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この人に聞きたい
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広井王子さんに聞いたその2

独自の価値観で世界から尊敬される国に

憲法を改定しようという動きは、
今の社会状況とどうリンクしているのか。
そして私たちは9条をどのように
活用していけばいいのか、についてお聞きしました。

広井さん
ひろい おうじ 1954年東京都生まれ。
レッド・エンタテインメント代表取締役会長。
ゲームクリエイターとして『サクラ大戦』『天外魔境』などの大ヒットゲームを生み出し、
“業界の革命児”“ゲーム界の貴公子”と呼ばれる。
現在もゲームの企画・監修・プロデュース、アニメ・漫画原作、舞台監督・演出、著述業、
ラジオDJなど多岐にわたる分野で活躍するマルチクリエイター。
情報はあるのに想像・創造ができない若者たち
編集部

“なんとなく”というムードで流されていきそうな、改憲の空気があります。世の中の人には、今まで憲法や9条によって享受できた自由や平和が、制限されていくという実感が今ひとつないようです。

広井

ぼよよんと幸せだからでしょう。飢えも恐怖(戦争)も結局は未だに対岸の火事なんだと思いますよ。実際のところ、本当にミサイルが飛んでくると思っている人はあまりいないのではないでしょうか。テロを警戒すると言ったところで、本当に地下鉄に爆弾が仕掛けられると思っている人はいない。じゃなかったら電車に乗った途端に一斉にケータイ見ないと思いますよ(笑)。

編集部

改憲案の中には国民への様々な義務も加えられているのに、わりとあっさりそれを受け入れてしまう空気があって、首をひねってしまいますが。

広井

いい教育をしてきたね、国は(笑)。学生運動の燃え上がりの反省があって、うまくコントロールしてきたなという感じがします。

編集部

その後も「ゆとり教育」という名のもとで、するべき教育を怠ってきたのではないでしょうか。

広井

今は親が、教養を子どもに教えなくなっているように感じます。僕の家はね、芸能好きな一家だったから、映画に行くといったらすぐにお金くれたし、学校は休んでいいけど舞台は殴ってでも連れて行くという親だった(笑)。でも、そうやって本物にかかわっていると興味も出るし、豊かな気持になれました。それが僕の場合は、今の仕事に確実につながっています。

今の親は子供を野放しにして、それが自由の尊重だとかなんとか言うでしょ。でもそれは子供をバカにすることだから。若い心はスポンジみたいにやわらかいんだから、いっぱいつめこんだ方がいいんですよ。その役目を本当は親がやるべきなんです。でも残念なことに“イナカモノ国家”になってしまったような気がします。親にもその教養がなくなってしまった。これは国家戦略として失敗です(笑)。

アメリカ的な価値観に縛られているアンバランスな日本
編集部

このところ、新宿や秋葉原の浄化など、街の中で育ってきた文化への制限が大きくなり、窮屈に感じています。そういった若者も増えているのではないでしょうか。

広井

ずれてるよね。街を浄化するのであれば、まず高速道路をはずした方がいいと思います。水が汚いところでは、空気が淀むので、人の心は乱れる。水をきれいにすると人も良くなるんです。隅田川もきれいになってきたから、だんだんこのあたりの環境がよくなってきた。この間、韓国のソウルで古い川を再生する大規模な工事をしていましたよね。あれは正しいと思います。壊したものを直す。元に戻していくことを考える。そこにお金を使えばいいと思います。積み重ねてきた街の匂いや文化をぶっこわして、ペラぺラのビルに建て替えるだけの再開発なんかは、絶対にやめた方がいい。

編集部

再生、改革の方向性がおかしいですね。

広井

日本人の金銭感覚もめちゃくちゃになってしまいました。世界中見たって、中学生がヴィトンのバッグ持ってる国なんかありませんよ(笑)。他の国では、家族といることや、心の平穏、精神の豊かさといったものが幸せを感じられる大切なことなのに、日本は物の所有が幸せの計りになってしまったままです。いつまで高度成長を続けるんだろう。

