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この人に聞きたい
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佐高信さんに聞いた

9条という言葉を使わずに、具体的に伝えよう
経済から政治、憲法についての鋭い論述でお馴染みの評論家、
佐高信さんに、9条をとりまく今の危機的状況や、
おすすめの本についてのお話をお聞きしました。
広河隆一さん
さたか まこと
1945年山形県酒田市生まれ。
高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家に。経済評論にとどまらず、
憲法、教育など現代日本のについて辛口の評論活動を続ける。
著書に『日本論』(姜尚中氏との対談、毎日新聞社)、
『戦争で得たものは憲法だけだ』(落合恵子氏との共著編/七つ森書館)など。
「憲法行脚の会」の呼びかけ人の一人
護憲派は、もっと下品で鋭くなれ
編集部 9月の総裁選は、安倍晋三氏でほぼ決まりといった雰囲気になっています。小泉首相は、改憲については、自分の考えをはっきりと語ってきませんでしたが、安倍氏は、かなり強い意欲を示していますね。
佐高  そのようにはっきりと、自民党草案に基づく改憲を掲げているわけですから、これからは安倍氏を憲法改悪の象徴にして、個人攻撃をしようと私は言っています。徹底的にしかけていきます。そこで私は、“deny (拒否する)Abeshin ”略して、“ダベシン”を、この運動を象徴する言葉として、広めようかと思っているところです。 
編集部 “ダベシン”ですか?
佐高  そう。例えば、以前、安倍氏は、核武装論について、講演会で語ったりしているのですよ。そのあたりの具体的な話について、どうなっているんだ、と具体的につきつけていくことも必要でしょう。

 護憲の側は、みんな善男善女って感じなんだけれど、安倍については、徹底してたたくべきです。個人攻撃でも、女性問題でもいいんだから。私が発行人をつとめている『週刊金曜日』で、最近やったのは、北海道札幌市の巨大な霊園に「洋子観音像」が立っているですが、これは安倍の母親、洋子さんをモデルにしたというので、そのことについてレポートしました。なんだかうさん臭いことたくさんありそうですよ。安倍は何か書かれると、すぐに訴えてくるので有名ですが、それについては、まだ何も言って来ていません。『週刊金曜日』の場合は、発行人である私が訴えられることになるのですが。

 彼は外見のイメージからか、ソフトで穏和なムードがありますが、実はまったくそうではないということ、個人攻撃をすれすれのところで重ねていくと、すぐにボロが出てきますよ。
 そういう話をすると、みんな顔をしかめて黙ってしまうのだけれど、ようするに、護憲派市民はお上品さを捨てて、もっと下品になりましょう、という話なんだよ。(笑) 
編集部 そのメッセージは、わかりやすいですが、なかなか市民にはむつかしいような・・・。
佐高  真面目で、純粋で、疑わない、それが善良な市民だといえばそれまでなんだけれどさ。でもこんな状況なのに、いつまでも上品なままで、「私たちはいいことやっています」といった態度じゃ、闘えないなと思ってしまうわけ。

 小泉首相が二度目に訪朝した時に、事前に日本テレビが、25万トンの米支援を日本が北朝鮮にしたと言う報道をしたがために、小泉の政務秘書官の飯島勲氏が、日本テレビは連れていかない、同行取材を拒否したということがありましたね。
 あの時、なんで他のメディアがいっせいに、「じゃあ、私たちも行きません」という風にならなかったのかなと思いました。それと、国民もあんまり騒がなかったでしょう。私はこれについては、あれこれ雑誌に書いたけれども、ほとんど反響がなかったですね。

 この「(自分たちに都合の悪いことを報道されたから)日本テレビだけを連れていかないぞ」なんていうのは、ものすごい言論統制でしょう。著しい憲法違反ですよ。飯島秘書の暴挙であり、言い訳できないミスですよ。そこを大騒ぎしないで、「テレビってものは、ちょっとフライングするからね。でも結局みんな同行できたのだからいいじゃない」とか言って、国民の側が許してしまう。

