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デスク日誌(48)

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「痩せ我慢」を破ってしまいました

 「国土交通省の思惑通りになんか、なってたまるもんか」と、これまでずっと痩せ我慢をしていたのですが、とうとう我がオンボロ愛車にも、ETCを装着することにしました。
 まったく、腹が立つ!

過疎地を訪れて見えること

 私はこのところ、ある事情で、車を運転することが多いのです。かなり交通の不便な(いわゆる公共交通機関が、あまりきちんと通っていない)地域へ出かける機会も増えました。
 ほとんどの過疎地域は、その過疎ゆえに鉄道は廃止され、代替交通手段のバスさえ、日に数本しか通らない、という惨状になっています。車を使うしか移動手段のない地域が、日本中で間違いなく増えているのです。
 “平成の大合併”とかいう大愚策で、名前だけは「○○市」になったけれど、かつての村役場が閉鎖され、より一層、過疎化が進んだ地域も少なくありません。
 この現実が、国民に優しい政治だとは、私にはとうてい思えません。小泉、安倍、そして福田と続いた自民・公明の連立政権は、国民の最も弱い部分を「狙い撃ち」(By山本リンダ・公明党支持)にしたのです。

 小泉改革の象徴であった“郵政民営化”によって、過疎地域から郵便局が消え始めています。過疎地は、過疎地であるというそれだけの理由で、一層の不便さを強いられることになったのです。銀行もコンビニのATMもない地域から、たったひとつの金融機関であった郵便局さえ、消えていく…。
 しかし、弱い人々の悲痛な声など、政治家の耳にはほとんど届かない。過疎地の人口は、当然のことながら、圧倒的な少数だからです。選挙の票には、たいして有効ではない。ゆえに無視されます。それは、私のように見捨てられた地域を走ってみれば、実感としてすぐに理解できます。

 ところが、この過疎地が突然、政治家の視野に入ることがあります。それが“道路”です。
 「過疎地にも高速道路を通して、生活の利便性と安全性を図るべきだ」などと、世に言う“道路族議員”たちが、もっともらしく声高に言い立てるのです。
 しかし、これもマユツバ。
 実は、彼らは過疎地の人々のことなど、ほとんど考えちゃいない。票に結びつかない過疎地の人々の生活よりも、国交省の役人や、彼らと癒着した建設業者からのおいしい利権が、頭に渦巻いているだけでしょう。
 でなければ、“交通量予測”などを改竄してまで、無駄な道路を造り続けるはずがない。そこに、なんらかの“おいしさ”があるから、無駄を承知で造るのです。
 本来なら、地域行政サービスを充実させること(医療や福祉、日常生活の支援など)のほうが、道路を造るよりも優先されなければなりません。むろん、どうしても必要な道路は造るべきですが、優先順位がデタラメです。
 いつの間にか、“庶民の党”の看板をかなぐり捨てて、官僚の代弁者に成り下がった公明党の、醜悪な冬柴鉄三国交相の顔を思い浮かべれば(思い出すのもイヤですが)、いかに道路利権がおいしいかが分かります。

ETCへの、ある疑問

 さて、話が飛んでしまいましたが、ついに我がオンボロ愛車に装着してしまったETCのことでした。

 前述のような、交通の不便なところを訪れるには、やはり車が必要です。近くまで高速道路を利用し、あとはトコトコと山道を走って目的地へ到達する。そうしなければ、とても日帰りなど困難な地域にも、私は必要があって訪れることが多いのです。
 そんなわけで、そうとうに車代が嵩みます。ガソリン代の高騰は、ズシリッと堪えます。その上に、いつまで経っても安くなどならない“通行料金”です。これも、建設後数十年でタダにすると決められていたはずですが、例のガソリン税と同じで、“暫定”が数十年も続いているのです。
 ところが、いろいろと調べてみると、「ETCを使えば割引になる」という高速道路が実に多い。また、「時間帯でETC使用がさらに割引になる」などというところもたくさんありました。
 高速道の入り口や料金所などでは、最近、ETC専用口がやたらと増え、その分、一般車用がめっきり減ったような気がします。私のような、あまり運転が上手でない者(自称・「ハイウェイの狼」ですが、誰も認めてはくれません。苦笑)にとっては、料金所手前での車線変更にいつも苦労しますし、ETC専用でスイスイと通りすぎる車をよそ目に、じっと一般車用の渋滞を耐えているのも、なんだか腹立たしい限りです。

 そこでついに、今回のETC装着となったわけです。
 機器と装着費は併せて約2万円。ETCによる通行料の割引で、ほんのわずかな期間で、元は取れる計算になります。 悔しいけれど、背に腹は変えられない。

