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2012-10-03up

「マガ9学校 第21回」

9月15日(土)14:30〜16:30
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

河野太郎さんに聞く「どうなる? どうする? 日本の脱原発と政治」講師:河野太郎さん(衆議院議員)

河野太郎さんといえば、自民党のなかで脱原発を訴える数少ない議員として知られます。諸外国とは違って核燃料サイクルを中心とする日本の原子力政策には、かねてから異を唱えてこられました。政府の環境・エネルギー会議は、原発ゼロを目指しながら、核燃料サイクルは存続すると矛盾だらけの方針を示しましたが、福井県の「もんじゅ」も、青森県の「六ヶ所再処理工場」も実用化のめどは立っていません。一方で、溜まり続ける使用済み核燃料は深刻な問題です。難題だらけの原子力政策は今後どうなるのか。また、憲法改正やその他の諸問題について河野さんはどう考えているのか。率直に語ってもらいました。

河野太郎(こうの たろう) 衆議院議員。1963年、神奈川県生まれ。大学卒業後、民間企業での勤務を経て96年、第41回衆議院選挙に神奈川15区から出馬して初当選。以降、5期連続当選。法務副大臣、総務大臣政務官などを務める。原発を推進してきた自民党の中にあって、当選以来、核燃料サイクルの矛盾について指摘し続ける。著書に『私が自民党を立て直す』(洋泉社新書)、『変われない組織は亡びる』(共著、祥伝社新書)など。最新著に『「超日本」宣言 わが政権構想』(講談社)。twitter はこちら→@konotarogomame

 第一部の冒頭、河野さんは貯まり続ける使用済み核燃料の問題に言及しました。
 「核のゴミは数万年もの間、放射能レベルが元に戻らない。かつては乱暴にもロケットで宇宙に飛ばす案がありましたが、ロケットの打ち上げは20回のうち1回は失敗します。だから地中処分しようとしていますが、10万年ものあいだ火山や地震、地下水の影響を受けない場所が日本に存在するのかどうか。ある地質学者は『10万年後も日本が同じ形と思っている地質学者はいない』と言っていました。そもそも10万年前に人類はいなかったのですから、10万年後に使用済み核燃料を管理できると思うのは甘いと言わざるを得ません」
 2030年までに原発依存度を15%以下に、などの政府方針についても河野さんは反対しています。
 「各原発で使用済み核燃料を貯蔵しているプールは、あと10年ほどでいっぱいになります。2030年になる前に溢れるのです。東電は六ヶ所村で再処理をするといいますが、再処理工場は動いていません。仮に稼働しても、年間8トンものプルトニウムが残ります。テロの標的にだってなりかねません。福島の事故があってもなくても、一回立ち止まって考えなければならないテーマなのです」

 これほど根本的な問題があるにもかかわらず原発を続けようとする国の姿勢に対しては、「使用済み核燃料で核兵器を作ろうとしているのでは」という指摘があります。先般、森本敏防衛大臣は「原発が稼働していることは潜在的な抑止力になっている」と述べましたが、河野さんの意見は「原発と核兵器は関係ない」とこれを否定するものでした。
 「核兵器の核弾頭は1発につきプルトニウム8kgで作られるそうです。仮に10kgとして計算しましょう。国内にはイギリスやフランスに再処理を頼んだ放射性廃棄物45トンのうち、10トンが戻ってきていますから、1000発もの核弾頭ができてしまいます。これほど大量の核弾頭を作ったら、NPT(核拡散防止条約)違反で世界からのウラン供給が止まります。本気で核兵器を作るなら、むしろ原発を止めたほうがいい」

 96年に国会議員に初当選した河野さんは、当初から「原発の新規設置をやめて40年後に完全廃炉にしよう」と主張していました。「当時は相手にされませんでしたが、今は『気が長すぎる』と言われる」と笑い、今後の脱原発について見通しを語りました。
 「一番大事なのは省エネです。2050年までに現在の40%を省エネできれば、産業や家庭に影響を及ぼさずに済むはずです。残りの60%は再生可能エネルギーで賄って、無理だったら天然ガスで補完すればいい。この2つができれば、最悪2050年に脱原発できると思います。うまくいけば2030年くらいに前倒しできるかもしれません」
 脱原発が実現可能であるという試算は、すでに様々な分野の研究者から発表されています。しかし、国としてなかなかその方向に行かない理由の1つが経済界の抵抗。河野さんはこう批判しました。
 「経済界にとって、電力会社は非常に魅力的な顧客です。総括原価方式で消費者に負担を請求できる電力会社は、あまり値切らず取引できますから。北海道や関西、九州の経済団体の会合では、上座に座っているのはたいてい電力会社です。公益企業なのですから、隅に座っていていいはずなのに。本来ならば総括原価方式をやめて、一般家庭分を含めて市場取引にすべきです。送電網も開放して発電会社がフリーアクセスできるようにする。そうした正しいビジネスができないのは、経営者が国ではなく自社のことしか考えていないからでしょう」

