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教えて!山田先生
第一回 第2回 第一回 第4回 第5回
アメリカなら北朝鮮のミサイル基地を
完全に破壊することは可能なの?
現状の日本には敵基地攻撃能力がないものの、
潜在能力は十分あることが前回のお話でわかりました。
では、日本が軍事同盟を結ぶアメリカの敵基地攻撃能力はどの程度のものなのか、
山田先生にお聞きしました。
山田先生 やまだ あきら 
日本近現代史、軍事史、天皇制論、歴史教育論が専門。
おもな著書に『護憲派のための軍事入門』花伝社
『軍備拡張の近代史-日本軍の誇張と崩壊』吉川弘文館
『歴史修正主義の克服-ゆがめられた<戦争論>を問う』高文研

アメリカは北朝鮮のミサイル基地の位置を ほぼ把握していると言ってよいでしょう
まずお聞きしたいのは、アメリカは北朝鮮のミサイル発射基地の場所を完全に把握しているのかどうかということです。諸説ありますが、どうですか。
 ノドン、テポドン級のミサイルが発射される地下サイロの位置とミサイルを積んでいるトレーラーが隠されている位置(おそらくはトンネルなどに入れられている)は、アメリカは偵察衛星によって場所をほぼ把握しています。地下サイロは、発射口が約数m四方あるなどけっこう大きなもので、いくら偽装してもバレてしまいます。仮に地下サイロを完全に秘密に造ることができたとしても、ミサイルを発射する前の段階で資材を搬入するためのトラックが頻繁に出入りすれば、そこに地下サイロがあることが分かってしまいます。また、実戦においては、いざミサイルを発射しようとしたときに発射口が開かないと困るので、事前に発射口の開閉テストを行なうはずです。もし仮にノドンクラスが車載化されていたとしても、トレーラーの移動訓練も1回は行わないわけにはいかないでしょう。そうすると、その段階でミサイル発射の兆候はつかめます。
 これに比べて、スカッド級ミサイルは大型トレーラーに積んでの移動が可能ですから、発射ポイントを発射直前につかむことはかなり難しいでしょう。ただし、現在のように人工衛星で常に監視されている状態ですと、大型トレーラーで移動すればだいたい分かってしまいます。夜でも赤外線で監視していますからね。そういう意味では、スカッド級ミサイルも含めてアメリカは北朝鮮のミサイルの位置をほぼ把握していると言えます。日本も偵察衛星を1機飛ばしていますから、自衛隊も北朝鮮の地下サイロの位置はほぼ把握しているでしょう。

ひとつの地下サイロには、何基ものミサイルが配備されているのですか。
たぶん各サイロには1基のミサイルが配備されているだけで、すぐには再装填はできないと思います。
ということは、たとえばノドンが200基ある(最大限の見積もり)とすれば、ノドン用の地下サイロも200あって、それをアメリカは全て把握しているということですか。
 いいえ。仮にノドンの数が200としても発射サイロが200もあるとは思えません。再装填用のミサイルは地下サイロと別の場所に保管してあるはずです。ひとつの地下サイロにはノドンが1基配備されていて、その地下サイロが5〜6個、多くても10個ぐらい集まってひとつの「ミサイル発射基地」を形成しています。そしてそのミサイル発射基地が北朝鮮国内に5〜6ヵ所あると言われています。つまり、最大に見積もった場合、ノドン10基を擁したミサイル発射基地が北朝鮮国内に5、6ヵ所あるということになりますから、北朝鮮が同時に発射できるノドンは50〜60発ということになります。
ということは、日本に向けて同時に50〜60発のノドンが飛んでくる可能性があるということですか。
 最大に見積もればですね。ちなみにテポドンの発射基地も北朝鮮国内に5ヵ所ぐらいあるのではないかと見られており、アメリカはすでに「これはノドン用の地下サイロ、これはテポドン用の地下サイロ」といった具合に把握しています。

