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2013-07-17up

「マガ9学校 第28回」

2013年6月30日(日)15:00~18:00
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

「参院選前に考える! 立憲主義と民主主義 ~主権者って何する人?~」講師:伊藤真さん ゲスト:春香クリスティーンさん、鈴木邦男さん

今度の参院選の焦点の一つともいわれている「改憲」。でも、そもそも憲法とは何か? 立憲主義とは何か? こう問われると、意外と答えられない人も多いかもしれません。この日のマガ9学校では、伊藤塾塾長で弁護士の伊藤真先生に「憲法の基本のキ」を解説してもらいました。また、タレントで“政治家の追っかけ”が趣味だという春香クリスティーンさん、おなじみの鈴木邦男さんをゲストに迎えて、世代、思想を超えた濃密なディスカッションが展開されました。

伊藤真●いとう・まこと 伊藤塾塾長、法学館憲法研究所所長、弁護士。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)など多数。「一人一票実現国民会議」の発起人。

春香クリスティーン●はるか・くりすてぃーん 1992年1月26日生まれ、スイス連邦チューリッヒ市出身。日本語、独語、仏語、英語が堪能。趣味は国会議員の追っかけ。SNSサイト「国会マニアティーン」を主宰。読売テレビ「情報ライブミヤネ屋」、TBS「はなまるマーケット」レギュラー。オフィシャルブログ「コケてもコケてもクリスです。」

鈴木邦男●すずき・くにお 評論家、一水会顧問。1943年福島県生まれ。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、産経新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して 「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に 『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)、『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)など多数。マガジン9では、「鈴木邦男の『愛国問答』」を連載中。

 第一部は伊藤先生の講演です。まずは「立憲主義とはなにか?」を理解するために、憲法と普通の法律の違いについて解説されました。「私もそうでしたが、多くの人は憲法を国の最高法規もしくは、法律の親玉みたいにイメージしているのではないでしょうか。しかし、憲法は“法”ではあるけれど、“法律”ではありません」と伊藤先生は言います。
 普通の法律は、社会の秩序や安全を守るために、国が国民の自由を制限します。例えば、道路交通法は、スピードの出し過ぎや飲酒運転を制限することで安全を守っています。一方、憲法は全く逆で、国民が権利や自由を守るために国を縛っています。時折、えん罪事件などが発生しますが、そのような国家権力の暴走が起こらないようにするために憲法があるというわけです。
 これが立憲主義の考え方ですが、民主主義と対立する概念だと思っている人もいるようで、伊藤先生は「国民を信用しないのか」と言われることがあるそうです。しかし、「国家とは人為的に作られた統治権力の主体(State)であって、祖国、故郷という意味の国(Country)ではありません。立憲主義は、あくまで前者の意味の国家を制限するためのものです」と伊藤先生は言います。“国”という言葉が持つ2つの意味を分けて考えることが、憲法を理解する上での最初の一歩と言えそうです。

 自民党草案の前文には、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される」と書かれています。一見、抽象的なことのようですが、「国家を縛る憲法の中に、文化や歴史、伝統を入れるべきではありません」と伊藤先生。歴史解釈については、個人によって考え方が分かれます。また、“日本固有の文化”と言われていることが、実際にはそうでもないケースがあります。元号は中国の皇帝が用いていた制度を真似たもので、夫婦同姓も明治以降にイギリスから輸入した文化。ほかにもさまざまな問題があるにもかかわらず、民族性や領土にこだわる自民党草案は、「国民を分断することになりかねず、制度設計として稚拙」と伊藤先生は指摘します。ヨーロッパでは2つの「ち」(血・地)については憲法に入れないことに決まっているとのことでした。

