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2010-11-24up

B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」

【第26回】

就職氷河期に自衛隊の求心力が増していく

 就職氷河期になればなるほど、この「職場」の人気は高まっていくのだろう。普通の生活に比べると束縛されるし、厳しい訓練もある。でも、公務員だから食いはぐれないし、よほどのことがない限り実際の戦場に赴く心配もなさそうだ。

 自衛隊のことである。暴力装置であるや否やにかかわらず、今の時代、若者たちの就職の受け皿として必要欠くべからざる存在になっていると認めざるを得ない。3K(懐かしい言葉ですね)の典型のように言われて敬遠されていた頃とは、隔世の感がある。

 事業仕分け第3弾・後半を何気なくのぞいていて、数字に驚かされた。自衛隊が昨年度に採用した数、計8069人。それでも、退職者が少なかったため2年前の半分だという。応募は10万3800人で、前年より2万人以上も増えた。辞退者を見越して合格者は2万2000人だが、競争率が5倍近い狭き門である。応募者が増え、倍率が上がるにつれ、隊員の質も向上していることは想像に難くない。

 しかも、自衛隊員の募集にあたるリクルーターが全国に2500人もいる。1人あたりの採用数は、年間3人である。その予算、今年度は211億円。1人を採用するのに250万円かけている計算になり、仕分け人から「民間の10倍だ」との声が出ていた。潤沢なお金と人手を投じて人材を集められるわけだから、買い手市場で強いに決まっている。もっとも、仕分けでは「担当者数の大幅縮減」を言い渡されていたが。

 もう一つショックだったのは、自衛隊が1年間に全国1700の高校で採用説明会を開いたという数字だった。1700校の少なからぬ数は公立高校だろう。公立高校の教職員による労働組合・高教組は、どこの都道府県でも最も「リベラル」な立ち位置で、学校に自衛隊が入ってくることに拒絶反応を示してきた。教育委員会の締め付けや組織の弱体化はあるにせよ、その労組をもってしても抗えないほど、就職先としての自衛隊は無視できなくなっているのだ。

 防衛大学校の人気も高まっている。今春入学の一般入試受験者は1万3000人と、前年より1500人も増えた。実質倍率は9倍近い。受験料はタダ。入学すれば寮費も学費もかからず、特別職国家公務員として手当までもらえる。今年度の同校の予算は178億円で、学生1人あたりの経費は年間946万円だ。全寮制の厳しい学生生活を強いられるが、卒業後に自衛隊に入らなくたってお金を返す必要はない。防衛学が必修とはいえ、基本は普通の大学と同様のカリキュラムだから、経済的に恵まれない家庭の子どもが大卒の資格を取るには本当にありがたいだろう。

 こうして、現下の経済情勢を追い風に、自衛隊は名実とも、ますます充実していく。

 これって、「護憲派」にとっては、かなり危機的な状況である。見方によっては、自衛隊の武器や装備が進化していくより怖い。だって、生活の糧となる場として、国民に頼られる度合いが高まっていくわけだから。こういう形で浸透するほどに、自衛隊への認容度は増していく。「違憲だ」なんて主張したって耳を傾けてもらえない状態に、世論は近づきつつある。

 それなのに「護憲派」の間で、自衛隊をこれからどうすべきかの議論が下火になっている(というか消えかかっている)のは情けない限りだ。違憲論がとんと聞かれなくなって久しい。災害救助隊や国境警備隊、人道支援隊のような組織に衣替えすべきだという提案も、どこかに行ってしまった。そういえば「マガジン9(条)」が自衛隊と憲法9条のあり方を問う「国民投票」を実施して話題になったのは、もう5年も前のことになる。

 政治情勢の変化はあるにせよ、9条との矛盾などないかの如く、空気のように国民に入り込んでいく自衛隊。「護憲派」は黙って見ているだけでいいのか。危機感がまるで感じられないことが、何より気になる。

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朝鮮半島における砲撃戦の対応について、
政府は「不測の事態に備えて国民の安心安全の確保に万全を期し、
陸海空自衛隊の情報収集態勢を強化することを指示した」と発表しました。
自衛隊のスタンスが、今後大きく変わりそうな今回の出来事。
いずれにしても、私たち国民が「自衛隊」をどう位置づけるのか、
を考える時にきています。

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どん・わんたろうさんプロフィール

どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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