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2010-07-28up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第20回

2010年7月27日@法務省会見室

「決してよろしいとは言いにくいが、それだけ死刑は大変、重い」
(千葉景子法相)

 7月28日、千葉景子法相は法務省で記者会見を開き、東京拘置所で死刑囚2人の刑を執行したと発表した。死刑執行は民主党政権になってから初めてのことだ。また、千葉法相は、大臣として初めて死刑執行に立ち会ったという。

 不覚にもこの会見が開かれることを知らなかった私は、インターネット上のニュースサイト「47NEWS」でこの一件を知った。そして驚いた。それは前日の7月27日、私は千葉法相の記者会見で死刑制度について質問をしていたからだ。

 また、「MSN産経ニュース」の報道によれば、枝野幸男民主党幹事長は千葉法相が死刑執行命令書に署名をした時期について「24日だと聞いている」と発言したという。千葉法相の参院議員としての任期満了は7月25日。議員である間に署名をしたことになる。

 7月27日の記者会見の席上、千葉法相の左胸には、これまでの議員バッジではなく、七宝焼きの大きなブローチがつけられていた。この日、「民間人閣僚」として初めての会見に臨んだ千葉法相は、非常に落ち着いているように見えた。枝野幹事長の話が本当であれば、この時、千葉法相はすでに死刑執行命令書に署名をしていたことになる。

 この日の会見で、死刑制度について最初に質問したのは読売新聞の記者だった。法務省のサイトにはまだ7月27日の記者会見概要が掲載されていないが、私は自ら録音した会見の音声を文字に起こしてみた。ちょっと読みにくいが、空気を伝えるために一字一句、文の区切りには読点を入れてそのまま起こしてみた。しばらく我慢していただきたい。

読売新聞記者:去年の7月28日に死刑で3人を執行されて以来、間もなく1年になるんですけれども。
千葉法相:あぁ。
読売新聞記者:あらためて大臣の死刑に対する考え方というのを、民間閣僚としてということをふまえて、おうかがいできますでしょうか。
千葉法相:これは、あのー、基本的には、特段、変わるものではございませず、えー、大変、重い刑罰であるということを念頭におき、しかし、民間であろうが、そうでなかろうが、大臣としての、まぁ、職責であると、いうことは、認識をさせていただいていると、まぁ、いうことでございます。
読売新聞記者:再任された時の会見でも仰っていたことなんですけれども、「死刑制度そのものについての議論が必要じゃないかと。で、その議論のためには情報公開。刑場であったり、死刑囚の処遇であったりということも検討して、という主旨の発言がございましたけれども、今後、大臣、在任期間中にその動きを具体的に起こすというようなお考えというのはございますでしょうか?
千葉法相:ま、これはずっと、私の。当初からのみなさんへ、あのー、考えを示させていただいてきたことでございまして、変わるものではありません。ま、なんとか、努力を続けていきたい、ということでございます。
読売新聞記者:そのー、具体的にこう、何か動きがありそうですか? 動きは起こせそうですか?
千葉法相:まあ、それはあの、できるだけ、そういう私もなかなか知恵が(苦笑)、あのー、ないんですけれども、いろいろと念頭に置きつつ、努力を継続をしていると、まあ、いうことでございます。

 読売新聞記者に続けて私も質問した。

畠山:死刑のことについて関連して質問なんですけれども、刑事訴訟法では死刑判決確定から6ヶ月以内に執行しなければならないということがあるんですけれども。まあ、執行されないことというのが、ほとんどというか、きっちり6ヶ月以内に執行されるということがないということもあるんですけれども。厳密には法律に反しているんじゃないかということもあるんですけれども、これについての大臣のお考えというのをお聞かせいただけますでしょうか。
千葉:まあ、これは、あのー、たぶん、あのー、法律的にはそうなっていながらも、やっぱりあの、冒頭申し上げましたように、ま、大変、重い刑であり、様々な条件がございますよね。再審が起こされていないですとかね、あるいは心身に問題がないかと、いうことも含めて。まあ、これまでも、こう慎重に対応されてきたものではないかと。ま、そういうことをもって、なかなかこの規定通りにいかないということも、これは多かったのではないかな、というふうには思っております。まあ、そういう意味では、決して、よろしいとは、言いにくいところかもしれませんけれども、まぁ、それだけ、たいへん、重い、それから非常に慎重にならざるを得ない、こういう刑罰なのではないだろうか、と、いうふうに思います。
畠山:続けてなんですけれども、あまりよろしくないという、よろしいとは言えないということでしたけれども。
千葉:というか、法的にはね。はい。
畠山:それを解消するというお考えは大臣にはありませんでしょうか?
千葉:(少し考えてから)うーん。それはたとえば、法律を変えるとかそういう趣旨でしょうか?
畠山:はい。
千葉:まあ、これも、なかなか重い問題であろうというふうに思います。相当な議論、あるいはこれも、私が常々申し上げますように、国民の全体の納得とか、議論とか、こういうことがやっぱり必要になってくる問題ではないでしょう、か。はい。

 弁護士でもある千葉法相は、大臣就任後もしばらくは「死刑廃止を推進する議員連盟」に所属するなど、死刑には反対の立場だった。これまでの定例記者会見でも、死刑制度についての質問は20回以上飛んでいる。その度に、千葉大臣は「国民的な議論が必要」との趣旨の発言を繰り返してきた。

