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この人に聞きたい
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NENE千尋さんに聞いたその2

心の中に平和の種を育てよう

「頬に小さな泣きぼくろ、かわいい人よ、なぜ泣くの」の歌で、
35年前に大ヒットした女性アイドルデュオ“じゅん&ネネ”を覚えていますか? 
現在、元アイドルのネネさんは、ソロ歌手“早苗NENE”として、
憲法9条をテーマにしたオリジナル曲『サヨナラ戦争』を作り、
全国各地で精力的にライブ活動を行っています。
曲誕生の 背景や憲法9条について語っていただきました。

NENEさん
さなえ ねね 
1965年デュエットグループ“クッキーズ”としてデビュー。
68年 “じゅん&ネネ”と改名し『愛するって怖い』が80万枚の大ヒット。
72年解散。89年八丈島町長選挙に立候補し、地球環境保護をアピール。
99年早苗NENEと改名しソロで音楽活動を再開。
2004年 “じゅん&ネネ”再結成。全国各地でライブ活動中。著書『熟女少女』(学研)
「戦争を起こさない」ための現実的な仕組み
編集部

今年は広島での平和コンサートをはじめ、さまざまな場所でオリジナル曲 『サヨナラ戦争』を歌われたそうですが、反響はいかがでしたか?

NENE

おかげさまでこの曲を2年前に作ってから、ずいぶんといろいろな場所に呼んでいただいたり、飛び入りで歌ったりしています。

編集部

8月15日には靖国神社へも行かれて歌われたそうですね。

NENE

はい、これはもちろん自主的に行ったわけです。ただし予定していたよりは、だいぶ小さな声で口ずさむようになってしまいました。初めて8月15日にあそこへ行きましたが、まるで初詣のようなすごい人出にびっくりして、正直“こわい”と思ってしまいました。千鳥ヶ淵に場所を移してからは、気持よく歌いました。英霊と呼ばれ、あそこに祀られているという神様たちにも、戦没者たちにも、“今、日本は戦争を放棄していますからね”と教えてあげたいという気持で歌いました。

編集部

『サヨナラ戦争』は、どのようにして誕生したのですか?

NENE

ちょうど2年前の8月6日に広島の原爆ドームの前で、平和コンサートをやるから参加して欲しいと言われました。すぐに出演OKの返事をしたのですが、さてそこで何を歌おう? まさか『愛するって怖い』でもないだろうし、と考えていた時に、ふっと憲法9条のことが頭に浮かびました。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し〜永久にこれを放棄する」と、9条の1項を読んだ時に、これならメロディをのせることができる、と思って。

1項のこの部分をアカペラで歌ってみた後に、『ONE EARTH CHANT』という曲の最初の部分、「ピース、ピース、ピース」というフレーズをそのままつなげて歌ってみました。これは環境運動をやっている人にはわりと有名な歌で、ニュージーランドが発祥らしいのですが、とても自然な感じでメロディと歌詞がつながりました。出来上がったばかりの「サヨナラ戦争」を歌いながら、涙がぽろぽろ溢れ自分で感動してしまって。ああ、私はこれが歌いたかったのよね。私が望んでいたものが、この歌の中にある、そう強く感じました。

編集部

そのあと歌詞はNENEさんが書いた「いつか平和な地球があたりまえになるまで、心の中に平和の種を育てよう」につながりますが、憲法の前文に書かれている精神に重なりますね。崇高で平和的な精神を広めていくことを、私たち日本人に託されてこの憲法は作られたものなんだ、といったイメージが、歌を聞きながら広がりました。

NENE

憲法前文と9条には、日本人のアイデンティティが描かれていると思います。私自身、9条を何度も歌っていくうちに、“日本人としての誇り”のようなものを感じるようになりました。だから今の若い人たちに伝えていきたいと思ったのです。近頃は、日本人としての誇りが持てにくい時代になっているでしょう。政治も経済も防衛もアメリカ追随型で、アメリカの州の一つになればいいいと言う人もいるぐらいですから。