 第二部は、原子力政策を含めたこれからの政治について、様々な観点から質問に答えていただきました。最初の質問は、自民党内に脱原発派はどれだけいるか。今回の総裁選では、5人の候補者のうち誰も脱原発とは言わず、原発推進の印象が強い自民党ですが、河野さんはそれほど悲観していないようです。
 「北海道の長谷川岳議員は、私と一緒に『原発ゼロの会』の世話人を務めています。茨城県の永岡桂子議員も同会のメンバー。柴山昌彦議員や平将明議員といった若手からも、原発をやめて再生可能エネルギーにしようという声が上がっています。今や、かなり私一人ではなくなってきました。単なる一人のテロリストだったのがゲリラグループくらいにはなったかな。自民党もだいぶ変わりました」

 一方で、どこの党に投票するべきかという質問に対しては「今は政党よりも議員個人の資質を見て決める時代」と断言します。
 「ゼロの会は自民党から共産党の議員まで参加しています。政党ではなく、『ゼロの会所属』を目安に投票してもらいたいですね。そのために、ポスターに貼るクラゲのマークも作りました。現職議員は80人ほど所属しています。小選挙区ごとに所属議員がわかるリストをネットで広めたいですね」

 原発の是非については、国民投票で決めるしかないという意見もあります。各地で原発国民投票に向けた署名活動などが行われていますが、河野さんは「国会のルール上、難しい」と見ている模様。
 「国会運営に問題があるのですが、政党内で一致しない問題は議題に取り上げられません。原発国民投票をしようにも法案制定できないのです。署名活動などが徒労に終わるくらいなら、ストレートに『原発やめろ』と運動したほうがいい」
 脱原発運動といえば、毎週金曜日の官邸前抗議行動をはじめ、各地でデモが行われていますが、もしかすると"次のステージ"に目を向ける時期が来ているのかもしれません。河野さんはこうアドバイスします。
 「金曜の夕方、国会議員はみんな地元に帰っているので抗議の声は届きません。私は、ぜひ議員の事務所に直接行って『あなたの原子力政策はどうか』と聞いてほしいと思っています。電力会社は毎日のように議員にロビーイングしています。東電がつぶれたら停電になって経済危機などという嘘が、議員の頭にこびりつくのです。それに対抗しなければならないのですが、ぜひご自分の選挙区の議員事務所に行って直接抗議してください。入れ代わり立ち代わり1000人くらいが30分交代で事務所に来ると、議員も考えますよ。デモパレードをやるなら、ゴールを議員事務所にするのもいいでしょう」

 この日は、自民党がまとめた憲法改正草案についても話題になりました。この草案は自民党内でどのような位置づけにあるのか。河野さんは賛同しているのか。また、草案に含む疑問点について河野さんはどう考えているのか。様々な側面からお話を伺いましたが、実は河野さん自身は「この草案はあまり意味がない」というご意見。憲法改正のための国民投票を実現するには衆参各議員の3分の2以上の賛成が必要ですが、不可能だというのです。その前提で、憲法改正について持論を述べました。
 「憲法の条文を1つ1つ見ると"穴"があります。たとえば、『公金その他の公の財産は公の支配に属しない事業に支出してはならない』(第89条)とあり、そのまま読むと私学助成はできないことになります。しかし実際には、学校教育法や私立学校法に定める教育施設は公の監督にあると解釈して、助成されているわけで、実態と条文が一致していません。こうした点を直そうという世の中のコンセンサスができたとき、初めて憲法改正がテーブルに乗るのだと思います。自民党が草案を作って変わるなら、この50年のうちにすでに何かあったことでしょう」