 今でも護憲の会の集まりでこの話をすると、憲法を守ろうという人たちでさえ、「そういえばそういうこともありました」という反応なんだから、冗談じゃないと言いたくなる。そこらへんの感覚の鈍さが信じられないし、これじゃ憲法なんて守れないや、と思ってしまうのです。 
編集部 メディアの弱腰と共に、護憲派の市民に対しても、いらだっているわけですね。
佐高  みんな王道を歩みたがるのだけれど、攻めやすいところからやるべきです。例えば小泉というと、えげつないことやらないように見えるけれど、秘書の飯島って存在があるわけです。飯島、安倍がいて、小泉だったわけですから。そしてその安倍に今は、山本一太がついている。山本についても、いろいろ話は聞きますから・・・。 
編集部 山本一太議員といえば、テレビに出てただうるさい人といった印象で、どうでもいい存在かと思ってしまいますが。
佐高  それは違う。まわりから、攻めやすいところから、攻めていかないとダメです。 
編集部 それにしても小泉首相は、これまでの歴代首相では、考えられないようなことを、平気で口にする人でした。自衛隊は、軍隊であるとか、イラク派兵しておいて、どこが戦闘地域か私は知らないとか、無責任に好きなことをいっても、失脚しないどころか、かえって人気が高まり、支持率はずっと高かったです。そんな彼の影響からか、政治家の言葉が全般的に軽くなったという印象を持ちましたが。
佐高  言葉が軽くなったというよりは、彼はもともと「入り口はいると、すぐに出口」という、まったく奥行きのない人間なのです。でも、そういった人を支持した国民も同じく「入り口はいると直ぐ出口」な国民です。あの人気は、ペ・ヨンジュンに熱狂する心理と同じことですね。だから私は、ペ・ヨンジュンに浮かれる主婦からは、投票権を一時、預かった方がいい、そう言ったこともあったんですよ。怒られましたけど。(笑)

 小泉というのは、今までの首相とは、たしかに違うスタイルだった。定石をうってこない人であり、大技をかけてくるから、みんなあっけにとられてしまうんだよね。それに見事にごまかされてきた、ということでしょう。でもやっぱり何かしらミスはするわけです。本人でなくても、側近だったりとりまきだったり。先ほど述べた、訪朝前の飯島秘書のミスみたいに、ひどいことをするわけです。そういう時に、徹底的に叩くことが、本当は必要だった。マスコミも国民も攻めきれなかった。 
政経分離といった思考におちいる危うさ
佐高 それから朝日新聞についてだけれど、あれは、一応「護憲」側でリベラルに見えるかもかもしれませんが、経済の面から言えば、ものすごく保守なのです。竹中平蔵を支持している、経済保守であり、経済体制側ということです。竹中は憲法のことは言わないけれども、言わないということは、改憲派なわけです。だけど、そこをはっきりと、朝日は批判しませんからね。

 総体としての朝日、縦割りが見事に機能していて、外からみると進歩的に見えるけれど、内実は違います。
 例えば、MHKの問題。Mは村上ファンド、Hはホリエモン、そしてKは日本振興銀行の設立に深く関わった金融コンサルタントの木村剛のことだけれども、MHKは政界と強い結びつきがあるわけ。だから不祥事があるとスキャンダルになる。
 しかし例えば、木村剛の疑惑は、彼の奥さんが社長をしているという会社に、1億7000万の融資を非常に低金利で行っていたことが発覚して、私なんかは昨年の秋ぐらいから書いていたのに、朝日はようやくこれを、今年の1月1日に書いた。
 なんでこんなに遅かったのかというと、これは竹中を支持している朝日の経済面のデスクは、竹中の弟分である木村剛に、筆者として紙面に登場させていたから書けなかったわけなんですね。