でも私たちは、世界に誇れる平和憲法を持っている。私たち日本人が自らそれを認識して憲法9条を選び直した時に、日本人の精神性はこれまでになく一気に高まると思います。そうすれば本当に、真の意味で日本に光が当たる時代がくるはずです。

9条を捨てるのは精神の堕落である
編集部

海外に住む知識人などから、日本の憲法の独自性が注目される一方で、近頃国内では「平和憲法を変えて、軍隊の持てる普通の国、普通の憲法にした方がいい」という意見が、多く出ています。特に国民側からというよりは、政治家からの声が大きいように思えますが。

NENE

私、普段はまったくテレビを見ないのですが、今日、たまたま母の部屋に行ってテレビを見ていたら、内閣の組閣についてやっていました。見たくないからチャンネルを変えたのだけれど、どこの局でも同じ内容、同じ人を追いかけてやっている。“そっか、今はマスコミがこの流れに迎合してやっているのね”と思ってしまいました。こんな番組だけを見ていると、今の小泉内閣って、きらきらしてみえるでしょうね。すごく斬新で、思い切りよく新しい政治をやってくれそうな。今までにはなかった自民党や国会議員のイメージだし。

でもちょっと待ってよ、と私は言いたくなります。小泉さんが首相になってから、ずいぶんと世の中、きな臭い方向へ向かっているのよ、と。例えば、私が印象に残っているのは、佐世保の自衛隊のパレードのこと。小泉さんが総理に就任した翌年の2002年に海兵隊が作られてから、迷彩服を着て行進をするパレードを毎年恒例行事として行っています。地元市民団体の反対にもかかわらず、パレードは年々エスカレートしていって、この間の9月17日、ちょうど選挙で自民党が大勝した後ですね、迷彩服で小銃を携え、アーケードの中を大々的に行進したというニュースが伝わってきました。

自衛隊が、ついには武器を携帯して国民の生活の場所にきて、行進するようになったというこの出来事と、小泉さんが総理であることは、無関係ではないと思います。誰かが許可を出したから、今までやっていなかったようなことが、次々と形になって現れているのですから。しかし、一般の人には、なかなか結びつかないのでしょうね。このきな臭さと、きらびやかな今の内閣のイメージが。

編集部

物事をうたぐり深くみる人と、そうじゃない人とに二分されるような気がします。“積極的に憲法を変えて自衛隊を軍にして、海外で戦争ができるようにしよう”という考えをはっきりと持って「改憲」を言っている人よりは、“憲法を変えて国際協力ができるのであれば、政府が言うとおりに変えてもいいんじゃない? 小泉さんが決めたのだし”と思っている人が多数なのではないかと想像します。結局、物事を疑ってみない「いい人」がそのような判断をしてしまっているのではないでしょうか。

NENE

それはわかります。実は私の二人の姉も、「小泉さん、いいと思うわ。どこがいけないの? 憲法変えたところで、戦争なんて絶対に起こりっこないから平気よ」といつも言っていました。どうして戦争が起こらないという確信が持てるのかと、肉親ですからね、ついに大げんかしてしまいました。でもあんまり私が必死で、資料や本を持ってきて説明したものだから、姉たちも「あなたがそんなに言うのなら、ちゃんと読んで勉強して考えてみます」と言ってくれました。

実際のところ私には、戦争を肯定する方向へ日本がなぜ向かっていくのかが、わかりません。“戦争も必要悪だよ”とか、“冷戦崩壊後の国際社会の中では仕方がない”という意見こそ時代錯誤としか思えない。経済との関係や目の前の利益を言う人もいるけれど、人間としてもっと深くありたいと思いませんか? お金さえ儲かればどうでもいいの? と聞きたくなってしまいます。

これはある方の受け売りですが、「憲法九条を変えるということは、日本人の精神性の堕落です」との意見に、私も同感! と思いました。そして堕落への方向に向かって一番先頭に立っているのが、今の小泉さんたちではないでしょうか。今の国民の多くには、ピカピカときらびやかに光って見えているらしいですが、何十年後かには、彼や今の政治の評価が下っているでしょう。

何かを始めるのに遅すぎることはない。平和へのアピールも
編集部

NENEさん自身は、昔から今のような問題意識をお持ちだったのですか?

