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この人に聞きたい
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雨宮処凛さんに聞いた その2

閉塞感をぶつけるように「改憲」を叫ぶ若者たち

相次ぐ自殺者、フリーターやニートの増加、引きこもりやリストカットを続ける若者たち…。
彼らが抱える「生きづらさ」と、「愛国」の声の高まりには、どんなつながりがあるのか?
著書やインターネットを通じて、そうした若者たちとの交流も多い雨宮さんにご意見を伺いました。

かりんさん
あまみや かりん
北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。
自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を尋ねて』(幻冬舎)
『EXIT』(新潮社)『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)など、著書多数。
雨宮公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/
「すごい生き方」公式サイトhttp://www.sanctuarybooks.jp/sugoi/
アメリカの良心・デニス・クシニッチ下院議員との出会い
編集部

今年2月に出された新刊『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)では、引きこもりを続けていたり、リストカットを繰り返していたりといった若者たちの声を多数紹介していらっしゃいます。

雨宮さん自身もリストカットを繰り返していた時期があったそうですが、そういった、「生きづらさ」を抱える若者は、以前よりもふえていると言われますね。自殺者も、ここ数年は年間で3万人を超えています。

雨宮

私自身は、右翼団体に入ってから、それまでひどかったリストカットが治ったんですよ。社会の息苦しさみたいなものを全部自分のせいにしてた、自分を責めていたということだったと思うんですけど。右翼に入ったら、それを全部アメリカのせいにできたので(笑)治って。右翼を離れたときに、またちょっと戻っちゃったんですけど。

今はとにかく、“世の中での自分の価値が感じられない時代”なんだと思います。例えば、「利益が優先されて、人間の優しい部分がないがしろにされている、そんな社会で生きたくないから私は手首を切るんだ」なんてことを、中高生が普通に言ったりしている。

自分が自分である必要がない、かけがえのない自分なんてあり得ないと感じてしまう。「生きて行くに値する何かがない」、「生きていることに意味が見出せない」と、引きこもりやリストカットをしている子たちはみんな言いますね。

私がまだ20歳くらいだった10年前と比べて、この「生きづらい」という状況はさらにひどくなっていると思います。

編集部

そうした「生きづらさ」と、前回雨宮さんも指摘されていた、「改憲」や「愛国」を訴える若者がふえているということとは、どこかに関連性があるんじゃないかという気がするのですが。

雨宮

あるでしょうね。(靖国神社の首相参拝問題で)謝罪を求められて「日本が他の国からバカにされている」といって怒るのは、自分がバカにされている存在だと感じているからです。自分にちゃんと誇りを持っている人は、絶対そんなことを考えない。

国に自分の何かを託している、自分に何もないから国に過剰な思い入れを持つというのは、特に若い人で帰属先のないフリーターやニートの子たちに多いように思えますね。あるいは、自分の帰属している先であるはずの会社がすごく嫌いだとか。そういう不満のはけ口として、「愛国」とかに行ってしまっている気がする。

私が昔感じていたのと同じ、「何かでかいことが起こって全部メチャクチャになってほしい」というような声もよく聞きます。ただ、あのときの私と違って、右翼団体に関わらなくても、ネットなんかで情報を集めて、1人で理論武装できてしまうようになっているのがさらに怖いなと思うんですけど。

とにかく「自分の頭で考えよう」と思った
編集部

不満のはけ口としての愛国思想ですね。ただ、不思議なのは、かつては学生運動のように、そうした不満を持つ若者が向かう先は反権力であり反体制であったわけですよね。それが、なぜか今は逆で、むしろ国や権力に対しては崇拝するような傾向が強く、「日本をばかにする」近隣諸国を攻撃する方向へと向かってしまっている。

雨宮

そこが私も疑問なんです。私が右翼団体にいた10年前は、いわゆる右的な考えは市民権を得ていませんでしたから、社会や政治に対しての「アンチ」的なところがあった。言ってみれば一種のパンクです。だからこそ私も「愛国パンクバンド」を組んだりしていたわけですし、「戦争は絶対に起こるはずがない」と思っていたからこそ、〈本日も日本国、ヘドが出るほど平和です〉なんて歌詞を絶叫していたりした。

それがどこからか「おかしいな」という感じになってきて。2000年ごろでしょうか。そのとき私はまだ愛国パンクバンドをやっていたんですけど、それまではライブをやってもお客さんは帰っちゃうし、ライブハウスはすぐ出入り禁止になるという状態だったのが、だんだん人気が出てきてしまったんですよ(笑)。

編集部

というと?