編集部

「物を買って所有する」ことが、優位に立つことだと思ってしまっている。

広井

『エンデの遺言』(編集部注:NHKで放送されたドキュメンタリー「エンデの遺言--根源からお金を問う」を1冊の本にまとめたもの。作家ミヒャエル・エンデに導かれて「暴走するお金」の正体を探りに旅立つ。「老化するお金」「時とともに減価するお金」など、現代のお金の常識を破る思想の数々を紹介している)という本があります。この本に書かれていることは、“金利がある状態というのは異常な状態である。お金がお金を生んではいけない。お金というものは、物を交換するだけの道具。お金だけが膨張していく今のシステムは異常である。お金は荷物と同じだから、使わないで預けているだけなら、保管量を取られて、どんどん目減りしていくべき。”この考えを僕はすごく正しいと思います。  
スイスなどはこの考え方に即して、ローカルマネー、つまり地域通貨を使うところが、増えているそうです。地域通貨を使うと、公共事業よりよっぽど効率よく地方にお金が回るんです。そうすると労働の大切さとか、労働することの意味がきちんとわかってくるんです。たぶん昔の日本は、こういう社会であったと思うのです。

9条で日本独自の価値観を創造しアピールしていく
広井

アメリカから押し付けられた憲法をいやがる前に、今現在の幼稚な資本主義をいやがるべきなんですよ。既にヨーロッパは独自の経済システムに着手しているわけで、日本も独自の資本主義を作っていくべきだと思います。お金だけ出して発言権のないみっともない国という評価を変えたいなら、憲法ではなく、星条旗の中の星のひとつになってしまっている、“アメリカ合衆国日本州”のような状況を変えていくべきなのではないでしょうか。

今の日本で勝ち組とかセレブと呼ばれる人たちは、株でもうけたり、お金でお金を生み出している人たちですね。昔だったらただの成金ですよ。一番いやしい部類の人たちです。それが今や、社会の価値のトップになっている。汗して働かないものに憧れ、働きたくないけれど、うまくやってお金をもうけ、楽して暮らしたいとか。この考えこそ、アメリカ流のお子様資本主義です。お金を持ったら、どう使うかで、その人の品格が決まります。そしてその国の品格もね。

編集部

9条改定も、いわゆるアメリカからのプレッシャーを受けてのことですからね。

広井

憲法の素晴らしさについては、みんな知らなさすぎるから、テレビのバラエティ番組なんかでやればいいのにと思います。あんなにたくさん娯楽番組をやっているのだから、一つぐらい憲法の番組があってもいいでしょう。おもしろくわかりやすくやるのが、テレビの役目なのだから。 

憲法の前文を読むと、そこにはしっかりと書いてある。私たちはこうありたいと宣言しています。(憲法前文はこちらで読めます)

“日本が世界中に認められる国になりたいんだ、戦争なんて二度とごめんだ。世界中から尊敬される国になりたいんだ”という、戦争を経験した国民としての叫びと誓いがそこにはある。そして日本のことだけでなく、世界中の人びとの平和を願っている。そんな憲法、世界を探してもあまりないでしょう。これはずっと受け継いでいきたい理念ですよね。

編集部

自国のことだけでなく、世界の平和を願う文言が記されている憲法は、世界的に見ても希有なものらしいです。

広井

これこそ日本の独自の価値観として、世界にアピールしていくべき言葉ですね。世界から尊敬されるためには、自国に誇りを持つためには、この憲法を誇ればいいのです。さらに9条を盾に日本は世界の暴力を拒否していくべきです。国際社会の中での無理難題の弾よけとして、もっと9条を使うべきです。言い換えれば、あの前文と9条をセットにしたものこそ、日本が世界に誇れる最大の武器になるのにと、僕は思います。

9条の問題は、平和を考えることだけでなく、
アメリカ的な資本主義や消費社会、教育のあり方、
幸せの価値観を考えなおすことでもある、と広井さんは指摘しています。
その上で「自国に誇りを持つためには、
この憲法を世界にアピールしていけばいい」と。
改めて憲法前文と9条を読み直してみることにしましょう。
広井さん、ありがとうございます。
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