NENE

37歳までは、ばかでした(笑)。政治のことも環境のことも、何にも考えていませんでした。12歳で芸能界に入り、22歳で「じゅんとネネ」を解散してロンドンへ行き、そこでミュージシャンの元夫と出会い結婚して、日本にもどってきてからは、自由が丘に住んでいましたが、目先のことしか考えていませんでしたね。仕事がない時は、パチンコして時間つぶしをしていました。でも、どこか無理をしていたのでしょう。しょっちゅう具合が悪くなっていて、3ヶ月に一度ぐらいの周期で病院にかけこんでいました。一種の心身症みたいなものだと思うのですが。結局、大学病院に入院する代わりに、八丈島に住居を移しました。それからですね、変わっていったのは。

まず生物として、人間はどう生きていくのが自然なのか、それを島の生活から学びました。山の中の静かな場所で一人で何時間もゆっくりと過ごす、じっくりと物事について考えてみる、そういう生活をすることで健康にもなりましたし、モノの見方も以前とは違ってきたように思います。テレビも見なくなりましたしね。

だから今の若い人たち、都会にいるとね、どこか感覚がおかしくなってくる、というのはとてもわかる気がします。都会に住んでいると、どこかバカにならざるを得ないところがあるのではないでしょうか。自発的に物事を考えないように、あえてするというか。それは、例えば自分たちが暮らしている土地に対して、あまり愛着がないということにも関係があるように思います。もともと東京がローカルの人はまた別ですが、都会の人の8割は地方から来た人でしょう。住んでいる土地に愛着がないし、地域のコミュニティの中での会話もあまりない。だからテレビを見て、マスコミが好意的に取り上げていることだけを、ただ信じてしまうのではないでしょうか。

編集部

38歳で療養のために八丈島へ行ってからは、いろいろなことにチャレンジし経験を重ねてこられましたね。環境問題に関心を寄せ島の町長選挙に立候補し、中断していた勉強を復活させ、高校卒業し大検を受け、大学受験。そしてハワイのカレッジへの入学、しかもその間に22年連れ添った夫と離婚もしたと。著書『熟女少女』(学研)にも詳しく書かれていますが、“波乱万丈”というよりは、“新しい世界への挑戦の日々”というようにも感じました。

NENE

2年前より、私53歳とじゅん54歳で「じゅん&ネネ」を再結成してからは、「リアルファンタジー」という曲で「何かを始めるのに、ちょうど良い年ごろね」という歌詞で歌っています。自分自身と、同年代の女性へのメッセージも込められています。

編集部

今後の活動の予定などもあれば、教えてください。

NENE

早苗NENEとしてソロでは、万葉集などから選んだ和歌にメロディをつけて歌ったり、大自然の歌やラブソングを歌ったりしていますが、こと憲法9条に関しては、『サヨナラ戦争』を歌って欲しいと声がかかれば、スケジュールが合う限りギター1本持ってどこへでもかけつけるつもりです。先日「反戦歌手」と言われてしまいました。えっ! 私が? と思いましたが、この歌を歌っていくことでそう呼ばれるのならば、それもまたいいかなと思っています。

NENEさんとは、『マガジン9条』を読んで
送ってくださったメールから、やりとりが始まりました。
インタビューの前に、ライブにもおじゃましましたが、
昔とかわらない清々しく、力強く豊かな声で歌われる『サヨナラ戦争』。
おもわず涙を流される人もいるそうです。
NENEさん、ありがとうございました!
「サヨナラ戦争」は、NENEさんのオフィシャルサイトから聴くことができます。
http://amanakuni.net/sanaenene/music.html

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