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この人に聞きたい

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寿[kotobuki]さんに聞いた(その2)

青空を見上げ、美しいと思う幸せを

音楽を通じて、たくさんの人にパワーを届け続けている寿[kotobuki]のおふたり。
ライブを通じて伝えたいこと、「平和」について思うことを、
たくさんお話しいただきました。

ことぶき
ナビィ(Vo)、ナーグシクヨシミツ(Gu&三線)の男女二人組ユニット。1985年の結成以来、6枚のオリジナルアルバムを発表。1991年の「エストニアロックサマー」参加をはじめ、日本国内のみならず世界各地でのライブ活動を展開中。

「自分は大事にされていない」と感じる人たち

編集部

 前回、ナビィさんがイラクの人質救出を求める署名運動をしていたら、見知らぬサラリーマンの男性につかみかかられたというお話をお聞きしましたよね。「俺のことは誰も助けてくれないのに、何であんな奴らを助けなきゃいけないんだ」と言われた、と。

 あの人質事件自体はもう3年以上前のことですが、実はその台詞って、現在の社会の状況にもすごくつながっている気がするのですが、どうでしょうか。

ナビィ

 すごく象徴的な気がしますね。やっぱり、みんな「自分は大事にされてない」と思っているんじゃないかと。特に最近の日本は、医療や福祉のこともどんどん切り捨てられていっていて、誰もがそう思ってもしょうがないような国家になっちゃってますよね。だから、その意味ではあの男性が言っていた、感じていたことってあながち間違いではなかったんじゃないか、と今は思います。

編集部

 自分が大事にされていると思えないから、「なんであいつらだけ注目を浴びて、大事にされるんだ」という感情が生まれて、他人に対して攻撃的になってしまう、ということなのでしょうか。「怒る」こと自体はいいにしても、その怒りを表現する方向性とか方法がちょっと、違うのでは?と思ってしまいます。

ナビィ

 方向性というか、自分が本当は何に怒ってるのか、怒るべき相手は誰なのかが見えないから、とりあえず弱そうな人とか、すでにさんざん叩かれている相手とかにそれが向かってしまうんじゃないでしょうか。

 ただ、突き詰めて「誰が誰を大事にしてないのか」と考えていったら、結局自分が自分を大事にしていない結果がこれなんじゃないか、という気がするんです。誰がこんな国にしたの、こんな政府をつくったの、といえば、それを選んでいるのはやっぱり私たちなわけですし。一人ひとりが自分を大事にしてこの社会を選択してきたかどうかが、今のこの状況に反映されているんじゃないのかな、と思うんです。

自分や家族の幸せを、
徹底して願うことで見えてくるもの

編集部

 そう考えると、いろんなことがつながって見えてきますね。保険や医療の話だけではなくて、平和や環境問題にしても、「自分を大事にして」考えることがまずスタートなのかもしれない。

ナビィ

 結局は、個人がどれだけ幸せに生きられるのか、ということに尽きるんだと思うんですよね。戦争がある世の中って本当に幸せなの? 便利は便利だけど環境もどんどん破壊されて、それって本当に幸せなことなの? ということでしょう。たとえば憲法だって、結局はそういう「個人の幸せ」のためにあるんじゃないでしょうか。

編集部

 以前ナビィさんが、ライブでのMCで言われていた言葉がとても印象に残っています。イスラエル軍によるパレスチナへの攻撃反対を訴えるイベントだったんですが、「今日朝起きたら、すごく綺麗な青空でした。パレスチナの人たちにもそんなふうに、爆弾も何も降ってくる心配のない空を“綺麗だな”と見上げられる日が来てほしいと思います」とおっしゃっていて。

ナビィ

 そんなこと言ってた?(笑)

編集部

 だいたいそんな感じのことを(笑)。あと、「私は自分の好きな場所で、好きな人に囲まれて、好きなものをいっぱい抱きしめて生きたい。世界中の人がそう思っていると思う」とも。それを聞いて、「戦争のない世界」とか「平和」とか言ってしまうと、すごく遠いことにも聞こえるけれど、本当はそういうふうに「空が綺麗だなあ」と何も心配せずに思えるとか、好きな人たちと一緒にいられるとか、そういった小さな一人ひとりの幸せこそが「平和」なんじゃないのかなあ、と思ったんですよね。

ナビィ

 うん。本当にそうだと思います。結局は、個人的なことに尽きるんじゃないか、と。

編集部

 ただ、一方でちょっと不安になるのは、一歩間違うとそうやって「個人」を言うことが、「自分や自分の周りの人だけが幸せなら、他の人はどうでもいい」といった、違う意味での「個人主義」に流れてしまう可能性があるんじゃないか、ということなんですが…。

ナビィ

 それもあるけど、自分が大事で、自分の家族が大事だというのは、本当に重要なことだと思うんですよ。すべてはそこからしか始まらないし、それを抜きにして「世界平和」とか言ったって、ものすごく遠いことを言ってるように聞こえてしまう。自分のことでいっぱいいっぱいだと、人のことを考える余裕なんてまずないし、人の悲しみや苦しみに共感はできないでしょう。「イラクで殺される子どもの気持ちを」とか言われても「何がだよ」ってなっちゃうと思うんですよね。