 また、自民党草案には、国民の義務規定がたくさん盛り込まれていることは、ネット等でも話題になっています。この日のマガ9学校でも、これが大きなテーマとなりました。例えば、前文には「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」とあります。よく読むと、“国民が”人権を尊重すると書いてあり、「本来、人権は国が保障すべきことなのに、国民に尊重を義務づけることは立憲主義に逆行する」と伊藤先生は話します。
 もう1つ、伊藤先生が強調したのは第13条「全て国民は、人として尊重される」とある部分です。現行憲法では「すべて国民は、個人として尊重される」となっており、「個人」から「人」へ置き換えたことには大きな意味がありそうです。伊藤先生は「かけがえのない存在の『個人』から代替可能な『人』へと変えたことは、戦争の布石になる可能性があります。兵隊は戦争で命を失っても別の人が代わりになる」と懸念を示しました。
 ほかにも、国防義務(草案前文3段)、日の丸・君が代尊重義務(草案3条)、家族助け合い義務(草案24条)など、驚くほどたくさんの義務規定がありますが、いずれも「個」より集団組織、国家を大切にする考え方に貫かれています。あくまで国家権力が有利になる内容で「現行の憲法を、憲法でなくしてしまうのが自民党草案」(伊藤先生)なわけです。今度の選挙によって自民党が勝つことは、「個」が軽視される社会に近づく……そう肌で感じさせられる講演でした。

 第二部はゲストの春香クリスティーンさんと、伊藤先生の対談です。春香さんは5年前に来日。それまではお母さんの祖国のスイスで暮らしていました。スイスの憲法のあり方は、日本と大きく違うようです。「スイスでは頻繁に憲法改正が行われています。部分改正も全面改正も含めて、年1回以上は改正があります」と春香さんは言います。
 ただ、その憲法の内容は日本と大きく異なるのだとか。この日、伊藤先生が調べてきてくれた中には「スポーツ教育振興や、国土の測量、水の節度ある利用、動物保護に至るまで、非常に細かなことも憲法で定められています。比較するのは難しいが、日本では行政法で対応することも含めて、丁寧に書いています」とのことでした。自分たちで国を作る意識が、日本よりだいぶ高いのかもしれません。

 スイスでは、日本と違って国民投票が頻繁に行われています。そのため、自分たちのイエス・ノーを主張するのは当たり前の雰囲気があるようです。春香さんは「スイスでは18歳から投票権があり、だいたい中学生くらいからみんな新聞を読み始めて、休み時間も討論しています。『スイスもEUに加盟したらどうか?』とか。それに比べて日本は20歳で選挙権を得て、いきなり政治と関わるようになるのが不思議でした」と率直な感想を語りました。現に、日本の大学に通っている今も、友人たちとのおしゃべりで政治がテーマになることはないそうです。
 ただ、スイスの国民投票はいつも投票率が高いとは限らないそうです。だいたい30%くらいと言われ、5フラン(約500円)ほどの罰金を払って投票に行かない人もいるとか。その理由は「年に何回も国、州、市それぞれの投票があるので、自分が関心のあるものは行くけれど、『お任せします』と思うものもあります。例えば、『この町の美術館にこの絵を飾るかどうか』とか(笑)」とスイスでの実情を明かしました。
 ちなみに、スイスでは選挙活動のあり方にも日本と大きな違いがあるようです。
 「駅前や選挙カーでの演説はなく、ポスターや郵送でチラシを送るのがメインです。州によっては試験的にEメールを導入しています。テレビなどでの公開討論は活発ですね」(春香さん)

 対談の後半では、鈴木邦男さんも加わって議論を続けました。鈴木さんは、『朝まで生テレビ』の収録で憲法9条について議論し、意外だったことがあるそうです。
 「自衛隊は人を殺さないし、震災で活躍する。当事者たちはそれに誇りを持っていると思っていました。でも、収録で自衛隊の幕僚長と会ったら『いや、軍事力がなくてはならない』という。アメリカ側は『自信を持ってプレゼントした憲法を変えられるのは嫌だ』と思っていると予想しましたが、ケヴィン・メアさん(国務省元日本部長)は『変えて欲しい』と言いました」(鈴木さん)
 憲法9条が軽んじられていることを伺わせるエピソードです。
 鈴木さんは「私はずっと自主憲法を作ったほうがいいと思っていましたが、自民草案で国民が不便になるのなら、今のまま“自由な押しつけ憲法”のほうがいい」と述べ、今後の自衛隊について持論を展開しました。
 「自衛隊は軍隊が進化したものだと誇りに思えばいい。これから先は自衛隊ではなく保安隊→警察予備隊→警察と過去の形式に戻り、軍隊のない国を目指すといいじゃないか」(鈴木さん)