 護憲派の市民たちというのは、きわめて経済には弱い人が多い。MHKっていったって、なんだかピンとこない人ばかり。でも、こういった経済界の新しいニューウエイブみたいな顔をしながら、例えばホリエモンが、新しい改革の顔みたいにして、自民党に支持されて選挙に出たように、彼らはしっかりと改憲勢力にくみしているのです。そういうことが、なかなか一般の人にはわからないし、護憲派の人たちも、そういった攻め方ができない。
 それは竹中が、経済のことをむつかしく専門的にして、素人にはどうせわからないものだ、と経済と政治を分けた「政経分離」的な思考にしてしまっていることの影響でもあります。経済なんて、本当はとても身近で簡単なことなのに。この政経分離といった考え方は、ものすごく問題です。例えば、日銀総裁の福井俊彦氏の件ですが、あれだけひどいのをかばっているのが、安倍ですからね。
 護憲派の読者は、朝日を総体としてみるから、朝日が支持している竹中はいいのかと思ってしまう。福井とか堀江への強い怒りがあっても、それが改憲に対しての怒りにならないのはなぜでしょうか。この二つが別問題になっている。だから、あえて私は、護憲の会でMHK の話をしています。

編集部 どんな反応ですか?
佐高 ほとんどの人が、知らなかったという顔をしますね。そんなに悪い人なのって、いう顔の人もいますね。1億7000万円の融資がどうして、だめなの?とかね。これなんか、銀行法のいろはの“い”に引っかかるような問題ですよ。MHKの中でも一番問題なのは、Kだったわけです。竹中と直結していますからね。Kかくしのための、H、Mの逮捕だったという噂もあります。
編集部 そう聞くと改憲以前のスキャンダルといった気がしますが、なぜもっと話題にならないのでしょうか。
佐高 改憲以前ではなく、改憲に絡めてしゃべるという人がいないのが問題なのです。改憲問題を政治の事件やスキャンダルの方だけでやるよりも、経済の事件の方が怒りは集中しますよ。福井日銀総裁が村上ファンドで高い利益を得ていたとか、年金が700万もあるとかいうのは、許し難い話でしょう。その福井を改憲支持の安倍がかばっているのだから。そういう風にして経済と政治と、改憲勢力とを結びつけて、攻めていくことが大事だと思うわけです。
徹底的に具体的なもので深く広めていく
編集部 財界が改憲を支持しているらしいという空気も大きな影響力を持ちませんか? 例えばトヨタの奥田会長が、改憲歓迎というメッセージを出すと、一般の人は、彼が言うのならば、改憲した方が、日本の経済は上向きになるのでは、といったイメージを持ってしまうというところはありませんか? その逆も言えるのかもしれませんが。
佐高 講演会でも、財界の意向も入れてください、というリクエストがあるのだけれど、「財界」という大きな、抽象的なことでは、話しませんと答えています。抽象名詞じゃだめなんです。抽象名詞では、運動は広がらないということです。
 この間、滋賀ショックとも報じられた滋賀県の知事に初当選した、嘉田由紀子氏にインタビューをしたのですが、彼女が選挙の時に訴えたのは、琵琶湖に「魚がいなくなった。魚をよびもどそう」ではなく、「琵琶湖から“たなご”や、“もろこ”、“びわます”がいなくなった。それらをよびもどそう」と訴えたのです。そう選挙カーで呼びかけていたら、おじいちゃんから「“シジミ”もいなくなったんだ、シジミも入れてくれ」と。
 ああ、これだなと思ったね。これならば、それぞれが広がっていくし、深まっていく。この具体性が重要なのです。
編集部 なるほど、“魚”ではまだ抽象的なのですね。
佐高 もうひとつ、運動が広がる時は、保守的な人を抱き込まないとだめですね。これまで環境問題と言えば、都市インテリ層だけしか振り向いてくれなかった。でも今回は、「たなご」と言ったら、実際にそれを知ってる、農家のおじいさん、おばあさんに、実感として届いたわけ。逆に街の人には「たなご」といってもわからない。

