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2010-11-03up

B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」

【第24回】

「もんじゅ」には甘かった事業仕分けではあるが

 役所の仕事は、かっぱえびせんの如きである。「やめられない、止まらない」。多くの役人さんの価値観におかれましては、つつがなく所与の業務をこなすことが第一のようだから、長年続いてきた事業を自分が止めるなんて想定外なのだろう。

 役人さんたちと、うまく付き合うコツがある。相手のメンツを完全につぶさないように、上手に「逃げ道」を用意してあげるのだ。あとで言い訳(しょせんは役人の世界でしか通用しない理屈なんだけど)ができる余地を残しておけば、強烈な批判記事を書いたとしても、なぜか恨まれることは少ない。

 事業仕分けなんていうのは格好の逃げ道である。だって、公開の場で酷評された事業を「仕方なくやめる」んだから。頭が良い役人さんたち、本音ではやめた方がいいと思っている事業であるにせよ、自分のせいにはならないきっかけがほしいもんね。反対に、仕分け人には徹底した強い姿勢が求められる。そうでないと、役人にとって、やめる口実にならなくなってしまうのだ。

 そんなことを考えながら、事業仕分け第3弾をのぞいてきた。「飽きられつつある」なんて、新聞は初日の空席を盛んに強調していたけれど、入場までに受付でしばらく足止めされ、立ち見である(結局、4日間の合計で第2弾を上回る傍聴者が集まったそうだ)。ナマの蓮舫さんや枝野さんの追及、役人さんたちの屁理屈に、副大臣や政務官による役人擁護の間抜けな発言も挟まったりして、なかなか面白い。

 ただ、残念だったことがある。高速増殖原型炉「もんじゅ」をめぐる議論である。

 もんじゅと言えば、95年にナトリウム漏れ事故を起こし、それを隠そうとしたことが発覚した影響も加わって、14年半もの間、運転休止を余儀なくされた。今年5月に再開したものの、わずか3カ月後に重さ3トンの装置が炉心近くに落下。復旧のめどは立っていない。

 それでも、来年度予算には105億円の研究費が概算要求されている。仕分けの場で文部科学省や日本原子力研究開発機構の人たちは「30年前の設計だし、機械だからトラブルは今後も起き得る」なんて平然と言っていたし、今回の装置落下についても「大きなトラブルではない」「(来年度途中までの)1年間の保守点検期間中に間違いなく取れる」と、すごい自信を見せていた。

 で、仕分け結果はと言うと「10%をめどに予算を縮減」にとどまった。枝野さんは役人さんたちに「専門性は高いけれど、わかるように説明する責任がある。(今のような説明を)繰り返すと、原子力行政への不信が高まる」とクギを刺していたけれど、甘すぎる結論である。トラブル復旧の見通しすら立たない段階で来年度の予算をつけるのは、やっぱりおかしいでしょ。そもそも、これまでにもんじゅに費やしてきた建設・運転費は9400億円にのぼるが、14年半も休止しているうちに「もはや時代遅れ」との評価もあるらしい。原子力の研究開発が国策なんだとしても、この機会に方向を抜本的に見直すべきじゃないのか。

 ところで、第3弾終了後の朝日新聞の解説記事「幻想だった民主政権公約」(10月31日付朝刊)は、民主党が16兆8000億円の財源を生み出すと公約しながら、これまでの事業仕分けで十分な金額的な成果が出ていないことを挙げ、「総予算の全面組み替えによる財源確保は、民主党が国民に与えた幻想だった」と強く批判している。さらに、「仕分け人と官僚の激しいバトルを演出することで、『これ以上の予算削減は難しい』と、世論に納得させる狙いがある」「政官業の癒着の打破という目的も、明らかに変節した」と手厳しい。

 政権に厳しい視点、大いに結構だけど、こと事業仕分けに関しては、それだけではない気がする。仕分けだけで16兆円超もの財源が生み出せると本気で信じている人は、そんなに多くはないのではないか。何よりただしてほしいのは、わずかな金額であっても、ムダをムダと感じずに巨額になるまで積み重ねてきた、公金を使う側の論理であり姿勢だろう。

 冒頭にも書いたが、仕分けの大きな目的は、役人さんたちに撤退や見直しのきっかけを与え、さらに意識を改革していくことだ。知り合いの中央官僚の話だと、自分の担当業務が仕分けの対象にされないかどうかは相当気になるらしいし、ターゲットにされた事業の担当者は仕分けの「晴れ舞台」が終わるといろんな意味で大きな衝撃を受けるそうだから、それだけでも少なからぬ意義はあると思う。

 何十年も受け継がれてきた「慢性病」を治すには、地道に薬を投与し続けるしかない。1円単位までネチネチとしつこく、長期にわたって、仕分けを続けてほしい。一度取り上げた事業でも、改善の兆しが見られなければ何度でも俎上にのせる。注目度が下がったから、金額的な成果が上がらないから、と言って、絶対に手を抜かない。原子力発電はもちろん、おもいやり予算だって、国会議員の経費だって、聖域をつくらず、何事にも妥協せずに、どんどん切り込んでいくことが条件だ。「単なる政治的なパフォーマンス」と、役人さんたちに舐められないために、そして、国民に見放されないためにも。

 もう一つ。仕分け会場での旧態依然としたマスコミの振る舞いと、その特権を放置している運営に、がっかりするとともに、反省させられた。一般の傍聴者が大勢立ち見をしているのに、報道席の空きがそのままなのは、どうにも理解できない。満員の一般傍聴席にコートを置いて席取りをしたまま1時間以上ほったらかしの記者もいたし、仕分けの最中の会場内からレポートをしている放送局もあった。以前、実際に行政刷新相の記者会見で質問に出たらしいが、「記者クラブ」も事業仕分けの対象にする必要がありそうだ。(http://www.magazine9.jp/hatakeyama/005/参照)

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「パフォーマンスに過ぎない」などの批判も多い「事業仕分け」ですが、
長い目で見た「役人の体質改善」の意義はある?
それだけに「もんじゅ」の話、
そして昨年に「仕分け」の対象とされながら、
深く切り込まれることのなかった「思いやり予算」など、
気になる部分もいろいろあります。

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どん・わんたろうさんプロフィール

どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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