 とはいえ、今後、自民党が再び政権を取った場合には、草案が一人歩きするのではという懸念もあります。この日、会場にいらっしゃっていた鈴木邦男さんから河野さんに次の質問がありました。
 「草案の第1章3条には『日本国民は、国旗および国歌を尊重しなければならない』と書いています。99年に国旗国歌法が施行された時は『強制ではない』と言われながら、実際には卒業式や入学式で国歌斉唱を拒否した教師が処分されています。一般の法律でも一人歩きするのに、憲法に"尊重"と書かれたらどうなるのでしょうか?」
 河野さんは、こう答えます。
 「国歌が流れて国旗に礼をするのは、国際標準の礼儀です。以前、あるスポーツ大会のセレモニーを米軍基地で開催した際、君が代が流れているのに立ち止まらず歩いている日本選手がいて、米軍側が『しまった! 国歌を間違えたか』と慌てたというエピソードがあります。少なくとも、こういう礼儀を身に着けることは必要でしょう。タイでは国歌が流れているときに敬意を表さなかったとして、不敬罪で逮捕された人がいるくらいです」

 憲法改正に関して河野さんが重要視しているのは、実際の社会と条文が一致することにあるようです。自衛隊のあり方についてはこう明言しました。
 「憲法の条文では自衛のための戦力も認めないことになっていますが、解釈によって自衛隊の海外派遣も行われています。私は、色んな解釈を知らなければ憲法を理解できない状態は望ましくなく、実態に合わせて変えたほうがいいと思っています。日本は自衛のための戦力を持つ。ただし侵略はしない。世界のために応分の負担をしなければならないときはすると明文化すべきです」

 講演の後半、会場からは様々な質問が寄せられました。そのうちの1つ「橋下氏の維新の会についてどう思いますか?」との質問には「維新の会といっても色んな人がいますから、候補者を1人ずつ見てほしい。有能な人もいれば、選挙で負けそうだから維新に行った人もいます。自分が思い描いている政策が誰かと100%一致することはありえません。最後は、政策が7〜8割同じで信頼できる人に託すことになるでしょう」と答えました。
 ほかにも、「死刑制度についての意見を聞かせてください」という質問には「存続すべき。ただ、法務副大臣だったときは、大臣、副大臣のフロア直通のエレベーターに乗ると胃がキューっとなり、机の上に書類がない日はスーッとやわらぎました」とかつての苦しさを振り返りました。
 原発問題にとどまらず、非常に多岐にわたる質問に答えてくれた河野さん。「ゼロの会」はもちろん、自民党の中での今後の動きも注目していきたいと感じる講演でした。

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

河野さんのナマの声が聞けてよかったです。もっと若い世代の参加者にも聞いてほしかったです。(匿名希望)

国会運営のルールに問題があることがよく理解できた。地方議会も同様の問題の解決に向けて、議会改革を行っている。国会が国民の意見を代表できない運営の改革を国会議員には進めていただきたい。(匿名希望)

疑問に思っていたことの多くが解消されました。党って何だろう…という疑問は残りました。これからも地元の議員に問うていきます。(匿名希望)

「反原発」主義の河野さんに、その実現のための政治家としてのプロセス、手法が聞きたかった。例えば新党を結成するとか。そうでなければ、先見性のある評論家で終わってしまうことが危惧される。(大橋徹郎)

河野さんの原発についての考え方は共感。憲法問題については、いろいろ逃げていると思いました。橋下市長の非民主的な政策を「支援」というのは残念でした。(政治の場の)実情は解釈改憲ということで、実質的に9条をないがしろにしてきたので、憲法条文と実態をあわせるという意見について、もっと突っ込んで聞いてほしかった。(匿名希望)

現在の国会の問題点の指摘は興味深かった。疑問点としては、現実と大きな乖離がある憲法9条は改めた方が良いとの主張だが、そうだとすれば憲法は単なる現実追認になってしまうのではないか。(池上仁)

いろいろな政党の考えを聞くことは視野が広がって大変良い。賛否はともかく勉強になる。国会議員に直接、自宅や事務所に要望をしてはという助言は受け止めたい。(匿名希望)

河野さんの講演は良かったが、質疑応答で憲法が論点になってしまい、原発について掘り下げがなかった。範囲を広げずにテーマは「原発」にしぼるべきである。(匿名希望)

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