 ただし、残念なことに、これまで千葉法相自身が「国民的な議論」を喚起するために、具体的に働きかけることはなかった。

 たとえば今年4月23日の記者会見の席上、記者からは死刑制度についてのこんな質問が飛んだ。(私はその場にいなかったので、内容は法務省のホームページより抜粋)

質問者:国民的議論を起こそうと思っておられるのか、それとも起こるかどうか分からないものをお待ちになっているのか、そのあたりについて御認識を伺えればと思います。
千葉法相:誰でもいろいろな御意見、あるいはどちらにもなかなか決めきれないという気持ちはいろいろな皆さんがお持ちなのではと思いますし、決して何か議論が起こるだろうと、それを待って、私もどうかしようと、こういうことで考えているわけではありません。ただ、なかなかそれは重く、このような議論にそう関わりたいと思っている方も多いとも思いませんので、どういう形でどういう機会に議論なりをしていくか、どういう議論を進めていくか、本当に難しい問題ですので、これはいつも念頭に置きつつ、今どうしようということを常々考え続けているところです。

 また、鳩山内閣の閣僚としては最後の会見となった6月4日には、千葉法相自ら反省の弁も述べている。

千葉法相:決して私も、(死刑を)やるとかやらないとか、そういうことではなくして、大変大きな重みのあることですから、できるだけ慎重にと、そういうことも考えてきましたし、それと、もう一つは、やはり、私としては、なんとか良い意味で前向きないろいろな皆さんの御議論の場を作ったり、それから、もう少し死刑ということに対する情報がきちっと開示をされるような方向へ少し歩みを進められたらと、こういうことはございましたが、私の力がまだ足らぬところを持ちまして、まだその道筋がきちっとできなかったということは、大変残念というか反省をしているところです。

 死刑制度に反対してきた千葉法相が、死刑執行命令書にサインをした。そして、死刑執行にも立ち会った。法に定められた法相の職責ではあるものの、熟慮の末の判断、相当の覚悟を持って臨んだのだと信じたい。

 ただし、日本にはまだ100名以上の死刑確定囚がいる。そして、その執行順を決めるにあたっても明確なルールはない。
 今回の執行で国民的な議論が起きず、死刑の執行が法相の裁量に大きく左右され続けるのであれば、これまでと何も変わらない。千葉法相が大臣を務める意味はなくなる。
 国民的議論が立ち消えにならないよう、具体的な努力を続けていただきたい。

2010年7月27日@外務省会見室

「久しぶりですね(笑)。もっといいところがあったんですかね?」
(岡田克也外相)

 記者会見のオープン化を率先して実行してきた岡田克也外務大臣。岡田外相自身もオープン化に自信を持っているようで、折にふれて次のような発言を残してきた。

「次回以降お客さんが非常に少なくならないようにしたいと思います(笑)」(2009年9月29日)

「いろいろな幅広い意見がこの場で出るということは、私はいいことだと思います。また、私自身もこうやってお答えしながら、楽しまさせていただいている」(2009年12月29日)

「非常に多様な意見が出るということで、私も勉強になりますし、楽しく記者会見をさせていただいております。『おやっ』と思うような視点からの質問もあったりして、大変有用であると思っています」(2010年3月16日)

「より幅が広い意見やご質問を頂けるようになったと感じております」(2010年3月26日の記者会見)

「会見で皆さんからご質問やご意見をいただいて答えるというのは私にとりましていい機会でしたので、ストレス発散とまで言うとちょっと言い過ぎかと思いますが(笑)、やはり外に向かって発信していくというのは非常に重要でありますので、私は非常にありがたかったなというように思っております」(6月4日の記者会見)

 昨年9月以来、こうした岡田外相の記者会見をずっとインターネットで中継し続けてきたのが「ニコニコ動画」だ。ニコニコ動画の公式チャンネルは無料で外相会見をネット中継しており、誰でも視聴することができる。
 その最大の特徴は、視聴者から事前に募集した質問をニコニコ動画のスタッフが「代読」する点。つまり、間接的ではあるものの、国民が大臣に質問することができるのだ。

 冒頭の外相発言は、7月27日の記者会見で、ニコニコ動画の七尾記者が質問者に指名された時のもの(注・外務省の記者会見要旨には載っていないが、YouTubeの外務省公式チャンネルでの動画には記録されている)。※35分ごろから質疑。大臣が笑うのは35分45秒前後。

 ただし、私は指摘したい。
 ニコニコ動画の七尾記者が外相会見で前回質問したのは7月16日。7月20日、23日は大臣の海外出張により記者会見は開かれていなかった。つまり、ニコニコ動画は連続出席して質問している。そんなに久しぶりではなかったのだ。

「もっといいところがあったんですかね?」

 という発言は、完全に岡田外相の勘違い。しかし、“お客さんを奪われた”ことをちょっぴり悔しがっているかのような“独り言”は、世間で堅物と呼ばれている岡田外相のイメージとはかけ離れたものだった。

 裏を返せば、岡田外相はそれぐらい多様な質問や多様な意見を楽しみにしているということだ。読者のみなさんも、質問したいことがあったら、ぜひどうぞ。

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28日朝、突然飛び込んできた2名死刑執行のニュース。
前日の27日に「死刑」について質問していた畠山さんは、
非常に驚きながらも、淡々とこの時の模様を採録してくれました。
テレビや新聞のニュースだけではなかなか伝わらない、
千葉法相とのやり取りが、息づかいまで伝わってきます。
「死刑制度」について国民的議論を巻き起こす努力を、
私たちも続けたいと改めて思いました。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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