民には見放されているのが現状だそうです。
 北部では、かつてと同じように、地方軍閥が勝手し放題の支配地域を回復させているとのこと。
 にもかかわらず、アメリカは依然として、この腐敗政府を唯一の合法政権として認め、軍事援助を続けています。したがって、アフガン国民の間の反米感情は、高まる一方なのです。アメリカ爆撃機の誤爆で、数千人規模の住民が殺されている現状では、反米に傾くのも当然でしょう。
 住民の反米意識の高まりは、世界各国も知っています(日本政府だって知らないはずはないのですが)。だから、次々と撤退していきます。
 イラクにおける情勢も、ほとんど同じです。

そして、ブッシュ支持はいなくなった…

 ブッシュの最後の盟友といわれたオーストラリア自由党のジョン・ハワード首相率いる保守連合が、労働党のケビン・ラッド氏に大敗。ついに11年続いた保守政権の座から退きました。
 ハワード首相は自分自身の議員選挙でも落選しました。それほど、ハワードもブッシュも人気を失っていたのです。
 スペインやイタリアでも、ブッシュ支持の保守政権は敗北、最近ではポーランドでも同様に敗北しました。むろん、イギリスのブレア首相も、支持率の低下にあえぎ、ついに降板したのは、みなさんご存知のとおり。

 かくして、ブッシュ大統領はもう来年の任期満了を待たずに、ほとんど死に体です。アメリカ国内での支持率は、見るも無残な状態に陥っています。
 アメリカ国民の関心は、もはやブッシュなどではなく、次の大統領がヒラリーかオバマか、に集中しているのです。

 さらに、ブッシュ大統領への追い討ちです。
 今度はアメリカ中央情報局(CIA)などの情報機関が公表した国家情報評価(NIE)では、「イランではすでに4年前に、核開発を放棄していて、核に関する脅威はまったくなかった」ということです。ブッシュがこれまで、「イランの核開発疑惑」を強調して、新たな戦争(イラン攻撃)をちらつかせてきたことが、まったく根拠のないウソだったことが、暴露されてしまったのです。
 身内もブッシュ大統領を見放したわけです。
 なんだか、もう、めっちゃくちゃです。

 それでも、我が日本だけはなぜか、「(アメリカ艦船に対する)給油活動が、国際貢献だ。それを継続することが国益になる。もし止めれば、国際協力をしない国として国際的非難を浴びる」と主張し続けています。

 アメリカの軍艦に給油することが、なぜ国際貢献になるのか。
 それがどういう意味で国益につながるのか。
 いったいどの国が、給油しなければ日本を非難するのか。

 どう考えても、さっぱり分からないのです。
 世界がほとんど見放しているブッシュ政権の政策から、日本が手を引くと、それが日本の国益を損ねることになる、という理屈は、どうしても納得いきません。
 ここをきちんと説明できる人がいれば、ぜひ、その理屈を教えて欲しいと思います。

 

給油法案になぜ固執するのか?

 10数カ国の大使たちがこぞって、日本の給油活動に感謝の意を表明した、というニュースが先日、流れました。
 “でも、そんなの関係ねえ”のです。
 これが日本の外務省のたってのお願いによる各国の表明だった、すなわち“外務省のやらせ”だったことは、ジャーナリストたちの間では常識なのです。
 日本外務省のやりそうなことではありますが。

 アメリカは、給油してくれれば、そりゃあ嬉しいでしょう。アフガンとイラクで膨大な戦費を浪費しているのだから、少しでも援助してくれるなら、こんなありがたいことはありません。
 “思いやり予算”の別バージョンです。
 同じことは、米軍再編をめぐっても起きています。アメリカ海兵隊の沖縄からグアムへの移転に伴う、米軍宿舎建設に関わる疑惑です。今回の防衛省の最大の疑惑が、実はここにあるのだとも言われています。

 こうして見ていくと、なぜ自民公明の与党が、国会を大幅に再延長し、参院で否決されても衆院で3分の2の賛成で再可決し成立させる、という奥の手を使ってまで、給油法案の「新テロ特措法」を通そうとするのか、その奥にある胡散臭さがフンプンとしてきます。
 ここに、なにか利権が隠されているのではないか。

 すでに、世界が見放したブッシュ政権に、なぜこれほどまで、つまり、日本の国会の大混乱を覚悟してまで、尽くそうとするのか。なにか、裏があると考えざるを得ないのです。

 現在、インド洋上での、アメリカ艦船への自衛艦による給油活動は、行われていません。
 しかし、休止に対する世界各国からの非難など、誰かお聞きになった方はおられますか?
  別にどこからもそんな声は上がっていません。このままの状態が続いたところで、日本批判が湧き上がるような気配は、まるでないのです。
 それでもなお、国際貢献や国益を言い立てる政府与党。
 福田首相の問責決議まで視野に入れて、国会を大混乱に陥れてもなお、この給油法案を通そうとする、その決意の裏にあるのが、もし、利権疑惑ではないとしたら、いったい何なのでしょう。

(鈴木耕)

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