 これについて伊藤先生も共感を示し、9条の理念をもっと世界に発信する必要性があると語りました。「自民党草案では、軍隊の中に裁判所を作るとしています。軍人に人権をなくし、人の命を奪って勲章をもらう価値観を是認する流れになりかねない」(伊藤先生)
 一方、スイスは永世中立国で徴兵制がありますが、春香さんによると「どこの国が攻撃して来ても同じように戦うという意味の中立です。軍も自分たちを守るための存在で、NATOにも加盟していません。自立して自分たちで身を守ろうという国民性なんですよね」とのことでした。

 さまざまな違いのある3人のディスカッションによって、多様な角度から憲法を考える場となりました。春香さんは「改めて日本とスイスは違うことを実感しました。今度の選挙では、もう一回自分のなかで憲法について考えたい」と述べました。また、伊藤先生は「自民草案を批判して終わりでなく、自分たちがどうしたいか考えること。青臭くても、理想を語り続けることが大切です」と感想を述べました。

 伊藤先生と春香さんは第二部までの出演でしたが、第三部では鈴木さんが貴重な歌を聴かせてくれました。なんと憲法24条をテーマにした流行歌で、タイトルは『24条知ってるかい』。昭和30年代の歌で、歌手の守屋浩さんのCDに収録されています。“明治生まれじゃ無理だけど、もっと勉強してくれよ。憲法24条~♪”という歌詞から、家庭生活における両性の平等を定めた24条が、戦後の日本にいかに大きな変化を与えたかを想像させます。
 鈴木さんは、24条を作ったアメリカ人女性、ベアテ・シロタ・ゴードンさんに、このCDを送ったことがあるそうです。「庶民の歌だから、もしかしたら気に入ってもらえないかな、と思いましたが、『私の作った24条がこうして一般の人が聞く歌になっているなんて』と逆に喜んでいました」とのことでした。

 なお、この日のマガ9学校では、参加者同士のディスカッションの時間を設け、日ごろ思っている憲法のこと、政治のことなど、思い思いに語り合いました。

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

自民党の憲法改正案について、全体的な観点で学ぶことができ、大変参考になりました。憲法改正についてどう考えるか、自分でもこれから勉強したいと思います。(三平准太郎)

はじめて学ぶことが多かった。やはり、学ぶこと、知ることは本当に大切だと改めて感じました。知らないと判断出来ないことがあるので。最後に鈴木邦男さんのグループトークで話していた「融通性」がキーと感じました。「対話」の可能性を信じていきたい。(堀井愛加)

伊藤真さんの明快な説明に感動した。鈴木邦男さんの話で、“自衛隊をめぐる議論状況”がよくわかった。(匿名希望)

伊藤先生の話は理解しやすかった。(高橋弘文)

自民党草案の怖さが改めてよくわかった、多くの国民がこの事実に気がついて欲しい。(匿名希望)

あらかじめ伊藤先生のお考えを東京新聞で読んでいましたが、立憲主義を改めて理解することができました。(匿名希望))

憲法と法律の違いなど分かりやすく教えていただき、大変参考になりました。きちんと知ること、考えることの大切さを痛感しました。ありがとうございました。(匿名希望)

改憲の動きに危機感を抱いたので、伊藤真さんの話を“生”で聞いてみたいと思いました。多面的に憲法をとらえることができました。(匿名希望)

伊藤真さんの話がとても分かりやすかった。伊藤さんも春香さんも、日本の若者の政治への興味があまりないことを述べていたが、その一歩先のアイディア、プロセスがあれば聞きたいと思った。(匿名希望)