雨宮

私が歌う右翼的な歌詞に本気で賛同しているという感じ。客席みんなで「天皇陛下ばんざい」って叫んで盛り上がっちゃって、そんなノリで戦争肯定していいの?と、私の方が逆に置いてけぼりになったりして(笑)。だんだん世の中の方が戦争に近づいていくようにも思って、怖くなった。それにパンクバンドなのに、国の政策が右寄りになってくると「愛国」はパンクとして成立しない。自民党と同じことを言ってるバンドなんて、パンクじゃないので(笑)。

その頃、右翼団体からはもう離れてはいたんですけど、それで本当に嫌になって、バンドも一切やめてしまったんです。

今も、当時の私の「愛国パンク」というところで共感している若い人からメールが来たりします。それを読んでも、パンクではなく単に政府を支持してるだけじゃないかと思うんですけど(笑)、ただ、政府よりももっと上の「愛国」を叫べば、それが「過激なんだ」みたいな考えもあるみたいで。

シンプルに「戦争はいやだ」というとこにいきついた
編集部

そういう流れは、どこから出てきたものなんでしょう。雨宮さんは前述の『すごい生き方』の本のために、約1000人(10〜30代)にアンケートをとられ、また直接会ったり、メールのやりとりもなさったそうですが、何か感じられることはありましたか。

雨宮

その1000人のうち、「生きづらいと思っている」と答えた人は69%もいました。
本を書きながらなぜ、みんなそう思うのかをずっと考えてきましたが、自分が抑圧されていると感じたときに、なぜ政府とか権力とかに対して、恨むんじゃなく支持する方向へ行ってしまうのか、それは私も本当にわからないところですね。

ただ、そこにしか突破口がないほどに行き詰まっているのかなとは思います。誰も突破口を開けてくれるような人は出てこないし、出たとしてもホリエモンくらいで、しかも彼は捕まってしまって、絶望感もあるでしょうね。期待する場所がほかにないから、「愛国」に行っちゃってるのかなという気がしているんです。

引きこもりをしている人の中には「どうせ今の社会なら、生涯賃金はこんなものだし、年金制度も崩壊して、日本はどんどん悪くなっていくんだから、そんなところに出て行きたくない」っていうところまで考えて働かない、引きこもりを選んだなんていう人もいるんですよ。話を聞いていると、「ああ、まったくそのとおりだなあ」と納得しちゃう(笑)。

もちろん金銭的な問題はありますけど、それさえ解決すれば、とりあえずの道としてはそれもありかなとは思うんですよ。自分じゃなく社会が悪い、社会に希望が見出せないから自分は外に出ないんだ、という考え方ができた時点で、その人が楽になった部分もあるはずなんですね。そこで自殺してしまうよりは、まだ視野を広く持てている分だけいいんじゃないかと思うんです。

編集部

著書の中でも、「生きづらさ」をマイナスに捉えるのではなく、「生きづらさ万歳」というプラスのメッセージと共に、「視野を広く持とう、抜け道や逃げ道は無数にある」といったことを繰り返し書かれていますね。

雨宮

そうですね。自殺を選んでしまう人というのは、「ほかに逃げ道がない」というふうに視野が狭くなってしまっているんだと思うし、生きづらさを抱えて「愛国」とか「改憲」を叫ぶ人たちにも同じことがいえるんじゃないでしょうか。そこにしか逃げ道がないという。

編集部

であれば、雨宮さんがそうだったように、一時的に右翼的な思想に走ることがあったとしても、それによって「死にたい」というところから抜け出ることができるんだったら、それも一つの道ともいえるんでしょうか。とても難しいところではありますが。

雨宮

「戦争肯定」していた自分を思い浮かべると「殺してやりたい」と思いますが(笑)、一時的に右翼にいったことで、生きづらさから開放されたことも確かだし、今の私があるとも言えます。イジメもリストカットも自殺未遂もオーバードーズ(薬物の過剰摂取)も胃洗浄も、すべては私が生きるために必要なことだった、と考えていますから、今の若者の右傾化が、一種のカウンセリングのような役割を果たす面もあるのだとしたら、それはアリかなという気もしています。

一度そこに触れて、その後できちんと自分の頭でいろんなことを考えて判断すれば、また違う考えになることもあるでしょうし……一時的な右傾化であれば、とにかく死んでしまうよりはずっといい、そうは思っています。

「閉塞感をぶつけるかのように「改憲」を唱える若者たちを見て、
「昔の自分を見ているような気がすることがある」という雨宮さん。
「死を選ぶことだけはしてほしくない」と、若者たちに向けて発信し続けている
メッセージも、「戦争は嫌だ」という訴えも、すべて自分自身の体験から生み出された
「生の声」だからこそ、説得力があるのかもしれません。
どうもありがとうございました!

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