 嘉田さんによると、農家のおばあちゃんが、走り寄ってきて「これまでは、おじいちゃんに言われるように、自民党に投票していたけれど、今回は、あんたに投票するから」と、曲がったきゅうりを差し出して、激励してくれたと。この時に、手応えをつかんだと言ってました。
 そうやって、ほとんど、奇跡と言われるような逆転勝ちを生んだわけだよね。
 おもしろいのは、選挙後、武部氏が会いたいと言ってきたそうです。いかに相手陣営がうろたえた結果となったか、ってことがわかるね。
編集部 しかし滋賀県の知事選挙は、北朝鮮のミサイル発射の直前でしたね。直後だったら、どうだったのか、と少し思ったりしましたが。
佐高 北朝鮮がミサイルの準備をしているという話は、すでに報道が広がっていましたから、それで動くのなら、その前から票は動いたでしょう。自公民、連合、組織は全部、相手候補についたわけで、それをひっくり返したのは、それだけ地に足がついた勝利だったと思います。あくまでも、「たなご、もろこ、びわます、しじみ」にこだわった運動の勝利。

 だから私はしつこく、「9条の話は、9条で語るな」、と言ってきているのです。私は、「1977年の米軍ジェット機が横浜に落ちた事故の話で語れ」と。9条の9も憲法も出さずに、この話をしてください、と繰り返しています。この事故がどんなものだったのか、残された被害者の父親が詳しく書いた、この本を広める運動をやっていけば、それこそが、憲法9条を考える運動だと。

「あふれる愛」を継いで 
米軍ジェット機が娘と孫を奪った
(土志田 勇/七つ森書館)
*詳細は本をクリック。
1977年9月27日の午後1時過ぎ、厚木基地からとびだったファントム(戦術偵察機)が、横浜市緑区荏田町に墜落し、5棟の家屋が全半焼、9人の死傷者が出るという、大惨事が起こった。米軍飛行機の墜落、炎上によって、1歳と3歳の幼子は、全身におった火傷で苦しみぬいた後に死に、26歳の若い母親は、4年4ヶ月の壮絶な入院生活の果てに命が断たれる。
この本は、耐え難い悲しみと怒り、失った娘、孫への愛を支えに、事故を風化させてはいけないと、被害者の父親がまとめた手記である。筆者自身の悲劇の人生を、二度と誰の上にも繰り返して欲しくないという、強い平和への思いが全編からにじみ出ている。
佐高 米軍の飛行機やヘリが落ちてくる。実はこれは、全国どこにでもありうる話です。
編集部 本を読むと、飛行機にのっていた米軍の飛行士は落下傘で降り無事で、何の罰もうけずに、また謝罪をすることなく、アメリカに帰っていったというし、米軍は事故機をすばやく基地に運び、日本の警察には触れさせないなど、米軍だけでなく日本側、防衛庁らの対応のひどさにもおどろきますね。最近では、沖縄国際大学のキャンパスに大型輸送ヘリが墜落した大事故がありましたが、その時も、現場は米軍によって立入禁止となりました。ひどい人権侵害だと感じます。そして、安保が大きな変化の時期にある今、再びこのような人身事故が起きたら、どんな扱われ方をするのでしょうか。
佐高 日米安保が私たちの生活を守っているって、誰が言えるのか? 安保が市井の人たちの生活や人生を奪っているのではないのか。事故について書かれた当事者による生々しい手記は、非常に具体的に「日米安保」の問題を私たちに突きつけてきます。これこそが、9条についての具体だと思うのです。
 昨年の9月27日、事故からちょうど28年目にこの本が出版され、私も推薦文を書き協力をしたのですが、今ひとつ売れていない。すごくいい本なのに残念です。

 こういった悲惨な事故や重い体験は見たくない、と避けたい気持もわかりますが、でも見なくてはいけない。9条を守りたいという人たちは、この本を広め、読みあう運動をメインにしたら、より効果があるはずです。みなさん、是非、勧めてください。
「護憲派市民はもっと下品に」という佐高さんからの言葉には、
どきりとさせられますが、それもこれも、憲法がどんどん
形骸化されていくことへの怒りの現われでしょう。
佐高さんお勧めの本も是非、ご一読ください。
ご意見募集!

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