伊藤先生の話を聞くために参加しました。非常に明快でわかりやすいですね。もう少し時間が長ければ良かったです。(匿名希望)

伊藤真さん、鈴木邦男さんとの絡みが面白く、もっと聴きたかったです。春香さんの話がおもしろかったので、外国人の方を講師に呼んで、自国の憲法と日本の9条の違いなど、聴いてみたいと思いました。グループワークでは、何を話すか、共有していただければありがたかったです。(匿名希望)

伊藤真さんのお話は、早口でしたがよく理解できました。理想を現実にするよう主体的に頑張って生きていきます。鈴木邦男さんのお話が短くて残念でした。(匿名希望)

それぞれの視点から、憲法の話、それにかかわる話が聴けておもしろかったです。印象深かったのは、“理想を語る”人がいなくなったという事。(匿名希望)

第一部では憲法の意義を確認でき、少し早口ではあるがわかりやすかったです。第二部はもう少し春香クリスティーンさんの話を聴きたかった。(グループトークでは)自分の無知さを実感。色んな考えの人と話をすることで、自分の考えをまとめていくことができるのだろうと思った。(匿名希望)

「憲法とは」ということを考えることができました。スイスのように!?討論できる“話し場”が、私のまわりでもできたらな〜と思いました。(匿名希望)

第一部は、自民の改憲案が根本的にだめだということがよくわかった。難易度は自分には丁度よかった。第二部は、クリスティーンさん、興味をもったことに、行動をおこす積極性がすばらしい。見習いたい。第三部は、鈴木さんのお話、おもしろかった。本音・理想・現実が入り交じって生き生きとした話をきくことができた。ひょうひょうとして人間くさいところが、おもしろいです。
一部の後に、伊藤先生への質疑応答の場を用意してもらいたかったです。(匿名希望)

初めての受講ですが、憲法問題の本質を学ばせてもらいました。憲法9条は絶対に守るべきと思います。最後の討論会は充分な時間が欲しかったです。(阿部研也)

【お知らせ】
春香クリスティーンさんが書いた
選挙ガイド本、絶賛発売中です!

政治も選挙も、自分の問題を考えること。
それに、知ると面白いよ。
だからもっと関心をもって欲しいと思って、「本」を書きました。

 来日して最初に感じたのは、学校でも職場でも政治や選挙の話題を、みんながしないということ。タブーのようになっていて「なんでだろう。自分たちのことなのに」とちょっと不思議に思いました。でも日本の政治家や選挙に興味があったので、国会のガイド付き見学や傍聴など、一人で行ってましたね。 そう、同級生を誘っても誰も一緒には来ないから(笑)。

 昨年の衆議院選挙の投票率は、あまりにも低い数字(59.32%。これは同選挙の戦後最低)ということで、ショックでしたね。みなさんが選挙に行かないのは、政治家の人たちの存在が遠いというか、あまり知らないからではないかしら? そう思って政治家の方(小沢一郎氏:生活の党、谷垣禎一氏:自民党、細野豪志:民主党、柿沢未途氏:みんなの党)へのインタビューも行いました。こわいとか、とっつきにくいとか思われている政治家の方も、お話ししてみるととても人間味があって、面白かったですよ。

 みなさんが政治への関心を持つきっかけはいろいろだと思いますが、この本もそんな一つになれればいいな、と思っています。

 「選挙ガイド本」といいながら、カラフルな色使いやカラー写真も多用してあり、ちょっと見た感じは「春香クリスティーンさんの写真集かな?」と思ってしまうほど。でも中身はしっかり、日本の選挙制度についてまで、わかりやすく解説してあります。

 さて選挙まであと数日となりました。読んでから投票に行くか、投票に行ってから読むか!? もうそんな状況ではありますが、是非、スイス生まれの21歳の女性が書いた「政治本」としても、手に取って欲しいと思います。

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