 でも、ここにも、私はなんだか微妙な作為を感じます。
 だって、不便なほうからはたくさんお金を取り、便利にしてやったほうは料金を切り下げる。おかしくはないですか? 普通なら逆でしょう。不便なほうは安くして、便利なほうは少し値上げをする。これが当たり前だと思うのですが、なぜか現実は逆なのですね。
 そこに、なにかしらの“利権”や“裏事情”が隠されているのではないでしょうか。
 単に「渋滞解消のため」だけだと言うのなら、料金はすべて同じように安くして、ETC装着は希望者全員に無料で行う、ということにするのが当然のはずです。

 ところが、そうはならなかった。

 とにかく、少しでも交通費を節約しようとETCを付けたけれど、なんだか納得いかない私なのです。

身から出た錆

 全国知事会と称する都道府県の知事たちの集まりが、「ガソリン税の暫定税率は維持するものの、ガソリン税の一般財源化については検討するべき」などという、「何をいまさら」の意見を出してきました。ほんとうに、何をいまさら、です。
 結局、ガソリン税についての世論というヤツを、知事たちも無視できなくなった、ということでしょう。それならば、いままで主張してきた「ガソリン税の道路特定財源維持」の姿勢を誤りと認め、謝罪してから方針変更を表明すべきだったのに、自分たちのこれまでの主張には頬っかむり。
 結局、国会議員も知事連中も、ただの“政治屋”であったことには変わりなかった…。

 最近の、どのメディアの世論調査を見ても、「ガソリンの暫定税率撤廃=ガソリンの値下げ」には賛成が60%以上、「ガソリン税の一般財源化=ガソリン税を道路造りだけに使うのではなく、福祉やほかの用途にも使えるようにする」への賛成も50~60%、という数字が示されています。
 国民は悲鳴を上げているのです。せめて、生活に密着しているガソリン代だけでも、値下げしてほしい、と。

 “小泉・安倍路線”が推し進め、“御手洗経団連の財界”が後押しした“改革”が、凄まじいほどの賃金格差を生み、地域格差を作り出し、ワーキングプアやネットカフェ難民、ホームレスなどを激増させてきたことに対し、国民から激しい拒否反応が噴き出しています。
 安倍氏の跡を継いだ福田康夫首相は、自らの就任時の言葉通り「貧乏くじを引く」ことになったわけです。

 3月22、23日に行われたANN(テレビ朝日系)の世論調査では、福田内閣の支持率は、なんと24.7%にまで下がっていました。もちろん、不支持率は過半数を超えました。
 最近の大連立騒ぎ、日銀総裁の空白問題、イージス艦事故の処理、ガソリン税をめぐるゴタゴタなどなど、数々の不手際があったとはいえ、年金問題をふくめ、ほとんどが小泉・安倍政権のツケ、“負の遺産”です。
 「オレのせいじゃないのになあ」と、泣きっ面の福田首相、考えてみれば、少々気の毒な気もします。しかし、閣僚のほとんどを、安倍内閣のまま引き継いで、ろくに自分のカラーも示さなかったのですから、やはり、福田首相の失敗です。
 身から出た錆、というもの。
 それでもなお、福田首相には、国民の強い不満は届いていないらしい。いつだって、官僚や地方首長の顔しか見ていないからです。

現場からの悲鳴が聞こえないのか

 以下、ある知人のジャーナリストの話です。
 「例えば、運送業の人たちに、どれほど負担増が重くのしかかっているか。
 このところのガソリン代の高騰は、ほぼ負担の限界にまで近づいている。少しでも負担を減らすために、今年に入ってから、高速道路を一切使っていない、と話す個人営業の運送業者もいるほどだ。通行料節約のためだ。
 しかし、一般道を走れば、それだけ時間を食う。そのために時間オーバーとなり、クライアントからペナルティーを課されたり、それを回避するために、徹夜走行を重ねて事故につながる、などという事例も多発している。
 いまなお暫定税率維持を訴える全日本トラック協会(全ト協)では、会員の現場運転手たちからの異論が相次いでいる。ところが、全ト協は、国交省から補助金をもらっているので、暫定税率維持の旗を下ろすことができない。
 末端会員と業界上部団体の意見が違っているのは、ほかの業界でも見られることだが、団体幹部の官僚との癒着は、ますますひどくなっている」

 現場の労働者にとって、ガソリン税撤廃による1リットルあたり25円(軽油は17円10銭)の値下げは、まさに干天の慈雨なのです。
 「ガソリン税を撤廃すると、ガソリンスタンドでは、新旧の価格が混在し、大混乱が起こる」と反対する人もいます。しかし、民主党が言っているように、「旧価格の油は、一旦、書類上で元売りに戻したことにし、後で払い戻しする措置をとって、4月1日からは新価格に統一する」という案もあります。かつて酒税が改定されたときに、同じ措置がとられた例があります。
 利用できることは何でも使えばいいのです。

 そんなことも考えずに「暫定税率維持」や「道路特定財源維持」を唱える知事や首長たち、それに業界団体幹部とは、いったいどこを見てものを言っているのか、と首を傾げたくなります。

(小和田 志郎)

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