弱体化した北朝鮮の空軍力では、アメリカの爆撃等を 阻止することはほとんど不可能です
地下サイロの位置をほぼ把握しているとなれば、アメリカがそれを破壊することはそんなに難しくはないように思えますが?
 あくまで技術的な話としてですが、巡航ミサイル「トマホーク」などで攻撃すれば、破壊自体はそう難しいことではありません。トマホークは、艦艇・潜水艦・地上・航空機など、どこからでも発射できますので、あらかじめ地下サイロの位置をデータ入力しておけば、同時に多数の地下サイロを攻撃することができます。トマホークミサイルは弾頭が1トンまで積めますから地下サイロの射出口をほぼ破壊できるでしょう。
 これ以外にも、アメリカ本土から発射するICBM(大陸間弾道弾)、戦略原潜から発射するSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、米本土あるいはグアム基地から発進できるB2ステルス爆撃機、それから日本本土や沖縄から発進できるB52爆撃機による爆撃、さらに空対地ミサイルを搭載したF16ほかの戦闘爆撃機による攻撃など、さまざまな手段があります。
地下深くに造られた基地を完全に壊すのは難しいという指摘もありますが?
 トマホークミサイルは1トン程度の弾頭を積めるので相当な破壊力をもっていますが、仮に地下サイロを完全に破壊できなくても、射出口が壊れるだけでミサイルは発射できなくなりますから効果は十分あります。航空機による爆撃であれば、もっと強力な爆弾での攻撃になりますから破壊能力はさらに大きくなります。
アメリカが爆撃機による攻撃をするとなれば、北朝鮮も航空機などによって反撃するでしょうから、アメリカ側にも相当な被害が出ませんか。北朝鮮には航空機が600機近くあると言われていますし。
 当然北朝鮮は迎撃してくるでしょうが、北朝鮮の持っている作戦機580機の80%は旧式でほとんど戦力になりません。アメリカや日本の航空自衛隊が持っているF15イーグルは第4世代戦闘機ですが、北朝鮮の戦闘機の大半は第3世代以前のものです。そうなると、北朝鮮の空軍力ではとてもアメリカに対抗できません。
 この第何世代戦闘機というのは便宜的な分け方で、一般に、朝鮮戦争(1950―53)頃に使われた米軍のF86セイバーとソ連のMig(ミグ)15、Mig17までを第1世代、その後1950年代前半に開発された米軍のF104、ソ連のMig19などを第2世代、1950年代後半に開発された米軍のF4ファントム、ソ連のMig21、Mig23などを第3世代、1970年代以降に開発された米軍のF15イーグル、F16、ソ連のMig29やSu(スホーイ)27などを第4世代といいますが、異なった分類もあります。
世代が違うと性能にそんなに大きな差が出るのですか。
 たとえば北朝鮮が120機ほど持っているミグ21Fが北朝鮮空軍の主力戦闘機といえますが、これは1955年に原型が完成した第3世代戦闘機(米軍・自衛隊のF4ファントムとほぼ同世代)で、最大速度はマッハ2.05です。それに対してF15の最大速度はマッハ2.5と、スピードが全く違いますし、装備・レーダーなどもまったくレベルが違うため空中戦では勝負になりません。
北朝鮮には第4世代戦闘機はないのですか。
 北朝鮮の戦闘機で第4世代といえるのはミグ29ですが、20機程度しか持っておらず、これではほとんど戦力になりません。つまり、一気に全ての戦闘機が出撃して大打撃を被ると大変ですから、現実には半分は待機することになるわけです。そうすると一回の攻撃に参加できるのは10機程度になり、戦力としてきわめて脆弱です。
 何よりも、北朝鮮のパイロットは恒常的な燃料不足のためほんど訓練をしておらず、技能的に問題があります。年間平均訓練時間が15時間程度で、日本の航空自衛隊の月平均訓練時間よりも少ない。これでは技量を維持することなんてとてもできません。特に第4世代戦闘機のような高度な技量が必要な戦闘機の場合、月1時間程度乗るというのでは技術に追いつけません。こう見ると北朝鮮の空軍力はほとんど役に立たないといえます。
アメリカの攻撃はかなり有効で、それに対する北朝鮮の反撃力はほとんどない――なんだかお話を聞いていると、きわめて厄介な国である北朝鮮に対しては先制攻撃が有効な手段の一つのように思えてきてしまうのですが……。
 勘違いしてほしくないのは、今までの話はあくまでも技術的な話だということです。つまり、それぞれの兵器の性能や威力などをデータだけで見た場合どうなるのかという、いわば「机上の論理」であって、実際の戦闘になれば当然計算外のことが起きます。いや起こるどころか、計算どおりにいかないことが多発します。その場合、日本にとんでもない事態が降りかかってきます。そのことを考えれば、安易に「北朝鮮を叩いてしまえ」とはならないと思いますよ。これについては次週詳しくお話ししましょう。
計算どおりにいかない事態とは? 
その場合、日本にどんな事態が待ち受けているのか?
ちょっと不安な気持ちになりますが、次回詳しくお聞きします。


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