 だから、「世界のことなんて考える余裕がない」という人は、自分や自分の家族の幸せを、徹底して願えばいいんだと思う。自分の子供がどうすれば楽しく生きて、いい人生だったと思って死んでいけるのか。それを中途半端じゃなくて本当に、真剣に考えればいい。そうしたら、自分の住んでる地域はどうなのか、この日本という国の政府はどうなのか、地球環境はどうなのかということにも、絶対考えは及んでいくと思う。ミクロのことを追い続けたら、結局マクロのことを考えざるを得なくなるんじゃないのかな、と思うんです。

「いい1日だった」と思ってもらえるようなライブを

編集部

 さて、寿[kotobuki]は今年で結成23年ということですが、平和や環境、人権といった、社会問題をテーマにしたイベントにも積極的に出られていますよね。特に日本では、ミュージシャンという立場からそういった活動に参加されている方は決して多くないと思うのですが、そこにはどういった思いがあるのでしょうか? ライブやイベントに来られた方に、どんなことを伝えたいと思っておられますか。

ナビィ

 実は、自分が楽しいからやってるというのが一番大きいんですけど(笑)。結局、どんな場所で歌うときも、自分が楽しいからやるというのが理由の95%くらいなんですよね。

 ただ、なんだかんだ言っても自分は日本人で日本が好きだし、日本がいい国だったらいいのに、とは思うんですね。一方で、沖縄とかバリとか、私が「人の心がすごくバランスがとれていて健全だな」と思う場所というのは、歌や踊りが深く根付いている場所なんですよ。結局は、自分の肉体が「楽しい」とか「面白い」とかいうことをどれだけ経験しているかというのが、人の心の平穏につながっていくんじゃないかなと思うんです。

 さっきの「自分は誰からも大事にされていない」という話にしても、そういう悲しみとか寂しさとか憎しみで心がいっぱいになるんじゃなくて、少しでも「今日は楽しかった」と思える日が続けば、「この寂しさは何なんだろう」って、自分と向き合える心の余裕みたいなものも生まれてくると思う。私自身もそうだったし、歌があって踊りがあってよかったなと思うのはそういうところ。だから、自分たちのライブに来てくれた人にも、そういうことを感じてもらえたらいいなというのは、ずっと思っています。

 そのためには、演奏している自分たち自身が楽しんで、気持ちがよくないと駄目だと思うんですね。「うわあ、ナビィは楽しそうだなあ、あんなふうになりたいなあ」と(笑)思っていただけるようなエネルギーを、常に出していられるようでいたい。たくさんの人が「今日はいい1日だったな」と思って夜眠りにつけるような、そんなライブをいっぱいやりたいし、自分が音楽を通じて果たせる役割というのはそれかな、と思っているんです。平和集会とか、シリアスなテーマについて考えるような場でのライブは、特にそうですね。

編集部

 たしかに、ライブでのナビィさんは本当に楽しそうで、エネルギーに溢れてますよね。見ている、聞いているほうまで元気になれるというか。アルバムのタイトルにもなっている「A−YO」という歌(※)に、「あなたの声も あたしの声も よろこびの声は 世界に響く」とありますが、本当にそんなふうに感じさせられます。

 ヨシミツさんはいかがですか?

※A−YO 2000年発売のアルバム「A−YO」収録。「A−YO」はナイジェリアなどで話されるヨルバ語で「よろこび」の意味。

 A−YO

※アマゾンにリンクしてます

ヨシミツ

 基本的にはナビィと同じ。平和とか基地問題とかをテーマにしたイベントで演奏してるからといって、特別なことをやってるとは全然思ってないんですよね。「平和運動やるぞ」とかもまったくないし。ただ、楽しいんですよ、ライブが。その結果としてそういういろんなイベントに呼ばれて、もちろんそれは僕らとしても拒否するようなものじゃないし、自然の流れでこうなってるんです。

編集部

「楽しいからやっている」結果が今の活動なんですね。

ヨシミツ

 よりよく生きたいとかよりよい社会にしたいっていうことと、自分が楽しみたいっていうことは、どんな仕事をしてても、どんな人でも、どこかでつながっていくと思うんです。だから、決して特別なことをやってるんではないと思うんですが…でも、周りを見回すと自分たちは少数派みたいなので、「あれ、おかしいな」と(笑)。

編集部

 結成20年を記念して出版された書籍の『寿[kotobuki]魂』(太田出版)の中でも、ヨシミツさんは「どんなにメジャーで有名になったとしても、体制に迎合した音楽を作ったり、商業音楽を生むために苦悩してドラッグに走ったりするミュージシャンにならなくて本当に良かったと思う」と話してらっしゃいましたね。それがすごくいいなあ、と思ったんですけれど。

ヨシミツ

 いや、メジャーにはなりたいんですけど(笑)。僕らみたいなのがメジャーになれる世の中だといいかな、と(笑)。

ナビィ

 両方いていいんだと思うけどね。今メジャーで活躍しているようなミュージシャンも、うちらみたいなのも、両方メジャーにいるっていう世の中になればいいのにな、と思う。

編集部

 そうなれば楽しいですよね。そのためにも(笑)、今後のますますの活躍に期待しています! 今日はありがとうございました。

どんな場所でのライブも、「とにかく楽しいからやっている」と口を揃えるおふたり。
「聞くと元気になれる!」というファンが多いのも、だからこそなのでしょう。
この春も、各地でライブが予定されているので、
公式HPでぜひチェックしてみて。
http://www.kotobuki-nn.com/index.htm


【読者プレゼントのお知らせ】
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